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中学校の正門前には人が大勢詰め掛けてきていた。
怒号とむせび泣く声が飛び交い、場が混乱している様子が見て取れる。
「検査にご協力ください!体の調子が悪い方は・・・」
「そんなのどうでもいいじゃねーか!さっさと中に入れろ!」
「あいつら、もうすぐそこまで来ているんだろ!?」
「おぎゃー!おぎゃああ!!」
人々は皆怯えている。その怯えている様子が僕にはとても恐ろしく感じた。
「治、大丈夫?」
姫榁が声をかけてくれる。僕がこういう喧騒が苦手なことを彼女は知っているのだ。
「うん、ありがとう。それにしても・・・これじゃ当分は中には入れないな。」
「こっち来て治。」
「え?」
「抜け道があるの。」
姫榁はいたずらっぽく笑い、僕の腕を掴んで駆け出す。
姫榁に連れられた先は学校の裏山だった。
「ここの山道がね、旧校舎の裏口に繋がってるの。」
「ここって、先生たちが入っちゃだめだって言ってた・・・」
「今はそんな規則守っていられないでしょ?私が先に行く。ついてきて。」
裏山の森の中は昼間でも真っ暗だ。
先生に注意されるまでもなく、生徒たちは誰一人として足を踏み入れようとはしない。
どうやら姫榁は例外のようだが。
「ゾンビどころか幽霊が出そうだよ・・・」
姫榁が先頭を行き、僕が後に続く。
木々の絶え間から日光が僅かに差し込み、
道の脇にある小さなお地蔵様を照らす。
「怖い・・・」
古ぶるしい広葉樹の陰のせいか、肌寒さを感じる。
沈黙の最中、茂みの奥がさざめく。噂ではこの山には猿が住み着いているとかなんだとか・・・
「姫榁、やっぱりいるんじゃないの?ゾンビが。」
「さあ?」
「あの不思議な力で分からないの?ゾンビの居場所とか・・・」
「不思議な力って何のこと?」
「とぼけないでよ。ゾンビを追っ払ったあの・・・テレパシーみたいな・・・」
「知らない。私にもなんであの時襲われなかったのか分からないもん。」
「・・・」
姫榁は機嫌を悪くしたのか、歩調を速める。
(なんか怒らせちゃったみたいだな・・・何かまずいこと言ったかな?)
僕は空気を和ませるような話題はないかあれこれ思案した。
が、すぐに諦めた。
(下手に喋らない方がいいかも・・・)
僕は何の気なしに木の枝を拾い、それをぶんぶんと振り回した。
すると、姫榁も長めの木の枝を拾い、
舗装されていない道の上にがりがりと線を引いていく。
僕は自分の木の枝で姫榁の木の枝を小突く。
すると姫榁もつつき返してくる。
僕は少し勢いをつけて姫榁の棒を叩き折る。
「あっ」
「あっ、僕のが固かった。」
「む~・・・」
姫榁は別の木の棒を拾って僕の木の枝を叩き折ろうとする。
僕はそれをかわすと再び姫榁のを叩き折る。
「治!」
「怒鳴ったって・・・僕だって負けられないからな。」
「いいわ、覚悟して。」
チャンバラが白熱し始めたその時だった。
「姫榁、後ろ・・・」
「古い手ね、治。この私がそんな手に引っかかると思う?」
「違う、人だ、人が倒れてる。」
「え?」
少し離れた先に人が仰向けになって倒れていた。