表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅人  作者: ネムのろ
第一章 日常から非日常へ
2/20

旅人その2

旅人 - その2




「プールに行って来るねー!」


そう一言元気な声が聞こえたと思うとすぐさま扉のしまる音がした。


「こらっ!ソラまたこりずにって...[バコン!!]あたっ?!」



夕歌はドアが閉まる直前前まで玄関へといけたのだが、

ドアが閉まった勢いで顔を思いっきりぶつけてしまった。顔面直撃、これは痛い。

さすがの夕歌でも涙目だ。


「張り倒す...いつか絶対張り倒す!」と、怒りたっぷりの一言


瞬く間に開けたドアの先にはすでにソラの姿はなく


「あいつ~!今日こそは夏休みの宿題無理やりやらそうと思ったぁノニ!!」


まったく逃げ足だけは速いんだなと文句をぶつぶつはきだす


「プールのどこがいいんだか」


仕方なくドアを閉める。あんな状態で外に出るとは


「どうなっても知らんぞ。」


「あらあら、ずいぶんとご立腹ね夕ちゃん。また逃げられたの?」


道留が奥から話しかけてきてくれたが、今は虫の居所がよくない様子


「お腹すいた」むすっとしらをきり、いかにも機嫌が悪いと表現。


「ふふ。『そのことについては聞くな!』って、顔に出てるわよ?」


「お腹すいた」


「はい、はい」


道留は笑いながら机に料理を置く


「おー!!冷やしソーメン??いいねー!」


少しオシャレなガラス製のお皿の中にあるのは白く輝くソーメンと、

それをもっと冷やす氷のカケラ。別のお皿にはソーメンの汁があった。

ちるちるちる...さもおいしそうにソーメンをすする。

この歯ごたえとタレの甘酸っぱさがたまらん。言いながら次々お代わりしていく


「めちゃ暑い時はこれだよね~」 w w w


「夕ちゃんはプールきらいだっけ?」


と道留が言い終える前にいきなり


だん!!!


「あらら、また機嫌悪くなっちゃった?」


机には見事にこぼれたタレ。滴り落ちて床の方までこぼれている


「そのことは思い出したくない」


彼女は口をトンガリにはするものの、目は何処か遠くを見すえている。少しばかり複雑な顔


「そうだったわね。ごめんね夕ちゃん」


「べつに。こんなあたしが変なだけでしょう。」


「でも夕ちゃん、確かプールであの事件が...」


ミーンミンミンミン......


セミの鳴く音しか聞こえない。今まで言葉を交わしていたはずの二人は

、急に黙り込んだ。そして、その虫の鳴く音が台所に響いて、

蒸し暑さをさらに倍増させたようだった。





「プールさいっこう!!」やほーーーい!!



その声とともに気持ちよく聞こえてくる水しぶきの音。

華麗にプールの中を泳いで行くソラの姿は、こっちまで涼しくさせてくれそうな勢いだ

だが、その勢いが弱まり、やがてソラはプールを出て、端っこに座り込んでしまった


「そう言えば...どうして夕姉ぇはプール来ないんだっけ?」


嫌いだったかな...それか怖いか...

プールのことを口にするたんびにムスッとして答えてくれない。


「言ってくれないと、分からないんだけどな...」


夕姉ぇも、道留母さんもどこか遠慮しているように思える。

何かを隠して、気を使いながら接してくることが多い。なぜかは分からないが。


「せめて何でそんな風に接してくるのかが知りたいなぁ」


思い出せない過去。最近のことしか記憶にないこと。

時折感じる違和感や懐かしさ。きっとそれらと関係があるのだろう。

だからそれらに近い何かを口にしないように一生懸命がんばっている。と思う。



―それはお前のクセなのか?―



「何が?」



―何もせずボーっと空をながめている事だ―



「ああ、こうしていると...」


こうしていると懐かしいような、暖かいような気持ちになれるから。

母様も、この空を見るのが好きだった。



―何だ、急に黙りこくって―


「ううん。べつに」



―その笑いが気に食わない―


「そう?あたしは面白いけど。夕歌は...あれ?」


あたしは今誰と話してる?もしかして独り言を並べてる?

そう思ってソラは辺りを見回す。誰もいない。


「今、独り言がますます酷くなった。」はぁ。とため息


「でも、何かを思い出せそうだった。...あれ?痛いぞ...?どうした自分」


急に胸が痛くなった。その痛さがドンドン酷くなって行く。


「?!...つぅ...!このままじゃ、...ヤバイ。...

