第119話:ヒーロー達の準決勝②
戦いが終わっても選考会は続く、それは物語が終わっても人生が続くように。
「お疲れ様です。宗太さん!」
試合から戻った俺を最初に出迎えてくれたのは、
意外にも「人型式」さんであった。
「式さん!」
「はいっ!」
俺たちは「に~」と嗤い、お互いに親指を立てた。
「変身装置、助かったよ。ありがとう」
「ふふん、お礼は結構です。ボクは最善を尽くしただけです」
多分、今までの変身装置では、二度の《限定解除》には耐えられなかっただろう。
式さんもそれを解ってるのか、ない胸を反らして自慢気に答えた。
「何かボクに対して失礼なこと考えてます?」
「別に」
「本当ですかね~?」
式さんは似合わないメガネを直しながら俺を伏し目がちに見た。
「やっぱり、何かボク的に失礼なことを考えてますね。ボクのニュータイプとしての勘が言ってるんです」
「……他の皆はどうした?」
俺は式さんのジト目をガンスルーしてそう尋ねた。
「……葉山さんとあゆさんはもう控室に戻られてます。終焉崎さんは試合が終わりましたらどこかに消えまして、現在は行方不明です」
「行方不明、ね。……真白さんは?」
すると、式さんは手を口元に当てて「ふふふっ」と笑い出した。
「ふふっ、ましろん? ましろんですか? 彼女はですね~~♪」
そう言って、後方を見た。
「…………?」
俺は式さんに倣って彼女の後ろを見た。
すると、会場の柱にゴソガソと動く「何か」があった。
「……真白さん?」
「!」
俺はゆっくりと柱に近づく。
「ましろ、……さん?」
「!!」
「あっ!」
逃げ出した。
呼びかけるも手間なのでこちらから顔を見ようとした瞬間、「真白さんらしき何か」は何故か一目散に逃げ出していった。
「ましろさ……」
あ、コケた。
手を伸ばそうとしてその影が、顔からおもいっきり地面に打ち付けていた。
ピクピクと震えながらも立ち上がる様子はなく、絶望的なくらい運動神経ゼロで可哀想な姿を目にしてから、俺は倒れたままの真白さんに近づいた。
「真白さん?」
「来ないでください」
彼女はジャミラになっていた。
……いや、別に彼女が他の星に飛ばされた宇宙飛行士で、その星の環境に適応するために独自の進化を遂げて、地球に帰還した暁には、国際批判を恐れて救助隊を出さなかった母国を恨んで攻撃をする怪獣になってしまった、とか。
そんなことは全然なく。
単純に身につけた白衣で頭をすっぽり隠していたのだ。
「どうした、真白さん。アサシンクリードにでもなりたいのか」
「……宗太さん。決勝戦進出おめでとうございます」
「そんな格好で言われてもなー」
「宗太さん。ましろんの白衣を思いっきり取っちゃってください。ボクが許します」
「式、勝手に許可を出さないでください」
「よし、きた」
「勝手に了解しないでください!」
俺は真白さんの台詞を無視して力いっぱい(真白さんの力が弱いせいか、簡単に引っ張れた)彼女の白衣を奪い取った。
「!!!」
「ふん、どうせ嬉し泣きとか、そんな感じだ、ろ……」
俺は言葉を失った。
真白さんは、――――顔を真っ赤に染めていた。
それはまるで熟した林檎のように。
赤く。
赤く。
赤く。
「……めちゃくちゃ笑顔じゃねえか」
そして、笑っていた。
ぐしゃぐしゃに、まあ予想通り涙を目元に含ませながら、それでも口元はにんまりと頬が下がることを許しはせず、可愛らしく整った人形みたいな顔を、幼い子どものように感情を全面に出した表情に変え、そして、途方も無いくらいに――――笑顔で。
真白さんは風邪で高熱が出たみたいに「ぽけ~」っと俺をぼやけた目で見たあと、すぐに「はっ!」と気づいたようにすぐさま白衣を俺の手から奪い取り頭にかぶった。
「…………」
「……なにするんですか」
「……いや、なんか、……ごめん」
「謝らないでください」
どうしろってんだ。
困った俺は式さんの方を見ると、彼女は頬を染めながらニヤニヤとこちらを(一歩引きながら)見ていた。
……助けるつもりは微塵もないようだった。
「あー、真白さん?」
「……ごめんなさい。宗太さん」
「ああ、うん?」
やたらぎこちない空気に俺はそう返すしかなかった。
「なんだか今、ちょっと感情が、こう、どんどんあふれてきててですね……はは、ちょっと油断すると、顔が、ちょっと……あの、ゆるんでしまってですね」
「………」
「で、できたらその、いまは、みないで、いただきたいな~、っと、思って、思っていまして、その、あの、……ちょっと、恥ずかしいので……」
