第122話:準決勝② 4
私にとっての勝利は――――、確定された"結果"に過ぎない。
(そのはずなのに)
「フフ……」
葉山くんは敗北してなかった。
英雄戦士チーム。
最終選考会。
準決勝。
森。
…………森?
「変身名《幻影魔神》」
「種類『大弾煙』」
葉山くんの声だ。
運命に抗い世界に歯向かう彼。
川岸さんの力を受け継ぎ私を倒す計略を立てた彼。
――――そんな彼の勝利の声だ。
(一体、何だろう……?)
私の周囲には膨大な"樹木"がそびえていた。
空は、見えない。
すでに隠された。強く深く濃い緑色だけが空だった場所を染める。何だか呼吸が苦しい。ドキドキする。ちょっと圧迫感。ちょっと高揚感。
森の中で葉山くんの声が反響した。
「美月さん」
「フフ……」
「残念だが、僕は予定調和を許さない」
「私は許さない」
「許さない」
ゆらめく、木々達。
…………それに川岸さん?
「僕は」
「私たちは」
「敗北の未来など」
「詰んでる運命など」
「確定された結果など」
「許さない」
ざわめき、木霊した。
「――――全て、幻影に還してみせる」
葉山くん。
葉山樹木くん。
その姿見せることなく。
「だから」
「待て」
「しかして、絶望せよ」
「勝利は我が手に降り注ぐ」
----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------
「……思ったより、厄介だ」
開幕数秒で終わらせるはずの私の戦いは、想定外の『苦戦』を強いられていた。葉山くんは私が焦ってる姿を嘲笑う。
「フフフ……フフフ、美月さん。英雄戦士。世界そのもの。神様。ゼロ年代の戦士。新人類。……フフフ、呼び名は何でもいい」
彼は続ける。
「……重要なのは君が、『人の理を超えた何か』という事実だ。
だからこそ、君は、僕たちとは違う水準から攻撃ができる。山車雄牛さんが敗れた原因は、そこから推察できる……」
まるで「自分は違う」と、そう言いたげな台詞回しだ。
「フフフ……違うよ。
僕は気づくことができた。
だからこそ、僕は"超越者"になれたんだ」
一拍。
「そうさ」
二拍、そして。
「僕は――――"神"になった」
「……」
(うわぁ)と心のなかで思います。
「うわぁ」
「フフフ……声に出てるよ」
これは失敬。
しかし、自分から神とか言い出す人の最期は、大抵がろくでもないものです。
幻影魔人、
――――幻影魔神。
言葉遊びで、洒落で冗談で語呂合わせで、人が神になるのなら、救世主は要りません。
(って私が言ってみる)
それとも葉山くんの覚悟の"顕れ"と見るべきかな?
(いや)
葉山くんが私に近しい力を得てるのは事実。
事実。
茶化すのはいけない。
事実は事実として受け入れねばならない。
(それなら)
倒さなきゃ。
「……けど」
葉山くんは……どこなんだろう?
