旅人その11 夕歌スライド重視点
過去からはどんなに必死に逃げてもどんなに昔の事を忘れていても、いつしか己に牙を向く。そんな事はとっくの当に分かっていた事。そして今まで築き上げてきたモノも全てボロボロに壊れてしまう事も。なのに。それなのに何故あたしは...
かけ替えのない物を手にしてしまったのだろうか...
あの日―――ソラを必死で助けたあの日―――
「あの日、あたしはソラに助けられたんだ。」
そう一言呟いたら皆驚いてアタシのほうを見てきた。どう言うことだって目で聞いてくる。
「時が来れば話そうと思ってたし、いいよ、この際だから腹の中のモン全部ブチマケマスカ」
「ね、姉さん、なんか喋り方が『どうとでもなれコンチクショウ』みたいになってるよ?!」
「気のせいだよ」←キレイな笑顔
笑顔ではいるが、姉から黒いオーラを感じ取ったソラは即座に黙って姉を見つめる。勿論背中に悪寒が走り怯えながらだ。
「何所から話すか...」
夕歌は少し考えをまとめ、色々と独り言をブツブツしばらく呟き、その後顔を上げたが、またもや下を向き、もう一度顔を上げてから言った。
「話すのもんの凄くメンドクサイ。」
「「『《はあ?!?》』」」
カツテ無いほどまでに皆の言葉が、気持ちが重なっていた。
アホか
と。
「だから、直接過去へ行って在りのまんまを見ていただこうと思う。過去っつっても、あたしの記憶をベースに空間を出現させるだけだから、まぁ、早い話がアタシの頭ン中の記憶を見てもらうだけ。じゃ、いくよ」
あまりの素っ気無さと自分勝手な行動で、夕歌が術を発動しても皆追いつけずに固まっていた。
「んじゃ~、まずはココから」
夕歌直々のナレーション入り。以外に細かいんだなと、姉の新しい顔を見て少し嬉しかったりする妹がいた。
そう、始まりの始まりは、馬鹿親父が旅人に入り異世界へ旅立ってしまったあの日だった。
「出口保つように頼めるかな?僕は魔法使えないし...帰って来れなくなるし...あ、でも、僕の通信が届いた時くらいでいいよ。ずっと開く...てゆうのは流石に君でも出来な...」
フフフ...ウフフフフ...
「み、道留?!」
「私を誰だと思って?そんな事、朝飯前。ずっと開きつずけてあげるわ...フフフ...長期戦になるわね...望む所よ...ウフフフ...」
そうやって顔に影を作りながら笑う母さんは怖かったなぁ...もしかしたら馬鹿親父が行く事に関して不満があったんだろうなぁ
「話をハショッて申し訳ないんだけれど。」
「え、何母さん文句や罰とかは後にしてくんないかなアタシの魔法限りあるからつずかないしさ~はい!そこで不満そうにしてる馬鹿親父さんも手下げてね質問は後で聞くから」
言葉が凄く棒読みだったのはきっと(せっかく覚悟したんだから黙って聞いてろや!)と思いを込めたため、だろう。ソラと俊一が隅でブルブル震えていたのは言うまでもないが。
コホン。と咳払いしてから夕歌は話を進める。
「そう、父さんと母さんのその会話で当分父さんは帰ってこないなって思った訳。それでも通信はくれるって言うからべつにそう深くは考えないで見送ったんだ。でも本当はさ」
色々と話がしたかったんだよね。ソラのようにどこかへ一緒に連れてってくれもしなかったから妬いてたんだよ?すごく羨ましかった
でもそれは自分の我侭だよなあ。とあの時そう思う事しかできなかった。以外に不器用なんだよね。あたし。人付き合いっていうの。
だから素直になれなくて、いつもいつも自分の気持ちとか考えとか押し込めちゃってさ、相手の気持ちが分かるように様子や表情を観察して無駄の無いように話をして生きてこうと思った。子供の考えにしてはなんか外れてるなんて思ってもいなかったっけ。
ありのままの自分を見せるのがとても怖くて。自身のいる場所、いたい場所を作ろうとしても作れずにいて。皆から愛でられたくて。勉強や運動を頑張ってムリに笑って。認めてほしかった。あたしを見てもらいたかった。
行儀よくもした、でも、結局は自分で自分を追い詰めていて...それでいつも苦しくて。でも嫌われたくなかったし、あたしも傷つきたくなかった。そう馬鹿やってたらさ、ある日超ムカつく言葉吐き捨てるあいつと出会ったんだ。
「バッカみてぇだな。お前。」
「...え、何か用ですか?」
そいつは鼻でフンッと言うと睨め付けてきた。
「嘘つきの周りは嘘ばっかだ。いつか見捨てられて痛い目見るぜ?」
「嘘つきって、私がですか?」
「ああ。」
あたしの周りに同年代の子達が集まってきて口々に言い始めた
そんな事ないよ
口もいいし、悪戯もうしないし
礼儀正しいし
優しいし
でも、そのどれも嬉しい言葉、聞きたい言葉じゃなかった。だってそれはあたしの嘘の虚像だったから。胸が締め付けられるように苦しくなった。こんなのはあたしが望んだものじゃない。わかってる。でも、こうするしか他に自分を保たせる方法が見つからなかったんだ。そうしないと壊れてしまいそうで。
「うるせえよ。黙れてめーら!てめーらに聞いてんじゃねーんだよ!!つうかウゼェ!!」
その言葉はアタシの不安をなぎ払った。あいつの怒っている感情が滲み出ている声で怒鳴ったためか、皆はすくんでしまい、それ以上何も言わなかった。
嗚呼、なんて弱いんだろう。こんな弱くて頼りない奴らを今まで我慢して手伝ったり、あたしの時間を潰してまでフォローや我侭も聞いてきたのにイザとなったらこいつ等はあたしに罵倒する奴からさえも守れないんだ。
勝手な事だとは思う。でも、あたしは今までそいつらを罵倒してきたやつらを追い返したりしたし、時にはケンカを買って出て、ボロボロの状態で家へ帰ったこともある。そういえば一度もお礼を言われたためしがなかったっけ。
あたしの中では良い事をしたら必ず良いことが起こると信じていた。でも、その男の子の言う通り、嘘つきの周りは嘘ばっかりなのだ。きっと本当の友達じゃあない。こいつらはあたしがピンチになったら真っ先に見捨てて逃げるタイプだろう。現に何も言い返せないでいるし。
嗚呼、なんて皮肉なのだろうか。自分を偽ってまでアタシは一体何を積み上げてきた?
