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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
123/169

第101話:ヒーロー達の一回戦/Aブロック

 城ヶ崎正義。

 変身名《輝き(シャイニング)》。

 輝かしい、目がくらむほどの才能のヒーロー。

 高校入学までは普通の公立中学に通う。


 中学三年の夏、地元が怪獣に襲われる。


 しかし、それは俺と美月の地元のような凄惨な事件ではなかった。すぐさま駆けつけたヒーロー達によって怪獣はすべて撃退された。

 だが、その時参加していたヒーロー――大平和ヒーロー学園教師の“月見酒シロ”の目に掛かり、城ヶ崎はその身をヒーロー世界に投じることになる。


 その才華は一瞬で覚醒する。


 学園随一のエリートクラスである“Sクラス”あらゆる才能をたぎらす異能集団の中で、城ヶ崎はより強烈で――より鮮烈な――まさに“輝き”の名に相応しい活躍をする。

 彼、すなわち、Sクラス。

 伝説のヒーローの娘として長年の積み立てのある狗山涼子、その対抗馬として同じく幼少期から鍛錬に勤しんできた猫谷猫美、はたまたこの世で最も強いヒーローの一人として謳われた自律変身ヒーローの美月瑞樹、彼女たち三人の実力にわずか“三ヶ月あまり”で追いついた奇跡のヒーロー――それが、城ヶ崎正義であり、彼が“輝き”という変身名を自らに付けた由来でもある。


『俺は、俺の可能性を試さずにはいられない。俺の才能が、伝説に匹敵するものかいどんでやる』


 城ヶ崎正義。

 ヒーローになるため生まれたとしか思えないその名“正義”の二文字を刻み彼は戦う。

 狗山隼人が自覚的に選び取った“正義”という刻印よりも深く、より輝かしく、城ヶ崎は正義を貫く。


(……まあ、結構卑怯な手をつかうがな、アイツ)


 俺の一回戦の対戦相手は天才の象徴。

 凡才の俺がジャイアントキリングを決めるには丁度いい相手であった。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆



 暗がりに四角の光が見える。


「ぅぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――っっ!!」


 声援がこちらまで聞こえてくる。心臓がバクバクする。力強さと熱気をともなって光から放たれる。


「さぁ、英雄戦士チーム、最終選考会、第一回戦最初の選手の入場です!!」


 鴉屋ミケの実況の声が聞える。後ろと前の両方から。機械の声と生の声で聞こえる。


(…………)


 俺はイメージする。

 ここから出た先のことを。

 戦いそして勝利するその瞬間までを想像する。


(……行こう)


 俺は入場口を目指す。

 暗く、冷たく、静かな闘気に満ちた“選手待機口ここ”から去って、光の先を目指す。


「頑張ってください、新島さん」

「ボクたちが力を貸したんです。負けることはありません」

「うん、ありがとう」


 見送る真白さんと式さんの頭を撫で前を進む。


 光が近づく。

 入る。

 到達する。


 闘技場のその中に。


「うおおおぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉおぉおおぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉお――――――――――ッッッッッッッッ!!」


「…………!!」


 驚愕、いや、否、圧倒される。

 その大歓声に。


「うぉぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉおおぉおぉぉおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉおおおおぉぉぉおぉぉ――――――ッッッッッッっ!!」


 ビリビリと。

 世界が百八十度変わった。


(……す、すげぇ、これは)


 視界一面に広がる人間の数、数、数。

 決して小さくないドームを包む人間の集まり、立ち上がり声を叫ぶ者たち、横断幕を広げる者たち、楽器を持ち出し構える者たち、応援すべく同色の服を着る者たち、そしてその他大勢の選手たちを見守る人たち、


(つーか、学外の人もメチャクチャ来てるじゃねぇか)


 その理由は、数週間前、理事長の狗山隼人が、俺たちの最終選考を多くの者に見てもらおうと、試合の“一般開放”を行った。

 普段見れないヒーローたち。

 その候補生たちの頂上決戦。

 それなりの人間が集まると予想はできていたが、


(ここまで多いとは思わなかった……)


 と、その数を見て、俺は思い直す。

 いや、いやいや待て、と思い直す。

 確かに学外の人が大勢いるのに気づいたのは今だが、しかし、人の数自体は開催時の状態と変わってない。

 この凄み、この圧倒は違う。大歓声だけに寄るものじゃない。 


(この感覚は一体……?)