「真白さん」
はい、と真白さんは小さく答えた。
俺は彼女の顔を見ることなく、言った。
よかったな
「…………!」
真堂真白。
1年Cクラス所属。
変身名《魔導医者》。
能力は触れた人間の能力を改造できる力。
2年Bクラス担任の初代変身ヒーロー:月見酒代の一人娘。
生きる目標は「全人類を最強のヒーロー」にすること。
嫌いなものは、ルール・秩序・物語の定形。
好きなものは、新時代・頂点・ケレン味あふれる物語。
呼吸をするように嘘をつき、己の目的のためには敵味方を問わずに実験対象と見做す利己的な研究者。
素顔を他人に知られないように、感情を隠し、演技のような振る舞いをし、一見親しげな表情と丁寧じみた敬語が、彼女の心の内側への侵入を他者から阻む。
その真堂真白。
その魔道医者。
彼女が。
「……はい」
今だけは素直に。
今だけは心から。
彼女は感情の堰を外していた。
「よかった、です……」
彼女の物語は誰にも理解できないものかもしれない。
当然俺にだって。
真堂真白の戦っているものは、あまりにも目にすることが難しいもので、まるでお化けのようにふわふわと実在把握が困難な現象であった。
でも、真堂真白。
彼女の戦いが、不毛に終わることなく、結果を残した。
間違っていなかった。
間違っていなかった。
信じたことが、報われた。
それはとても、喜ばしいことであった。
「ああ、おめでとう」
そして、ありがとう。
1年Cクラス真堂真白。
彼女はその実験の道を間違いなく歩みだした。
◆◆◆
「そういや真白さん何で立たないの?」
「い、いえ……その、先ほど転倒した際に足を痛めてしまって……」
「弱っ!?」
「宗太さんと違って頑丈にはできてないんですよ……」
しゃあない。
俺は真白さんの身体を持ち上げた。
「うわわっっ!?」
「おおー、宗太さん。ましろんを両手で持ちあげるとか力持ちですね~」
「真白さんが軽いんだよ……――よっ、と。ほら、控室まで運ぶから動くな」
「は、はいっ……」
「辛くなったら、早く言えよ」
「……ありがとう……ございます」
感情を表に出したくないせいか、真白さんは小声でそう答えた。
「ふふふ、ましろん。それって、あれですよ。お姫様だっこってやつですよ? ふふふっ」
「うるさい。黙れよ、人型式」
「ボクには厳しいっ!?」
……どうやら、俺限定の感情表現のようだった。
「そういや次の試合は午後からなんだっけ?」
「はい。そうですね。今が……11時50分なので、次は13時30分からですね」
「お昼休憩か」
「です」
「ボクからすれば、今までの試合で2時間かかってないってのが信じがたいんですが……」
しかし、事実だった。
むしろ、試合運びが早すぎて、午後に行う予定だった準決勝を午前中にやるほどである。
「俺と狗山さんの試合時間なんて、正味10分かかってないだろ? プロの怪獣退治だって3~5分くらいでやっちゃうんだから、むしろ長期戦だっていえるくらいだ」
「すげーですね、ヒーローって……」
式さんが今更すぎる発言を呈していた。
「それより、ついに決勝戦だ。ラスト1戦だ」
「ちなみに英雄戦士チームへの入隊はこれで確定ですね」
「ああ……」
英雄戦士チーム。
トーナメントを勝ち抜いた上位3人を候補者とする。
この時点で、俺はその3人への入隊が確定したことになる。
「3位決定戦は、決勝の後だっけか?」
「みたいですね。狗山さんのお相手をするのはどちらになるのか」
「これで準決勝で美月が負けて、狗山さんと戦うことになったら俺泣くぞ」
「いや、まあ、それはなさそうですが……」
「…………」
まあ、そう思ってしまうのは仕方ない。
次の準決勝。
1年Dクラス:葉山樹木 VS 1年Sクラス:美月瑞樹。
葉山もちろん実力は十分にある戦士だが、美月を倒せる実力があるとは思えない。
気持ちとか感情とか云々の前に、
客観的に見た事実として、そう思う。
「葉山か。あいつどうしてるのかなー、リア充になって腑抜けてないかなー」
そう思い、俺は昼飯に葉山とあゆを誘うことにした。
◆◆◆
「オララララララッッ!! 変身名《全壊戦士》ッッッ! 種類『弾道弾』!!」
「種類『弾丸演舞』ッ!!」
「種類『破壊球』ッッッ!」
ゴゴゴ ゴゴゴゴ ゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴゴ ――……!
