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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
125/169

第103話:ヒーロー達の一回戦/Aブロック 3

 拳と刃のぶつかり合い。

 勝負を制したのは――城ヶ崎であった。


「……ぐっ!?」

「ははっ、残念だったな、新島君。読み合いは俺の勝利だ」


 空中の死闘。

 城ヶ崎の刃は稲妻のように鋭く俺の肩に突き刺さった。

 それも尋常の刺さり方ではない。

 俺の――後方から深々と突き刺さっていた。


(こいつ、後ろから攻撃を……っ!)


 城ヶ崎の刃はそもそも手のひらで出す必要はない。認識させた瞬間に出現させる不確定の刃だ。そして、城ヶ崎の刃は、俺の正面から現れることはなかった。

 俺の死角に当たる――“背後から”刃を出現させたのだ。


(一騎打ちをよそおって奇襲とか……どんだけ自分を信じてんだよ)


 俺と城ヶ崎は拳と刃のぶつかり合いの最中だったのだ。

 もし、自分の能力の発現より“コンマ数秒でも早く”俺の拳が先んじていたら、城ヶ崎の腹に深々と俺の拳が突き刺さる展開になっただろう。

 今とは立場が逆転していた。

 にも、関わらず、城ヶ崎は奇襲を敢行した。


(これはただの奇襲じゃない……自分が返り討ちに合う可能性を踏まえた、覚悟ある奇襲だ)


 常人の精神では無理だ。

 自分の能力のほうが早いという才能への全幅の信頼がないと為せない一撃だ。


(これを平然と実行する胆力……これが城ヶ崎、才能にじゅんじる覚悟あるヒーローの戦いか……!)


 事実俺の攻撃は不発に終わった。

 君島優子の能力は顕現せず、中途半端な拳が城ヶ崎の左胸をかすめたのみだ。

「……弱い拳だ、これじゃあ俺に傷は付けられない」

 深手を負っている城ヶ崎といえど、容易にダメージは通らない。

 強化してない拳で打倒できるほどSクラスは甘くない。


(とっさに肩で避けたがマズイな、致命傷ではないが、このままだと……)


 追撃が来る。

 事実城ヶ崎の指先が一層輝く。


「とどめだ。変身名《輝き(シャイニング)》……」

(来るッ! どうするッ!)


 俺は瞬時に幾つもの対処法を揃える。

 それらをざっと走らせて俺は先刻保留した『秘策』を打ち出す決心をする。


(中途半端だが……、仕方ないッ!)


 だがしかし、想定外のことが起きた。

 震動。

 揺れ動く世界。

 止まっていた俺の身体が動き出したのだ。


「なにっ……!?」

「――――ッ!」


 驚く俺と。城ヶ崎。

 特に城ヶ崎は俺の身体を足場としていた関係から、その体勢崩す。

 対する俺も、城ヶ崎の隙に付け込む余裕は無く、突如動き出す肉体の制御に手一杯で、一身に、力強い重力を、受けながら――――地面へと急落する。急落する。急落する。


「ぅ、うわっ――――――――!」


 大地に激突する寸前にようやく受け身。しかし、痺れる衝撃は全身を伝う。


「~~~~っ!」


 気合で耐え、その場で一回転、肉体の確認をして、無事に安堵する。


(動けるな。問題ない、肩の痛みも戦闘不能になるレベルじゃない。しかし、何だ、どうして急に動けるようになった)


 痛みで拘束が解除されたのか?

 先刻まで俺の肉体は城ヶ崎の制御下にあった。

 完璧に。

 それが刃の痛みに動けるようになった。

 誤認攻撃が、衝撃で解除させたのだ。


「……なるほど、痛みを与えると、能力は解かれると。おそらく、肉体にかかる膨大な情報量の増加に伴い、誤認の力を修正したんだろう」


 うんうんと頷きながら城ヶ崎さんは大地に降り立った。

 その距離4~5メートル。

 対面する形になった。

 余裕ぶった口調にいらつきを覚える。


「……随分、余裕だな。今の隙に攻撃すればよかっただろう」

「ん?」


 すると、

 城ヶ崎さんは意外そうな顔をした。


「何を言ってるんだ。もう、攻撃は済んでいる」

「は?」


 すると、俺の四方八方に無数の光が出現した。


「はっ!?」

「変身名《輝き(シャイニング)》、君しては珍しい凡ミスだ。たった今、俺は君に『攻撃が終わったこと』を認識させた」


 城ヶ崎は右手で拳銃を撃つポーズを取った。

 バーンと放つ。

 俺は城ヶ崎の台詞の意味を理解する。

 俺が選択を誤ったことを理解する。


(しまっ……!)


