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旅人  作者: ネムのろ
第二章 あの日の君の記憶
5/20

旅人その5




「だから―――私は私の帰れる場所を―――守るよ。」

 



そう彼女が言い放った途端、青白い光が彼女の周りで渦巻き始め、

やがて光が黒くなり始めていた世界中に染み渡った。そう、それはまるで―――























空色―――





















「この世界に、薄汚い、悲しみだらけのこの世界にそこまでするお前が解らない。」



だが彼女は敵であるはずの我に向かって、静かに、優しく微笑みかけながら言い放った。















「悪いトコも、イイトコも、全部ひっくるめて―――――」



彼女が光り輝き、炎が暴発するがごとく、やつの髪が青く変化した。

その眼も青い。そして手には青い透き通った、水晶のような長い剣。

所どころ緑色した宝石が散りばめられていた。





















「全部ひっくるめて、私は、この世界が好きだから。」














.......。



「よくもまあ、アレだけの傷を背負い、最後の力を振り絞り、

二度目で勝ちながら全世界にあんな小難しいプロテクトをかけられたものだな。

あんな状態で生きながらえたのはもっと凄い。」


まあ、記憶が封じられたのは、いたしかたない。全世界の成り立ちを少しいじったためだろうが、

もはやそれだけですんだのが驚きだ。


「まったく...お前には驚かされるばかりだな...」


そう呟きながら緑香はどこかへ降り立っていく。地面かどうかも解らない所を

スタスタと歩いて、やがて広い部屋みたいな所へ出た。


「待たせたな。みんな。」


そこには数人の顔見知りがいた。





















所替わりまして――――

 











一方ソラはと言うと まだ気絶したまま。


「まったく、昔から変わってないよな。」


夕歌はそう愚痴った。


「父さんと一緒でビックリバコみたいだ。」


今は夜。あれから数時間たったが当のソラは まだ眠っていた。

ふう...と、溜息をしながら少し強張った顔を緩めながら夕歌は

漆黒に染まる夜空を眺めていた。ちなみに彼女は今屋根の上にいる。


最初は落ち着きなくあちらこちら見ていたが何も無いと分かると安堵を浮かべ、ただ単にボーーーーーーーーーーーーーっと空を眺めつずけた。

いまだに消え失せない過去に振り回されているようで嫌な感じがした。

ソラが目覚めるまで一応見張りをしようと言い出した母に外側の、それも


ソラの部屋の部分をヨロシクと言われたのだ。面倒臭い。

それなら、いっその事こいつ(ソラのこと)の真上を見張ろうではないか。

ソレが今夕歌がここにいる理由。だが、夕歌は感じていた。あの母がこんな事を言うのには

何か考えがあるから。ソレもものすごく重要な何か。


「あの時と同じような違和感が残る笑顔だったもんな~...」


あの時。そう、ソラが、まだ記憶を失う前。今は帰れない故郷に居た頃。

あの頃のソラは少し酷い程度に小難しい状況にいた。大好きだった父親が行方不明になり、

後にその場違いな自らの魔法のせいで皆に気味悪がられていた。


町に行くたびに聞こえてくる人々のささやき声。

ソレのどれもが幼き心へ負担をかけていたのだろう。







いつしかソラは外へあまり出なくなっていった。









だが、それは夕歌も同じだった。




いつしか夕歌は笑わなくなっていった。












そんなある日、母親から帰りの遅いソラを迎えにいってほしいと言われたのだ。

そう言えばそんなのいたっけ。もう随分と話もしていない。

嫌だったがどうしてもいけと、笑顔満点で言う道留母さんから殺気を感じ取ったため、

しぶしぶいく事になる。


そんな夕歌を、道留は笑顔で見送った。
















...違和感が残る笑顔だった。

















ところが、町へいっても、見当たらない。そこらへんの子供たちに聞くが、

驚き、あわてて逃げていくばかり。


「なんだよ。あいつらは。ソラの奴、友達くらいいるんじゃないのか?」


そう言えば、一度も友達のことは話してないな...

最近は家にいることが多くなってきてるし。もしかして...いないのか...?


しかたなく、いちおう森の中へいってみる。いるわけないよな。そう思いながら。


10分程度歩くと人の気配がした。しかも魔力が強い。少し警戒しながら息を殺し、

少しずつちかずく。

そして、その小さな背中が見えた途端、全て吹き飛んだ。



「おい。チビ助。いつまでそこでウズクマッテルつもりだ?」



そう声をかけた時、そこにうずくまってる魔力の塊、ソラはビクッとした後、

恐る恐る顔を上げた。あの時のあの顔は今でも忘れる事ができない。

深い深い悲しみと、絶望を飾り付けたかのような酷い顔だった。いつも少しでも元気を見せる

このお人好しな5歳の妹。


なのに今はその余裕が見られない。そこにだれが居るのか解らないのか、

彼女はそのままの顔を見せてくる。



「どうした?悩みでもアンの?」



話し掛けてみるがただ見つめてくるだけ。


おかしい。


そう思って夕歌は妹に手をちかずける。とたんにソラが大声で叫んだ。震える涙声で




















「近寄らないでーーーーーー!!!」













どうやら何かに怯えてしまっている。魔力が暴発し、誰を攻撃しているかも解っていない。

そう、あの瞬間で、ソラは自分の周りに薄い紅い色の槍のような水晶のような、

よく分からない物体を出現させ、夕歌に降り注がせた。とっさに避けることはできたが、

驚く所はたったの5歳の幼い少女があんな表情をしてた事、


そして、


そんなに成るまで気ずかなかった自分の鈍感さがまた...