激震が肌を震わせるのと轟音が耳を聾するのと、どちらが先であったのか。
俺がその部屋に入る直後には、その「激闘」は既に予見すべき事態として承諾できていた。
「…………」
「…………」
「…………」
室内では少女の形を模したブリキロボが、一昔前の蒸気機関を想起させる仰々しい右腕を構え、その内から多様な爆撃を仕掛けていた。
少女の狙いの先には煙とも霧とも呼べぬ異様な「靄」が蠢いている。
靄は超常現象としか思えない不可解さでその場に留まり、時折「フフフ……」と笑声を響かせるのだった。
「…………」
「…………」
「…………」
「ウオオオオオオオオオオオオッッッ!! 超・変・身ッッッ!!」
少女の身体が変形を開始する。
巨大な右腕がさらなる膨張を遂げる。
頭部が回転し外部から内部へと収束する。
左腕は左右へと分離し、プロペラ状の回転を始める。
そうして少女は進化を果たす。
地を這う自動兵器から、大空を舞う自立兵器へと。
彼女はそうして人間を超える――! 超越する――!!
「これが、これこそがっ! 私の変身名《全壊戦士》の真骨頂だ――っ!!」
「…………」
「…………」
「…………」
少女は咆哮する。
「変身名《全壊戦士》ッッ!! 種類『大崩落』ッッッ!!」
途端、少女の外壁が素早く廻転し、砲身がいくつも顔を出す。
同時、光が一帯を包み込んだ。
明滅する白熱から俺は先刻の震動と轟音の正体は「これ」であったことを理解する。
と、思う一方で。
「全砲門、ファイァァァーッッッ!」
「…………」
「…………」
「…………おい。あゆ、葉山」
「ウオオオオオオオオオ……オオ?」
「フフフフフフ……フフ?」
俺は埒があかないので話しかけた。
「さっきから何やってるんだよ?