「気づいた顔だね。そうだ。理解が終われば、発動は終わる。俺の力は必殺技みたいにコマンドになる台詞を叫ぶ必要はない。ただ、俺の語りが、俺の台詞が、君の認識を変えさえすれば、それだけで、爆弾を着火するトリガーのように、破壊は実働される」


 光が強まる。破壊の光。


「さて、認識は終わった。あとは結果だけが残る」


 爆炎が辺りを覆い尽くした。


「君の敗北が世界の結果だ」



  ◇◆◇◆◇◆◇◆



 完璧な文章など存在しない。完璧な絶望が存在しないように。

 これは現代日本でトップファイブには入るだろう著名な作家のデビュー作の冒頭だ。

 俺は中学時代にこのやけに薄っぺらい本を美月の部屋でパラ見した。

 要領の得ない気取った台詞だったが、妙に気に入って今の俺の中に浸透している。


 完璧な文章などといったものは存在しない。

 文章を書くということは、自己療養の手段ではなく、自己療養へのささやかな試みに過ぎないのだから。


 俺は今ヒーローとして戦っているが、この一週間地獄という地獄を見てきたが、何故か事あるごとにこの文章が俺の頭に浮かんでいた。

 完璧な文章などといったものは存在しない。それは完璧な救済が成立しないのと同じことだ。

 俺は、戦いという渦中の中で、多くのものを捨ててきた。

 すべて可能性という名を持つ未来だ。

 俺は、無限の可能性の中から、有限の選択肢を掴みとってきたのだ。


 さかのぼれないこの世界で、選択とは確定した事項になる。


 それは、完璧とはまでは呼べないが、それなりに悲劇的な絶望だ。

 この一週間で無数の可能性に触れて、俺は強く強くそれを実感した。


 要するに、俺は有限だ、という種類の絶望だ。


 別に特別な事じゃない。

 俗な例えを出せば、アニメ・漫画を好きだとしても、この世にある総てのアニメや漫画は見れない・読むことはできないって種の絶望だ。

 好きな女の子と仲良くなったとして、その娘と付き合ったとして、他の女の子と仲良くなって、付き合う可能性が失われるって種の絶望だ。

 別に難解な話じゃない。

 俺たちの人生には限りがある。

 終りがある。

 そういう話だ。

 どんなに人生の密度を濃くしても、限界はいずれ生まれてくる。

 何時かは終わる。遡れはしないしループはできないし転生はできない。


 悪魔に魂を売ったファウスト博士のようにこの世の悦楽と悲哀をすべて享受することはできない。


 俺は、小学六年生で美月に殺されて、すぐに生き返されて、色々ゴタゴタして、そして敵対して今がある。

 俺がヒーローを目指している今がある。

 それ以外の未来はあり得ないしすべては結果論だ。


 俺は違った世界を生きることはできない。


 仮に、この戦いに俺が負けたら、城ヶ崎が準決勝に突入して、決勝まで勝ち抜いて、美月を倒す展開があるかもしれない。

 美月が倒されることで、自分の強さから解放されて救済されるかもしれない。

 そんな世界もあるかもしれない。

 無限の可能性を感じ取るとはそういうことだ。

 それはそれであり得ると思うことだ。


(でも……)


 でも、俺はその未来を望まない。

 俺の選択肢の中にその可能性は表示されない。表示させない。

 非表示だ。


 俺は、俺の力で、美月を救済する未来を夢見る。


 それが選択だ。選択を決断する意志こそが覚悟だ。暗闇の荒野に進むべきを道を切り開くとはそういうことだ。

 無限の可能性から、有限の選択を掴み取るとはそういうことだ。


(険しい道だ。覚悟には何時だって多大な責任が付き纏う)


 それでも俺は希求する。

 美月を助ける俺の姿を。

 城ヶ崎を倒し、その先を進む俺自身を。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「だからッ! こんなところで負けてられないッッ!」


 叫び、能力を発動する。


「変身名《限定救世主リミット・セイバー》ッッ! 種類『英雄戦士ベスト・オブ・ヒーロー』ッッッ!!」


 瞬く光の剣、夜空の星より煌めく。


「うおぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」


 世界を超えろ! 強さを超えろ! 超克しろ――!


