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第99話:運命動乱/そして彼女は世界そのものになった。

 達した。

 そこが私と彼の収束点だ。

 運命の巡り来る未来の果てだ。


「―――――ゃんっ!」


 切れそうになる喉、暗転し反転し明滅する視界世界、脚は筋肉疲労でも起こしたように痛みを破裂させ私のリアルを象徴する。


「ーーーーーーーーぅちゃぁぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁあんんんっっ!」


 滲むすべてが私の殻を打ち破る。セーフティも環境配慮もふっ飛ばして決め打ちで私はハードコーティングをかます。変身装置はすでに私を阻害する枷以外の何物でもない。開放して、解放して、私は轟ッと宣言放つ。


「明示的宣言:変身名《生死遊園ライフゲーム》→超変身、継承オーバーライド……っ!」


  せいしゆうえん

 →えいゆうせんし


「明示的変身:自動変身オートから手動変身マニュアルに、自律変身――始動!」


 数年ぶりの超変身。


 私の無我とは別個体の如く、遙かなる天上から見下ろすもう一人の私が嘲笑した。


 はんっ、これにてしまいか。


 うるさい、うるさい、うるさいっ!


 私は飛んだ。くるりと砂の塵を泳ぎその奥にいる怪獣ジャバウォックをすたりと嬲る。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――ッッッッッ!?」


 どうやら、彼は右腕を私に向けたようだ。

 ふんっ。

 無駄なことを。


 いかなる豪腕だろうと、

 その右腕がどれだけの絶望を生み出そうと、

 私の前では、ただの、肉の塊だ。


 心の肉の、集まりだ。


「――――“吸収”」


 恣意的に眼光をギラリと斬らせる。

 怪獣の轟砲が辺りを覆うが、いかんせん、支配力が足りない。


 それじゃあ、“世界そのもの”には通用しない。


(…………ふんっ、他愛もない)


 私に喰われ、喰われ、残りかすとなった、怪獣どもを、私は輝きで滅する。

 後片付けを終えるように、私は幾分の充足を心の僻地に置いて、戦闘の終焉を判断する。


「…………」


 大地に降り立つ。


 静かに、その名を、告げた。


「一年Sクラス――――美月瑞樹、変身名《英雄戦士ベスト・オブ・ヒーロー》……!」


 終わりの始まり。

 最後に出てきた言葉は存外に月並みなものであった。



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 二次試験が始まった。

 私たちはバスで揺られ、目的地についた。

 地下迷宮――“神葬の金字塔”、黄金に輝くピラミッドが私たちを圧巻した。


「“神葬の金字塔”へようこそ。若きヒーロー達に、黄金のご加護があらんことを!」

 

 緋色のツインテールをなびかせて、入り口を示したのは鴉屋ミケさん。

 変身名『狂騒記者ジャーナリズム』によって、自らの肉体を“記号化”して書き換えることのできる彼女。もとは、鴉屋クロさんの分身体である彼女だからこそ、できる奇跡だろう。


「いらっしゃ~い、ようこそ、ご入店してくれました~。私は二次選考の試験官を務めます――二年Bクラス担任の月見酒シロと申します~、といっても皆知ってるかな?」


 ピラミッド内部に入ると、シロちゃんがいた。

 彼女は真っ赤なソファに座りながら、私たちに試験開始の有無を尋ねた。


(シロちゃんが、この試験の監督者?)


 地下迷宮のサバイバル。

 なら、広域監視能力を持つ彼女がこの試験を取り仕切るのは当然か。

 でも、だとしたら、彼女はこの試験に“どれくらい”介入してきているのだろう。


(試験の大枠は狗山隼人の企画だけど、細部の詰めは、鴉屋さんや他の先生方の手に委ねられている。シロちゃんはこの二次試験のために、何かしらの『準備』をしてきているのだろうか……)


 こっわいなぁ……。

 嫌な予感をひしひしと感じてると、地面が大きく揺れ、やがて、デスラー総統の仕掛け罠のように穴が私たちの足元に出現した。


(落ちる――――)


 参加生徒が分散される。

 なるほど。

 私は納得し、抵抗はせず、下に落ちていった。



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 二次試験は、怪獣狩りとヒーロー狩りがコンセプトの試験だった。

 第一層についた私は、シロちゃんからの放送を聞き、説明通りに腕輪の挙動を確認した。


(3時間内に高得点を獲得して、最終層にあるゴールを目指す、か……)