 戦慄に違和感を覚えるのと、同時、実況者の声が響き、


「第一回戦はこの二人っ! 1年Dクラスの新島宗太選手と――」


 その瞬間。

 俺の視界はオートフォーカスを使ったように“一点に”集中される。

 あらゆる有象無象が形を失う。彼の、その姿のみを見つめる瞳となる。


(……ああ、そういうことか)


 疑問は氷解する。

 俺が圧倒された理由、歓声が高まった理由、それは試合前の高揚感に寄るものじゃない。俺の入場に寄るものでもない。むしろ、逆。その真四角に切り取られて真っ白に彩られた闘技場――その真ん中で堂々と立ち構える人物がすべての答えだ。そう彼、それは、


「1年Sクラス“城ヶ崎正義(じょうがさきせいぎ)”選手の対決ですッッッ!!」


 城ヶ崎正義だ。

 彼の登場が、俺を圧倒し、観客を熱狂させた。

 城ヶ崎はすでに準備を終えている。俺をその闘技場の上で待っている。


「よく来たね。新島君。ここが君の才能の終着点だ」

「城ヶ崎……正義さん」


 変身名《輝き(シャイニング)》。

 彼の輝きは観客を魅了して俺を圧倒した。

 天才ヒーローの才能がこの場にて解放された。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆




「さぁ~って、これから始まる第一回戦Aブロック、――城ヶ崎正義VS新島宗太ッ!! 解説のクロちゃんさんはどう思いますか!?」

「……私、解説なの? まあ、いいけど、単純な下馬評で考えたら城ヶ崎有利よね」

「そうなんですか?」

「そうよ……情報収集担当が聞いて呆れるわね……単純な生徒の紹介でいえば、Sクラスで成績優秀の城ヶ崎正義と、Dクラスで成績そこそこの新島宗太では、前者の城ヶ崎に評判が高まるのは当然よ」

「あー、紹介の時点で才能の差が明らかですね。可哀想に、アヒルの子はどうやっても白鳥にはなれませんもんね」

「……アンタ結構言うわね。まあ、そうね、二人とも変身を経験した時期は同じだけれど、その環境に大きな差がある」

「SクラスとDクラスですか」

「そう。この対決は良くも悪くも、Dクラス出身の新島が、どれだけ城ヶ崎にあらがえるかという点が見どころになるでしょうね」



「さあッ! 新島は城ヶ崎に勝てるのか!? 城ヶ崎は力の差を見せられるのか!? 第一回戦、まもなく開催ですッッ!!」



「新島君、あんなこと言われてるけど」

「ほっとけ」


 苦笑する城ヶ崎さんに憮然顔を返す。


「それよりも実況聞いて手を抜いたりするなよ。甘く攻めたら一気に叩くからな」

「ああ、それは大丈夫だよ」


 変身装置の指輪をはめて城ヶ崎さんは、


「俺は手など抜かない。全力で攻めて一瞬で決める」

「……それを聞いて安心したよ」


 迷わずに全力を出し切れるからな。

 俺も変身装置を腰に巻き準備を終える。


 と、そこへ、


「そーーーーーーーたくぅーーーーーーーーーんっっ!!」


 ガンッと頭に響く声。観客から聞こえる。

 振り向くと、観客席の一番手前で、あゆと葉山が手を振っていた。



「あーーーーーーーーーーゆーーーーーーーーーーーっっ!」

「そーーーーーーーーーーーたくぅーーーーーーーーーーーーーん!!」

「あぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーゆぅぅーーーーーーーーーーーーっっ!!」

「そぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーたぁくぅーーーーーーーーーーんっっ!!」



「元気だなお前ら」



 あゆの隣にいた雄牛さんがそう言いたげにため息をついた。


「どうやら、皆来ているようだな」


 城ヶ崎さんが指を後方に向けると、そこには三人のヒーローがいた。


(狗山さん、猫谷さん、……美月)