しかたが...ないかな。帰ろう。」


いつもの痛みと違う。何か思い出せそうになったことと関係があるのは確かだ。

けど、今はうまく考えられない。ひとまず、すべては帰ってから。



自転車をこぐ。普通は遅くても10分程度。だが今回は最低でも20分はかかりそうだ。

痛みが広がって、今では体全部に影響をもたらしている。うまく動いてくれない。



苦しい。痛い。辛い。



さらには10分程度自転車をこいだ先でうまく息ができなくなった。


これはヤバイゾ自分。そう思いながらソラは自転車から降りた。

こうなったら歩いて行くっきゃない。

だが、そんな足も、だんだんと動かなくなっていく。

どうしたものかと考えていたまさにその時。






赤い大型のバスが通りかかった







だが、通り過ぎない。他の車までも、人も鳥も何もかも止まっている。

この現象、そう、まるであの時見た夢に似ている。唯一違うことは白黒じゃないこと。



「どういう原理だこれ」



何が起こっているのか。辺りを見回す。そして、あのバスを見た瞬間

背筋がこうりつくような感覚に襲われた。力なくその場にへたり込む。

もともと気分が悪かったためもあったろうが、

焦りと恐怖のおかげでもう何をどうしたらいいかも分からない常態だ。

おまけに頭もクラクラし始めた。




「...!何...?この感覚?」




何かが、自分の中から叫んでいるような感じ。そして何かが張り裂けそうな感覚。


「いたっ...痛い...」


痛みがますます上がっていく感覚が、少し収まった時、彼女はやっと周りの異変にきずいた。


が、時すでに遅く。


「キィー!」「ギャワー!!」「ガルルルル!!」そんな、動物のような、

化け物のような獣のような鳴き声が聞こえた。耳を切り裂くような鋭い声。


その瞬間、バスが砕け始めた。その破片が色とりどりの化け物たちへと

はや代わりしていく。さっきのバスはそいつらが集まってできてたのか。


「すごい数」


1000を超えるかのような怪物たち。小さいもの、中くらいのもの、

でかいもの、飛び切りデカイモノや、地を這うものから空を飛ぶやつまでいる。

それぞれの特徴はさまざまだが、目的は同じみたいだ。


今動けるもの、ソラを殺すということ。いくらソラでも、

それだけは解った。そいつらが一目散に攻撃を仕掛けてきたから。



逃げよう、それが一番だ。足に力を入れる。

















―だが、動かない―
















目の前の状況を確認する、と言うより、見てしまったのだ。






―殺される―
















体が動かない。恐怖が支配してしまったらしい。落ち着こうにも落ち着けない。








―助けて―






だが声すら出ない。





化け物たちの鳴き声は徐々にちかずいてくる―――...


そして、その一匹がソラへめがけてそのつめでソラを切り裂いてくる―――

ソラは目をつぶった。

















パンッ!  


何かがぶつかる音がした
















「手を出すんじゃねぇ!ハエドモガ!!」




「え...?」ゆっくりと目を開く



「こいつはあたしの苛めの対象、もとい、妹なんだから!」




突っ込みたくなるようなきめ台詞をはきながら、そいつはそこに堂々と立っていた。




「ゆう...ねぇ?」



そう、そこにいないはずの夕歌が、ショートヘアを優雅に揺らしながら

ソラと怪物たちの間に立っていた。右手を伸ばし、手のひらからうす赤い光の壁のようなものを

出現させ、化け物たちの攻撃を無力化させている。真っ黒い髪は、

まるで夕日をそのまま溶け込ませたかのような鮮やかな色に染まっていた。

いつものふざけた感じはなく、顔は真剣そのままだ。普段とまるで違う。



「間に合ったか」と、ソラに背中を見せながら一言ポツリ




「本当に...夕姉ぇ?」




「いつまでへこたれてんの?こいつらあんたをねらってんぞ?」



「そ、そんなこと言われても、狙われる理由、わかんないし、

何で怪物がこんなとこに現れるのもわかんない。みんな止まってるし。それに...」


ちらりと横目で上を向く。いつもは馬鹿やってて、いじわるで、

元気ハツラツな姉の雰囲気がちがう、髪も、力も。




わけが解らない。





「なんだ。まだだったのか。こいつらがあんたを襲うからてっきり覚醒したのかと。

まぁ、人目見リャア解るか。」


夕ねぇはまじまじとソラをながめた


「髪、まだ黒だし。」


「え?」


「ああ、なるほど。つまり、覚醒する前に、始末しようと、

そういうコンタンか。そうかぁ、こいつらにしては賢すぎる考えだなぁ、裏で誰か操ってんな?」



ドガ!!バコ!!



