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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
144/169

第120話:準決勝② 2

「世界は征服されたがってる――!!」

『世界征服~謀略のズヴィズダ―~』キャッチコピーより抜粋

 こんにちは、美月瑞樹です。

 本日は英雄戦士の最終選考会。

 無事初戦を突破した私の前に、意外な人物が現れたのでした。


「……終焉崎さん」

「――――3年ぶりの再会だ、英雄戦士」



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 終焉崎円さん。

 私や君島さんと同じ自律変身ヒーローのお一人。

 当時は『終末の魔王』の生まれ変わりと恐れられ、《世紀末覇者ミレニアム・キング》だなんて呼ばれていました。


「外国に行ってるって話を聞いていましたが……?」

「所用でな。ふらりと日本に戻っている」

「そんなちょっとコンビニに行く感覚で……」


 終焉崎さんの能力は空間移動。

 現実世界に干渉し、自分を好きな位相に飛ばせます。

 ギャグみたいな超能力ですが、本当のことです。


「でも、そんな広範囲――ましてや海を超えたワープなんてできたんですか?」

「一度でも訪れたことのある場所なら、“宇宙だろう”と跳躍可能だ。

 コツはマップモードで街を選択する感覚で、世界地図を開くことだな」

「なんで『空を飛ぶ』感覚なんですか……」

「ふっ」


 終焉崎さんは一笑した。


「私はゲーム脳なんだ」

「いや、そんな誇らしげに言われても」


 私が呆れてると、終焉崎さんの瞳がハンティングナイフの様に光り、ギラリと空間をえぐり取る様に、本題を、一瞬で、切り出して来ました。


「美月瑞樹」

「は、はいっ」


「――――――私と、決闘をしろ」


「……あー」


 鋭い視線。

 鋭い台詞。

 まあ、そのために来たのでしょうね。

 私は3年前のことを思い出します。


=========================================


『美月瑞樹、君はヒーローを辞めるのか』

『はい』

『一人の人間のため、たった一人の少年のため、世界と戦うことを辞めるのか』

『はい』

『そうか。ならば――――』

 鋭い、視線。

 鋭い、台詞。

『――――――私と、決闘をしろ』


=========================================


「……」

 あの時は引き分けに終わりました。

 しかし、今。

 君島さんに勝利し、世界そのものとなった私と、終焉崎さんが戦うという事実。

 それは。

 それは。


「あー」


 ……私は、頭をかいて、こう答えました。


「いーですよ」


 こうして私と終焉崎円さんの決闘は始まりました。



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------


 そして、――――。


「そして、勝利とは確定された結果に過ぎない」

「ふん、そんなこと言ってお前、結構ギリギリだったじゃねぇか」

「そ、それは言わない約束ですよ……」


 私は両目をわずかに細めて抗議をアピールした。

 彼女は気にしない様子で食事を続けている。


