表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
141/169

第117話:ヒーロー達の準決勝① 3

 変身名《限定解除救世主リミット・オブ・セイバー》が何なのかと問われれば、それは『プレイヤーの能力』と答える他なかった。

 プレイヤーの能力。

 それは、美月がシステムに干渉し、君島さんが超常の力を手にし、終焉崎さんがどこにでも居て/どこにも居ない観念に、なったたのと同じ。

 “世界の外側”に近づくための『神の力』だ。


 俺たちの――自分の考えに他者を巻き込む表現は好きではないが、まあ、今日は特別だ――認識する範囲には『外側』がある。

 外側。

 “それ”は厳然たる感覚としてある。


 別に、この世とは別の異世界があって俺はその世界の住人なんだとか、量子力学的多世界解釈に基づいた並行世界の無数の俺がいるんだとか、俺は漫画やアニメや特撮のキャラクターでこの世はフィクションの世界に過ぎないんだとか、

 そういうのを言いたいんじゃない。


 目を開けて、視ることができる範囲。

 手で触れて、音を聴いて、舐めて味わい、匂いを嗅いで、感じ取れる範囲。

 この認識範囲の限界こそが、俺たちの世界の限界であり、この限界を超えた地点が、――――俺たちの『世界の外側』だ。


 例え話をしよう。

 俺たちの後ろには、世界は存在していない。

 これは真(True)か、あるいは偽(False)か。

 偽だというならば、それをどう証明できるか。

 後ろを振り向けばいい?

 しかし、振り向いたその世界が、振り向く一秒前に生成された世界だと、どうしたら証明できる? 俺が振り向き終わり、前を向いた瞬間に崩壊する世界だと誰が否定できる?


 否定することは誰にもできない。

 電話越しの相手が黙ってしまえば彼/彼女がいることは証明できないし、触ることも視ることも味わうことも嗅ぐこともできない存在は、その存在を証明することができない。

 本物だと。

 偽物じゃないと。

 断言することができない。

 一寸先が暗闇じゃないと誰が否定できる?

 来ると思っていた明日がかならず来ると誰が肯定できる?

 それが、俺たちの世界、俺たちの、現実世界の姿だ。


 にもかかわらず、俺たちは自分の後ろ側があると信じられる。

 厳然たる感覚として、背中の向こう側が、“ある”と確信できる。


 これは何故だ?

 どうしてあると思える?

 想像から? これまでの経験から? 今後もずっとあると? 何となく? 何となく、そう感じているのか?

 しかし、この『何となく』こそが、俺たちの世界に、外側がある何よりの証拠となる。



 そして、美月瑞樹、

 彼女はこの『世界の外側』にまで到達してしまった。


 それは、まるで死の淵に立つようなギリギリの行為だ。

 人類、いや、ヒーローという種の臨界に立つ行いだ。

 古今東西の創作物が、世界の外側に迫る人間を描いてきた。

 俺はこの一週間、身体の休息中に真堂真白さんから、この手の作品を死ぬほど読むようノルマを課せられた。


 例えば、日本神話。

 国造りをしたイザナギノミコトとイザナミノミコトは、日本列島を力を合わせて生み出すが、その結果、イザナミは陰部を炎で燃して死んでしまう。

 イザナギは、イザナミを生き還らせるべく、現世とは異なる冥界まで降り立つ。

 しかし、イザナギはイザナミを救えず逃げ帰って異界への扉を閉じてしまう。


 例えば、ムラカミハルキとかいう日本作家。

 何を挙げてもいいが、例えば『スプートニクの恋人』。ムラカミの作家的転向が見て取れる本作では、主人公の想い人である「すみれ」は、彼女の愛する女性である「ミュウ」の半身を求めて“向こう側”へと旅立ってしまう。

 この“向こう側”という概念は、ムラカミの中で繰り返して用いられるモチーフの一つであるが、それは俺が考える世界の外側と同義だ。


 例えば、セカイ系とかいう《情報崩竜バズワード》も甚だしい諸作品。

 日常に根ざした無力な少年と、世界規模の戦争の渦中にいる戦う少女の邂逅は、何よりもその社会の描かれなさこそ着目するべき点であるのだが、今回注目すべきは少女たちの行き着く先。セカイ系の想像力が敗れた結果、少女たちは最終戦争や異星人との決着という少年たちの認識しきれない『外側』へと旅立っていく。


