13
とある警察署の屋上で二人の若い男女が対峙する。
空は仄かに青く、夕日が落ちてすでに久しい天の高みには白い月がぽつんと浮かぶ。
「今日もまた一段と美しゅうあらせられますな、エージェントのジャックさんよぉ。」
濁った目の男が甲高い声で喋る。彼に相対するは、
「エージェント・テル。
貴方の身柄を拘束し、日本支社に連行する。まず武器を捨てろ。」
まだ十代半ば、繊細な感じの少女だ。金色の髪と青い目が印象的だ。
「おいおい何だよいきなり。そんな怖い顔すんなよ、可愛い顔が台無しだぞ?」
「白を切っても無駄だ。貴方が裏で何をしていたかはすでに分かっている。
会長も知っている。」
「俺は小遣い稼ぎにいそしんでただけさぁ。
そのくらいのこと、エージェントならみんなやってる。
やってないのは真面目なお前くらいさ。」
男の声は聞くものを不安にさせる。
抑揚のつけ方から間のとり方や
テンポの緩急までそのことごとくが挑発的なのだ。
「小遣いのためにカルロスや避難民を殺したのか?」
少女の声は男とは対照的に常に威圧的だ。
「みんなを殺したのはあいつだよ。」
「嘘だ!手にかけたのは貴様だろう!」
「っるせーなぁ、仕方なかったんだよ、俺も脅されてたんだよ、
あいつ卑怯だよな、自分の手は汚さないんだからよ、へへっ。」
「あいつとは誰のことだ?お前を雇ったテロ組織の人間のことか?」
「まあ、そう・・・だな。まあそういうことだ。」
「そいつは今どこにいる?」
「そんなの知らねーよ、俺は雇われ兵士だぜ?いわば犬みてーなもんだ。
ご主人様がどこにお出かけしたかなんざいちいち知らねーよ。」
「なら貴様は理由も分からずに大勢の人を殺したのか!?」
「俺はいちいち物事の理由や原因なんて考えない。
獲物が目の前にあったら食らいつくだけさ、
それこそ犬と同じようにな。俺には行動が全てさぁ!」
「そうか、ならば最後に聞こう、何と言われた?」
「何?」
「何と言われて脅された?貴様、脅されたんだろう?」
「ああ、脅されたぜ。「お前がやらねーなら金はやらん」ってな。」
「・・・決まりだな。」
「あぁ?」
「貴様は支社へは連れていかない・・・
貴様は感染者に食われて死んだことにする。覚悟しろ外道。」
少女はやや小振りな刃物を抜き払う。
「おぉい、ジョーダンだろ?俺とバトルしようってのかよ?
でもお前はあいつには勝てないぜ?」
「口を閉じろテル。そのあいつとやらも
貴様を屠った後で死霊の餌にしてくれる。」
「ケツが青いなジャック。あいつはお前のすぐ後ろにいるよ。」
「!?」
少女は自身の背後に人の気配を感じとった。直後、
ガッ―――
衝撃が彼女の頭にじわりと滲む。
「ぐ・・・あ・・・」
「ぴったり時間通りにご主人様はお戻りになられた。
紹介してやるよ。―――の―――だ・・・」
「・・・」
少女は倒れ、黙した。
「ふん、他愛ないものだな。」
少女を殴りつけたその男は野太い、しかしよくとおる声で呟いた。
「なんでえ、気絶しちまったのかよ。
今エージェントを殺ってももう報酬は出ないんだよな・・・
なあ、ちょっと町で遊んできていいか?」
「いいだろうエージェント・テル。
ただし24時間後にはこの国を出る。その前までには例の場所に来ておけ。
俺は先に行く。」
「ああ、分かったよ。いってきまーす。」
男たちは少女をその場に残して去っていった。
「・・・フフフ、<革命>は成功する。確実に。
フハ、フハハ、フハハハハハハハハハ・・・」




