第108話:ヒーロー達の一回戦/Cブロック
川岸あゆ。
1年Dクラス所属。
変身名《全壊戦士》
右腕から兵器を射出する。
俺の大切な友達。
葉山樹木。
1年Dクラス所属。
変身名は《幻影魔人》
周囲に煙を噴射する。
俺の大事な友達。
友達。
友達。
友達って、何だろう。
そう考えた時、俺の心は動かなくなる。
錆びついたロボットのように。
思考の流れがエラーとなり、電源を切ったようにプツリと終わってしまう。
(もしかして俺は、本当の意味で友達なんてできたことがないんじゃないか?)
そんなことを思ってしまう。
俺の見てきたもの、すべてが幻想で。
幻覚で。
友達ってのは只のクラスメイトで。
友情っていうのは気まぐれな優しさで。
ライバル心ってのは嫉妬心のすり替えで。
想像と現実は違って。
そこまで考えたら俺の心はフリーズしてしまう。
まるで夜の砂漠に取り残されたみたいな。
一人凍えてサボテンを相手に喋り続けるみたいな。
孤独な狂人だ。
(きっかけは、美月か)
美月の真実を知ってから、俺の心の中には、これまで見てきたすべてが本当に正しいものなのか、信じれる力が失われてしまった。
あらゆる認識は虚飾で。
目に入る物すべては仮想で。
信じてきた観念がひっくり返ることを、確かコペルニクス的転回というんだっけか。
天と地がひっくり返るような衝撃は、俺の根深い部分を傷つけた。
鋭利なナイフでえぐり取るように。
俺が俺として生きることを困難にさせた。
『――――バカだなぁソウタ君は、友達は、なったと思った時点で友達なんだよっ!』
だから、あゆの放った言葉は、どんな弾丸よりも、俺の身体を貫いた。
✝
「お帰りなさい~、宗太さ~ん♪」
真白さんが制服姿で出迎えてくれた。
俺はカプセル――――“神の視点”から戻り、無機質な控室に帰還を果たした。
「ただいま、真白さん」
「首尾はいかほどでした~? そのご様子ですと狗山さんの試合は見届けられたようですけど」
「うん、狗山さんが猫谷さんを北斗百○拳の如く貫きまくって、上空二百メートルくらいまで吹き飛ばした後、会場の一番大きな柱に目掛けて打ち込んで、『お前は一生十字架を背負って生きろ』とキメ台詞と共に去って行くのと、猫谷さんが会場のオブジェになったところまで見たよ」
「……私も映像で見てましたが、話だけ聞くと猫谷さんマジ可哀想ですね……」
「まあ、自業自得だけどな」
狗山さん相手に、実の母親の能力を使うとか、
闘牛相手に、全身を赤い服でコーデイネートして戦うようなもんだ。
狗山さんの心は終盤になるにつれ、どんな炎よりも燃え上がっていた。
一度火の点いた狗山さんが、何物にも止められないのは、幼馴染である猫谷さんが一番分かってるだろうに。
「とにかく、次の相手は狗山さんで確定ですね。私の約束が無事果たせそうです」
「そうだな」
約束。
俺自身も忘れていたが、真白さんが俺とパートナーとなったきっかけに、俺を狗山涼子に勝たせてやるってのがあった。
今となっては、過ぎた話だが、それでも覚えてたとは彼女も律儀だった。
「狗山涼子。絶対に正解に辿り着く天才。あんな主人公属性の塊みたいなヒーローは、私たちで引導を渡してやりましょう!」
元気よく拳をあげる真白さん。
主人公属性ねぇ……、確かに彼女は主人公っぽいかもしれんが。
クラスメイトの親友を助けるために決勝を目指す。
伝説のヒーローの血を受け継ぎ、一回戦では幼馴染との決着を決める。
かつての母親の能力と対決し、そして打ち勝つ。
完全に主人公だ。
一方の俺は一回戦も地味な勝利だし、大事な勝負でもよく負ける。
奇跡は起こせない。逆転なんて夢のまた夢。泥臭い勝利しか収めた覚えがない。
(俺も強くなってるんだけどなぁ……)
それに合わせて周りも強くなってる気がする。
普通、敵が強くなってきたから、ヒーローがそれに負けないために強くなるもんじゃないだろうか。
何で俺が頑張って強くなったら、周りも一緒に強くなって来てんの? 逆じゃん。それ俺、敵のポジションじゃん。
「まあ、それが人生ってものですよね」
世知辛すぎだろ人生。
「あははっ、確かに宗太さんって、主人公っていうよりも敵サイドの人間ですよね。狗山さんから見たら、宗太さんって美月さんとの恋路を邪魔する“間男”みたいなものですよね? ねぇ、宗太さん?」
「うるせぇ、式、俺からすればあっちが間男だ」
いや、間女、とでも言えるだろうか?