「しかし、休憩時間にヒーロー勝負とはなー、まったくムカつくぜー。しかもあの、終焉崎円とだ。

 『私との対決』じゃあ、準備運動にもならなかったってか?」

「そ、そんなことは……ないですけど」

「あ゛? 私との試合は準備運動だったっていうのか?」

「ど、どう答えればいいんですか……」


 め、めんどくさい。

 私はさらに目を細くして不満さをアピールする。


「……どうした? 眠いのか」

「言葉なきコミュニケーションをはかろうとした私が馬鹿でした……」

「もしかして疲れたのか? お前、強いからって無茶なことするよなぁ。あの人も時間を選んで戦えばいいのに」

「……優しいのか優しくないのかよくわからない人ですね……」


 はぁ、と溜息をつく。

 彼女はう~~んと腕を組んで唸っている。


「それにしても、どうして、あなたは食堂ここにいるんですか? ――――山車雄牛さん」

「ん?」


 山車さんは、口元にご飯粒をつけた状態で、首を傾けてました。



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 肉。


 それはあらゆる生命にとって源となる重要な食物。


「古来より人はそれを食することで多くの栄養を獲得してきた」


「……あれ、何でいきなり肉の話始まってるんですか?」


 私は抗議の目を向けながら雄牛さんに尋ねた。


「それは私が肉丼を食べてるからだ」

「牛丼ですよね、それ」

「違う肉丼だ」


 ……やぼったい言い方。

 雄牛さん曰く、食堂で牛丼の牛肉の部分だけ入ったお皿、豚丼の豚肉だけ入ったお皿、それに鶏肉のお皿を購入して、ご飯に載せる。

 後は、それに特性の和風ベースのつゆをしっかりかけて、スプーンで食べることで、肉丼は完成するらしい。

 ちなみに、この食堂の裏メニューらしく、注文すると食堂のおばちゃんから『お肉キーホルダー』(牛丼を食べる牛というレベルの高いアイテム)が貰えるらしい。

 そして、今の山車はそのキーホルダーを自慢気に見せながら、ガツガツと肉丼を頂いていた。


「知るかっての……」

「なんか、言ったか?」

「なんでもないです」


 よかった難聴で。

 もしかしたら聞こえていない振りかもだけど。


「それで、私がどうして食堂ここにいるか、だっけっか?」

「あ、はいっ。と、いいますか……どうして山車さんは……私と」

「一緒にいるか、ってことか?」

「はい……」


 試合終了後。

 私と終焉崎さんが戦うことになった。

 その様子を、物陰から観察していたのが、この山車雄牛さんだったのだ。


 そして、私を連れて、そのまま食堂へ、

 準決勝の最中のため人の姿はまばらだったが、ちょうどお昼ということもあり、食べることに至ったのだ。


「連行……強制誘拐……」

「人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ」


 雄牛さんは不満げに言う。


「美月瑞樹。おめーと食事をしたかった理由は大きく分けて、3つある」

「あ、はいっ」

「1つは、私は戦って負けた奴とは、一回は飯を食うことにしてるんだ。

 これは趣味みたいなもんだ。食事ってのは往々にしてそいつの個性が出るからな。

 どうして私が負けたのか、そいつの個性を見て、理解したいという理由がある」

「はぁ」


「そして2つ目、私は――――お前の応援をしたい」

「はい?」


 思わず、聞き返してしまいました。

 応援?