 やけに長いな。

 ヒーローの戦闘時間は、一般的には30分。それ以上かかる場合は、他のヒーローに交代するのが通例だ。授業でも、あまり長時間の戦闘は実施してないはず。


(おそらく試験途中でのエネルギー切れは必須……いや、気絶することを前提としている)


 いやな感じ。

 シロちゃんの嫌らしさがにじみ出たゲームバランスだ。


(……けど、怪獣の実力もわからないし、何より最終層までの距離もわからない。まずは、探索してみますか)


 右も左も土壁、土壁、

 本当のピラミッド中もこんな感じなのかな、そう思いながら私は歩き出した。


 ・


「……まだ、続けますか?」

「いえ、残念ですが、今回は諦めます」


 第二層を目指す扉の前で、人型式さんが敗北を認めた。


「階段前で待ち伏せとは考えましたね。ここなら確実に生徒が通りますし、あなたのいうところの“補給”にも最適です」


 人型さんを岩壁に貼り付けながら、そう言った。

 ついでに、彼女が操る数体のヒーローも一緒に。


「ふふっ、それもそうですが、ボクの目的を果たされました。この場所で待ち伏せたのもすべてそのため」

「目的?」

「貴方と戦うことですよ――《英雄戦士ベスト・オブ・ヒーロー》」


 人型さんは拳銃の引き金を絞るような目つきで私を見据えた。


「他者のエネルギーを喰らい尽くし、自らの力と成す戦闘スタイル。あらゆる人間の意志をもとに駆動する最強のヒーロー。私の目指す姿です。ましろんが、真堂真白が君島優子モンスター・ヒロインを信奉するように、私は貴方を尊敬しているのですよ、――美月瑞樹さん」



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 物語は、加速する――。


 語ることはあまりない。

 今の私は、終わりに向かって突き進む一つの光だ。


 第二層に降りると、涼子ちゃんと出会った。

 正確には、人型さんから(物理的に)教えてもらったんだけど。

 彼女と出会った私は一緒に進むことにした。


「おお、美月ちゃんじゃないか! 一緒に進もうじゃないか!」

「うん」


 この時点で、試験時間は1時間くらい経過していた。

 ポイント数は、400くらい。涼子ちゃんも同じくらいだった。


「怪獣の絶対数がさほど多くない。おそらくポイント数は重要ではないな」

「うん。たぶんゴールに進むだけで、大半の生徒は脱落すると思う」


 この頃になると、ほとんどの生徒はゴールに辿りつけないじゃないかと思えてきた。

 みんな、途中で脱落する。

 この試験で意識すべきは、ポイントの獲得ではなく、ゴールへの到達。

 私たちがそう確信めいた思いを抱いていると、前方から――白煙がやってきた。


「……美月ちゃん」

「安心して、涼子ちゃん。いざとなれば、私が戦うから」


 自分でも笑っちゃうくらい強気な発言。

 好きな子の前では、私もこんな台詞が吐けるのだった。


 ・


「なるほど、葉山くんの支配はそこまで広がっているのか」

「ああ、正確には、葉山の能力を、赤井大地/青樹大空の二人が強化した結果だ。密閉されたこの地下遺跡において、彼らはまさしく無敵のヒーローになっている」


 葉山くんとの対決後、私と涼子ちゃんは、神山仁/高柳城と名乗る二人のヒーローと共同戦線を張った。

 葉山くんを倒す力はあるけど居場所の分からない私たちと、居場所は分かるけど倒すことのできない神山くんたち、お互いのパーティの利害が一致したのだ。


「そういうことなら、私たちも手を貸そうじゃないか。なあ、美月ちゃん」

「うん、それでいいと思う」

「ありがとう、狗山涼子が味方につけば、葉山の包囲網を突破することも可能だ」


 神山さんと涼子ちゃんは、握手を交わした。

 私もしたほうがいいのかな。

 高柳さんと目が合い、どうしようかな、と逡巡していると、


「――仁、近くにヒーローがいるぞ。葉山に倒されたばかりだ」

「本当か? まだ第二層に降りてこれるヒーローがいたとはな」


 面白いな、仲間に加えようか。神山さんは葉山討伐に向けてそうつぶやいた。


「もし、よければ、私たちが見に出ようか?」

「構わないのか、狗山さん」

「なに、ちょっと外に出るだけだ。それに私たちなら、簡単に倒されない。なあ、美月ちゃん」

「うん」


 私たちの探索が決定した。

 もしかしたら、涼子ちゃんは、なんとなく予感してたのかもしれない。

 探索を始めて数分後、


「…………あ、そーちゃんだ」


 私は、そーちゃんと再会したのだ。

 