「葉山さん、あゆさんーっ、お昼の時間ですよー」
「うわぁ……練習場がすごいことになってますね……」
二人はドン引きするくらいガチで戦っていた。
◆◆◆
「すると、何だってか? 葉山のヒーローエネルギーを今から強化しようっていうのか」
「フフフ……その通りだ……なあ、あゆ?」
「そうなんだよ!」
と、言った途端あゆは椅子から立ち上がり、両手を高らかにあげた。
「私・川岸あゆこと《全壊戦士》は葉山くんを優勝させるため」
「爆撃・砲撃・銃撃狙撃射撃するんだよ!」
「私の放つ爆発エネルギーは、葉山くんの、葉山くんの、煙のパワーになるんだよ!」
「だから私は葉山くんをじゃんじゃん攻撃して」
「いっぱいいっぱい迫撃して」
「葉山くんを消し炭に変えるくらい激しく・みっちり・烈火のごとく、猛撃しなきゃいけないんだよ!」
じゃーん!と天からの光を浴びたかのようにポーズを決め終えたあゆに、俺たちは「おー」と拍手を送る。
あゆはいそいそと自分の椅子に戻った。
「あー、要するに、あゆさんのヒーローエネルギーを葉山さんに移譲している訳ですね」
「そうなんだよ!」
英雄戦士チーム選考会・一回戦Cブロック。
葉山VSあゆ戦において、葉山はあゆの爆発攻撃を吸収し、その能力を強化していった。
最終的にその力は会場全域を煙で覆い尽くすレベルにまで成長し、川岸あゆを圧倒的な力で倒したのであった。
「確かに葉山さんは《戦闘美少女》の影響でヒーローエネルギーのキャパシティが常人とは段違いですからね。
あゆさんの強力な火力で強化させるというのは、この短期間で行うレベルアップ方法としては、最も優れていると思います」
「フフフ……試合直後から考えていたことだ……僕は負けたあゆの分も勝たなくちゃいけない……ならば、これは僕個人の戦いじゃない。僕とあゆ二人の戦いだってね……」
「葉山くん……」
惚気てる二人は無視して、俺は食事に集中することにした。
会場はあくまでも学校内の公共施設ということもあって、俺たちは学食に来ていた。
目の前に葉山とあゆ。
俺の両隣に式さんと真白さんがいる構図になる。
「そういえば戦った後、涼子ちゃんに会った?」
「ん、まだだな」
「涼子ちゃん、救護室に一旦運ばれたんんだけど、すぐ元気になって復活したって!」
「ふーー……ん、」
俺は気があるんだが、ないんだか、中途半端な返事をした。
狗山さんが俺との対戦後、救護室に連れて行かれたことまでは聞いていた。
俺はその時、様子を見に行くべきか迷ったが、結局葉山とあゆに会うことを優先させた。
(何だろう……会うのが恥ずかしいのかな)
あまりにも激しい死闘を繰り広げたせいか、その後どう狗山さんと顔を合わせたらいいのか分からなくなっているのかもしれない。
「私たちの試合のあとでいいから会いに行ってあげなよ! 喜ぶよ、涼子ちゃん!」
「ああ……ああ! そうだな!」
思えば、俺は救済とか何だとか「狗山さん」に偉そうなことを言ったのだった。
ならば、ちゃんと彼女に会いにいくのが、筋ってものじゃないのか。
狗山さんだけじゃない。
城ヶ崎さんにだって、俺はあの後会っていない。
戦った人間とその後のことを考える。
戦いのその先を考える。
俺はそのことを忘れていたのかもしれない。
「――――――また一つ『主人公力』を上げたな。新島宗太」
「うわっ!?」
あゆの隣にいきなり「終焉崎円」さんが現れた。
「……ん、どうしたのソウタ君……って、終焉崎さんっ!?」
「君は優秀だな川岸あゆ。無意識に新島宗太を主人公へと導いてくれる」
「え、ええ!? ……ラーメン食べます?」
あゆはビックリしすぎたのか自分のどんぶりを終焉崎さんに差し出した。
「定価:250円の醤油ラーメン……学食らしい驚異の価格……」
「たまに輪ゴムを食べてる気持ちになるけど、美味しいよ!」
美味しいのかよ。
終焉崎さんは一口だけ麺をすすり、「……ケミカル麺」とつぶやいてどんぶりをあゆに返した。
「それで、いきなり現れて何の用ですか?」
「別に用はない。私も食事をとりに来ただけだ。むしろ、用を足しにここに来たよりも、今までが用事を済ませに、席を外していたと表現するのが正しい」
「……はあ、それで何のようだったんですか? ……またゲームですか……」
「それもある。私は来る日までに修練し、婚約を果たす必要が生まれたからな」
