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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
150/169

第126話:ヒーロー達の決勝戦 狗山涼子の場合

 ――強き者。

 伝説を継承し、才能という刃を努力で研ぎ澄ました者。

 夢見る強さの頂は、いまだ見果てぬ。


 ◆


 見る立場は久々だ。


「涼子ちゃん、涼子ちゃん、焼き鳥食べる―?」

「うむ、いただこう」

「涼子ちゃん、涼子ちゃん、お茶飲む?」

「ああ、ありがとう」

「涼子ちゃん、涼子ちゃん!」


 狗山涼子は試合を見る。

 普通の試合ではない。

 英雄戦士。

 最終選考会の決勝戦だ。


「川岸さん。こんな奴に私たちの備蓄を分ける必要はありませんよ」

「ほら、涼子ちゃん、ケミカルライトだよ」

「よし、振ろうではないか」

「ましろん無視されてるね」

「フフフ……あゆは最後だろうと元気溌剌だなぁ……」

「いえすっ!」


 狗山の隣には川岸あゆ。

 二人の後ろには真堂真白、人型式、葉山樹木の三人が並んで座った。


「うわぁ……新島くんも美月ちゃんも早いね……全然見えないよー」

「フフ……どうやら若干新島くんが優勢のようだね……」

「葉山くん見えるの!?」

「見えるさ」

「おおー」

「凄い! 凄いよ葉山くん!」

「フフ……もっと褒めてくれ」

「凄い! 格好良いよ葉山くんっ! 流石は私が惚れ込んだ彼氏だよ! グレートだよ!」

「フフフフフ……」


 目を輝かせるあゆ。

 邪悪な暗殺者みたいな目をして恥ずかしがる葉山。

 満更でもない様だ。

 甘い空気が流れる。

 対照的に、狗山は試合に没入した。


(駆ける新島君。ラッシュ。ラッシュ。右からの一撃。これはガード。

 エネルギー弾が来るぞ。――消滅。

 美月ちゃんの攻撃を避けて、反撃。

 おお、あの体勢から跳べるか。

 さらに連続攻撃!?)


 焼き鳥を頬張る。


(美月ちゃんのでかいのが来るぞ。

 回避と見せかけて……殴りかかる。

 そこからの撤退。

 準決勝の私のトレースか。

 面白い。私の真似をするとは。

 倒れ間際にブーストでストップ。避けつつ攻め。フェイントが1,2,3……おお、そこで分身か!)


 緑茶を飲む。


「美月さん。全然攻めないですね……」

「おそらく新島くんの力を測ってるのだろう。どれほどの力加減で攻めればいいのか。見極め中のはずだ」

「……先手はくれてやる、って奴ですか」

「いや、美月ちゃんは純粋に分からないのだ。どの程度の力で戦えば、相手が壊れずに済むのか」


 だが、そんな余裕はない。

 そのことを美月はすぐに理解することになる。

 狗山は思う。

 新島宗太は今までのヒーローと違う。


(もちろん私とも……)


 そう断言できる自分自身に、

 新島への"信頼"を揺るぎなく持つ自分に、不思議さを覚えながら、


(?)


 自分に相槌を打った少女を見る。


(この娘は……)


 真堂真白だ。

 試合観戦の為の特注のゴーグルを両目につけた真白は、

 狗山と目を合わせると、


「……ふんっ!」


 と、そっぽを向いた。


「……私は何か嫌われることでもしただろうか?」

「知りません! 気にしないでくださいっ!」


 狗山は小首をかしげる。

 疑問はあるが、今は闘技場から目を離せない。

 新島の一撃は、美月を闘技場の中央へ叩きつけた。


「おおおおぉーーっっと! 新島選手! 強烈な一撃! 美月選手を闘技場ごとブチのめしたーッ!」

「というか、ようやくどこで戦っているか分かったわね……」


 嘘だ。

 狗山は彼女たちの台詞が嘘だと知っている。


 トーナメントの全貌をプログラムした鴉屋クロ。

 そのクロの姉であり、鴉屋博士によって造られた擬似生命体である鴉屋ミケ。


 ミケによって観測されたデータは、クロの脳内に格納される手はずとなっており、

 二人が試合内容を把握できない、といったことはあり得なかった。


 狗山は細かい事情までは知らないが、

 英雄戦士選考会が、二人にとって大規模な実験施設であることは把握していた。


(うむ、私には関係ないことだ)


 狗山は割り切る。

 もし真実を知らずとも、同じ様に答えた。

 狗山は自信を持って言えた。


「ホントだ! ソウタ君勝ってる!」

「フフ……よくあそこまで成長したよ」


 狗山は同意する。

 と、同時に疑問も起きる。


(あれほどの強さ……短期間で可能なものだろうか?)