当たり前のように会話してるけど、葉山くんの姿は森のなかに消えている。声だって、木々のざわめきが反響しあって、どこから聞こえるのかわからない。
「本体がどれか"識別"できない……対象が分からなければ確かに『一撃必殺をかますことはできない』ですからね……」
ぶっちゃけ、私対策としては、かなりいい戦法だ。
普通なら、周囲の森全部を吹き飛ばしてもいいんだけど――――。
「……とぉッ!」
私は、試しに周囲の森林を一瞬で消去する。一切の力を込めずに、森はカタチを失って、闘技場の青空が数コンマだけ美しい姿を見せる。だけど。
「……フフフフフフ……」
「フフフフフフ……」
「…………フフフフフフフフフ」
「やっぱ駄目か」
森はすぐさまカタチを取り戻し、私を囲ってしまう。
牢獄だ。
もちろん、葉山くんのエネルギーが切れるまで森を消し続けることもできるけど、このヒト……君島さんの能力を一部持ってるんだった。
(と、いうことは、全部消すのは難しい……)
君島さんのヒーローエネルギーを全部吸い取るのは不可能ではないと思うけど、今の戦闘でやり切る猶予も時間もあるとは言いにくい。
「…………フフフフ、思考してる隙もないよ」
と、
声と共に、
森が攻める。
私の周囲に、
"異形"
そう呼ぶしか無い化物が襲ってくる。
「……いけ、エターナルワーム」
「うわっ!」
私の周囲を、這い寄る混沌にも近い、ウネウネした"アレ"が取り囲む。
「なんだこれ!?」
「フフ、……安心してくれ……ただの木の根っこだ……フフ、縛られる前に逃げるがいい」
「うわ、うわ、うわわっ!?」
「フフフフ……変身していてよかったね……ヒーロー体ならば羞恥心もあるまい……」
「捕まったら何があるんですか!?」
ヒーローにあるまじきド畜生な戦闘スタイルだ。
私はさくっと避けて、時には切り刻んで対応するけど、葉山くんの攻撃は容赦なく続いてくる。
(持久戦か……)
私の苦手なこと把握しまくってる……。
「フフフ……僕の情報収集をなめないで貰いたい……。
二次選考会……君が、怪獣ジャバウォックよりも、『無数のバンダースナッチ』に苦しめられた事実を僕は知っている」
「……」
苦しめられたという表現は嫌だけど、まあ、合ってる。
確かに私は、圧倒的な強者よりも、うじゃうじゃと出てくる雑魚キャラの方が"苦手"だ。
「仮に……スペックが999でカンストしてるゲームのキャラがいたとして、
最強のラスボス一体を倒すのと、始まりの街の最弱の敵を千体倒すのだとしたら、
どちらの方が楽ですか……?」
「……フフフ、腹立つ例えだが……『最強のラスボス』だろうね」
もちろんこの世はゲームではないけど、
ゲームになぞられて考えてもわかるように、面倒なものは面倒なのだ。
"総量"というのは、それ自体で凶悪な化物となるのだから。
「フフフ……もちろん、量だけじゃない。僕は勝つために来たのだからね……!」
私の周囲の木々から紫色の怪しげな煙が吹き出してくる。
これは……。
「毒?」
「フフフ……先程の戦闘で毒に弱いのは把握済み」
「いや、消しますけどね」
私は一瞬で森を消し去る。
しかし、毒は残る。
「む!」
「フフフ……ヒーローエネルギーじゃないさ。
……闘技場のコンクリートを溶かし、その場で作り上げた正真正銘"現実の毒"さ……」
「いえ、消せますけどね」
私は頭の中でスイッチを"パチリ"と切り替えて、現実の毒とやらを消滅させる。
ついで格好よく両手を前にかざす。
「幻想も、現実も、関係無いです。
私はあらゆる事象を我が身にできるから、特別なんです」
と、葉山くんを言葉で牽制したものの、
――――本心では(ちょっとマズイかな)と思えてきました。
(別にちょっとなら大丈夫なはずだけど……毒ばかりを大量に摂取したら……)
消滅といえど、
その実は私のヒーローエネルギーと混ざり合ってるということなのです。
毒。
これは良いことではありません。
葉山くんもそれを解ってるのでしょう。
(しかも、持久戦)
(……姿の見えない敵)
(厄介な吸収対象……毒)
私を研究し尽くしてる。
私を倒すための戦術を練り上げてきてる。
私の内側でふつりと。危機感が上がりました。
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けれど私は負けない。
神として並び立ったくらいじゃ私は負けない。
その程度じゃ私は負けない。
逆境と呼ぶのも憚れる。
絶望と呼ぶのも馬鹿らしい。
私の目の前には勝利しかない。
----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------
世界とは何だ?
私だ。
しかし同時に私は何だ。
英雄戦士だ。
英雄戦士とは?
この名は狗山隼人がつけてくれた名だ。
大仰すぎる呼び名に私が嫌がりながらも、
『時代は前へと進んでる。だから、俺はこの名をお前に譲りたい。この名前をかっこ良く使って、何か新しいものを見せて欲しい』
『俺たちが、辿り着かなかった明日に』
辿り着かなかった明日とは何だ?
世界を守るシステムとしてのヒーローではなく、
世界と戦うヒーローってことか?
見えない大きな仕組みに動かされたヒーローじゃなく、
個々人の意志/気持ち/個人的な感情で、戦うヒーローってことか?
時代を受け継いだってことなのか?