 例えばいくらでも出せる。

 円環の理でも不可視境界線でも終ノ空でも世界の終りでも何でもいい。

 美月は、そこへ至ってしまった。


(ならば俺にできることはただ、一つ)


 追いかけること。

 彼女と同じ位相ステージに立つこと。


 無論、現実の人間をお話の例えで語るのは間違っている。

 だがしかし、俺と美月をめぐるこの不気味で素朴な関係は、もはや『物語でしか語れない』ものとなっている。


 現実では説明のつかない現象を、現実で語る。

 それが、物語の役割の一つだと、終焉崎さんは言った。

 だからこそ、人は物語を読んで、考えるんだと。


(まあ、それでだ)


 ようやく本題――――俺の能力についてだが、それは勿論『世界の外側』に立つための能力だ。


 変身名、《限定解除救世主リミット・オブ・セイバー》。

 それは、圧倒的な思考強化と神の視点の経験による『プレイヤーの能力』。


 外側から世界を俯瞰する能力。


 要するに、狗山涼子が、特撮や漫画やアニメの主人公だとしたら、

 彼女がその特異性や血統の力から、最強の力を振るうのだとしたら、

 俺はまた違ったアプローチの仕方で世界の外側へ近づくことになる。

 そう、彼女が特撮や漫画やアニメの主人公だとしたら、俺は――――。


 ゲームの主人公プレイヤーなんだ。



 ◆◆◆



 “新島宗太”は前方を見る。

 巨剣を構え、張りつめた空気を発している狗山涼子の姿を見据える。


(さあて、どう倒そうか……)


 程よい緊張感が集中を促進させる。


(制限時間は長くない、決めるなら速攻だ)


 しかし、狗山さんもそれは知っているはずだ。

 一回戦で彼女は新島の能力は見ている。

 ならば、この能力の恐ろしさと同時に、その発動時間の短さも了承しているはずだ。


(この場合俺がすべきことは――――)


 世界は緩やかに流れている。

 しかしそれは新島限った話だ。

 多くの人間は、まだ新島が超変身を行った事実を認識し終えていない。

 例外は目の前の狗山だけだ。

 彼女は天性の反応速度と直観力で、目の前の新島に強靭な力が宿っていることを、またそれが一回戦で城が崎を破った力だと、理解している。


(半径……2メートル圏内に入ったら容赦なく斬られる。鉄のような信念。ますは、その心を揺るがせてやる)


 そして新島は、多くの人間が彼の姿をその網膜に刻むその前に、


「ダッッ!」


 飛び出した。


 ◆


(来た……ッ!)


 狗山涼子は思った。

 音より早い。影のような姿を収めながらそう思った。

 だがしかし。


「……ッ!?」


 新島の身体が左右に分かれた。

 否、ステップを踏んでいるのだ。

 まるで、速球が来ると構えてからの変化球。

 タイミングをズラされる感覚に引きずられないよう集中しながら、狗山は左右にブレる新島の姿をじっと捉える。


 そして、


「そうくるか……っ!」


 極度の速度強化。

 故に、右に、左に、移動する新島の肉体は――――左右に『分裂』した。

 擬似的な分身の術だ。

 二体に、三体に、複数に分かれた新島が狗山涼子に接近する。


(……回避は? 困難か。速度のみでも、バンダースナッチを超える。さあ、どうする?)


 狗山は興奮していた。

 彼の動きは既に城ヶ崎戦で見ていた。

 しかし、現実の新島の動きは、かつてよりも段違いで、加速していた。


(迎え撃てるか? この私に。真正面から一気に、斬れるか? できるのか?)


 狗山は自身に問う。


(私は誰だ?)


 狗山は答える。


(狗山涼子だ)


 ならば、問題ない。

 狗山から迷いが消えた。瞬きよりも速く迎撃体制を取る。

 左腕に力を込める。

 左脚に力を込める。

 全神経は前方に。

 後ろは振り返らず、飛び出す用意。

 流麗な一閃を決めるべく、肉体の一歩手前に『壁』があるイメージを作る。

 この壁を一気に消し去ることで俗に言われる“居合い”を成立させる。


(敵の認識。横から一閃。02秒後に左腕を解放。一気に振り抜く)


 狗山は巨剣を巧みに抜き出し、右横から鉄の塊を撃ちだした。


「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》、種類『受け継ぎし者インヘリット・ザ・ヒーロー』――――絶対に斬れる前肢ッ!」


