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旅人  作者: ネムのろ
第二章 あの日の君の記憶
7/20

旅人その7

『だからお前の姉ちゃん、笑わないじゃんか。昔は明るい、イタズラ好きの子だったって母ちゃんが言ってたもん』






父が旅人ハイゼンデに一員として旅立ってから二年が過ぎようとしていた頃、

皆が寄って集って苛めてきた。一年前までは仲良くしていた子達まで。

よく分からなかったけど、多分森の中へ探検してその時であった

あの大きい怪物をアタシが倒してしまった事に原因があるのだろう。


あの時は多分必死でとっさに出してしまった。青白い光をまとう鋭い水の刃。

それが当たり一面に突き刺さった。かろうじて他の皆に当たらなかったものの、

それ以来アタシを避けるようになって、次第に虐めへと発展していった。


勿論、魔法はそれ以来ずっと押さえてる。言う事を変えればアタシはあの日、

友達を殺し損ねたんだ。あんな思いはもうコリゴリ。だから、虐めも耐えるようにしてた。







あの時の罪滅ぼし。







でも、とても耐え切れるものじゃなかった。

日に日に増していく虐め。時が経てば経つほど増していく魔法の威力と力。


せめて家族にはばれない様に め一杯笑顔でいる様にしてた。
















だからかもしれない。姉の異変に気ずけなかったのは。























「それ、...本当?」











震える声で虐めの本人に聞く。今までやってこなかった事


「なんでぇ、お前同じ家にすんでるんだろ。

なんでおれに聞くんだ。まさか 気ずかなかったのか?」


そういいながら、腹部を蹴りつけて来る。痛さが増してもう何も聴く気がしなかった。








姉が笑わない。本当?嘘?






確かめようか?うん。きっと嘘。大丈夫。






でも、この不安は消えなかった。


だって、お父さんが行っちゃってから一度も話した事も、顔を見たことも無かった。

すっかり姉の存在を無視してたのかもしれない。ただ寂しくて寂しくて。

そうだとしたら...もし、本当だったらどうしよう?


そんなコトを考えているうちに、相手は行ってしまったらしい。

後は森へ行って服とかの汚れを落して帰ればいい。転んだとか言っておけばいいだろう。



しばらくして、這い上がるように起きたアタシは体を引きずりながら森へ行った。



家へついたアタシは言い訳をお母さんに残してさっと素早く部屋へ上がった。



「また何かあったのね。」



お母さんがそんなコトを呟いていたが、この際気にしないでおこう。

お姉ちゃんは居るのかな。そう思い、姉の部屋のドアをそっと開ける。

どうやら居るようだ。でも、横でうつぶせになりながら本を読んでいたために、顔は見えなかった。


きっと嘘。だから、大丈夫。

勇気を出して夕飯の時に話しかけてみよう。




この決意が後にアタシを恐怖と絶望のど真ん中に落し入れる事になろうなんて思いもしなかった...




この時は きっと大丈夫。そう思い込んでいたから。




そうだ、姉はいつも皆に話しかけては笑い、町の皆にイタズラしては笑い、

罠にはまった大人たちを見ては笑った。笑顔がすごく眩しかった。

アタシはそんな笑顔も忘れてしまってた。そう言えば、どんなふうに笑ってたっけ?

姉はどんな感じだったっけ?怖かったかな、優しかったかな、ジミだったかな?


そんな想いが交差しながら夕飯の時間になった。


少し緊張してしまってる。でも、笑顔のまま話しかけよう。


「そうだ、今日、森の中の遺跡に淡い紅い色のキレイな水晶を見つけたんだ。」


「あら、そうなの?」


お母さんが残念そうに話題に乗ってきた


「惜しいわね~私も見に行きたいけれど...ココを離れる訳にも...」


「え、どうして?一緒に行こうよお母さん!アタシいつも行ってるからなれてるの。」


「そうだわ!夕ちゃんと一緒に行ってきたらいいのよ!」


そうだった、姉に話しかけてもらうんじゃなくて、自分が話しかけなきゃ。




「ど、どうかな?一緒にいかない?おねえ「ふざけるな」...え?」




姉は顔だけそのままうつ伏せているが、口が動いたのは解った。


「聞こえなかったのか...?」


「夕ちゃん...」


「ど、どうしたの、おね「ふざけるなと言ったんだ!」ひっ!」






バン!





