6
町中にも死体はたくさんあったが、
こんなへんぴな所にぽつんと一人だけで倒れているなんて何だかおかしい。
僕はその倒れている人をまじまじと観察した。
黒いスーツを着た若い男の人だ。覗く横顔は西洋人のように見える。
彼は地面の上に突っ伏してぴくりとも動かない。
「死んでるのかな?ねえ姫榁?」
「分かんないわよ。」
脇を通り抜けようにも狭すぎる。
もし彼がゾンビだったら足に食らいついてくるかもしれない。
僕は意を決して木の枝でその男の人の足を軽くつついてみた。
(ゾンビじゃありませんように・・・)
直後、
「ォオオオオオオオオォォォォッッッ!!!!」
「!」
「!?」
それは僕らの行き先の奥から聞こえた。
僕は心臓が飛び出るかと思った。
姫榁は身構えたまま硬直している。
「逃げる?逃げる?」
「う、うん、行こ、戻ろ。」
言うが早いか僕たちは一目散に駆け出していた。
何かが追いかけてくる。
僕のすぐ後ろで、巨大な何かが狭い山道の上を窮屈そうに走っている。
振り向く余裕もなく、この目で確かめられるわけではないが、分かる。
「はあ、はあ、」
僕は全力で走っている。上り坂がきつい。
姫榁はもうだいぶ前の方を走っている。
(姫榁ってあんなに足速かったっけ?)
姫榁の姿はどんどん小さくなり、やがて森の闇の中へ消えていく。
(姫榁、待って、待って!)
僕はいつの間にか道をそれて
藪の中に分け入り、斜面を滑り降り、ねじくれた倒木を跨ぎ、
気づくと―――
「ここって・・・どこだ?迷子になったのか?僕は・・・いや・・・」
なんとかあの咆哮の主からは逃げ切れたものの、今度は遭難してしまった。
(ここは小さい山だ、適当に歩いていれば出られるだろう。)
僕は上を見上げた。
木漏れ日が眩い。今日はとてもいい天気だ。
「はあ、一体僕はこんな所で何を・・・」
寝るにはいい日だ。
(だいたいさあ、おかしいんだよ。なんだよゾンビって。
姫榁がいつもやってる何とかってゲームじゃないんだぞ全く。)
「今日は日曜日だってのに・・・」
上り斜面を這うようにして進む。さっきからため息ばかり出る。
(今日は夕方まで寝ようって決めていたのに、何でこんな山の中一人で
歩いてんだよ・・・変な化け物には追いかけられるし。)
「ああ、面倒くさいなあ・・・歩くの疲れたし。」
明日は月曜日だ。学校はあるのだろうか。
さすがに休みになるだろうとは思うが、学校についたら念のために聞いておかなくては。
(あ、何かある。)
それは金網だった。かなり年季が入っている。
「登れそうだな・・・」
僕は金網の目に足をかける。
(この金網を越えて僕は一体どうするつもりなんだ?
・・・まあいいか、進めば何かあるさ。)
「よいしょ・・・と」
登ると僕は金網の上から向こう側に飛び降りる。
二階から飛び降りたのに比べれば簡単なものだ。
(それにしても何で金網がこんな所に・・・)
それからは奇妙にも平坦な地形が続いた。
(なんだ?何かあるのか?建物が・・・)
冷たい風が吹き抜けるうっそうとした茂みの中から巨大な図体の建物が姿を現した。
(旧校舎・・・じゃない。)
かび臭い学校の旧校舎を彷彿とさせるような建物の陰気な雰囲気に圧倒され僕は声を失った。