 同時に赫く変貌する巨剣。

 鮮血の色。

 狗山の剣は音もなく目の前を寸断した。

 左右に分かれようと、関係ない。


 残るは虚空。


 新島宗太は終わった。

 彼女の横薙ぎが全てを決めた。

 そう信じた。


「かかったな」


 しかし、新島の声がした。

 不思議と得意な彼の声がした。


 ◆


「分身。何故、分身をしたと思う。狗山涼子」


 新島は問うた。

 狗山はすぐ気づいた。

 自身の巨剣。

 それが見るも無残な姿に変貌していた。


(銀色だ)


 赫ではない。

 色が失われ、力が失われ、そして狗山は新島の手にある『光の剣』を視認する。


「……ッ! 変身名――ッッ!」

「隙などないッ!」


 新島は身体を縮め、懐に一気に潜り込む。

 彼はゼロ距離から腹部に拳を沈める。

 狗山はわざと吹き飛ばされ、距離を作る。


 しかし、それも読んだ新島は踏み込み加速し接近する。


(俺には最初から分かっていた)


 狗山涼子が巨剣を振るって、新島の能力を失わせることを。

 揺れた分身術を見せれば、彼女が横一閃を決めてくることを。

 そして――――運が良ければ、『光の剣』を手のひらで隠し通せることを。


(俺には最初から分かっていた)


 狗山涼子が完璧なヒーローであり、

 他者を撃退する最適解を弾き返すヒーローであり、

 それ故に――――裏の裏という『ハメ手』に弱いということを。


 さらには次の一手も。


「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》、種類『受け継ぎし者インヘリット・ザ・ヒーロー』――――絶対に狩る牙ッ!」

「変身名《限定解除救世主リミット・オブ・セイバー》ッ! 光の剣追加発動ッッ!」


 後方へと逃れた狗山に向けて新島は輝く一閃。

 光の剣の連続攻撃。

 斜め下から燕返しのごとく一気に切り上げる。

 結果、起きるのは能力の失敗。

 無敵の時間の失敗。


(猫谷にも対策メタられてただろうが、その技はッ! こちとら読めんだよッッ!)


「くっ!」

「まだまだ行くぞ! 左腕→×10」


 新島は怯んだ狗山を強化の重ねがねで殴る。

 連続で能力を不発に終わらされた狗山はこの攻撃を守ることができず直撃する。


「ぐぅッ……!」


 軽い仰け反り。

 狗山が新島を睨む。

 しかし、彼は、彼女は。


「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》……」

「何にもさせねぇ――――よッ!」


 狗山涼子は宙を蹴って逃れようとする。新島はその瞬間を見極め脚をキャッチ。大きく回して大地に叩きつける。息を吐く。俺は蹴りつけるがこれは横移動で回避。すかさず追撃へ。


(逃げる隙は与えない、俺の攻撃を足場にさせるか。大地に落として一気に潰す)


 新島は思う。

 狗山涼子。


「おらァッ!!」


 確かにお前は強いヒーローだ。

 伝説の名を受け継ぐに相応しい最強のヒーローだ。


「避け…ッ!」

「右脚強化→×8ッッ!」

「避けないッ! 負けるかッッ!!」


 奥の手を見せてきた新島を前にして、彼女はまったく怯むことなく真正面から向かってきた。

 しかも、無闇な特攻ではなく、確実に、勝算ある動きを持って勝利を狙ってきた。


「うぉ、ぉぉおおぉ――――ッらッ!」

「うぉぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉッッ!」


 常人どころか天才にだって難しい。

 まだ見ぬ力を見せた人間に対し、確実な勝機を掴み挑むなんて。


「変身名《限定解除救世主リミット・オブ・セイバー》ッッッ!」

「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》ッッッ!」


 だがしかし、まだ足りない。

 天才では不十分。

 新島の……“俺”の目指す領域には足りない。


(そうだ。俺は)


 いいや、俺は。


 新島(俺)は。


 第二の英雄戦士となる。


 そして世界を救う。


 世界と戦うヒーローから、世界を救うヒーローへと。

 一種の原点回帰。

 しかして、原点とはまた違った場所。

 一度、世界と戦ったが故に、見つけられた領域。


「俺は2010(テン)年代の英雄戦士となる」


 無数の主人公から輝く英雄。

 それでいて、世界の敵と戦う戦士。

 さらには臨界点に辿り着く世界そのものを救済するヒーロー。


(まだ道は分からない。至ってるのか足りてないのか分からない)