 いや、まあ、いいですけど、それを……。


「別に、それはわざわざ言うべきことでしょうか?」

「私はお前に勝って欲しいんだ」

「……」


 人の話聞かないですね、この人。


「……一応、理由を聞きたいんですが、何ですか?」

「倒したい、男がいるんだ」

「……ほお」


 私はちょっと興味を惹かれました。

 なんだかドラマチックな香りがします。


「私には愛した女性がいた」

「あれ? 山車さん女性ですよね」

「この場合の性別については気にしないで頂きたい」

「あ、はい、……ごめんなさい」


 私は思わず頭を下げました。


「私には愛した女性がいた。名は川岸あゆと言う」

「知ってます」

「知ってるか。ならば先に進めやすい」

「むしろ、この先を聞きたくなってきたのですが……」


 だんだん、雲行きが怪しくなってきましたよ。


「出会いは1週間前の英雄戦士選考会の第二選考。

 私は一目で恋に落ちた。

 稲妻が落ちるとはこのことかと思った」

「はあ」

「私は告白をしようと考えた。

 回りくどく思いを先延ばしするのは苦手だ。

 外堀を埋めて戦略的にやるのも苦手だ。

 だから、直球勝負で、彼女に思いの丈を伝えようと思った」

「格好いいですね」


 相手が女性でなければ。


「しかし、事件は英雄戦士選考会――最終選考、第一回戦/Cブロックで起きた」

「……あー」


 あの試合は私も観客席から見ていました。

 葉山樹木くんの告白。

 おそらく一世一代の決意。

 一度は断った川岸さんでしたが、葉山くんの想いの力、そして強さ、圧倒的なヒーロー性、それらを総合した『恋の願い』が、川岸さんの心を揺れ動かしました。

 それはまるで、絶望に赴くはずだった物語を、希望へと強制的に修正してしまうような、強力で強烈な想いでした。


 今の葉山くんに、一回戦のようなヒーローとしての力があるのか分かりませんが、

 しかし、一度は運命をねじ曲げた存在。

 君島さんの力を、一部であれ受け継いでいる部分から見ても、世界と戦える実力を秘めているのは間違いなさそうです。


「だから、私はあの男を倒したい。

 本来ならば、私が直接戦うことで、あゆに私の強さを見せつけたいのだが」

「負けてしまったから、私に倒して欲しいと」

「……負けは負け。仕方のないことだ。

 葉山には後日、堂々と直接対決を挑むさ。

 だが、その前に美月――――お前には、あの男を倒してもらいたい。

 論理ではなく、感情の問題として」

「……すげー、私怨ですね」

「恋は盲目だからな」

「本当に見えてない人はそんなことを言いませんよ」


 自覚的だからもっと厄介というか、なんというか。


「まあ、いいですよ。

 どのみち、負けることなんてないでしょうから」

「さすがの自信だな」

「自信というよりも、確信ですね。

 負けない、というよりも、負けることができない、って感じです」

「はぁ?」

「Don'tじゃなくてCan'tなのです」


 私はデザートを頂きながら、そう答えました。


「敗北ができない――――それが、世界そのものの力です」

「世界……ねぇ。よく分かんねぇんだよな、その辺り。

 確かにお前は普通とは違うとは思うんだが……」

「それです」


 私は山車さんに言いました。


「他者とは違う。

 象徴的である。

 もともと、人間っていうのは、他人によって規定される生き物です。

 いえ、人間に限定する必要なんてないですね。世の中のもの、すべては認識されることによって、存在が許されています」

「……はぁ。何だ、私はそういう哲学っぽいのは苦手なんだよ」


「山車さん。変身時に、腕を巨大化するとき、どんな風に考えてますか」

「どんな風って……大きくなれ、って思えば大きくなるよ。

 そんなん手を動かして飯を食うのと同じ感じだよ」

「大きくなる、と思ったら、――――“大きく”なる。

 これが、認識がヒーローエネルギーを媒介として、現実に波及し、起こりうる結果です。

 思考が、認識が、本当になる。

 イメージが、現実になる。

 それが、ヒーローエネルギーがある、この世界の仕組みです」

「ふーん。それじゃ、何だ、お前は『自分が世界だ』って思ったから、

 世界そのものになっちまったのか?」

「ちょっと違いますね。

 私の場合、周りから『彼女は世界だ』と思われたから、

 世界そのものになったのです」


 人間は、他人によって規定される。

 否、すべてのものは、認識されることによって、存在が許される。


「この現実は思ったよりも、『不安定』なんですよ山車さん。

 特に私のようなヒーローエネルギーを出しっぱなしの人間にとっては」

「ふーん。……そのケーキうまそうだな」


 山車さんは興味なさそうにそう言いました。

 ……確かに、ちょっと饒舌が過ぎたような気がします。

 私は反省して、ちょっとだけ目を伏せました。


「けどな、美月。

 私には難しいことはよくわかんねーけど、お前が世界だからって、負けちゃいけない道理はねーと思うぜ。

 世界だからって、いろいろ我慢して、押し殺す必要はないと思うぜ」

「…………はい?」


 私が前を向くと、山車さんがう~~んと唸りながら、

 言葉を分解しながら、訥々と、喋り始めました。


「世界だからって、

 頂点だからって、

 神様だからって、

 人並みに生きても、罰は当たらねーんじゃねぇか?

 別に、世界であることを捨てろとはいってねーけどさ、でもさ、そんな自分を抑制して、止めて、孤高の戦いを選びとる必要はねー気がするんだ」


 この人は。

 この人は。


(あれ、私。普通に中休みのつもりで話してたはずなのに……)



