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「・・・全隊員に告ぐ、全隊員に告ぐ。
現地時刻午後12時17分現在より本作戦を開始する。
作戦内容は次に挙げる対象の殺害および死体の回収、対象は・・・」
司令官らしき男の老け込んだ顔がより険しくなる。
「対象は屋内に潜伏している模様。いかがいたしますか?」
若いオペレーターが男の指示を仰ぐ。
「突入しろ。対象の抹殺は最優先事項だ。
民間人への被害もやむをえない。狙撃手の配備は?」
「完了しています。バックアップチームも待機済みです。」
「よし、映像回線を繋げ。」
「了解」
中央のモニターに、作戦現場の風景が映し出される。
森の中らしき場所に陰気な雰囲気の小さなビルディングがぽつんと建っている
不気味な風景だ。
『―――こちら突入部隊。いつでも突入できます。』
男は時計を伺う。秒針はちょうど12時を回ろうとしていた。
「作戦開始5秒前、4、3、2、1・・・」
「行け!」
男の号令と共に部隊が建物の中へ勢いよく駆け込む。
『・・・一階クリア。二階を捜索・・・あっ、ぎゃあああぁぁ!』
スピーカーを通して部屋の中に響く銃声と断末魔。
「映像回線途絶!」
「おのれ・・・何をしている、バックアップを投入しろ!急げ!」
『・・・こちらバックアップ。先行は全滅・・・
何だこいつは・・・撃て、撃てっ!・・・うああぁぁっ!』
「何だ!?どうした!?応答しろ!」
「バックアップチーム応答ありません!」
狼狽する男。通信が入る。
『こちら狙撃斑。敵性を確認。射殺する。ぬっ?』
「どうした狙撃斑?」
『姿が消えた?・・・ぐ、ぐああ!は、離せぇ・・・』
「狙撃斑、通信途絶。部隊は全滅した模様です!」
「クソッ、何なんだ!」
「本部長、画像の解析が完了しました。」
「よし映し出せ・・・こいつは・・・エージェント「テル」!」
「本部長、狙撃斑から通信です!」
「部隊は全滅したはずでは・・・?」
「・・・構わん。繋げ。」
『―――よ~ぉ本部長。聞こえるかー?』
「・・・何のつもりだエージェント・テル。
自分の会社の部隊だと知ってて攻撃しただろう・・・!」
『知るかボケ。俺の顔も知らん末端の人間なんていちいち知らねーよ。』
「・・・そこで何をしていた?」
『同僚の尻拭いだよ。長期休暇を返上してなぁ!』
「同僚の尻拭いだと?貴様、誰の命令で動いている?」
『会長様だよ。』
「あぁ、くそ!また会長が勝手に!」
『いいのかよ俺の前で会長の悪態なんかついて。言いつけてやるぞー?』
「対象は・・・奴はもう始末したのか?」
『奴じゃなくて奴らだ。奴ら、増殖してやがるぜ。一体逃がしちまった。』
「何!?」
『怒鳴るなよ、おたくらが邪魔したせいだよ。』
「はあ・・・では始末した対象の死体だけ回収してくれ。」
『この間抜けなアンタの部下どもはどうすりゃいいんだ?ほっといていいのか?』
「処理班をまわす。貴様は処理班と一緒に帰って来い。死体を忘れるなよ。」
『逃げた奴はどうする気だ?』
「別のエージェントに始末させる。」
『俺には引っ込んでいて欲しいんだな?俺の代わりには誰が来るんだ?ニコライか?
それともヤンか?』
「誰だっていいだろう。それよりも貴様、私の部下を死なせた責任は重いぞ。」
『おいおい、そりゃあないぜ。これは正当防衛だ。
今度頼み聞いてやるから許してくれよ。』
「・・・いいだろう。その言葉忘れるなよ?」
『へーい。』
エージェント・テルは通信を切ると肩に担いでいた血まみれの西洋剣を地面に突き立てる。
「・・・これでよかったのかよ?」
そうテルが虚空に向かって問うと背後の物陰から返事が返ってくる。
「ああ、上出来だ。これでまた一歩目的に近づけた・・・フフフ。」
野太い男の声だ。
「ふーん・・・まあ俺は金さえもらえりゃ何でもいいんだけどよ。」
テルは口の端を吊り上げる。
「エージェント・テル、もう一つ依頼をしてもいいか?
もちろん、報酬は追加する。」
「なんだよ。」
「それはな―――」
辺りには正午の穏やかさが横たわっていた。
そこは死んだように静まりかえっていて、ひたすら真っ青だった。
説明不足すぎる・・・でしょうか?