「おい!ソラ!あたしだ!」




「来るなあああぁあぁぁあぁあぁああぁ!!」




「ダメか。混乱...いや、なんかあったんだな。」




あんな小さな子が、自分達が知らぬ間に傷つく事があって、悔しい事もあって、

でもそれらを一切見なかった、見ようとしなかった自分が居て...

だからきっとこんな状態になるまで何も言わず、すべて飲み込んできたのだろう。

そう、それは彼女の姉であるアタシの失態。唯一無二の家族であるはずだった。




それなのに。










「ソラ!!あたしだって!!」


今度は叫び声ではなく無数の黄色い透きとうった石碑みたいなものがふって来た。

それも夕歌が避けるたびにもっと数と大きさが増していく。無論、たったの12歳の夕歌が、

全て避けきる事はできず、徐々に傷が増えていく。





と突然、攻撃がゆるんだ。どうしたかと思えばソラが青ざめている。自分が何をしているのか

解ってきたのか、それとも力尽きようとしているのか。


「ソラ?気ずいたのか?」


「う...うるさい...」


「何だその声。震えてるぞ?」



「うるさい!うるさい五月蝿いうるさあああああいいい!!!!」



「どうした?攻撃止めて今度は怒鳴りだした。アホになったか?」



そのお喋りの間にも夕歌はどんどん距離を縮めていく。それを妹の小さな体が理解し始め、


震えだす。


「く...来るな...」


絞り出すように放った言葉は弱々しく、かすれてしまっている。


「近ずかないで!!」


「ほう、やっとあたしを見たか。」


「!!」


そう、ソラはたったさっきまで夕歌を見なかった。きっと怖かったのだろう。

誰かを傷つけた事が。そして、それが自分の姉である事を。確かめたくなかった。

ソレが本音だ。ばれないように、いつもいい子でいようと、悲しくても、辛くても、

自分の中に押し込んで、家族の前では精一杯笑うようにしてた。









なのに。







それなのに。






すべて台無しだ。









終わった。自分が引き起こした。










他の人達のように、気味悪がられる。苛められる。









でも、そのどれよりもある一つの確信が彼女を追い詰めていた。









そう、もう、これで夕歌はきっと―――――嫌いになる










嫌われる。 



それは5歳の子供が気にする事ではない。だが、今までの環境からソラは

気にし始めていた。それが、その思考が彼女の心を締め付ける。



「なんだ、素直に謝ればいいのに。今度は泣くんだ。」




いつしか夕歌はソラの目の前にいて、自分は涙を流していて―――







「この勝負、アタシの勝ちだな」









「...え?...へ?」













目の前の姉はニッコリ満面の笑顔で、ボロボロに傷ついてるくせに、

どこか彼女の優しさが自分に触れたようで――― いつの間にかアタマを撫でられてて...













「姉妹、初のケンカは、倒れなかったあたしの勝ちって言ってんの♪」






















何を言っているのか解らない...と思っているうちに凄まじいデコピンが

ソラのおでこに降りかかった。痛い。凄く、痛い。涙目になってしまっているというのに。












そこで、姉のデコピンによってソラは思いっきり地面に倒れてしまった事に気が付くが...




時すでに遅く。姉は勝ち誇っている。










しかも、大笑いしながら。










「まだまだだね!!」




「っ!」




悔しい。だが、どこか清々しい。変な気分だ。それは長い間、

話もしなかった暗い姉とは似ても似つかないもの。別人みたいだ。


こんなふうに笑えるのか。こんなふうに喋るのか。そして、こんなふうに姉のデコピンは痛いのか。


「じゃ、あたしはもう行くけど。そうそう、またなんかあったりしたらさ、

話してごらんよ。あたしたちは家族なんだからさ。遠慮しなくていい時もあるんだよ?

ムリしなくてもいいから、素直になりなよ。あたしらにも、あんた自身にも。」







「.........え?」






つい最近まで苦しそうな顔をしていたくせに何言ってるの?この人...。






「場合によってはストレス発散にまたケンカでもするか」



「...はあ?」



「相手になってやんぞ?チビ助」




「!...っ!あ、アタシはチビ助じゃないもん!」




「へえ、じゃあ、だれなの?」




「ソラだもん!!」




「そうそう、だからソレを忘れんなよ。」




「え?」




「己を知らない奴に、人の痛みをなんとも思わない奴に、その名を語る資格が

無いって言ってんの。」


「?どういう事?」


そこで夕歌は凄く懐かしそうに遠くの夜空を見上げながら優しく、笑顔で答えた。


「大きく、澄み渡る、透き通った青い心を持つように、力ずよい、

いい心を持ってほしいと、父さんが付けた名前。」







「あたし...の...なまえ...お父さんが?」

























「だから、空。」


今まで頭に引っかかってた重いものがはずれ、そして今あるのは嬉しさと言う感情。


「そーら!!!何してんの?夜の森は危ないんだぞー。早く来ないと

置いてっちゃって、そこらへんから魔物が襲ってきても助けたりしないかもだぞー」


まったく。この姉は本当に訳の解らない事を喋ってくる。でも















「悪い気は...しないかな」




















その後、あまりにも遅くなり、夕歌とソラはこの夜、

道留のお仕置きを食らったのは言うまでも無い。




旅人その6へ続く

ソラと夕歌の一部の過去編でしたー!

旅人その6では過去編ソラ重視編で~す。


いやー、でも、なぜか過去編書く時、

嫌にノリノリしてしまうのは何故?

いつもはノロノロ書いてます。

では、これからもよろしくお願いいたします!!

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