 新島に敗北し、

 医務室のベッドで寝かされた時から狗山はずっと考えていた。

 ――――新島には、元からヒーローになる才能があったのではないか?


 努力の天才。

 という言葉がある。

 努力すること、ひとつの目的のために、継続的に、脇目をふらずに邁進すること。

 それ自体が、一つの才能であるという考えであった。


(新島宗太が努力の天才であることは疑いない)


 だが、新島と同じ位、

 狗山涼子が努力の天才であることは間違いなかった。

 ――いや、正確には、『努力する天才』であることに相違なかった。


 狗山涼子は恵まれた環境・恵まれた才能にも関わらず、

 驕ることなく、ストイックに鍛錬を続けた。


 その努力は新島に比類する。

 ――おそらく、美月瑞樹という強者、圧倒的最強の存在が、彼女に慢心させる時間を与えなかったのだろう。


(そうだ。私は確かに努力してきた)


 だが、負けた。

 新島宗太と狗山涼子。

 両者に才能、努力の差はない。

 むしろ、才能の面では、新島の方が劣るといって良い。


 にも関わらず、新島はこの数ヶ月に満たない短期間で、狗山涼子を凌駕した。


(何故だ。努力・才能、それ以外に何がある。運か? いや――)


 狗山涼子は頭を振る。

 運や、手緩い策で、この私を倒せる訳がない。


 狗山の戦術は、真っ向堂々・正面から。

 その戦闘スタイルは、貧弱な奇策やハメ手に対して、罅一つ入れることのできない強靭なもの。


(それに、新島くんは私と真正面から戦ってくれた)


 狗山は考える。

 だが、答えが出ない。

 正解の見えない問い。

 彼女にとって稀有な事態だった。


(漫画で弱小校が努力の果てに、最強校を破るという筋道はよくある。しかし、現実にそんなことが起きるとは……?)


 信じがたい。


 新島の強さとは何なのか。

 何故、彼は勝てたのか。

 何故、私は負けたのか。

 狗山は、この疑問を解消すべく、あゆ達の応援席へと移動した。


(……新島君、笑ってる? それに美月ちゃんも?)


 随分と楽しそうだ。

 負ける瞬間、

 「美月ちゃんを頼む」なんて、キザな台詞を吐いてしまった。

 重荷にならなければよかったが、

 どうやら要らぬ心配だったようだ。


「フフフ……新島君楽しそうだね」

「うむ、何よりだ」

「フフ……狗山さん。なかなか聞く機会がなかったのだけど、聞いてもいいかい」

「む?」


 狗山は振り向いた。

 あゆの頭を子猫のように撫でながら、葉山は闇のような深い瞳で狗山を見つめていた。


「フフ……身構えなくていいよ。狗山さん。僕が聞きたいことはシンプル。たった一つのことなんだ」



 どうして新島君を決闘を挑んだのか?



「ああ、そのことか……」


 狗山は赤面する。

 闘技場では彼女が戦っている。

 彼女は――新島くんの告白を受け入れた。


 それが事実であり、受け入れるべき真実だ。

 そうか。

 そうなのか。


(私は――負けたんだな)


 本当に。

 勝負でも。恋路でも。


「もし嫌だったら答えなくても……」

「いや」


 狗山は否定した。


「話そう」


 すべて終わったことだ。

 終わったならば、区切りを付けねばならない。


 それがせめてもケジメだ。


「私が新島君に勝負を挑んだのは――――」


 その時。

 轟音。

 強く、深く、地の底から響く音。

 狗山は震源地を見る。


 美月瑞樹が新島宗太に反撃を開始した。


次回「第127話:ヒーロー達の決勝戦 葉山樹木の場合」をよろしくお願いします。

掲載は2~3日後を予定します。

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