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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
151/169

第127話:ヒーロー達の決勝戦 葉山樹木の場合

 ――深淵に触れた者。

 何も捨てなかった者。

 救世主の為に、全てを祝福する。


 ◆


 葉山の両目に映るのは決戦の光景。

 本気の美月瑞樹。

 本気の新島宗太。

 緊迫した空気の中、二人は一歩も引かない。


(凄い……)

(僕もこんな感じだったのだろうか……)


 戦闘中は無自覚であったと葉山は述懐する。

 美月の威圧オーラには観客席に立ってようやく分かるものだと。

 僕は……こんな化け物と戦っていたのか。

 葉山の背筋は今更のように凍った。


 二人の距離は10メートル程。

 美月は空、新島は地。

 見つめ合う二人に、

 会場を沈黙する。

 かしましい実況も今は黙りこむ。


 やがて。

 美月の手のひらに光が集約する。

(!)

 ビームだ。

 新島は右手を振るう。

 その手には光の剣。

 出現する。

 襲い来る力に対抗する戦士として、構える。


「やる気か」

「みたいだね」


 美月瑞樹の口元が機械のように正確無比に動く。

 静止する。

 集約した光。

 明滅。

 一斉に、放つ。


「うわわっっ!?」

「!」

(!?)


 星星星。

 進む力は流星の様。

 駆ける光は強き輝き。

 眩いフラッシュが世界を支配し、続いて衝撃音が波状する。

 驚きのけぞる川岸あゆ、葉山は咄嗟に手を伸ばし、キャッチ。


「あ、ありがとう……」

「フフ……どういたしまして」


 ほぇ~っと赤くなるあゆを席に返す。

 試合に戻る。

 戦慄する。


「……すごいことになってるな」

「う、うわっ!? 何あれ!?」


 夜。

 闘技場が夜だ。

 暗黒の闇を、暗闇の中を、白い光が幾何学模様を描く。

 縦横無尽。

 新島宗太目掛けて走る。


「何あれ、美月ちゃんの力!?」

「……理屈は分からないが、光でも吸い込んだのだろうか?」

「まさか!?」


 まさか、である。

 だが、葉山は思った。


 英雄戦士ならばやりかねない。

 限定した閉鎖空間を仮想的に形成することも、局所的に光を吸収し暗黒を形成することも、ああいった物理法則超越の芸当のことも、

 既成概念を飲み干し、

 自身の体内で再構成し、

 放出できる。


 ――――美月瑞樹ならば。


(可能だ……)


 ブラックホール。

 意志を持ち、行動するブラックホールだ。


「ソウタ君!」

「大丈夫、あゆちゃん。新島くんはうまく攻撃をさばいてるよ」

「フフ……うまく光の接近を誘導しつつ切り刻んでるね」


 二刀流。

 新島宗太の光の剣は、美月の攻めに対抗して、二刀に分裂した。


「……光の剣を両手で構えて手数を増やしたか」

「基本攻撃は対策メタってますよ。当然です」


 真白は自慢気に言った。

 彼女の言葉通り、

 新島は回避行動を取りながら光の線を消し去る。

 地上を駆け、跳び、回転しつつ迫る光を消滅する。


「おおーっ、早い早い早いっっ!」


 あゆが喜びの声を上げる。

 その様子を見つつ、狗山が葉山に話しかける。


「葉山くん」

「フフ……新島くんは無事のようだね」

「うむ」

「……」

「そういえば、話の続きだったのだ」


 そうだ。

 葉山は得心した。



 狗山涼子が新島宗太と戦った理由。



「なあに、葉山くんが驚くに値しない単純な理由だ。語る程のものでもない」

「フフ……まあ僕も大方、予想はついてるよ。新島くんを見ていれば自然とそういう気持ちになるのも間違いない」

「私と新島くんは、美月ちゃんに告白する権利を争って戦ったのだ」

「?」


 フ?

 何を言ってるのかよく分からない。

 試合は変わらず白熱してるが、葉山は目を点にして狗山を見た。


「……? 新島くんをめぐる争いではなくて?」

「私は美月ちゃんに恋をしていた。二人が一緒になるにはあの男は邪魔だった……」

「……」


 どうしよう。

 何を言ってるのか本気で分からない。


 ――――葉山樹木に百合の素養はなかった。


「でも、狗山さんは新島くんのことを無理やり倒すようなことはしなかったんだね」

「当然だ。恋の道は殴り合いで決める。それが私のやり方だ」

「さすがだねっ!」

「……」


 一回整理しよう。

 葉山はそう思った。


「え、えーっと、新島くんは美月さんが好きだよね……」

「うむ、小学生の時、怪獣に襲われたのを助けられたことをきっかけに、好きになったらしい」

「それで、狗山さんは、美月さんのことが……?」

「うむ、好きだぞ。私も幼い頃、美月ちゃんに助けられたことがあってな。その時に、ああいうヒーローになれたらと憧れるようになった」

「じゃあ、憧れとかそういう……」

「いや、性的な意味で好きだ」


 性的な意味かあ……。

 葉山は伝説のヒーローからそういう台詞はあんまり聞きたくなかったなあと思った。


「ゆるくない方の百合をご所望だ」

「ご所望か……」

「私はどちらかと言うとプラトン先生的な愛し方も嫌いではないのではないのだが、

 直裁的な愛し方もオールオーケーなので、どちらかと言うと葉山くんには分かりやすいかもしれない」

「フフフフフフ……全然分からないよ……っ!?」


 葉山が珍しく突っ込みをしていた。

 はぁ、はぁ……と息を切らしたので飲み物をいただく。


「発情したのか?」

「してないよっ!」


 葉山は勘違いしていた。


「てっきり僕は新島君の持つ才能に惹かれてライバルになったのかと……」

「う、うむ、そういうこともあるな……」


 嘘だな。

 咄嗟に答えただけだと葉山は理解した。


「……まあ、それならそれでいいんだ」


 葉山は独りごちた。


「新島くんには何というのかな"人惹きつける才能"みたいなものがあるんだ……彼が存在するだけで、そこに安定感が生まれる。場がまとまるんだ」

「……人を、惹きつける才能」

「僕は新島君の強さを秘密は何なのか。ずっと考えてきた。諦めない意志、努力を努力と思わない強靭な精神力、多くの可能性を取捨選択した上での決断力、知恵もあるし、思い切りもいい、

……よくうっかりミスしたり、大事なことを取りこぼしたりもするけど、

でも、僕が欲しいものを全部持っている」


 狗山の目が丸くなるのを葉山は視認した。

 だが、その驚きの意味を、葉山の視点からで理解できなかった。


「けれど、そうした能力が何を生み出すのか、そう考えた時に、

 新島君は、他の人に勇気を与えてくれるんだ。

 彼が存在する――――"彼が存在し、あるがままに行動する"それだけで、僕みたいな人間の助けになるんだ」

「だから、人が集まると……」

「多分新島くんの強さは、彼一人のものじゃない。友情パワーなんて最近のジャンプでも聞かない言葉だけど、

 それでも、新島くんは他人を惹きつけ、他人を味方にすることで」

「強くなったのか」


 僕はそう思ってるよ。

 葉山はそう締めた。


 対する狗山は「そうか……そうなのかもな」とつぶやき、そして。


「葉山くん。私は――」


 再び、轟音。

 葉山は二人を見る。


 全霊を賭し、殴りあう二人の姿を。

次回「第128話:ヒーロー達の決勝戦 川岸あゆの場合」をよろしくお願いします。

掲載は2~3日後を予定します。

文字数少ないのでさくさく進みます。

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