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「いてて・・・姫榁、大丈夫?」
「何とか・・・怪我はないみたい・・・」
無事に二階から飛び降りれたのは母の家庭菜園があったおかげだ。感謝しなければ。
僕はふと、さっき自分たちがいたところを見上げる。窓際に誰かいる。
「父さん・・・?」
それは父だった。
父は頭から血を流し、目をぎょろつかせ歯をひん剥いて僕らを見つめている。
まるで幽霊のようだ。
姫榁は僕の視線の先を見て小さく悲鳴をあげた。
「父さんが・・・あれがゾンビなのか?」
僕が聞くと姫榁は怯えながら力なく頷いた。
(ゾンビって、ホラー映画に出てくる怪物・・・のことだよな。
現実にそんなものがでてくるなんて・・・
くそ、理解が追いつかない。何でこうなった、何が起きている・・・)
姫榁が町を見て呆然としている。
僕らの住んでいる住宅街は坂の上に立ち並んでおりここからは町の景色が一望できる。
しかし、今見えるそれはいつものような牧歌的な絶景ではなく、
炎と黒煙の入り混じった忌まわしい地獄絵図だ。
僕はその様子に愕然とし、更なる絶望感に見舞われた。
(何もかも奪い去られてしまった・・・ゾンビめ・・・やってくれる・・・)
おびただしい数のカラスが空を舞っている。同じ空の彼方からは
緊急車両のサイレンが聞こえてくる。
「学校に、」
尻餅をついたまま姫榁が呟く。
「学校に行きましょ。学校はここから近いし、きっと人もたくさんいるから・・・」
姫榁は早口でまくし立てるようにして喋った。彼女の体は震えている。
僕は姫榁が最早正気を失いかけていると感じたが、
他にどうすればいいのか分からずいい案も思い浮かばなかったので
姫榁の言うとおり学校に行くことにした。
「そうだね、これからどうするかは後で考えよう。」
僕たちは庭から公道に出た。路上にはゾンビの影がいくつかあった。
危険かもしれないが、行かなければならない。
大丈夫、とにかく走っていけば何とかなる。
僕は自分にそう言い聞かせた。
「母さん、父さん。・・・行ってきます。」