旅人その8 ソラ重視編
こんな世界なんか――――
―――壊シテシマエバ イイノダ―――
――頭にノイズが走る。痛い。でも、段々と感覚が麻痺していく。
頭が重い。まるで重たい見えないヘルメットが覆い被さったかのように。
そう言えば何を考えていたっけかな。紅いお花を見に行くんだっけ?紅いお花は確か遺跡の中にあったはず。あれ?でも、確か誰かと行く約束じゃなかったっけ?うん。きっとそうだ。でも、誰と行くんだっけ?
―――――おい....そこで......チビ助?―――――
あれ?何か聞こえたような...気のせいかな?うん。きっと気のせいだ。あれ?でも、知ってるような声だったけど?ソレもきっと気のせいだよね...でも、どうして気のせいだと思うんだろう?あれ?アタシは誰だっけ?名前は...あれれ?解らなくなってきたよ?う~ん...
そう思ってると、ノイズが少し晴れてその声が頭に響いた。
「どうした?悩みでもアンの?」
悩み―――...?
何を言ってるの。アタシは悩んでなんか...
悩ンデル。
悩んでないよ。
ウウン、ソレハ嘘。
嘘じゃないよ。
嘘ヨ。ソウヤッテ逃ゲヨウトシテルダケダモノ。
何をいってるの?
頭の中に変な声がする。誰なの?あなた
―――ワタシハ誰デモナイ。タダノ壊ス事ガ好キナダケノ【ユーマ】ノ集合体。アナタト少シ近イ存在。私ト一ツニナリ、コノ世界ヲ壊シテミナイカ?――――
世界を――――壊す?
そう思った途端に恐ろしくなった。怖くなった。
やめて!!それ以上近くに寄らないで!!!
恐レルナ...ソシテ私ト一緒ニ、コノ ツマラナイ世界ヲ壊シテ壊シテ、ソシテ新シイ素晴ラシイ退屈シナイ世界ヲ創ロウヨ―――――
嫌...嫌だ!!!あっちへいって!!話しかけてこないで!!!
「近寄らないでーーーーーーーー!!!!」
足が震える。凄い爆発音が遠くで聞こえた。魔物が襲ってるのだろうか
「おい!ソラ!あたしだ!!」
いやだ。近寄るな。どこかへ消えてしまえ
それでも近ずこうとする不気味な奴。
「来るなあああぁあぁぁあぁあぁああぁ!!」
相手はあたしの攻撃をかわしていく。そういえば、いつ攻撃してたんだろう?
ノイズが酷い。頭が痛い。
「...いや、なんかあったんだな」
でも、知ってる。この声、良く知ってる人の声だ。だれだろう?怖い感じは全く無くなってて、すごく心地いい感じだけが広がって...
「ソラ!!あたしだって!!」
霧が晴れていく。目を覆っていた霧が。頭のノイズが。
そこで初めて目に映る者。
夕歌―――――
傷があちこちにある。息も絶え絶え...こっちを見てる。
そうか、あたしか。あたしが夕歌に攻撃してたのか。あの変な声の主じゃなくて、夕歌があたしを一生懸命止めようとしてくれてたんだ。あの優しい感じは夕歌のだったんだ。
どうしよう。あたし、とんでもない事しちゃった。
罪悪感が見る見るうちに体中へ流れて、震えだした。怖い。自分が怖い。相手が怖い。もう、解らない。どうしたらいいのか。
「ソラ?気ずいたのか?」
気ずいたよ。でも、遅かった。
ごめんね。その簡単な言葉が出ない
「う...うるさい...」
ははっ。そんなふうに笑いながら夕歌はあたしのトコヘ真っすぐくる
「何だその声。震えてるぞ?」
うん。アタシ、今、凄く怖い。
「うるさい!うるさい五月蝿いうるさあああああいいい!!!!」
「どうした?攻撃止めて今度は怒鳴りだした。アホになったか?」
そうかもしれない。でも、そうだったらどうしよう?