 狗山さんと美月は並んで、猫谷さんはちょっと距離を開けて座ってる。

 城ヶ崎さんサイド――その光景に心が少し動かされるが、


(そうか……Sクラスか)


 すぐ思い直す。

 ざわついた心が落ちつく。


「英雄戦士が気になるか?」

「まさか」


 首を横に振る。

 会話の最中も俺たちは変身を終えて試合位置につく。


「そうか? 俺は気になるぞ、美月のことが」

「は?」


 変な声が出る。

 素だ。

 再びざわつく心とはべつにミケさんのカウントダウンが始まる。


「覚えてるか? 俺は自分の才能の限界を試したいと言った。決勝に行きたい。あの英雄戦士と決勝で戦いたいと言った。あの伝説に勝って俺の才能を証明したいと言った」


 カウントダウンが進む。

 五を切る。


「だが、それだけじゃないのかもしれない」


 カウントが四を切る。


「彼女の戦う姿を見て、俺は何かとてつもない心の動きを実感した。言葉で表現できない。大きな、まるで見る世界そのものが変わってしまったような変化を感じた」


 三を切る。

 二を切る。

 会場が静かになる。


「俺はこの感情の正体を確かめたい。俺は、決勝に行かなければいけないのだ」


 一。

 闘気が満ちる。


「そう、もうしかしたら俺は――美月のことが好きなのかもしれないからな」

「…………!」


 ゼロ。

 城ヶ崎が消える。


 眼前から消える。気配がない。


「…………!!」


 存在がなくなり即座、背後から声が聞こえる。


「変身名《輝き(シャイニング)》――――“敗北”を、認識しろ」


 輝きが――――会場を包んだ。

 複数の爆裂。

 地上で花火が炸裂する。

 鮮やかな閃光。

 光のみが残る。


「……試合前、すでに“仕込み”は終えていた。動揺して隙だらけの君を倒すのはたやすい」


 爆発が連鎖する。

 城ヶ崎は余裕の笑み。

 苦しむ俺の姿を確認しようと前を見る。


「ふふっ……――――ッ!?」


 だが、そこに、俺の姿はなかった。

 驚愕、戦慄、その城ヶ崎の混乱を“認識”し、

 俺は、


「変身名《限定救世主リミット・セイバー》、右腕強化」


 拳を振り下ろした。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 美月の話で俺の動揺を狙ったか?

 百万年早いわ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「ッッ!?」


 思わぬ奇襲。

 焦る城ヶ崎は身体をひねる。

 だが迫る拳は避けきれない。


「くっ!」


 大地を蹴る。

 よろけた態勢を立て直す。

 軸を戻すが、


「変身名《限定救世主リミット・セイバー》、左脚強化、左腕強化」


 それより早く俺は攻める。


「……ちっ、変身名《輝き(シャイニング)》…」

「遅い」


 音鳴らす指を止める。

 右手で。

 パシンッ、と軽音。

 手前に引き寄せ、

 左手で城ヶ崎の喉元を狙う。


 槍のような手刀。突き抜ける。


「ぐぅ!」


 首が右に。

 間一髪で避ける城ヶ崎。

 手刀は空を切るが、

 即座に、


「変身名《限定救世主リミット・セイバー》、右脚強化」


 軸を作り、


「変身名《限定救世主(リミット・セイバー)》、種類『手刀弾カッター』」


 腰ごと回転。

 強化した左手が円上を滑る。

 城ヶ崎は後ろに避けようとするがこれはただの“手刀ではない”。


 エネルギー状のカッターだ。


 故に、放たれる、直進する。


「な、ん、おっ!」


 城ヶ崎の身体がこわばる。

 上体をそらし何とか避けようとする。


(だけど、その避け方は)