「世の中の超人とか偉人は、そういう風に生きるしかなかったからこそ、

 我慢して押し殺して耐えて、生きてきたはずじゃん。

 ならさー、今、そういうのとは違う生き方もできそうなお前は、

 無理に、我慢する必要なんてねーんだよ。

 恵まれてんだ。

 そういう、環境があるんだ。

 孤高を選ぶ必要なんて、私にはないと思う」


 私は。

 私は。


「3つ目の理由」

「は、はいっ!?」

「まだだったな」


 山車雄牛さん。

 1年Aクラス所属。

 それ以上は知らない。

 知らないはずの少女なのに。

 さっきまで、クレイジーなお願いをされたばかりだと言うのに。

 私とは全然タイプの違う女子なのに。



「私は――――お前と、友達になりたい」



 食堂は閑散としている。

 おそらく準決勝の試合を皆見に行ってるのだろう。

 声はせず、音はせず、外の葉っぱが揺れる囁きだけが、耳に入る。


「…………」


 言葉には魔力があり、

 コミュニケーションはやはり言葉ありきであり、

 私は、

 私の選択は――――。



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



「よう、美月。今から試合か」


 準決勝に向かう直前、私は猫谷さんに出会いました。


「りょ……狗山さんはまだ」

「ああ、救護室で安静中だ。本人は至って元気だがな。桃のやつが出してくれねーみたいだ」

「ですか」


 私が行った時には元気そうだったので安心したのですが、やはりまだ出ることは無理ですか。


「決勝には間に合うんじゃねーかな……安心しな、涼子がいなくても、私はちゃんと応援してやるよ」

「あ、あの私は……」

「私だけじゃない、新島に負けた城ヶ崎も、他のSクラスの皆だってお前のことを応援している。

 Dクラスのやつに負けてたまるかってんだ」

「……はい」


 私は、

 私は――――恵まれている。

 自分で思っていた以上に。

 このすべてが、自分の実力で掴みとったとは思えない。

 報われすぎていると、思えるくらいだ。



『恵まれてんだ。

 そういう、環境があるんだ。

 孤高を選ぶ必要なんて、私にはないと思う』



 歓声が道の向こう側から聞こえてくる。

 私を待ち望む声。

 私たちヒーローを待つ声。


「猫谷さん」

「ん?」

「私、……頑張ってきます」


 すると、猫谷さんは噴き出しました。


「え、えっ!?」

「はははははははっは、ははっっ……お前、初めて聞いたよ。

 お前から『頑張る』って言葉聞いたの」


 そ、そうだっけ……。

 私、結構頑張って生きてるはずだったんだけど。


「馬鹿、戦いに対してだよ。

 頑張るっていうのは、そう意気込まなきゃいけない対象があってこそ、成り立つもんだろ。

 お前、初めて――――頑張って戦おうと思ったんじゃねーのか?」


 そうか。

 そうなのかな?


「だとしたら、私……初めて、ちゃんと戦うことになるのかな」

「はっ、これだから天才はやだな。

 勝った負けたの世界を知らずに、勝ちしか知らないんだから」


 そうか、敗北。

 私は敗北を知らない。

 もちろん、失敗や間違いは何度も犯したけれど、

 負けたことは一度もない。


(私は負けることがあるのだろうか?)


 そう思って口に出かけたけど。

 多分、猫谷さんは嫌がるからやめておこう。


「それじゃあ、行ってきます」

「おう、頑張ってこい」


 敗北を知りたいだなんて。

 私はどこの最凶死刑囚だよって思ったけど、でも確かに私は心のどこかで負けたがってる部分があるのかもしれない。

 世界なのに。

 いや、世界だからこそか。


「そういや、美月。お前そのキーホルダーは何だ?」

「あ、これですか」


 目ざとい。

 猫谷さんは私のかばんにかけられたキーホルダーに素早く気づきました。


「これは、『お肉キーホルダー』です」



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 ちゃんと戦ってみようと思う。

 葉山くんと。

 今までのように適当じゃない。

 ちゃんとしたやり方で。



 ◆◆◆



 ――――俺は。


「……試合、応援に行こう」


 俺は神の視点を抜けだして、三人にそう言った。


「あれ、宗太さん。いいんですかそれで」

「いいんだ。何だか、今回はこれは必要ない気がしてきた」

「マジですか。今回使わないと、もう出番ないんですが……」

「もう十分使っただろ。

 それに一回くらいちゃんと生で試合を見なくちゃな」


 真白さんと式さんは不思議そうな顔をしていたが、

 終焉崎さんは微笑んでいた。

 彼女も、何かを理解したのかもしれない。


「誰もが世界征服者たり得るのかもしれないな」

「はい?」

「新島くん。君が普通の男の子だっていうのは、それは希望なのかもしれない」

「何ですか、それ?」

「アニメの台詞だよ。深い意味はない」


 ……この人は、そう直截ちょくさい的に言わなければ、もっと格好いいのになあ。


「ただ、何度も言ってますが、それはちょっと訂正したいです」

「ふん。そんなこと――理解っている」

「でしょうね」


 The world seeks the best of hero.

 世界は英雄戦士を求めている。


 今回は美月に全てを預けよう。

 美月がボスとしての風格を出してきました。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 次回「第121話:準決勝② 3」をよろしくお願いします。

 掲載予定は1週間後を予定しています。

 社畜度が上がっているため、2週間後になる場合もあります。

 申し訳ございませんが、ゆるりとお待ちいただけたら幸いです。

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