「えええっ!? 終焉崎さん、結婚するんですか?」
「ゲームの中でな」
ここまで堂々と現実と妄想をごっちゃに語る人も珍しい。
「だが、目的はもう一つあった」
「何ですか? またイベントですか?」
「美月瑞樹と戦ってきた」
「はぁ、……はあっ!?」
俺は驚きのあまり立ち上がってしまった。
式さんも真白さんも驚きのあまり言葉を失ってる。あゆと葉山も同じくだ。
「え、ええ、ええ、え、い、今、終焉崎さん何て言ったんですか?」
しかし、終焉崎さんは眉一つ動かさず、平然と答えた。
「――――美月瑞樹と戦ってきた。先ほどの準決勝の時間にな」
「そ、それで……」
俺が声を出そうとした瞬間、終焉崎さんは片手で俺の発言を制止して、
「食事を買ってくる。ちょっと待って欲しい」
と、そのまま券売機のところに並びに行った。
いつのも俺であれば、ワープできるのに何で歩いて券売機のところまで行く必要があるんだろう、とツッコミを入れるところなのだが、そんな余裕は俺の心にはなかった。
ゆっくりと、席に腰を下ろし、終焉崎さんが食事を持ってくるのを待つ。
「待たせたな」
「そ、それで終焉崎さん、試合結果は……!?」
「見ろ。川岸あゆ、鯖の味噌煮定食だ」
「うわー、美味しそうですね」
「サラダとお味噌汁、それにひじきの煮物も合わせて430円という暴落価格。これぞ学食の真髄と呼べる食事だ」
「そ、それで終焉崎さん……」
「一人暮らしが長引くと魚をとる機会が少なくなる。こうして家では食べないものを食べる。それが外で食事を取ることの醍醐味でもあるな」
「私にもちょっと食べさせてください」
「ああ、構わないぞ。そういうと思って小皿を余分に拝借してきた」
「やったぁ、ありがとうございます」
「――――いや、だから学食はもういいですから、試合結果はどうだったんですかっ!?
」
ギンッ!
すると、終焉崎さんはギロリとこちらに視線と箸を向けてきた。
こ、こえええ……。
まるでその手に持つ箸でこちらの目を貫いてきそうな殺気だった。
その様子をあゆが心配そうに見つめる。
「終焉崎さん……」
「…………」
「刺し箸は行儀悪いよ」
「…………すまない」
素直に謝った。
正論には素直な人だ。
「……俺もすいません、終焉崎さん。なんだかやたら熱くなってしまって」
「負けたよ」
「え?」
聞き返すと、終焉崎さんは気のない風に言った。
「美月瑞樹との対決は――――私の敗北だった。新島宗太。
これで事実上、彼女を超えられるヒーローは君たち二人以外にいなくなったわけだ」
そう言って、終焉崎さんは俺と葉山の顔を見た。
「終焉崎さんが負けたってことは……少なくとも自律変身ヒーロー最強は……」
「美月瑞樹だろうな。――新島宗太!」
「はいっ」
「『君島優子が美月瑞樹にやられたこと』はもう知ってるだろ?」
「は、はい……それは前に真白さんに聞きました。入学したばかりの頃に対決して美月が勝ったって」
「ほとんど引き分けに近い決着だったがな。しかし、それでも美月瑞樹は勝った。これで美月瑞樹を止められるものは『自律変身ヒーロー』の中にはいなくなった」
まるでその事実を確かめにいったかのような口ぶりで、終焉崎さんは語った。
「美月瑞樹は強い。どうして彼女のような人間が4年間もヒーローとしての活躍を封印していたのか不思議でならない。その実力は吸収能力やヒーローエネルギーの単純操作に関わらず、もっと純粋な「強さ」を持っている」
「…………」
「…………」
「葉山樹木」
「……フフ、はい」
「美月瑞樹の強さに飲み込まれるな。自分の意志を持ち、物語の流れに抗わないと、すぐさま負けてしまうぞ」
「フフフ……安心してください。僕は負けませんよ……」
「頼んだぞ」
「……新島宗太」
「はい!」
「今の君は待つことしかできない。決勝で、待て。それだけだ」
「はいっ!」
終焉崎さんはまるで死ぬ前の人みたいな言い方で、そんな激励?を俺たちに飛ばしてくるのだった。
「それでは私は食事に戻る」
(あ、普通に食べるんだ)
この後俺たちはデザートまで注文して、試合会場に戻った。
◆◆◆
そして、視点は美月瑞樹に移り変わる。
ましろんがデレました。
次回「第120話:ヒーロー達の準決勝② 2」
掲載は一週間程を予定しています。
それでは、次回もよろしくお願いします。