「つーか、俺はどっちかっていうと、“昔の男”みたいな感じだろ」
「……自分で言ってて虚しくありませんか?」
「…………虚しかった」
凄く可哀想なものを見る目で人型式が俺を見てきた。
しゃがみ込み体育座りでヘコむ俺に彼女がよしよしと慰めてくれる。
マジこいつに慰められるとか敗北感以外の何物でもない。
「失礼な話ですね~、ボクはこ~んなにも宗太さんのことを愛しているのに」
「言葉が空虚すぎる」
「空虚じゃない言葉なんてないですけどね~」
何その哲学的な返し。
リアクションに困る。
「しかし、主人公……主人公ですかぁ、終焉崎さんもよく言ってますねぇ、主人公の力を身に付けろって」
「あの人は主人公の力が現実の戦いに作用すると本気で信じてるからな……そういえば、終焉崎さんは?」
よく見たらいなかった。
俺は神の視点に旅立つ前は、一緒に見送ってくれたはずだ。
「よい旅を」なんてドヤ顔で言ってたはずだ。
どこかに出かけたのだろうか。
「ああ、終焉崎さんでしたら、急用があると言って、20分ほどドイツに戻ると言ってましたよ」
「へぇ…………言葉だけ聞いたら、マジ超人だな」
コンビニ感覚で外国に飛ぶなよ。
しかし、まあ本体はドイツにあるのだから、むしろ日本に来てる方が異常なのだ。
「急用かぁ……終焉崎さんも多忙な人だな」
修行の合間も何度かこうして姿を消すことがあった。
その度彼女は真剣な瞳をしていた。
戻らねば絶対に後悔する。
そんな様子だった。
……もしかしたら、何か重要な目的でも隠し持ってるのかもしれない。
今後の俺の戦いを左右する大切な伏線になってくるかもしれない。
「はい、そろそろ艦これのゲージが貯まるそうです。そそくさと家に戻られましたよ」
「課金ゲーマーかよ!?」
伏線でも何でもなかった。
ただゲームがやりたいだけだった。
「違いますよ宗太さん」
「何が違うんだっ!?」
「艦隊これくしょんは課金で力量差が決まらない非課金ユーザーに優しいゲームです。世の中の有象無象の重課金ゲームと一緒にしないください」
「お、おお……? そうなのか、あんまりゲームとかやらないから知らないんだ」
というか、真白さんもやってるのか。
後で聞いてみたら、俺の修行中によくやってたらしい。やるなよ。
――――と、俺が呆れてると、ドアがトントンと叩かれた。
俺たち3人は「ん?」ってなりながらも、ドアを開けた。
そこにいたのは――――。
◆◆◆
「さあ、さあ、始まりましたッッ!! 英雄戦士チーム選考会Cブロックッ!! 実況は私鴉屋ミケと!」
「この世に栄えた悪はなし、解説の鴉屋クロでお送りします」
「さあ、いつの間にか試合もCブロックですよ。さっき開催の挨拶を済ませたばかりな気もするのに早いですね~」
「ヒーローの試合は一瞬で終わるからね。残り時間は倒壊した会場の修繕……。だんだん気づいてきたけど、これ解説なんて挟む暇ないわ……」
「さあ、はりきって実況していきましょ~っ!!」
「あなたはポジティブねぇ……」
「次の試合は、川岸あゆ選手 VS 葉山樹木選手ですか。プロフィールを見たところ二人はお友達のようですねぇ」
「それにDクラスの新島宗太もね。Dクラスの生徒で、しかも友達同士が3人も残るだなんて、なかなかの大番狂わせよ」
「しかし、運の実力のうちといいますか、そのうち二人が一回戦で潰し合うことになるとは厳しいですね~」
「ふふっ……先ほどの試合もそうだったけれど、お互いがお互いの手の内を知り合った同士ね……。これは下手な小細工は通用しない。真っ向からの対決になりそうだわ……」
◇◇◇
試合開始の挨拶を聞きながら、俺は呆然と立ち尽くしていた。
