10
夢を見た。
僕は荒れ野に独り佇んでいる。
目の前には一軒のぼろ小屋があって、風に吹かれてぎいぎいときしみをたてている。
砂埃が容赦なく僕を、ぼろ小屋のあばらを叩きつける。
僕は小屋の中へゆっくりと入っていく。
中に入ると僕は天井を眺める。
天井には小さな蜘蛛の巣が細く光っている。
長い間があって、蜘蛛が口を利いた。
「見たかい?僕が永遠だ。」
「うう・・・」
白い天井が見える。
(ここは・・・教室?)
なんだか賑やかだ。
(学校?何で僕がここに?確か僕は・・・)
「治?起きた?」
まどろむ僕の視界には少女の姿が映っている。
彼女は木晒姫榁。
我が家の隣人だ・・・
あれ?前もこんな説明をしたような・・・デジャヴってやつか?
「今日は日曜日で・・・僕は二度寝していて・・・」
「寝ぼけてんの?しっかりしてよ。ほら」
姫榁は僕に水の入ったペットボトルを手渡してくる。
僕は水を一口飲み、辺りをぐるりと見回し、言った。
「あの人は?」
姫榁はきょとんとしている。
「あの人って?」
「・・・あー、えーと・・・僕はどうやってここに?」
「中庭に倒れてたの。治、覚えてないの?」
「中庭って、この学校の中庭?」
「うん。」
どういうことだろうか。
僕は確かにあの廃ビルの屋上で謎の少女に助けられて・・・
「怪我、大丈夫なの?」
「え?」
「だから、ほら肩の怪我。痛まない?」
僕は自分の肩を見る。怪物に襲われて怪我をした部分だ。
包帯が巻かれている。少し血がにじんでいる。
「ああ、大丈夫だよ、これくらい。」
(やっぱり僕はあの屋上で怪物に襲われたんだ・・・僕は死にかけたんだ・・・
あの人は一体・・・)
「治、ごめんね。」
「?」
「私だけで先に逃げちゃって・・・」
「ああ・・・そんなの仕方ないじゃないか。僕の足が遅かったせいだ。
姫榁は悪くない。」
「でも・・・」
「それより、ここって避難所なんだよな。僕たち助かったのか。」
「うん・・・」
「そうか、良かった。」
姫榁は顔を伏せる。泣いている様だ。
(このままじゃあいけない、何か明るくなる話題はないかな・・・)
前もこんなことがあったような・・・そうだ。
「姫榁、あのさ、」
そこまで言いかけて僕はある音を耳にした。気づけば教室にいる人々も耳をすませている。
その音はだんだんと大きくなっていく。
(この音は・・・ヘリコプター?)
人々が外の様子を伺いにグラウンド側の窓際に集まる。
「自衛隊だ。」
「救援だ、救援に来たんだ!」
「やった、助かった、これで助かったぞ!」
次々と人々が教室を飛び出していく。
僕も窓際から外を覗く。
グラウンドの上を迷彩柄の大きなヘリコプターがホバリングしている。
「・・・治、あれは私たちを乗せてどこに向かうと思う?」
姫榁のその言葉に僕は少し戸惑う。
「どこにって・・・安全なところでしょ?」
「ふふ、安全なところ、ね・・・
どこへ行ってもゾンビがいるのに・・・」
「離島や自衛隊の基地は安全なんじゃないかな。
きっとそういうところに行くんだよ。」
「人間を食べる人間はどこに行ってもいる。」
「え?」
「世知辛い世の中ってこと。さ、行きましょ。」
「? 急に元気になったな・・・前もこんなことがあったような・・・」
学校のチャイムがなる。
酷く乾いた音だ。空を押し潰す長い響きだ。
「ヘリの前に長蛇の列・・・」
一人の男が高みに立ち尽くす。風が男の若い肌を冷たくくすぐる。
「プロペラが叫ぶ。赤子も叫ぶ。戦士も叫ぶ。死霊も生きたのもみーんな叫ぶ。
叫び、叫び、叫び。
あー全く、静かなのは太陽だけだ。太陽は物音一つたてずに死に、崩れ、墜ちる。
実のない胡桃も割れるときは大きな音をたてようとするってのによぉ。」
男は群集を穴が開くほど見つめる。
「ここにいる奴らは全員、実のない胡桃だ。
自分が死ぬことをまるで大事件か何かだと思ってやがる小さい胡桃。」
男は頬を緩め、自身の愛剣を大きく振り回す。
「・・・じゃあ、いっちょ派手にやりますか。」
男は軽く力み、跳んだ。




