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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
148/169

第124話:ヒーロー達の決勝戦 城ヶ崎正義の場合

 ――才能の者。

 輝きを持ちながら、さらなる光を求める者。

 暗黒の闇を見て、輝きの強さを再認する。


 ◆


 うおおおおおおぉぉぉぉおぉぉおおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉ――――!!

 決勝開始五分前の世界。

 会場の闘気は渾然一体とし、強烈な熱狂感が場内を専横する。


「ったく」


 白熱する空気の中。

 異質な舌打ち一つ。


「涼子のやろー、やっと復活したと思ったら、新島の応援に行きやがって」

「……」

「腹立つぜ」


 苛立つ少女――――猫谷猫美は熱っぽい溜息を吐いた。

 隣の少年はその声を涼しげに聞き入れていた。

 余計なことは言わない。

 Sクラスヒーロー・城ヶ崎正義は心で誓った。


「あー、せっかくこうやっていい席を取っておいたのになー」

「そうだな」

「昼休みの間にメガホンとユニフォームまで準備して、応援準備完了で挑んだってのにな」

「全くだ」

「応援歌も作って、横断幕も用意して、食い物とジュースも売店から買ってきて、あとは涼子が戻ってくるだけだったのになー」

「……徹底してるな」


 狗山涼子がいないことを除けば。

 だが、城ヶ崎はあることに気づいた。

 猫谷の不満の、論理の隙間。


「狗山君が医務室から戻ってこない可能性は考えなかったのかい?」

「はぁ?」


 何言ってんだ。

 そういう目をされた。


「――――"戻るに決まってる"だろ。狗山涼子だぞ」

「……」


 狗山涼子をめたいのか、けなしたいのか……。

 いや、余計なことは言うまい。

 城ヶ崎は先ほど誓った内容を再度繰り返した。


(席についてからかれこれ数十分。狗山君への文句が七割、文句に見えた自慢が三割……、これは……)


 ノロケ、か。

 城ヶ崎は承知した。


「……何、変な目で見てるんだ?」

「猫谷君、売店で買ったポテトをあげよう」

「お、マジで、サンキュー♪」


 餌付けで誤魔化せた。


(なるほど。――とすれば、この場合の俺は、狗山君の"代わり"という訳か)


 やれやれ。

 城ヶ崎は自らの格好を見る。

 両手にメガホン。

 色の濃いキャップ。

 「I LOVE ♥ MITSUKI」をプリントされた上着。

 これらをフル装備して、


「横断幕、ありがとな」

「……」

「助かったぜ。一人じゃかけられなかった」

「構わないさ。美月君を勝たせたい気持ちは俺も同じだ」


 呼吸の様な嘘。

 これまでの城ヶ崎は、不平一つ漏らさず"狗山涼子の代役"を務め上げていた。


(この俺が誰かの代わりか……面白い)


 猫谷の横暴に気が触れたか?

 否。

 城ヶ崎は、現状を静かに認めていた。


(俺が……誰かと同じ)


 他の誰とも違う力、周りと異なる才能、"特別な自分"という、思春期特有の全能感を、妄想ではなく地で実現させる天才――――城ヶ崎正義は、誰かの代替物となっている自身の変わり様に、劣等感よりも、安堵感、悲壮感よりも、幸福感を抱いていた。


(昨日までの俺に、こんな考えができたか?)


 自問する。


(昨日までの俺は、これほど安心していたか?)


 答えは無い。


(まあいいさ。すべては新島くんに負けたお陰だ)


 まるで感謝でもするように。

 城ヶ崎は思考する。

 そこには卑屈さも自嘲さもない。

 湖畔のように穏やかだ。


(限界の把握……現状の俺が何者であるのか、"解った")


 敗北者ルーザーではなく再出発者リスターターの精神。

 現状肯定の意志。

 城ヶ崎の希望は輝きに満ちている。


(地面に足がついている感覚。俺がどこにいるのか。分かる。これからどこに進めばいいのか。見通しが立つ)


 大きな理。

 定理からの逸脱。

 生まれながらにして常人とかけ離れた力を持っていた城ヶ崎正義は、

 一度、大きなものに取り込まれることで、

 自己の認識を可能とした。


(まさか、この俺が自分を認識できないとはな)


 城ヶ崎は飛翔を目指す。

 今回の敗北はそのための凋落だ。

 膠着した現状を打破するには、完璧な破壊も悪くない。

 城ヶ崎正義は、自身を一度地に落とすことで、大きな躍進への一歩を踏み出した。


(無論、少し間違えば破滅……だが、俺はやり遂げた)


 城ヶ崎はちらりと猫谷猫美を見る。


(猫谷君には分かるだろうか? ……いや、彼女は)


 猫谷は違う。

 猫谷猫美は、――――城ヶ崎正義とは違う戦い方をしている。

 城ヶ崎は彼女の強い瞳を見て微笑む。


「何笑ってんだよ」

「……狗山君への文句は済んだのかい?」

「ああ?」

 黙る。

 押し黙る。

「……いつまでの涼子の名前ばっか言ってたら城ヶ崎(おまえ)にもわりーだろ。それに」


 それに?

 城ヶ崎の問い返し。


「……やっぱ、美月には勝って欲しいからな」

「……」


 ああ。

 やはり。

 余計なことは言うまい。

 城ヶ崎はそう思う。


(俺も――――『新島くんを応援したい』なんて)


 胸に秘めるべきだ。

 ――だが、城ヶ崎は「美月君の応援でも構わない」と思った。

 城ヶ崎にとって、勝敗はそれほど重要ではなく、


(俺はただ結末を見るだけだ)


 彼は既に充足している。

 無論、それは一時的な満足かもしれない。

 城ヶ崎正義の問題は解決した。だが、朝食をしっかりとっても夕飯にはお腹が空くように、一度問題を解決した所で、新たな悩みが再燃しないことはない。賢い、聡い、予断ないヒーローである彼ならば、尚更あり得る話だ。羽ばたく際、また羽ばたいた後で問題が起きない理由はない。充足感は時とともに薄れる。枯渇は必ず発生する。


 だが、それでも。


(俺は構わない)


 刹那でも一瞬でも僅かでも、確かに掴めたこの可能性を城ヶ崎は大切にしたいと思う。この可能性を胸に城ヶ崎は見届けたいと思う。この戦いを。城ヶ崎の心は踊る。この戦いを見届けられることに。世界と救世主の戦いに。ヒーローの行末に。この両岸に刻める事実に。


 たとえ彼女が敗北しようとも……。


「おら、城ヶ崎! 始まるぞっ!」

「ああ」


 城ヶ崎は立つ。

 猫谷への罪悪感を抱きながら。

 けど、だが、選ばれたのならば、

 ――それもいい。

 最善を尽くそう。


 今の立場ポジションを全霊で。

 猫谷の声に応じた城ヶ崎は、メガホンを強く振った。



 ――――世界は英雄戦士を求めている!? 城ヶ崎正義の場合。

読んで頂きありがとうございます。

次回「第125話:ヒーロー達の決勝戦 猫谷猫美の場合」をよろしくお願いします。

文章はもうできてるので、今日または明日中には掲載致します。

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