 隙だらけだ。


 俺は大地を踏む。

 空気を割る。城ヶ崎の目前。ゼロ距離で拳を沈む。



「ぐぅっ…」

「おぉっ…」


 声放ち、

 声漏らし、

 俺は、


「おぉぉぉぉぉぉぉぉっっぉおおおおおッッ!」


 力強く、叫びに変えて、


「おぉぉおおぉおぉぉおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉおぉぉぉ――ッッッ!!」


 俺は輝き、輝き、城ヶ崎正義よりも光輝き打ち付けた右腕から果てしなく光を放射してあふれる力を込めて込めて、


「うぉぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉおおぉおぉぉおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉおぉぉ――――ッッッ!!」


 襲われる反動、加わる衝動、負けじと返す俺の拳、踏み込む足はただ前に、雪崩れ込むように、流れ込むように、力を注ぎ、気合を入れて、

 定まる覚悟、決まる闘魂、瞳が燃えて、一瞬を見極め、俺は溜め込んだ勢いを最善の機会の刹那、その中で、

(今だっ!)

 拳に与え、吹き、飛ばすッッ!


「――――――――ッッッォらァッ!!」


 振り抜く感覚。

 得も言えぬ快感。

 城ヶ崎の肉体が闘技場から会場の壁まで吹き飛び激突する。


「…………」


 轟沈する。


「…………」


 靜寂する。


「…………ふぅ」


 会場内で、声を発する人間は、俺ただ一人だった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「…………」

「……起きろよ、城ヶ崎正義。お前がヒーローならこの程度でのびちゃいないだろ」


 壁に埋まり沈黙する城ヶ崎に俺はそう呼びかける。

 人形のように動かない城ヶ崎は何秒かのち、


「…………ぉ」


 聞こえるか聞こえないか微妙な声で、つぶやき、


「――――変身名《輝き(シャイニング)》、“崩落”を認識しろっ!」



 同刻、俺の足元が輝き出した。


「おっ!?」


 輝きは肥大し、爆発に変わる。


「おおおおぉおぉ!?」


 真っ赤な爆炎があがる。


「……ふ、ふふっ、甘いね、新島君」


 城ヶ崎はボロボロの身体を押して前に歩く。


「ここでとどめを刺さないのは、戦士として失格だよ」


 その口元には微笑。

 安堵の笑み。

 爆炎が燃え盛るのを見つめて、そう言う。


 ああ、そうだ。


 俺は同意する。


「確かに、ここでとどめを刺さないやつは、戦士としてあまちゃんだよ」


 俺は声に出す。

 城ヶ崎に戦慄が走る。

 咄嗟に振り向く。


「だから、今回は、奥の手を残させないため、“わざと”奇襲を行わせた」


 城ヶ崎は振り向いた。

 だが、そこには壁しかない。

 俺はそんなとこにはいない。


「上だよ。攻めるといったら空からだろ、常考」


 城ヶ崎は上を向く。


 向いたから――――俺は“下”からスカイアッパーを決めた。


「…………っっ!?!?」


 浮き上がる城ヶ崎。

 落ちる前に俺は強化した脚を彼にぶつける。

 強烈なハイキック。

 城ヶ崎は吹き飛ぶことなく地面にたたきつけられる。


「…………」


 沈黙。

 俺は息を吐く。

 今度は本当のことを言う。


「自分で自分の場所を教える人間がいるか。翻弄されてんじゃねーよ、バーカ」


 俺は両手を鳴らし彼を見下ろす。


「おら立てよ、城ヶ崎。全力で仕掛けて、一瞬で決めてやるからさ」


 起き上がろうとこちらを見据える城ヶ崎。

 その瞬間を見計らい俺は拳を振り下ろす。

 轟音。


「変身名《限定救世主リミット・セイバー》、種類『戦闘美少女モンスター・ヒロイン』」


 拳は二メートル強にまで巨大化する。

 城ヶ崎の身体ごと地面に大きな穴を作る。


「だから、とどめを刺さないヤツはあまちゃんだって。……お前が言ったんだろ?」


 会場が歓声で沸いたのは、それから五秒後のことであった。

次回「第102話:ヒーロー達の一回戦/Aブロック」をよろしくお願いします。

掲載は5日~7日以内です。当分はこのペースが続くかもしれません。

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