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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
139/169

第115話:ヒーロー達の準決勝①

 視界の先に狗山涼子の姿があった。


「約束の時だ……」


 彼女は待ち受けていた。

 悠然と腕を組み、背中には巨剣、風に髪をなびかせて、一振りの剣の如く凛々しい狗山さんの振舞いは、英雄豪傑の魂が乗り移ったかのようであった。

 闘技場の中心に実在する、現実の剣神、《血統種》の、伝説の娘、――――狗山涼子いぬやまりょうこ


(……なんてな)


 俺は闘技場のステージへと登る。

 狗山さんは「ようこそ」と挑戦的に笑った。

 彼女を見つめながら、俺は、かつて狗山涼子が発した『例の台詞』を口にした。



「狗山涼子は、美月瑞樹への告白をかけて、新島宗太に決闘を申し込んだ」



 狗山さんは視線を強め、俺の台詞に続いた。


「私は、4月の終わりに、君への決闘を挑んだ……」


「今度は、“俺の番”だ」


 俺はすぅ、と息を吸い込み、改めて自分のいる場所を見つめ直した。

 闘技場。

 白き大地。

 俺と狗山さん。

 ここは、二人だけの戦場だ。


 不思議と、心は軽く、言葉をすとんと押しだした。



「――――新島宗太は、美月瑞樹に告白する権利をかけて、狗山涼子に決闘を申し込む」



 その、かつての意趣返しと呼べる台詞はしかして、

 鉄すら一刀両断できる程の、鋭さと激しさを内含し、

 俺と狗山涼子の戦いのはじまりを、これ以上ないくらい物語っていた。


「……」


 狗山涼子は、一瞬狐につつまれたように、ぽかんと不可思議な表情をうかべた。

 ――――が、すぐに“あらゆる全て”を理解した。

 まるで過去の出来事が現実に現れたような、妙な感慨が生まれて俺たちは互いに表情を和らげた。


「……ふふっ、状況は……あの頃と比べてずいぶん変わってしまった……そう思うかい、新島くん?」

「いいや」


 だろうな、と狗山さんは得心し、


「私も同じ気持ちだ。結局のところ、私たちは何も変わっていない。現実を知ろうとも、絶望を学ぼうとも、根っこの部分が少しも動いちゃいないのだ。

 あの時感じた想いは……今も同じ……。

 美月ちゃんが世界そのものになろうとも、この先に……彼女との戦いが待ち受けていようとも……」


 そして狗山涼子は前を向いた。

 凛、と。

 それは一種の決意表明のように、


「私たちの愛は、――――決して揺るがない」


 俺に全霊の敵意を込めて、


「だから、戦える」


 俺はその時思った。

 遅かれ早かれ、俺と狗山さんは戦うことになったと。


 それは、限定救世主と血統種の運命、

 DクラスヒーローとSクラスヒーローである俺ら、

 背景を持たぬものと背景を受け継ぐものである私ら、

 世界に助けられ、俺はそれを知らず、彼女は知らしめられた。

 全く違う境遇にも関わらず、俺たちは近い。まるで背中合わせのトランプのように離れることができない。


(すべては今から数年前)


 俺たちは英雄戦士に出遭った。

 

 そして、恋に落ちた。


 結局はそこに帰結する。


 俺たちの物語はそうやって始まった。

 恋する人間が二人いて、その相手が一人ならば、それは必然、――――戦争なのだ。


(まあ、約一名、性別のおかしな奴がいるがな)


 しかし、それも今のご時世ならば仕方ない。

 そんな細かいことを言い出したらこの戦い自体、俺たちの壮大な痴話喧嘩に過ぎないのだ。

 狭量な、そして矮小な恋の物語だ。


(だが、しかし)


「狭さ! 小ささっ! それもまた面白い。この半径20メートル強のフィールドが私たちの舞台だ。ここで、私と新島くんの恋の行方は決まるのだ」


 天を仰ぎ見る狗山さんと、俺の視線が交錯する。


「勝つのは、俺だ」

「いいや、私だ」


 カウントダウンが聞こえだす。

 呼吸する喉が熱い。


(さて――)