「おーい、宗太さ~ん」
「宗太さ~ん、ねぇ、ましろん、これもうダメだよ」
「ましろん言うな。宗太さ~ん、元に戻ってください、試合始まっちゃいますよ~」
真白さんと式さんが心配そうに俺の肩を揺すったり、頬をつねったりしてくるのが分かる。
式さんのパソコンではCブロックの試合が始まる様子が、鴉屋姉妹の実況と共に伝えられてきた。
「宗太さ~ん…………式、仕方ない、あれを使うよ」
「……! ええ、よくってよ、ましろん」
そんなことも、あるんだなぁ……。
棒人間のように固まっている俺の前で、真白さんと式さんが天高く飛び上がった気がした。
鋭い足先、宙を舞い、俺を目掛けて、迫り来る。
「…………え?」
目覚める俺の前に、青い縞々と純白の何かが横切った気がした。
✝
『――――バカだなぁソウタ君は、友達は、なったと思った時点で友達なんだよっ!』
あゆがそう言ったのは俺が病院を抜け出した日だった。
一週間前。
終焉崎さんの元へ修行に旅立つべく、俺は夜中の病院を脱出した。
その俺を入口前で待ち構えていたのが――――あゆと葉山の2人であった。
『フフフッ、あゆの言う通りだよ新島君、君の考えは受動的すぎる。友達は求めるものじゃない、作るものなんだ』
葉山が同意した。
後で知ったが、こいつは俺がベットから抜けだしたのを知り、罰則覚悟で女子の病室に潜り込み、あゆを起こして俺を先回りしたのだそうだ。
俺は――誰にも何も言わずに旅立つつもりだった。
覚悟を決めて。
逃げ道を作らないため。
体のいい言い訳は多々合ったが、俺は単純に逃げ出したかったのだ。
今までのすべてから。
何もかも信じれなくなったこの世界で、リセットを決めたかったのだ。
ゲームのデータを最初から始めるに切り替えるように。
俺は美月だけでなく、あゆも、葉山も含めて、あらゆるすべてから抜け出したくなっていたのだ。
だが、あゆはそんな俺を許さなかった。
『ソウタ君、ソウタ君が何も言わず病院を去ろうとしたのは、そんなに問題じゃない。ソウタ君は、ソウタ君なりに“やるべきこと”ってのが見つかったんだろうから。私はそれを否定したりしない』
彼女はぐっと集中した目をして言った。
『けどねソウタ君。旅立ちを“逃避”に使っちゃダメだよ。それは破滅を呼ぶよ。どこにも進めなくなるし、どこにも戻れなくなる。何かに向けて駆け出す時っていうのは、明るく順風満帆で行かなきゃいけないんだ』
だから。
私達のことを否定しちゃいけない。
私達のためじゃなく、ソウタ君のために、ソウタ君のこれまでを否定しちゃいけない。
あゆと葉山に見つかってから、俺は口論を繰り広げた。
基本は俺が当たり散らすだけだったけど。
手酷い台詞もいくらか吐いた。
もう友達じゃないとか。
俺は美月を追うんだとか。
しかし、あゆはそのすべてを、ふっ、と一笑して、したり顔で冒頭の言葉を言ったのだ。
黙りこむ俺に、あゆが何かを加えようとすると、葉山が片手で静止した。
奴は静かに言った。
『新島君……君は、君の見てきたこれまでが本当に嘘だったとして、それで、それだけで、……本当にこれまでのすべてがなくなってしまうと思うのかい?』
『…………』
『残念ながら僕はそうは思わない。……たとえ嘘だとしても、偽物だとしても、楽しかったという事実は永遠に残るよ。あらゆる後悔や反省が消えてなくならないのと同じくらい、過去の幸せや楽しさは決してなくなりはしない。一生付いて回るさ。どんなに君が嫌がろうとしてもね』
葉山は、呪いでも振りまくように云った。
俺は、その言葉を完全に承諾したわけではなかったが、でも、それでも「面白いな」とは思った。