今まで夕歌のバリヤーに戸惑っていたやつらがいっせいに体当たりしてきた。


「うわっ!とと、あっっっぶねぇなあ!!もう!!」


さらに右手に力をこめる


「ほーら!ソラはそこからどく!」


「う、うん...あ、あり?」


起き上がれない。力が体に伝わってこない


「...たてねぇんかい!はぁ...もういい」


突然、夕歌が自分の左手をソラへとかざし、そして、紋章みたいなことをつぶやいた


「我は夕日となりて、唄うもの、赤木の名の実を集うしはウタカタなり。」


ソラの周りに透明な赤い壁が現れて包み込むのと同じように、右手のバリヤーをはずし、

瞬時に上へと軽く飛び上がった。 化け物たちの中へ一人で突っ込んで行く。

夕歌を傷つけようと怪物たちは爪や牙や炎で攻撃してくる。が、夕歌はそれを見切って優雅によけては次々とそいつらを倒して行く。


攻撃すればするほど、軽やかによけ、そして軽やかに攻撃。さらには空気をけって上へと行く。

ソラは夕歌の圧倒的な戦闘能力を前にして、ただ呆然と見守るしかなかった。

華麗に空中を駆け回る姉、飛ぶのとは違い、まさに空中をけりつずけているのだ。

ステージを自由に使うかのように。


その動きはキレイで、すばやくて...そう、まるで何かの踊りのよう。

なぜだかリズム感もあるみたいにテンポを置いてステップしているようだった。『神秘の踊り。』

そう、その踊りはキレイと言うよりは


「かっこいい」


動きそのものに見入ってしまっていた。


そして、舞台はとうとうクライマックス。ある程度相手を疲れさせた夕歌は何かを始めた。

最初は腕を伸ばし、その腕を頭の上までゆっくりと移動させる。次に大きく両手を開き、唄う。


「我は夕歌...一瞬の輝きで、この世を満たすもの」


彼女の周りに赤い光が吸い寄せられて行く


「この世の原理を静かに見守るもの、そして」


手を下へと振りかざした


「この世の終わりを告げるもの」


その瞬間、まばゆい赤い光が化け物たちに降り注がれた


カッ!


あたりは夕焼けの空のような色で染まりそして一言


「散れ」


やがて、あの怪物たちは次々に消滅して行った。


トッ...と、地面へ降り立つ夕歌姉ぇ。やっぱりカッコよろしくなっている。

あの風に流れる髪、澄ました顔、白いTシャツと、黒のズボン、

腰に巻いてあるジーンズ製のジャンパーが、さらにかっこよさを引き立てていた。

下から見上げているせいもあるんだろうけど...


「立てるか腰抜け?」


「うっそこはいつもの夕姉ぇだ...」




意地悪なとこは変わってない。





「風は流れ始めたけど...まだ修復には時間がかかるか」


辺りを見回しながらつぶやく夕歌


「あんたの腰が治り次第、うちまで全速力。分かった?」


いつの間にか夕歌の髪は元の黒色に戻っている。


「ほんと、昔だったら考えられんよな~。あんたこんなにやわじゃなかったからな~平和ボケか?」


「え、昔ってどうゆう事?」


しまったと言う夕歌の顔は、一瞬で普通に戻ったがソラは見逃さなかった


「しっかしまぁ、あいつらも無茶するねぇ...バスに化けて出てくるなんて...

ほとんど誰も見てなかったからいいけど...」


「ねぇ、ソレどういう事?」


「見られた人にはやっぱ違和感のないように幻を見てもらってやり過ごすかな?」


「だから人の話し聞いてよ!!」


今までにないムシッぷりに腹を立てたソラ。どういうことか聞かせてもらいましょうか姉ぇさん?

と聞いてくる。


「何が」


「今起きた事、あと夕ねぇの言ってること分け解んない。あの怪物は何?

なぜあたしは襲われたの?あたしの昔ってどういう事?あの不思議な力は?

それにどうして時間が「うるっさいな!!」あえ?」


言い終える前に邪魔された。


「そんな質問後で道留母さんに聞きな!細かいこと話すのはあたしの性に合わん!」


手でバッテンを決める姉にとうとう観念袋の緒が切れたと言いながら

その頭にハリセンを叩きだしたソラ。


「めんどくさいにもほどがあらぁ!!」と叫びながら。



旅人その3へ続く


時々本編とはまったく関係ない番外編など

投稿すると思います。

そんな時は決まって話に詰まった時ですので

温かい目で見守ってやってくダサい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