 叫びとともに、伸びる白銀、

 その切っ先は確かに斬り去り、

 強さを超えて、全てを超えて、あらゆる事象をあらゆる現象を超克して、


「――――っっっっっっっぁらッ!」


 俺は爆撃を迎え討った。


「か~ら~の~」

「やはり“消す”な。俺は、もうその展開に見慣れている」


 爆撃の半分は今の一振りで霧散した。

 だが、もう半分は――。


「変身名《限定救世主リミット・セイバー》ッ! 種類『戦闘美少女モンスター・ヒロイン』ッ!!」

「変身名《輝き(シャイニング)》――――君の大地は崩れ落ちる」


 闘技場が爆発する。

 崩落する足場。

 落ちる肉体。

 俺はエネルギーの触手を放ち城ヶ崎の額を狙う。


「く、ら、えぇぇぇえええぇっぇぇぇぇええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!」

「呼吸が乱れてるな。冷静でないなら俺には勝てない」


 超高速で伸びるエネルギーの触手が、城ヶ崎に直撃する寸前に、方向を変える。

 誤った方角に進む。何もない地面を削り始める。


「変身名《輝き(シャイニング)》、エネルギーの方向を“誤認”させた」

「うぉぉぉおおおぉおぉぉぉお――――解除ッ!」


 暴れて会場を壊す前に俺は能力を遮断する。

 重力に任せて落下する俺。視界に城ヶ崎を捉える。


「さっき君が俺にやった戦法だ。そして、俺は落ちた相手にも容赦はしない」


 城ヶ崎の指先が輝く。


「…………」

「穴に落とすとは動きを封じること。動きを封じるとは逃亡を封じること。逃げ場のない君は、俺の攻撃を受け入れるしかない」


 城ヶ崎の指先がより輝く。大きな音と、共に放たれる。


「通常の爆撃だと消されるからな。一風変わった、直接攻撃を仕掛けるとしよう」


 城ヶ崎はそう言って、爆撃で吹き飛ぶ瓦礫の一つ一つに糸のように細い光を飛ばす。

 まるで、命令を伝えるように。

 すると瓦礫は磁力で引きせられるように一つに固まっていく。


「変身名《輝き(シャイニング)》―――瓦礫を隕石だと“誤認”させた」


 振り下ろす城ヶ崎、その指先には俺の落ちゆく大穴がある。

 上空には熱持つ巨大な岩石。


「…………ッ!」

「変身名《輝き(シャイニング)》―――“ヒーローエネルギーの消滅”を認識しろ」


 破壊の質量が降り注いだ。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 だから、俺は秘策を打ち出した。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「変身名《限定救世主リミット・セイバー》」


 城ヶ崎に聞こえない声で言葉を紡ぐ。


「種類『世紀末覇者ミレニアム・キング』……っ」


 瞬間、

 俺の身体が大穴から消滅した。


「……これにて、終わりか」


 煙をあげる穴を見つめてつぶやく城ヶ崎。

 そのすらりとした長身の背中。

 見つめるのは俺の両目。


(……いくぞ)


 大穴にいたはずの俺の肉体。

 しかし今は城ヶ崎を見つめる。

 その間隔極僅か。

 真後ろ。

 至近距離。

 

 俺は強化した脚を大きく大きく振り落とした。


「――――《右脚》強化ッ!」

「…………っ!?」


 そして、城ヶ崎は即座に振り向き、ガードを受け流し、一気に距離を取った。


(反応早っ、予想していた、まさかっ?)


 驚く城ヶ崎と、舌打ちする俺。

 ざっと数メートル離れた場所で睨み合う。


「やはり。生き延びたか。まだ不思議なチカラを隠し持ってるか」

「変身名《限定救世主リミット・セイバー》……」

「来るか。俺の誤認の餌食になるがいい」


 構える城ヶ崎。

 しかし、俺は冷静。


(これだけ離れれば、城ヶ崎の指先は、誤認を行使できない)


 そして俺は、蹴りを引き戻すより早く、ブーストを噴射し台詞を叫び虚空に向けた右腕を放った。


「――――種類『世紀末覇者ミレニアム・キング』ッッ!」


 瞬間、俺の右腕が、城ヶ崎の背後から、現れるッッ!