葉山は強かった。
真実を、真実の持つ毒性を受け止める度量があった。
覚悟があった。
そして、それはあゆも同様だった。
彼ら二人の言葉は、それからの俺の救いとなっていた。
終焉崎さんの修行。
それは真実なんて生ぬるい、あらゆる現実の到来だった。
俺は神の視点に潜り込み、この学園のあらゆるを知った。
その上で心が壊れなかったのは、この時、この場所で二人に出会えていたからだと思う。
そうだ。
俺はあゆと葉山の言葉に救われていた。
そしてこの時も。
面白いなと思いながらも、まだ許容は出きないながらも、俺の深い深いところにあった重しような闇が、ふわりと風に乗るように消えていった。
身体が軽くなったような。
浮遊感。
『フフッ……ソウタ君、人間誰しも秘密はある。僕にだって君には話したことのない秘密はある』
『私はないけどなー? 言えてないことはあるかもだけど』
『……フフ、前言撤回、あゆみたいな人もいる』
何だよそれ。
俺は笑いながら、しかし、心にはかちりと収まるものを感じ取った。
行こう。
俺は明るく言った。
『そいじゃあ、あゆ、葉山。俺は、ちょっと旅に出かけてくるわ』
『うんっ! いってらっしゃい、ソウタ君っ!』
『フフ……おみやげをよろしく頼むよ』
俺たちはそう言って別れた。
互いに事情は聞かなかった。
そういう信頼の方法もあるのか。
俺はまた一つ勉強になった。
夜風の中、旅立つ俺の姿。
後ろで見送る二人の影は、いつまでの俺の網膜に焼き付いていた。
◆◆◆
『フフッ……ソウタ君、人間誰しも秘密はある。僕にだって君には話したことのない秘密はある』
『僕にだって君には話したことのない秘密はある』
『話したことのない秘密はある』
秘密。
秘密。
秘密。
なるほど、そういう秘密もあるのか……。
俺は真白さん達に『ひどい目』に遭わせられ、ようやく我を取り戻してカプセルに乗り込んだ。
神の視点。
意識が拡散していくSF的超現象にも関わらず、葉山のことで頭をいっぱいにするとか、俺も手慣れたものだった。
(本来なら、タイムマシンを居眠り運転するようなもんだ)
俺は気持ちを切り替え、試合会場を目指す。
……神の視点。
空間俯瞰認識システムとか仰々しい名前で呼ばれたコレは、
俺の膨大なヒーローエネルギーを担保とすることで、俺の意識/魂のみを別の空間へ飛ばす転送装置だった。
おかげで今は浮遊霊みたいな状態だ。
終焉崎さんがこちらに来ているのも似たような方法を用いてるらしいが、
最終的には、シロちゃん先生の読心能力と、鴉屋クロさんの情報集積能力を兼ね合わせることで、
あらゆる空間を自在に移動し、人間の心の奥底までを理解する――――すなわち本物の神になろうと目指す実験らしい。
頭のいい人はいろいろ考えるもんだ。
俺はこの力を利用し、あらゆる空間を飛ぶことに成功した。
そして、ヒーロー達の試合を観察した。
ある程度の表層意識を読み取りながら。
観察という観察を『俺の能力』を利用して敢行した。
そう能力。
俺の能力《限定解除救世主》は、超圧縮された時間において目の前の事物を観察することができる。
あらゆる戦いを無限のような時間をかけて。
わずか一週間という短期間で俺がこれほどまでに強くなった手品の種には、
この《限定解除救世主》が密接に関わっていた。
(真白さんによって改造されたこの能力……最初は何の役に立つのかと思ったが……とんでも無い化物能力だったようだ)
常軌を逸した思考時間の延長は、百日の修練に比類する。
要するに一人『精神と時の部屋』ができるようなもんだ。今の俺は。
(この力があれば、狗山さんと言えども打倒することはできる……!)