 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------


 葉山くん討伐を目指していた私たちは、第三層の階段で待ち構える葉山くんたちと決戦をすることになった。


「――新島君、瑞樹ちゃんっ!」

「オーケー」

「いつでも」


 涼子ちゃんの指示に合わせて、私たちが前に飛ぶ。


「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》、種類『受け継ぎし者インヘリット・ザ・ヒーロ』――――絶対に斬れる前肢ッ!』

「変身名《限定救世主リミット・セイバー》、種類『救世剣』ッ!」

「うわっ……変身名《生死遊園ライフゲーム》……吸収っ!」


 三人一斉に攻撃する。

 目の前の白煙――葉山くんの発した高密度の煙を打ち破るために。


(ははっ……なんだこれ)


 だが、私の心境は別のところにあった。

 狗山涼子、新島宗太、そして、私。

 三人が同じことしてる。私は思わず、目をつむりたくなる。


「……なんだか皮肉めいてるなぁ」


 言わずにはいられない。


 絶対に斬れる前肢も、救世剣も、どっちも私の能力をもとにしたものだ。

 私が、これまでの人生の過程で産みだした代物が、この戦場で踊ってる。


 こんなの皮肉以外の何物でもない。


(なんて、因果だろう……)


 まあしかし、そもそも因果なんて言い出したら、随分前から、私の運命は奇っ怪なところに来てる気がするが。

 心の中で、嘆息し、前方から襲い来る白煙の波を、完全に消滅させた。


 ・


 葉山くんたちに勝利した私たちは、神山くん/高柳くんと別れた。

 そして、新たに川岸あゆ/山車雄牛ペアと合流を果たしたのだった。


(今日だけで、いろんな人と出会った気がする)


 戦いに来てるのに、何だか不思議な感じだ。

 敵とも、味方とも、いえない、この妙な連帯感は何だろう。

 私は答えを出せずまま、


「BRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR――――ッッッ!」


 広間に大きな叫びが轟いた。


「爆滅ッ、完了ッッ!」

「これにて終了だ。――振り返る、必要はない」

「これが、伝説の力だ――ッッ!」


 川岸あゆ、山車雄牛、狗山涼子――三人のヒーローが燃え盛る炎を背景に戦いから帰ってきたのだった。


「つえー」

「つえー」


 そーちゃんと二人と並びながら、しばしの幸せを感じた。


(このまま何事もなく二次試験が終わればいいけど……)


 私の願いは容赦なく壊された。


 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 それは何気ない会話だった。


「……バンダースナッチ? 何だそれは?」

「ああ、例の『Sランク怪獣』の仲間だよ。アイツって一体で出現するんじゃないんだ。バンダースナッチっていう怪獣を大勢引き連れてやってくるんだ」

「ふーん、雑魚キャラとたくさん連れてくるボスキャラみたいな感じか」

「まあ、ランクAだけどな」

「げ」

「雑魚じゃないよー、超つよいよー、速すぎて私の砲撃全ッ然当たらなかったしー」


 日常のような会話。

 楽しげな会話。

 高校に入ってから、私が何度も何度も繰り返してきた、繰り返すにふさわしい、幸せの象徴のような会話。


 なのに、――どうして、こんなに息が詰まるのだろう。


(ああ……)


 私は悟った。

 「バンダースナッチ……?」と言葉をもらし、そして、自分の発言が馬鹿らしくなるくらい、すべてを理解した。


(月見酒、シロ……)


 私はこの場にいない彼女の名を思った。


 なぜ、二次試験の開催地が、外部から遮断された地下遺跡であるのか。

 なぜ、この試験の監督者に月見酒シロが選ばれたのか。

 3時間という無駄に長い試験時間に、とってつけたような得点システム。

 暗躍するCクラスの研究者たち。

 幼馴染との必然的再会、共闘。

 ヒーロー同士の本気の戦い。

 そして、最終層の怪獣ジャバウォック。


(最後は、四年前の再現か……)


 おそらくすべては私のため。

 嫌なくらい容赦なく、ウザったいくらい腹立たしい、お節介。


(覚悟を、決めろってことか……)