私には分からない。
Cクラスの生徒さんや、鴉屋博士の娘さんや、月見酒代ちゃん先生なら答えられるのかもしれない。
ただ、
私に言えることは。
私が最も得意とする敵は、
葉山くんみたいな、
今の葉山くんみたいな、
「そういう神様みたいなものを倒す。それが私、英雄戦士なんだ」
ぐぐっ、と力を込める。
ぶんっ、と森を消す。
どどん、と大地を蹴る。
「…………凄い力ね」
「おおーっと、美月選手、ようやく姿を現しました!」
私は跳ぶ。
上空だ。
森が迫る。
再生する。
その前に、その前にと、私は跳ぶ。
上へ。上へと。
「フフフ…………無駄だ」
森が戻る。私は閉じ込められる。私は再度力を込める。出るんだ。出るんだ。
そう思い。ひたすらに森を消去する。
私は取込む。
森を取込む。
毒を取込む。
怖さはある。
それでも、取込む。
「フフフ……無駄だ……無駄さ。君が一気に攻めてくることには驚いたが、君は出てない。君は跳べない……いくら力でねじ伏せようと僕の森は――――」
「変身名《英雄戦士》」
私の思考がぐるりと回る。私の本気がわずかに光る。
森が戻る。私は攻める。何度も何度も空を目指す。閉じる前に閉じる前に。私は攻めて森を消す。その度、身体に毒が蓄積される。厄介。マジ厄介。同時に化物共も消し去る。やってくる敵。消去しなながら。私は出る。出口を目指す。
(そして、葉山くんを見つけ出す)
葉山くんの居場所を見つけなきゃ。本当の彼を見つけなきゃ。この森の中に隠れてる。その姿を見せることがない。本物の、本体の彼を発見しなきゃ。
(さあて、テンションあがってきた)
昔だってこんなに高揚しただろうか。
分からない。分からない。
分からないけど、私は森を壊し、怪物を壊し、ただ上を向き出口を求める。
これが戦いだ。
これが懸命だ。
いっちょ、頑張りますか。
よし、
よし、
よーーーーーーーーし!
探索開始!
「事前処理開始。発動に必要なヒーローエネルギーを選択。OK。解析範囲を指定。対処を探索。効率化は可能か?OK。いける。じゃあ手取り早く。OK。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。そう。じゃあ。もう一回。OK。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。承知。じゃあもう一回。OK」
課題点が見えてきた。
葉山くんがいない。
大丈夫。
見つからないなら。見つかるまで探せ。
とりあえずずーっと流しとけ。
問題はない。
成功するまで、繰り返せ!
「探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。もう一回。OK。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。承知。自動で。OK。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。OK。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。」
いいさ、いいさ、続け続け続け。
トライ・アンド・エラー。
トライ・アンド・エラー。
見つけるまでループしましょう。
ほむほむだって、キョンだって、オカリンだって、梨花ちゃんだって、キリヤだって、波濤学だって、ジョジョの四部のあの子だって、パーカーの似合う少年少女だって、その他大勢の有象無象だって、繰り返し繰り返し繰り返してそれでとっておきの冴えた解答を得たのですから。
ある程度葉山くん(本体)のいる場所は想定つくので、探す範囲は絞ってますが、こればっかりは時間がかかるものです。
さらに、同時に、森を消し続ける処理を発動し続けて、葉山くんの攻めを封じます。
「…………フ」
「…………フフ」
「……フフ、まさか」
「こんな、……こんな力技を……」
葉山くんは困惑してます。
「私は自律変身ヒーローですよ。戦って戦ってボロボロになって凄惨で、それでも得がない何かを得るために戦う、一人の少女ですよ?」
私は幾度となく森を抜けます。
森を破壊します。
そして取り込まれます。
それは閉ざされた殻のように、壁のように、私を阻害します。
征服する者される者。
「無駄無駄ァ!」
私は超えます。
私は倒します。
あれですよ。壁と卵があったならば、私は常に卵の側に立ちますよ。
例え卵が間違っていたとしても。
「まあ、今は壁そのものにもなってますが」
同じなのかもしれません。
難しいことは分かりません。
ただ、ただ、今は私は森を破壊します。
それなりに連続して連続して壊してます。
ずさぁ、と地面に倒れこみます。
あれ、上を目指していたはずなのに。
「フフフ……ここは"森"だ。方向など狂わせられるさ」
そいつは上等。
迎え撃つしかないですね。
私は直進することを選びます。
森はうねうねと木々を迂回して通ることで人を迷わせると言います。ならば、直進あるのみです。あれです。壁があったら、壁ごと直進するのです。そのまま特攻。突撃。前にブックオフで読みました。魁男塾にはひたすらに直進するだけの特訓があるのだと。あの要領です。壁があろうとも。木があろうとも。何があろうとも。何が待ち受けようとも。私は突き進むのです。
「さあ、さあ、そろそろ見えてきませんかね!」
可能性を夢見て。
未来を夢見て。
私は進みます。
懐かしい。
そんな感慨もあります。
いや、どうなんでしょう。
初めて?初めて?比較すること自体間違ってる?