俺はそう確信しながら、試合会場に到着した。
無論、俺の姿は誰にも見れないし、触れられない。俺はあくまで観測者だ。
「うぅぅうぅうぅ……」
文字通りの神の視点。
観ることはできるが、今のままじゃ救済はできない、ある種絶望を含んだ視点。
「うぅぅぅぅうぅぅぅうっぅぅ…………誰かそろそろ降ろしてくれ……」
だから、さっきから猫谷さんが柱のところでシクシク泣いてるけど、俺には助けることができない。
(まだ吊るされてるのかよっ!?)
流石に後で助けてあげよう。
心を決めるのだった。
「さぁっっ!! 英雄戦士チーム選考会ッッ!! Cブロック、選手の変身が完了しましたっっ!!」
「ふぅ……この二人は、いきなり激しいことにはならなそうね……心置きなく解説できるわ」
実況の二人の声に合わせて、視点を変更する。
すでに二人は変身を済ませた後だった。
葉山は煙の亡霊に。
あゆはブリキの戦士にその身を変えていた。
「よぉ――――しっっっ! やるよー葉山くん!! 戦って戦って戦いまくろう!!」
「フフ……お手柔らかにどうも……」
見慣れた光景。
おそらく累計の戦闘回数では、俺よりも二人のほうが数が多いだろう。
鴉屋クロさんも言っていたが。
狗山さんと猫谷さんと試合と同様に、この試合はお互いに知りすぎた同士の対決となるだろう。
(ましてや自由に能力を変えられる猫谷さんとは二人とも違う。真の意味で手の内を知り合った二人の対決となる……)
しかし、知りすぎた二人か。
俺は、もっとよく観察しておくべきだったのかもしれない。
(戦闘だけじゃなく、もっと、いろいろを……)
俺は気づけたべきなんだ。
盲点といえば盲点なのだが。
葉山が控室に来るその瞬間まで、俺はその気配を感じ取ることすら出きなかったのだ。
(葉山……か、)
葉山。
葉山なら仕方のないことかもしれない。
隠し球、裏テク、ハメ技なんでもござれぼ策謀家・葉山樹木だ。
奴が隠し事をすれば、そりゃあ誰にも気づけないだろう。
「フフフ…………あゆ、戦う前に1つだけ教えておこう」
「んー! なんだーーい?」
数分前。
俺の控室に来た葉山は笑っていた。
勝負を目前として。
試合が始まる寸前に何故ここに?
俺は疑問だったが、奴の話を聞いて氷解した。
戦う前に新島君にだけは話しておきたかったと。
今回の勝負を決めるとっておきの切り札だ、と。
葉山樹木。
きっと、この一回戦で一番覚悟を決めていたのは、お前なのだろう。
「今日まで約三ヶ月……長く、充実した日々だった。楽しかった。僕はそう思うよ」
「そうだねっ!! こんな風に葉山くんと一緒に戦える日が来るとは思わなかったよ!」
フフ……葉山はいつも通りに笑う。
いや、違う。
神になった俺には分かる。
こいつの心境が痛いほど分かる。
「……フフッ、そしてあゆ。この幸せな、幸せすぎた三ヶ月で僕は気づいてしまった」
「何にー?」
歓声が湧き、カウントダウンが進む。
「川岸あゆ」
葉山は言った。
「僕は、君のことが、大好きだ」
そして、戦いのサイレンが鳴る。
「ふぇ?」
「―――――変身名《幻影魔人》、超変身」
白煙が渦巻く、会場内に、
力が蠢く、闘技場内に。
葉山樹木と川岸あゆの戦いが始まる。
(――――――次回に続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
川岸あゆ大暴れ、あらため、葉山樹木大暴れでした。
次回「第109話:ヒーロー達の一回戦/Cブロック 2」を宜しくお願い致します。
掲載は7日以内を予定しています。