いきなり机を叩いた。その衝撃で夕飯が目茶目茶になる。こぼれてはいないけど、怖かった。



「夕ちゃん!いい加減になさい!!」



大声じゃないけど、凄く怖い声を出したお母さんの怒鳴り声でハッと気ずいた姉は顔を上げた。

アタシにじゃなくてお母さんに。でも見えた。姉の顔が。

悲しみで今にでも死んでしまいそうな酷い顔が。



「ごめん。あたし、食欲無いや。」



そう言って自分の部屋へ上がっていく姉。そう言えば殆どご飯を残している。



「最近あの子あの調子なの。」




「...そう...」



「気にしないでね。」



「?どうして そんなコト言うの?」



「気ずいてないの?」



「何が?」




















「ソラちゃん、今 泣いてる。」
















え?












手を顔に当てるとすぐ解った。本当だ。あたし泣いてる。




「なんでもないんだよ?」






そう言って涙をソデで拭く。けど、止まらない。





「ソラちゃん...」





「何でもないんだよっ!ほんとのほんとに...」





その時、母があたしを優しく抱きとめた。




「ごめんね。色々辛い思いをさせて。」





そう言っていた母の声がほんの少し震えていた





「私がココを動ければいいのにね...」




「どう...ひぐっ!どう...して...」





あたしは必死に涙を殺しながら聞いた




「お父さんの帰りの出口を塞がらないようにしてるの。

あの人魔法使えないでしょ?だから頼まれてて。...ごめんね...」



「あ...謝らないで...お母さんは...うっ...

何も...わ...悪い事なんか...し、して...無い...からっ!」




「ううん。母として失格よ。こんな時何も出来ないなんて。

だから、ごめんね。こんなことではダメだと思うけれど...でも...」



その時、あたしはお母さんが静かに泣いているのを見た...



















胸が....張り裂けそうだった...















あと何日でお父さんは帰ってくるのだろう。そう思う日が耐えない












苦しい、悲しい...辛い...
















もし、帰ってこなければ?お母さんは待ちつずけ、姉はあのまま...あたしもきっと...















お父さんが行方不明になったという話が広まり始めていた。

出発してから一度も連絡が無いのが原因。


そんなこと信じたくなかった。でも、もしかしたら...


そんなある日、我慢できなくなった。家を出てすぐに森へ行った。


何十分も何時間もそこにしゃがみこんでいた。魔法の力もあふれ出ていて、

いつ人を襲うか解らない。よかった。森の中は殆ど人が入らない。怪物が幾つか出てきたけど、

すぐに倒れて消えるか、そこから逃げるかしてた。



全ての世界が色あせたように思えた。何も無い、ただのそこにあるだけの世界。

つまらないモノクロの世界が広がっていて、その中にはアタシ以外動けるものはいなくて、

だれもあたしに近ずこうとはしない。何もかも全てが止まっているように思えた。

錯覚かな?それとも本当に自分が魔法でしてしまったのだろうか。











大好きな人達が誰一人としていない世界は本当に冷たく、静かで...居心地が悪かった。

来る日も来る日も、何も無い、何も起こらない、何も色の無い、ただの絵みたいな。











「許シテ...」







誰へ言ってるのかも解らない。








「助ケテ...」








助けられる事も無いというのに。









次第に段々と区別できなくなっていた。壊れかけていたのかもしれない

















出ていた涙は枯れてて―――――


























世界はアタシに優しくない事を知った...大切な宝物を全て私から取り上げる酷い世界。



























こんな所なんか、こんな世界なんか――――――


























――――壊シテシマエバ イイノダ―――――















旅人その8へ続く


次はいよいよ前の話とシンクロするよっ!

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