ハイテンションになってると同時に、私はクールに脳内でぱちぱちと計算します。
葉山くん。
彼のエネルギー量が多かろうが、君島さんから得た力だろうが、一度に発動できる最大上限は決まってるはず。
特に葉山くん。
彼は煙を充満させるのに"時間をかける人間"でしたね。
川岸さんの能力を継承したお陰でそのカバーはできてますが、元が弱いのは既に把握済み。
「探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。再実行。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。再実行。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。再実行。探索不可能。エラーが返されました。完全に隠蔽されてます。再実行――――」
ガシィ!
私の伸ばした手が森の出口に引っかかります。
引っかかります!
わずかに。
でも確かに!
森の再生速度に追いついた。
追い越した。
そして、結果――――、
「探索対象が発見されました。OK。選択開始。OK。撃退しますか。Y。承知。消去します――――」
私は。見つけました。
きっと。森の外側にわずかでも出れたのが原因。
葉山くんの姿は目視できません。
しかし私のヒーローエネルギーが発見してくれました。
シロちゃんほどじゃないですが、私だってヒーローエネルギーを使用した探索くらいできるんですから。
「やったぁーーーーー!」
私はくるりと回転します。
青空。
青空。
ああ、なんて綺麗。
外に一瞬でも出たらそれは決定です。
私は闘技場から解き放たれた花火のように、
上へ。
上へ。
上空何メートルなのか。
私は分かりません。
けど。
だけど。
眼下、光景目にして、――――、
力いっぱいの、一撃を。
「私の、勝ちだぁーーーーーーーーーーーっ!」
発射。
一撃必殺の特大のビーム。
私の両手から放たれた光線は。
葉山くんから取り込んだ大きな大きなヒーローエネルギーの塊に、私の力を加えて混ぜたもので、
闘技場全域を覆う特大の力は、
「一切の隙間なく、一切の間隙なく、
葉山くん、君を――――倒します!」
光が包まれました。
----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------
勝利とは確定された結果に過ぎない。
「私の勝利です」
「フフ……楽しかっただろう……?」
「!」
試合終了。
勝負は私の勝利で決着しました。
葉山くんは目を醒まさず倒れたままでしたが、しかし、私が去る直前、そう言って笑いかけたのです。
「……」
「……フフ」
「……楽しかった」
です、と小声で付け加えた私に、「フフ……敬語なんていらないさ」と葉山くんはきっちり聞こえてるのだった。
「楽しかったのなら良かったさ……フフ、楽しい、それが一番大事さ……。
美月さん……僕はただ君に知ってもらいたかった。我慢する必要なんてないと。……フフ、世界だからと、いろんなものを諦めないでいいんだと……」
「……今日、似たようなことを他の人にも言われ……た、よ」
私の背後で応援してくれてる声。
山車雄牛さんの声だ。
彼女は私の勝利をちゃんと祝ってくれいる。
「いいぞ―! よく葉山をぶっ潰してくれた、美月! さすがだ、カッコ良かったぜ!」
……いや、葉山くんの敗北を喜んでるだけの説もあるけど。
「フフ……この僕を見なよ……あんな象徴的な"森"を形成しておきながら、現実ではきっちり彼女持ちなんだぜ……フフフ……どうだよ」
「その主張は腹立ちますが……そういうものなのですかね」
「だから」
葉山くんは一気に言い切ります。
「もっと、新島くんのことを見てやってくれよ」