 私は終わりを確信した。



 ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



 要するに、仕組まれたものだったのだ。

 怪獣ジャバウォックを、私が超変身で倒すという脚本を、あらためて想定して、この二次試験は作られていたのだ。


 別に驚くほどのことじゃない。

 もともと、英雄戦士チーム選考会は、私を超える人間を探すためのイベントだ。

 今の私の力を調べ、また、周囲に見せつけることで、この大会本来の目的を果たそうとするのは、むしろ自然の成り行きだ。


 大抵の人間は、歴史なんかに興味が無い。

 私はどちらかというと過去の人で、その力を知る人なんてわずかだ。


 だから、この場を持ってして、力を見せつける。


 先生や研究者たちの立場からしても、今の私の力が、超えるにふさわしいものか知っておきたい。

 思い出補正ではなく、本当にすごいものであったのかどうかを。

 授業ではまったく本気を出さず、普段は、別の変身名を使用して、生活を送っている私の力を。


『……すみません、さすがにお強いですね。美月さん』


 紅先生の驚き。

 私はいつの間にか、まるで世界の象徴みたいになっていた。


(まったく、こんな言い方、したくないのに)


 まるで自慢してるみたいで、傲慢で、高慢で、不愉快なのに。

 でも、いわなきゃ、いけない。それが、ある種の真実というものらしいので、


(私を本気にさせるため、この二次試験は仕組まれていた……)


 さっきから、涼子ちゃんが心配そうな目をしている。

 申し訳ない。

 笑うが、それも乾いた笑いになってしまう。

 そして、涼子ちゃんは、そういう私の気づいて欲しくない心の変化を敏感に察知してしまう。普段は鈍感なくせに。


「おい、美月なんか困ってることでもあるのか……?」

「……べつに、なんにもないけど……?」


 そーちゃんも何か感じ取るものがあったのか、私に近づき話しかけてくる。

 遠くで、川岸さんたちと話してたのに、わざわざこっちまで来て。

 ああ、ちくしょう。


(みんな優しいなぁ……)


 私は唇を噛み締めて、言葉を閉ざす。

 せめて、戦う姿だけは、見せたくない。

 この二次試験を仕組んだ者たちへの反抗として、また、純粋に心の底から、そう思えてくる。


「KRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッッッッッ!!」


 だけど、もう終わり。

 聞き覚えのある声が地下遺跡を揺らした。

 バンダースナッチの声だ。


 四年ぶりだろうか。一瞬でわかるとか、私の記憶も優れるもんだ。


(さて、始めるか……)


 私の、私自身の戦いを。

 すべてを終わらせる戦いを――。


 

  ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------



「――承知した。私でよければ全霊を尽くそう」

「……うん、ありがとう」

「礼は要らない。私の力はもともと貴方のものだ。貴方がそれを使おうが一向に問題ない。例えそれが世界の終焉を見ることになろうとも、私は貴方の隣にいるさ」

「……ばか、そこまではさせないよ」


 駆けたその先で、バンダースナッチを狩った。

 何体狩ったかわからないくらいの数を狩った。

 もちろん、私は、本気を出す気なんて、決してなくて。

 この戦いを仕組んだやつらの思い通りになんかさせるかって、意地になって。


 でも、だからこそ、戦いは至難を極めた。



「……はぁ、はぁ、きっつ。なんで私、縛りプレイしてるんだろう」

「あまり無理するな、第二陣が来るぞ、美月ちゃん」


 私たちは迷っていた。

 いつまで経っても、怪獣ジャバウォックは現れなくて、


「ジャバウォックは?」

「――見当たらないな。陽動の可能性も考えたほうがいい」


 涼子ちゃんはそう告げた。

 私は頷いた。

 ありうる。


 これだけ探しても現れないとすると、もしかして、別の場所にいる可能性も――。


「もう、何十分も経ってるよね」

「ああ、そうだな」

「時間ないよね」

「すまない、私が力不足なばかりに」


 いや、謝られても仕方ないのだ。

 涼子ちゃんも混乱している。普段の彼女なら、絶対こんなネガティブなことは言わないはずだ。


「美月ちゃんの力になりたいのに、私は貴方の寂しそうな顔なんて二度と見たくないのにっ」

「……ううん、いいんだよ」


 弱っている。

 お互い、摩耗していた。心も、身体も。


 そんな時、現れた。


 彼女が。


「よお、おめーら、疲れてるなぁ!」


 巨大な光の柱――吹き飛ぶ、岩壁の向こうから。

 見せる姿、優美的。


 1年Sクラス、変身名《記録式猫ストレージ・キャッツ》、猫谷猫美さんだった。


「猫谷さん……」

「キャット……、どうしてここに?」


 光の矢を放った猫谷さんは、それに答える意味があるか?といいたげに、右方向を親指で指してこう言った。


「私の中には、変身名《サムライ》が入ってる。精度は低いが案内くらいはできる」


 バンダースナッチの援軍がくる刹那、彼女はこう言った。


「この先で激しい戦闘のエネルギーを感じる。美月、おめーに似た力があるぞ。まるで、燃え尽きる前のロウソクみてーに輝いてる」

「!」

「……急ぐぞ、時間はあまりない」


 事実、時間は残っていなかった。

 地下遺跡を駆け抜けた私たちが目にしたのは惨劇だった。

 また、失敗した。

 私はそう思い、力を解放すべく自らの枷を取り外した。


 場面は、冒頭へと戻る。



  ----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------


 

「…………美月、ちゃん……」


 戦いのあと。

 涼子ちゃんが悲しそうな顔をして私に近づいてきた。


「私は、初めてあなたに助けてもらったときから、ずっと、美月ちゃんを助けたいと、美月ちゃんの寂しさを埋めてあげたいと……」


 私より辛そうな様子の彼女に優しく微笑み、猫谷さんに告げる。


「猫谷さん、残り時間はどれくらい?」

「……ん、あと10分もねぇな」

「そう……」


 私は死屍累々としか形容できない光景を気にせず眺め、その先にある大穴を見つめた。


「あそこが、最終層のゴールだよね」

「ああ、確かにそうだが、でも、いまさら」


 ゴールなんて。

 猫谷さんの気持ちはわからないでもなかった。

 この光景を前にしては、試験の動向なんてどうでもよくなってしまうだろう。


 しかし、私は。


「ゴールしよう。涼子ちゃん、猫谷さん」


「……うん?」

「はぁっ!?」


 うまく返事を出せない涼子ちゃんに、驚いて頓狂な声を出す猫谷さん。

 けれど、私は冷静に、この中で誰よりも冷静に言葉を紡ぐ。


「試験の合格条件は、最終層のゴールにたどり着くことだよね。その中で得点の多い上位8名の生徒が最終選考に行けるって。なら……」


 私は周囲を見渡した。


 葉山くん。

 城ヶ崎さん。

 川岸さん。

 赤井さんに青樹さん。

 山車さんに、……知らない人。

 桃さん。


 そして、そーちゃん。


「今すぐにでもゴールすべきなんだ」


「でも……」


 何か言おうとする涼子ちゃんの言葉を私は遮る。私はそれよりも早く行動に移す。

 私は自らに内在するエネルギーを――膨らませる。

 まるで、無数の触手のように、私の身体から、ヒーローエネルギーが生まれる。


「……アホみたいにでかい力だな」

「これでも君島さんには勝てないけどね。さて、精密操作は苦手なんだけど」


 そういって、この部屋にいる人、全員を持ち上げる。


「美月ちゃん、何を……?」


 尋ねる涼子ちゃんに、私は当たり前だと言わんばかりの口調で答える。


「だから、ゴールするんだよ」


 総人数8人。

 この部屋に倒れた生徒全員を軽く見て、私は答える。


「ただし、“みんなで”ね」



 英雄戦士チーム選考会、二次試験、最終層ゴール到達者:11名。

 うち、得点数上位8名が最終選考に残る。

 最終選考参加者は、各人の腕輪を回収後、集計を行う。

 後日、発表されるまで、待たれし――。



 私の名前は美月瑞樹。

 ヒーローの世界に降り立った絶対者。

 皆の努力を踏みにじり蹂躙する世界そのもの。

 変身名は、英雄戦士。

 あらゆる攻撃を無効化し、吸収して、強化する。

 他人の頑張りを、自分の成果のように喰らい取る超越的支配者。

 この私に並び立つ者はいるのだろうか?




 二次試験終了から一週間後、6月23日の土曜日。

 英雄戦士チームの最終選考会が始まった。





(――第六章 WORLD編――END)

(――――次章に続く)

 ここまで読んできたすべての人に感謝を込めて。

 次回、最終章となります。

 掲載は少し時間を置きます。一週間から10日ほどお待ちいただけたら幸いです。

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