 変身だ。

 狗山涼子は巨剣を構える。

 俺は変身ベルトを付ける。


 俺の脳裏にはここに至るまでの“今まで”がよみがえった。



 ◆◆◆



「準決勝っ! ついに準決勝ですよっ、宗太さんっっ!!」

「ああ、そうだな」


 何度も言わなくてもわかってる。

 場所は闘技場の入り口の前。

 そこには4人の人間が勢揃いしていた。


「わかってる、じゃないですよっ! これは宗太さんが、真の救世主として生まれ変わったかを見極める大切な一戦なんですっ! そんなゆるゆるな気持ちじゃ困りますっ!」(真白さん)


「ましろんの言葉は宗教じみてて嫌ですねぇ~、科学者なのか宗教家なのか分かったもんじゃない。ボクは普通に期待してますよ。だからこそ、貴方を相棒に選んだのですから。ロマンある戦い、楽しみにしてます」(式さん)


「フフ……気づいたら新島くんも人気者……さすが、この学年でベスト4に入る実力者だけある……。フフッ、決勝戦で待つよ。君は黙って僕と戦えばいい」(葉山)


「大丈夫だよ葉山くんっ! 葉山くんも人気者だよっ! そしてソウタ君は絶対勝つよ! なぜならばっ、美月ちゃんを助けることができるのはソウタ君だけだからっ!」(あゆ)


 真堂真白まどうましろ人型式ひとがたしき葉山樹木はやまじゅもく川岸かわぎしあゆ。

 4人は試合ギリギリまでついて俺に激励の言葉を送ってくれた。


「フフ……しかし、あゆ。それだと、僕が負けて、新島くんと美月さんが決勝で戦うことになってしまう」

「あっ! じゃあ、決勝は涼子ちゃんで、ソウタ君と美月ちゃんは3位決定戦だねっ!」

「フフフ……それでいこう」


 それでいこうじゃねぇよ。

 どうやら全員が全員、俺の応援をしてくれるわけではないようだ。


「……宗太さん、勝って決勝に行ってくださいね」


 真白さんがめずらしく殊勝な声色でそういった。

 なんだハイテンションの次は泣き落としか? と思ったがそうでもなさそうだった。

 わずかに震える手、

 こわばった顔、

 ――――人型式を含めた他の3人にはわからない角度で、(本来ならば俺にすら気づかせないつもりで)、彼女は“心で”震えていた。


(《神の視点》の副作用? まぁ、しかし、なんだかなぁ……)


 真堂真白さん。

 彼女はろくな人間じゃない。

 どうも嘘くさい部分ばかり見えるし、やってることは悪事ばかりだし、他人を平気で馬鹿にするし、良い人間とは正直いえない。


 だが、しかし、自分の研究に対しては、底が見えないくらい真剣だった。

 信じてるもの、夢、目標、叶えるべき望み、

 それらを純粋に追い求めていた。


 彼女は、彼女の求める全てに、妥協を許さなかった。


 その邪悪で醜悪で凶悪な『志』は、どうにか守ってやりたい。


(……勝たないとなぁ)


 美月と俺のため。

 もっと極論いえば俺自身のため。


 俺は、俺の為だけに、この準決勝に挑むつもりだった。


 どっかのバンドの曲で、自分の夢が叶うのは、誰かのお陰じゃない。俺自身が風の強い日を選んで走ってきたからだ、って歌詞がある。

 俺もそれに似た、心づもりで、戦ってきたはずだった。


 だが、しかし、


(真白さんのために勝つ。そういうのも悪くない……)


 打算だろうと、欺瞞だろうと、嘘つきだろうと、真っ黒だろうと、

 俺は、彼女が真剣だ、という理由だけで、彼女の夢を助けてあげたい。

 あらゆる倫理を飲み込み、正義を成す。


 ヒーローと、なる。


 そう決めた俺には悪くない判断だと思った。


「――――また一歩、主人公力をあげたな、新島宗太」

「うわっ!」


 俺は思わず後ろにさがった。

 集まってきてくれた4人の後ろに、もう一つ影が生まれたのだ。


「私だ、驚くな」

「お、終焉崎さん……戻ってきたんですか」

「戻った。イベントが終わったからな」


 すごい格好いい口調で、ソシャゲ厨らしき発言を颯爽と吐きながら、終焉崎円おわりざきまどかは俺の前に立った。


「狗山涼子との決戦か。私からは言うことは何もない。君は勝つことだけを目指せ。それだけだ」

「……はいッ!」


 悪くない。

 終焉崎さんは満足したのか、俺から背を向けた。(よかった殺されるかと思った)

