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旅人  作者: ネムのろ
第二章 あの日の君の記憶
4/20

旅人その4


世界の狭間と狭間、何も無いもう一つの世界。草も動物も、空も地さえ無い所。

色も何も無い。ただ漆黒の闇と、その闇から産み落とされる化け物の巣。

そんな所に1人の女がいた。15歳くらいの背丈が低い、腰より長い茶色の髪の

ロングヘアーの子。目はそんな幼さとは裏腹に鋭かった。その少女の名を緑香みか

先ほどまでソラと通信していた張本人。


「ふぅ...」


そう溜息しながらもどこか安堵のある微笑を浮かべていた。


「本当に記憶を無くしても、あいつはあいつのまま」


何も無い真っ暗な世界をフワフワ浮かんで前へと進んでいく。少し悲しそうな、

儚い笑顔へと変わり、一言ポツリとつぶやく。


「暖かいままだ」


閉ざされたはずの感情の一欠けらがこぼれるように弱々しげにそう言った後、

自分の胸倉を両手で覆い隠すように手をかざしながら、もっと悲しそうな笑顔を出す。


「その笑顔とその心が我の心を癒した...だが、解っているのか?

我はお前の願う『友』にはなれぬことを...」




―お前はバカだ―





初めて対戦した時に言った言葉だ。我らに敵わないと知りながら挑んできて、

ボロボロにしておいた。それも命を落とす一歩手前くらいの傷を負わせた。

他のやつらの仲間はもう戦う事すら間々ならないほどの深手を負わせていたため、

もはや彼女、旅人ハイゼンデ達は成す術も失われていた。











そう

















無かった《はず》だった――――





内心ダメだと理解していても とどめは刺さなかった。いや、できなかった...

我を真っすぐ、澄んだ曇りなき瞳で見てくる目は、最初は気味悪がったものの、

その目の光が魂からくる暖かいものだと気ずくころ、あいつの命を取るなんてこと

考える事も無くなっていた。



だが、あのまま放置しておいて良かったのだろうか?



ふと、罪悪感が心を蝕んでいく...あのままでは死んでしまうのではないか?

他の連中に見つかりはしてないか?もっとよく話を聴いていれば、あるいは...


そう、我は手加減と言うものを知らない。だから思いっきり攻撃を仕掛けた。

あちらもそうだが、我らは世界を再構築するため耐え切れないほどの鍛錬、訓練をしたため、

やはり、普通の生ぬるい奴らより遥かに強い。こう言うのもなんだが、恐らく、

もう立つことも出来ないほど、やつは傷ついていた。体力的にも精力的にももう、限界だろう。


力ずよい眼光は失われてはいなかった。だが、彼女は倒れた。結果、我らは勝った。

そして、この異世界「イラウン」を消滅させるべく我らの力をある一点へ集中攻撃し始めた。

世界の大半はこういう「ツボ」を大きく刺激すれば勝手に崩壊を始め、


バランスが崩れ、そして消える。これを幾度もくりかえし、色々な世界を壊して周り、

じきに何も無くなった無の中からまた新しい世界を生み出す。それが我らに下された命令。







10分程度、たったの数分...彼女がまた我の前に立ち塞がった時間帯。








あそこから這い上がり、勝負を挑んできた。ボロボロのままで。

今にも崩れそうな哀れな姿で。





―お前はバカか― 出てしまった言葉は素直な悪口。そして怒り。




「せっかく生かしてやった命を無駄にするか。お前一人でも十分帰れたはず...

何故、何故だ...そこまでボロボロになりながら、体を引きずってまで何故

この世界のために立ち上がる?!この世界はお前とは無関係のはずだ...

何があってお前はそこまでするのだ?!」


無口な我があそこまで怒ったのには理由がある。




―気に入ったから...認めたから...―


たったそれだけ。彼女は、強い。だが十分に力を出せていない。だが、もっとほかに

暖かいものがあった。それは今まで感じた事が無かったもの。







「うん...帰れ..たよ」




彼女は静かに、息を絶え絶えに答え始めた。



「でも、帰ったら...この世界だけじゃなく...他の世界も破壊しに行く...でしょう?

...どの道、私の帰る場所もじきに...貴方達の手で..破壊されちゃう。」



服も、腕も足も、頬、体中のありとあらゆる部分が傷ついていた。体を引きずり、

少しずつ敵の緑香の方へと歩いていくソラ


















「私が立ち上がる事でこの世界が一分でも存在できるのなら、私は立ち上がろう。」















ソラは弱くも強い意思のある笑いを浮かべた。とても気持ちよく。自信に満ち溢れた、

これだけは譲れないと言わんばかりの強い笑い。見ていて清々しいほどまでに。







「それにまだくたばる訳にもいかない。帰って来いって言われた。だから―――」






旅人その5へ続く


前の話より短くなってしまいましたが

旅人その4どうだったでしょうか?

お楽しみいただけたら幸いです。

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