歓声が止まりました。
否、止まってなどいない。
以前鳴り響いている。
しかし、どこか遠くの声のような気がする。
だから、葉山くんの声だけが聞こえる。
「フフ」
「僕は彼のことを尊敬しているんだ」
「何もない状態から」
「一の状態から」
「無知で」
「無謀で」
「弱いのに」
「普通なのに」
「凡庸なのに」
「夢を見ている」
「夢に近づいている」
「彼は凄いんだ」
「大抵はどこかで挫ける」
「夢は、目標は、憧れは、願いは、祈りは」
「そういった、あれこれは」
「現実とかいう魔物に喰われて、挫折して、諦めて、折り合いつけて、中途半端なところで軌道修正して、言い訳して、その実本来のカタチとは全然違うものになって」
「止まってしまう」
「そのはずなのに」
「彼は諦めない」
「新島くんは間違えることを恐れない。いや、恐れてはいる。でも、最後には立ち上がる。美月さんのことを知った時だって、絶望しかけても、それでも立ち上がった。果敢に攻めるんだ。現実に潰れないんだ。そして、今決勝戦への切符を手にしている」
葉山くん。
「僕は、――――新島くんがいたからここまでこれた」
「彼の存在が、僕に夢を見させた。僕に、もう少し頑張れば届くじゃないか。もっと頑張れば手が伸ばせるんじゃないか。大丈夫じゃないか。可能じゃないか。いける。僕は戦える。僕の見える光景を。僕の可能性を。世界の幅を広げたんだ」
「美月さん。あなたの存在が新島くんに夢を与え、彼に目標を与えたのと同じように、僕は新島くんによって、世界になれる可能性を得たんだ」
葉山くん。
「だから、今度は僕の番なんだ」
葉山くんは立ち上がろうとして、しかし、よろめき膝から崩れ落ちそうになります。
「はや……!」
「フフ……心配無用、言っただろ。僕は平気だって……事実、僕は死んでない」
その台詞通り、葉山くんはしっかりと大地を両足で踏みしめます。
信じられない……、間違いなく全力で攻撃したのに、葉山くんは余裕そうに笑みを浮かべます。
「美月さん。君は新島くんのことをもっと"ちゃんと見る"べきだ。見てあげるべきなんだ。君は世界となることで、生まれ変わる瞬間で、妙なところで狂ってしまったとしか思えない。……フフ……意地を張るのは、我慢するのはもうやめた方がいい」
「そして、新島くん」
葉山くんはそう言って、後ろを見ました。
結果、
その結果、
私も、見てしまいます。
否、見られてしまいます。
彼を。
彼のことを。
私は。
「"救世"なんて馬鹿げた文言をつける必要はない……君は僕なんかよりもよっぽど強いだろ。逃げる必要なんてどこにもないだろう」
「だから」
フフ、っと笑い声。
「とっとと、この世界を倒してやれ」
私は。
◆
俺は。
「……葉山樹木さん、なかなか挑発的ですね」
「……宗太さん?」
「ソウタくん?」
俺は。
ふいに闘技場へと足を踏み入れた。
「あ!」
驚く真白さん、あゆの声を尻目に、闘技場内へと、一歩、また一歩と進む。
そして近づく。
「美月」
美月。
美月瑞樹。
俺の幼馴染。
それ以上は、いらない。
要らない。説明は。
「フフ……、本当にそうかい?」
葉山樹木。
こいつは、どこまでお節介なんだ。
俺は前を向く。
美月瑞樹の変わらぬ顔を見る。
そして、
「美月」
「!」
美月はおっかなびっくり声を絞るように、
「……そー、ちゃん」
「!」
……ああ。
そうだ。
そうだった。
俺もおかしくなってたのかもしれない。
美月。
美月瑞樹。
俺の幼馴染。
そして、
「好きだ。美月」
俺と美月瑞樹。
そして多くのヒーローの戦いの込められた決勝戦が、
最後の戦いが幕を上げる。
準決勝②:葉山樹木 VS 美月瑞樹
勝者――――美月瑞樹。
決勝戦、進出決定。
次回「第123話:彼と彼女の決勝戦」。
よろしくお願いいたします。