 だが、まずは、彼女を倒そう。


「狗山涼子…………伝説を受け継ぐ最強のヒーローよ」


 そして、世界を愛した俺のライバルよ。

 俺が今こそ――――救世しよう。


 ◆◆◆



「……く、……ふふっ」


 狗山涼子はギリギリで笑っていた。

 肉体の損傷は酷い。

 これほどまでにダメージを受けたのはいつ以来だろうか。

 初めてか。

 初めてかもしれない。

 そう思うと何だか楽しくなってきた。


(そうか……これが絶体絶命か……)


 狗山は勝てると疑わなかった。

 自分のことを天才だとも、最強だとも、運命に愛されているとも、思ったことはなかった。

 しかし、こと戦闘に関して、彼女は負けると思ったことは一度もなかった。


(かつて、美月ちゃんに命を助けられてから)


 以来、彼女は、自身の心を本質的な意味でひびかせる存在が現れるとは思っていなかった。

 敗北を刻まれるなど、あるわけないと信じてきた。


(しかし、今……私の前に、『第二の美月ちゃん』となり得る存在がいる……)


 新島宗太。

 新島宗太くん。

 この一週間、君島優子さんも、新島くんには気をつけるよう忠告してくれた。


(美月ちゃんを倒すための特訓、無駄になるかもな……)


 新島くんならば美月ちゃんを倒すことも叶うだろう。

 彼は強いし、優秀だし、努力家だし、熱血だし、それに美月ちゃんのことが大好きだ。


 ――――狗山は偶然にも、試合前の新島と同じことを考えていた。


(私が負けたとしても……)


 しかし、その時、だった。


「りょ……ぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」


 声がした。

 観客席から声がした。


「りょーーーーぉぉぉおおぉこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!」


 狗山は、自身では天才でも最強でも運命に愛されてもいないと思っていた。


「てめぇぇぇえええええええぇええええ、何勝手に負けてんだぁあああああッッ!!」


 しかし、彼女は少なくとも。


(…………キャット)


 ――――応援してくれる友はいた。


「りょうこぉッ! てめぇ、何勝手に、私の関係ないとこで負けそうになってんだよッ! ふざけんなっっ! 何だよそいつは、ぶっつぶせよ、ぶちのめせよ! いつもの余裕顔で撃退してやれよッ!」


 涼子は。


「何満足そうに負けそうになってんだッ! 私は許さねえぞ! 絶対に許さねえぞ! 皆が許そうが世界が許そうが運命が許そうが、私は許さねぇぞ!」


 狗山涼子は。


「ピンチだったら逆転だろ!? 危機一髪だったら大勝利だろ!? 勝てよ、勝ってしまえよ、勝手に完結するな! 抗えよ! それが、ヒーローってもんだろうッッ!」


 1年Sクラス、狗山涼子は。


「おら、新島、何を平然と殴ってんだ! 早すぎて見えねえんだよ、馬鹿野郎ッッ! 私たちにわかるように戦いやがれ、きっちり、決勝に行くために戦いやがれッッ!」


 変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》、1年Sクラスの狗山涼子は。


(……まったく)


 前を見る。

 新島宗太の拳が迫り来る。

 避ける? ガード?


 なんだそれ。


「私も殴る」


 拳と拳が激突した。


「ッッ!」

「ッッ~~~!!」


 当然、受け手にまわった狗山涼子の方が弾き返される。

 じぃんと痺れる感覚が彼女の拳にかかる。

 本来ならば避けて腕をつかみとり、反撃にでるのが正解だろう。


(だが、不思議と悪くない)


 正しくないことも面白い。

 新島の追撃が来る。

 狗山は避けることなくあえて迎えに行った。


 ◆


(おかしい……もう勝てるはずが)


 新島は想定外の事態に戸惑っていた。

 そもそも、狗山さんは近接戦闘が苦手なはずだ。

 常に剣を持った中距離を維持して、懐に入り込まれた場合は『絶対に狩る牙』でガードするのが通例となっていた狗山涼子は、単純な肉弾戦に弱いはずであった。


(俺と真白さんもその結論で戦術を組んだが……)