「な、に……っ!」


 俺と城ヶ崎の距離はざっと数メートル。だが、俺の右肘から先は、城ヶ崎の背中側に存在していた。


「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおお……っ!」

「くっ、ぐっ……!」


 流石の城ヶ崎も避ける暇なく、両腕でガードする。

 耐えているが能力を発現する様子はない。


「どうだッ! 接近する過程のないゼロ距離ならばッ! 誤認攻撃の発動は怖くないッ!」


 さらに、この距離ならば俺本体は射程距離外。

 先刻のエネルギーの触手を伸ばした時、あの時にはもう俺は城ヶ崎の発動範囲を見極めることに成功していた。


「ぐ、ぐ、ぐっ……!」


 懸命に受け止める城ヶ崎。地面を引きずり、後退しつつも踏ん張るが。


「が、無駄! 追撃の――種類『戦闘美少女モンスター・ヒロイン』ッッ!」


 右拳から力が溢れる。

 膨大なヒーローエネルギーが放射され、拳とは別に城ヶ崎を襲う。


「変身名《輝き(シャイニング)》ッッ!! エネルギーの方向を“誤認”させ――」

「させるかぁッ!」


 その瞬間、伸びるエネルギーの触手が姿を消す。

 拳を受け止める城ヶ崎の背後。

 対応不可の箇所から攻撃が迫る。


「ぐ、ぐッ、……空気を壁だと“誤認”させるッ」

「壁ならぶち破る!!」


 エネルギー操作で拳が緩んだ一瞬を狙ったのだろう。

 城ヶ崎は咄嗟に迫るエネルギーに向けて防壁を張る。

 だがしかし、その程度の防御で揺るぐほどこの力は弱くない。


「うぉ、うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉおおぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉ――――ッッッ!!」


 伸びるエネルギーの触手。

 緊迫する俺の右拳。

 城ヶ崎も防御に全霊を尽くすが。圧倒的な攻めの前に。力の押しの前に。俺の執念の前に。


 ついに、屈服した。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 変身名《限定救世主リミット・セイバー》種類『世紀末覇者ミレニアム・キング

 自律変身ヒーロー最後の一人。

 終焉崎おわりざきまどかの世界改変能力。

 その応用系だ。


(俺は、限られた空間の中で、自在に存在できる!)


 要するに瞬間移動と思ってくれていい。

 物を飛ばすことはできないが、肉体の一部であれば移動可能だ。


(無論、この力を修得するためには、特殊な実験か、相応のヒーローエネルギーを終焉崎本人から貰う必要がある)


 俺の場合、後者。


(そう。俺はこの一週間――終焉崎円のもとで修行を積んだ)



  ◇◆◇◆◇◆◇◆



「――――ッッラァッッ!!」


 振り切り、振り抜き、俺の肉体は大地に落ちる。

 満身創痍。

 そう形容して間違いないほど、俺の肉体は疲労していた。


「……は、はは、頑張りすぎちゃった……」


 だが、その代償に俺は勝利を手に入れた。

 目の前では倒れ伏した城ヶ崎の姿。

 ヒーロー体こそは途切れてないが、超変身時の肉体の輝きが失われている。


「今度こそ……大勝利だ」


 会場内は拍手の嵐が降り注いでいる。

 先ほどより強烈な、スタンディングオベーション。

 あゆ、葉山、雄牛さん、狗山さん、猫谷さん、そして、美月も、皆手を叩いてくれている。


(ったく、余裕そうな顔してまあ……、少しは脅威に思ってくれると嬉しんだが)


 まあ、まだ力不足ということだろう。

 この試合では、美月に恐怖を植え付けることはできなかった。

 まだ、彼女と相対するのは実力が足りない。


(決勝までに、成長しなくては……)