「く...来るな...」
そう言っても、夕歌は止めなかった。というより、もっと早くきはじめたよ。どうしよう。もしかしたらまた傷つくかもしれないんだよ?それなのに。
「近ずかないで!!」
「ほう、やっとあたしを見たか。」
「!!」
忘れてしまっていた。姉の力の色。あの紅い水晶よりもずっと透き通っていてキレイな紅い色。夕日のような髪が次第に消えていき、普段の黒い色になった。
「なんだ、素直に謝ればいいのに。今度は泣くんだ。」
あれ?あたし、また泣いてる...泣き虫だなぁ...
「この勝負、アタシの勝ちだな」
「...え?...へ?」
いつの間に勝負でもしてたのだろう?そう思ってたら、頭に暖かいものが被さった。夕歌の手だった。頭だけなのに何故か体と心の奥までその暖かいものは広がっていった。
次の瞬間ずっと見たいものが花開いた。夕歌が――
――笑った
それは本当に心から安心させる笑顔で、アタシはただ動かずに見ていた。
「姉妹、初のケンカは、倒れなかったあたしの勝ちって言ってんの♪」
...倒れなかった?
ピン!
あいだぁあ?!何この恐ろしい痛みのデコピン??!!冗談じゃない!今までで一番痛い!!何してくれんのこの意地悪?!今まで感動してた自分がバカみたい!!
早く立って挨拶代わりに一発...
「うわーーいはははははははははは!!!」
うっわっ!!ムカつく笑い方!
「まだまだだね!!」
「っ!」
でも、あれ?気分が凄く軽い...体まで上手く動かせる...なんで?
「じゃ、あたしはもう行くけど。そうそう、またなんかあったりしたらさ、話してごらんよ。あたしたちは家族なんだからさ。遠慮しなくていい時もあるんだよ?ムリしなくてもいいから、素直になりなよ。あたしらにも、あんた自身にも。」
「.........え?」
つい最近まで苦しそうな顔をしていたくせに何言ってるの?この人...。
「場合によってはストレス発散にまたケンカでもするか」
「...はあ?」
「相手になってやんぞ?チビ助」
「!...っ!あ、アタシはチビ助じゃないもん!」
「へえ、じゃあ、だれなの?」
そう、あたしにはちゃんとした名前がある
「ソラだもん!!」
「そうそう、だからソレを忘れんなよ。」
「え?」
「己を知らない奴に、人の痛みをなんとも思わない奴に、その名を語る資格が無いって言ってんの。」
「?どういう事?」
「大きく、澄み渡る、透き通った青い心を持つように、力ずよい、いい心を持ってほしいと、父さんが付けた名前。」
「あたし...の...なまえ...お父さんが?」
「だから、」
空。
今まで頭に引っかかってた重いものが、スぅーーと外れていくような気がした。体が軽い。浮いてしまいそうだ。
あのモノクロな世界を打ち破って救い出してくれた一つの声。
力だけが力じゃなく、心と魂の強さもソレに勝る力だと教えてくれた一つの暖かい手。
守るものと生きる光を見せてくれた人。
夕歌
そんな不器用で優しいお姉ちゃんに感謝。
そんな感動的な一日は、ソレで終わるわけが無く、家へ帰って怒らせてはナラナイ人を怒らせた。
「今、何時だと思ってるのかしら?二人とも?」
フフフ。そう笑うお母さん。でも、目が凄く怖かった。
「「ケンカしてました」」
もうちょっと上手くいえたら、きっと恐ろしいお仕置きなんかされなかったんだと思う。
その日の夜、あたしは地獄を見たような感じがした。
言ったら、きっと怖い目にあうだろう。
「鬼を見た...」
だけどこの姉はどこまででも隠せないタイプみたい
「へーえ...鬼ねぇ...」
そう笑いながら目だけ笑ってないお母さんが再び光臨した。
旅人その9へ
次回、とうとう父ちゃんが!!!
ネオンが!!!
お楽しみに読んでくれ!!