「すごい……どんどん強くなってる」


 そう言ったのはあゆだろうか。

 最初に気づいたのが、目の前にいる新島ではなく、動物直観力を持った川岸あゆであったというのは、ある意味で当然ではあるが、滑稽な話であった。


 しかし、新島が気づかずとも、

 この『俺』が気づいたのならば――――。


(なるほど、確かに強くなってきやがる)


 新島はこの瞬間から、もう一度『限定解除救世主』を発動できるか考えた。

 残り時間は既に3秒を切っている。

 このままでは決着をつける前に時間切れだ。


 次の発動まで時間はどれくらいある。

 ……約、20秒くらいか。


(格好いい台詞まで吐いたのになんて失態だ。今は耐えて、次で決める。基本的に優勢なのは俺の方だしな。次の発動まで今は逃げて、次で――――)


 次で?


 俺は、一瞬だけ、――――思考が止まった。

 それは格ゲー中にポーズ画面に入るような瞬間的な出来事だった。

 しかし、俺はその刹那の思考時間に、これ以上ないくらいの大反省をした。


(ば)


 隙を狙い狗山の拳が迫る。

 新島は怒りとともに握る。


「馬鹿言ってんじゃねぇッ!」


 新島は狗山の拳に向けて殴りかかった。

 再度、右拳と右拳が直撃して、反動で離れる。

 そして、一気に大地を蹴る。迷うことなく詰め寄る。

 回避などなく、防御などなく、逃走などなく、一気に詰める。


(俺は今、何を考えようとした。……逃げ? 回避? 撤退? そんなことで狗山に勝てるのか?)


 新島は自分に腹が立っていた。


(今の狗山はそんな猪口才な計算で対応できる相手か? 今の彼女は逃げの一手を打つ敵を見逃すほどの愚か者か? 奴は、今を全力で生きようとしない人間をライバルと認めると思うか?)


 否。

 否。

 否、だっ!


 全力で向き合い全力でぶつかり合い全力で潰し合う。


 次の20秒まで時間稼ぎ?

 馬鹿言ってんじゃねぇ。

 超変身まで20秒必要なら20秒間ぶっ続けで戦い続ければいいだけの話だろうッ!


「はははははははっはっっ! 楽しいぞ、新島くんッッ! 私は今最高に楽しいッッ!」

「うるせぇっ! 急に元気になりやがってッッ!」


 格好良く終わらせるつもりだったのに。

 綺麗に決めるつもりだったのに。


 どうして俺はいつもこう泥臭くなる。


 新島は殴る。

 狗山は蹴る。


 互いに吹き飛び、互いに飛び出す。

 拮抗し、ぶつかり続け、その時の狗山の様子を見て、――――“俺”は、理解する。


(そうか。そういうことか。狗山涼子の本来の能力。彼女自身も知らない。《血統種パーフェクト・ドッグ》の能力。それは――――)


 なるほど、と俺は――そして、“新島”は殴り合いの最中に理解する。

 初めて狗山涼子の能力を知った瞬間から妙だと思ったんだ。


 君島優子、終焉崎円、美月瑞樹、

 三人の能力を使える能力。

 それが狗山涼子の能力だ。


 でも、そんなのは、猫谷さん劣化系だ。

 新島にだって、光の剣やブーストはあるが、元の能力は肉体強化なのだ。


 彼女にも、三人の能力を使う前に、身につけていた『原初の能力』があるはず。


(それが)


 それこそが。


「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》。伝説を受け継ぐ能力……つまりは極端に『他人から影響を受けやすい』能力ね」


 鴉屋クロが解説するのを、新島は気づかずとも、

 “俺”は気づいた。


「それは一見地味な能力。しかし、誰よりも、ヒーローらしい能力」


 その力とは。


「彼女は相手の強さに応じて――――相手が強ければ、強いほど、ヒーローエネルギーを強力に使うことができる。そのキャパシティを解放できる。相手が、強ければ強けれ『決闘種』としての力に目覚める」


「……まさに、主人公にふさわしい力ね……」


 すでに戦いが誰も知らぬ領域へ。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉおぉぉぉおおおおおおおお」

「おぉぉおおおおおおおおおおおおっぉぉおぉぉぉッッッ!」


 新島か。

 狗山か。

 そして二人の戦いは終焉を向かえる。

次回決着。

「第118話:ヒーロー達の準決勝① 4」をよろしくお願いします。

掲載は一週間ほどを予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