 そう心に決める。

 俺は試合の最中でさえも、美月に勝つための努力を積まなければならない。

 まだ足りない。

 俺はさらにさらに強くならなければいけないのだ。


「……ともかく、今は」


 倒れた城ヶ崎がいる方を見る。


「この勝利を心から味わおう」


 城ヶ崎の姿は消えていた。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆



「変身名《輝き(シャイニング)》――――俺の肉体が無事だと“誤認”させた」



  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 城ヶ崎が立っていた。

 俺の前に。

 倒れていた場所にいたはずなのに、今は立ち上がり俺と向き合っていた。


「……まだ、動けたのか」

「俺は、俺の才能を見極めるために、この学園に入った。俺の才能が尽きるその瞬間まで、俺が倒れることはない」


 しかし、肉体はボロボロだ。

 誰がどう見てもこれ以上戦える限界を超えている。

 変身が解除されないのがおかしいくらいだ。


「城ヶ崎お前……」

「安心しろ。自分で自分の痛みを“誤認”させている。この能力が解除されるまでは、俺の肉体は全力時と変わらず駆動する」


 そう言って、決壊寸前の肉体とは別に、余裕そうないつもの口調で俺に向かい合う。


「そうか……『自己暗示』。けど、お前、それなら、肉体に痛みを与えれば」

「そうだ。俺の身体にかかった誤認効果は解除され、総ての痛みは認識され、俺は本来あるべきようにこの場に倒れるだろう」

「…………!!」


 平然と言い切る城ヶ崎。

 戦慄する俺などお構いなし。

 寸分の無駄のない構えで俺に指先を向ける。


「さて、新島君。先ほどの瞬間移動は面白かった。君島優子、美月瑞樹、と来たのだから、おおよそ予想は付いていたのだが、何分対処が追いつかなかった。他能力と繋げてあの力を発動するには、膨大な鍛錬が必要だろう。その努力、尊敬に値する」

「…………」


「――――だが、努力ではたどり着けない境地がある。俺がその力を見せてあげよう。正真正銘、最後の一撃だ。心して受け止めるがいい」


 そう言って、城ヶ崎の指先に集まる光。

 認識されてこなかった。見せてこなかった。隠していた城ヶ崎の本当の力が明らかになる。


「…………ッッッ!? な、なんだ、それは……」

「変身名《《輝き(シャイニング)》、戦闘中は攻撃のために隠しているエネルギーをこの指先に集中させた」


 俺は驚愕する。

 その尋常ではない輝きに。

 まるで、神々の持つ光のように、この世の総てを清める力を持つような、そんな聖なる輝きに。


「お、お前、そんな力を持ってるのに、使うことがないなんて……」

「元々、使う機会なんて、そんなにないさ。あまりにも単純すぎるパワーだからね。大抵は避けられて終わりだ」


 確かにそうだ。

 城ヶ崎の力はあまりに強力で、あまりに鮮烈で、下手をしたら君島優子のエネルギーに匹敵するそのパワーは、しかし、あまりに強力すぎるせいで、対戦相手を近づけることはないだろう。


「ちなみに怪獣にこれを使うと、その恐怖に逃げ出す。俺からすれば威嚇には使えるが、実戦で使うのには合わないかざりの技だ」


 だが、その飾りを城ヶ崎は、堂々と俺の前に振るう。


「だから、新島君。これは最後の一撃なんだ。君は、この一撃から逃げても、打ち返しても、どっちでもいい。何なら、英雄戦士の能力で消滅させてもいい。防御だけはオススメしないがね」


 まるで、選択肢を迫るように。

 あらゆる可能性を提示するように、城ヶ崎は問いかける。


「これは、俺という才能の権化から送る最後の贈り物だ。君は、逃げるのか、戦うのか、決めるんだ。俺の一撃と向き合い、答えを出すんだ」


 息を呑む音が内側から聞こえる。

 美しく立ち振る舞う城ヶ崎は、鮮烈の一撃を振るうべく今も輝きをあげる。


(最期に、何てことをしてくれんだ……)


 俺は選択を迫られている。

 無限の可能性を中から、有限の選択を掴み取る状況に置かれている。


(戦うか、逃げるか、……嫌な選択肢だぜまったく)


 しかし、俺は向き合い魂の高揚を感じだ。

 覚悟を決める機会だ。城ヶ崎は俺にそれを与えてくれた。


(心して、相対しよう)


 そして、最後の勝負が始まった。

読んでくださりありがとうございます。

次回、「第104話:ヒーロー達の一回戦/Aブロック 4」をよろしくお願いします。

掲載は7日以内を予定しています。

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