 そして、葉山とあゆの前に立った。


「葉山樹木」

「フフ……何ですか?」

「英雄戦士の次の対戦相手は君だ。準備はいいな」

「フフフ……問題ありません。僕にはあゆがいますから」

「そうか」


 終焉崎さんはそれだけで納得したのか(今日は優しいな)、

 俺たち全員の前を通過し、


 そして、言った。


「狗山涼子は強くなった。彼女が英雄戦士を救うことに失敗してから一週間。何をしていたか知ってるか?」


「何ですか?」


 すると、大振りのアッパーカットが俺の眼前すれすれをかすめた。

 危ない。

 胸を反って回避しなかったら、顎下直撃コースだ。


「……外したか」

「試合前なのに容赦ないですねッ!?」

「この一週間。狗山涼子は『ある人物』と特訓を続けた」

「しかも、人の話聞かないし」


 ヤダ、やっぱ怖いこの人……。

 終焉崎さんは満足したのか、振り抜き動作を戻し、先ほどの質問の答えを言った。


「その名は――君島優子」


 俺の動きが止まった。


「変身名《戦闘美少女モンスター・ヒロイン》君島優子との猛特訓を一週間狗山涼子は続けた。新島くんが私と戦い続けたように、彼女も自律変身ヒーローと己を見つめ続けた」


 突如、後方から歓声があがった。

 始まりの時間なのだ。

 俺に残された時間はない。


「油断するな新島宗太。あらゆる人間は君の見ないところでも成長し続ける。一流の人間ならば特にそうだ。かの伝説の娘は、君の努力など一瞬で飲み込むぞ」


 俺は全員と手を叩き、力強く親指を立て、闘技場へと旅立った。

 油断、慢心、驕り、自惚れ、

 無駄な感情は消え去り、純然たる戦闘意志のみが俺の心に宿った。



 ◆◆◆



 大地に足がついている。

 それを確かめる。

 大丈夫。

 俺は戦える。


 ならば、変身だ。


「ぅぉ……」


 呼吸音。


「うぉぉおぉおぉおおおぉぉおぉぉぉおぉぉおおぉぉおおおおおおお――――っ!」


 叫ぶ。

 腹の底から雄叫び上げる。


 右手に握った銀のベルト。

 この日のために人型式さんが用意してくれた特注品。

 腰に巻き、学生証を当てる。


「――――変、身ッ!」


 眩しい光が、全身を包む。

 眩しい光が、俺の肉体を強化する。

 眩しい光が、意識せずとも感応せずとも、身体中に入り込んでくる。

 それだけで俺の肉体というハードは――人間を超越する。


「――1年Dクラス新島宗太、変身名《限定救世主リミット・セイバー》!」


 俺は前を見る。

 狗山涼子が変身する。


 巨剣を中心に渦巻く光。

 三つの矢に変わりて、伸びゆき、狗山涼子に激突する。

 貫き、輝く。

 やがて強き輝きの『向こう側』から伝説のヒーローが顕現する。


 一点の曇りもない真紅のボディ、銀色に輝くゴーグル、左手に据えた巨大な剣。

 頭に生えた二つの小さなツノ、首元の青いチョーカー、戦場に颯爽と現れた戦士のような勇敢な雰囲気。


「1年Sクラス狗山涼子、変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》」


「――絶対に斬れる前肢、絶対に駆ける後肢、絶対に狩れる牙、これらをもって“世界そのもの”を喰らおう」


 息を呑み、前を見据える。

 ニヤリと彼女が笑ってるのが理解る。俺には理解る。


「さあ行くぞ、新島宗太」

「さあ行くぞ、狗山涼子」


 戦いの火蓋が落とされた。

新島宗太VS狗山涼子戦、開幕――――!

次回「第115話:ヒーロー達の準決勝① 2」をお待ち下さい。

掲載は1週間程を予定します。

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