「俺は嘘つきな奴が大の嫌いだ。特にお前のような偽善者はな!」
ブチリ。
あたしの中で何かが切れた。
「あたしが嘘つきだって?言いたい事いってくれんじゃねーの?!ちょっと表出ろやダサ男!!!」
「おお、上等だ!コテンパンにして見せるぜこの嘘つき&女狐!!」
「め、めぎっ?!ははは、久々に殺レソウダ!」
そんな小競り合いを初め、次第に遠ざかる二人に残された皆が口にした事
「「「「誰?あれ。」」」」
くだらない。クダラナイ、くだらない!!なんで今まで嘘を付きつずけたのも分からなくなっていく...!それにしても本当、くだらないことをした!!ああ、気分が悪い!!これで皆の前じゃもう同じでいられない!それもこれも、全部ぶち壊してくれたこいつの所為だ!!ああムシャクシャするっ!!!!
「覚悟はいいかよダサ男」
「一応聞くが...なんの覚悟だ?」
「死ぬ覚悟だ」
そう言って駆け出した夕歌姉さん。昔はみんなの前で良い子ぶってたなんて知らなかった。そして、あの頃からこんなにスピードが速かったんだ...
髪はまだ黒。怒ってるけど未だに冷静さを失ってないのが凄い。
目の前に繰り出されるパンチやキックを男の子は余裕にかわして行く。その子が反撃の回転回し蹴りを打ち出したけど夕姉ぇはピョンって飛んで、その反動で踏みつけるがごとく足をその子の顔面に狙い撃ちした。けどまた避けられてる。
「す、凄い...これって、何歳の時起こったの?」
「ん?ああ、たしか11歳の頃だったな。」
この頃は体術ばっか磨いててさ。何かある度こいつとやりあってたなあ
殺し合いを
「「「...」」」
「ヤダナ~。冗談だよ。なに顔青くしてんの皆。」
「だ、だよね!」
まあ、あながち間違っちゃいないけどねぇ。
全然攻撃が通用しない事でこいつも中々の強者ってことはわかった。でもなんだ?体術だけなんか?普通は術の一つや二つ発動しても可笑しくないんだけど。
「結構やるじゃねえか!ただの色気振り回すソンじょそこ等の可愛子ぶる馬鹿女共とは訳...力が違うな!!」
へー、よくわかってんじゃん。いいさ、認めてやる!
「てめーもな!!色気に負けてフラフラムッツリスケベで意地汚い頑固ダメ人間の男共とは違うって事よーく分かったよ!!」
数時間が過ぎた時二人ともバテテ倒れていたのを今でもハッキリ覚えてる。最後には笑いあってた。
「ははっ...こんなにバテタのは久々だぜ...結構強いじゃねーか。嘘ついてたわりには」
「...余計なお世話だ...好き好んでやってるとでも思ってたかダサ男」
「ダサ男じゃねぇ。ロロ・ムサイだ」
「何そのダサいネーミング。」
「シッツレイだな!!俺の名前だっつーの!!」
「へぇ。ムをダに変えたらダサいになるから面白い名前だ!!そうだ!!あたし、これからお前の事ダサいって言う!!コレ決定!!」
ムサイ ⇒ ダ ⇒ ダサイ
「はぁ?!冗談言うなや!!」
「かかかかか!!!!あたしは夕歌。ヨロシクな」
「おい!前言撤回はなしかい!!!まいっか。てめーが素直な笑いを見せたことで今回はチャラにしてやるよ。」
「へ?」
「作り笑い止めた方がいいんじゃね?もっと辛い思いをする...悲しい思いもする...もっとナチュラルにいこうぜ!!」
そうか、こいつには見えてたのか
あたしの魂の涙が。
旅人その12へ
次回は少し暗めなお話になります。
夕「もっと明るい話書けないの?すっごいツマンナイ」
うっ!...が、頑張ってみようと思います...