第7話 編入決定
奏が着替え終わった後、湊たちは川から離れてマーズの家に向かっていた。奏のご要望でお姫様抱っこで森の中を突き進む。
今の湊は目隠しをしていない。奏の指摘で、目隠し状態では危険なので布は取ってある。というのは、建前で本当はお姫様抱っこされている奏が湊の顔をちゃんと見上げたいという本音が隠されていた。
もちろん、当の湊は知る由もない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「お主らには、サンテリア学園に編入してもらう」
川から帰ってきた湊たちは家に着くなり、マーズに、大事な話があると呼ばれて席に着いたところで開口一番に言われた。
「随分、急な話だな」
「編入ですか………?」
湊と奏がそれぞれ感想を述べる。
「そう思うのも無理はないか。つい昨日、編入の許可が下りたからの」
最近、マーズが町に出て行く回数が多くなったような気がしていた。おそらく、そのときに編入の手続きを進めていたのだろう。
だが、それよりも気になることがある。
「なぜ、俺たちが学園に編入しなくちゃならない。学園という公共の場所に出たらこの髪と目の色のせいで大騒ぎは間違いないぞ」
「ミナトがそう思うのも無理はない。じゃが、お主らはいずれ元の世界に帰る手段を見つけるために、この世界を旅するのじゃろ?」
「そのつもりだ」
湊は即答した。
これは奏と考えて出した決断だ。
マーズの話の内容は、この世界を旅するなら、街に入るにしても宿を取るにしても身分証明書がいる。提示を求められて、提示ができなかったら罪人扱いになってしまう。それでは、街にも入れない、宿も取れない、そんな不自由な旅になってしまう。
それで、この身分証明書を手に入れる1番簡単な方法がサンテリア学園の卒業をすること。卒業すれば、卒業証書がもらえる。この卒業証書は、南の大陸だけなら万国共通で身分証明書代わりになる。
要するに、サンテリア学園の卒業証書は身分証明書代わりになるから編入して取ってこい、ということだ。仕事に就いて身分証明書を発行することも可能だが、この大陸で仕事に就くには、法律でサンテリア学園の卒業が必須条件だ。どちらにしろ、サンテリア学園に卒業するしかない。
「学費とかはどうするんですか?」
「心配ない。サンテリア学園はこの大陸唯一の教育機関じゃから、五大国と中立国から多額の援助金を受けて成り立っている。入学費、授業料などその他諸々は全て無償じゃ」
五大国と中立国のバックアップがあるサンテリア学園は、大陸中から集まる未来の子供たちに最新の学校環境と授業をする。未来を担う子供たちを思ってのことだ。
「さて、これが1番大事な話じゃ。お主らの髪と目の色のことじゃ」
日本人である湊たちの黒髪黒目だ。
この黒色が問題なのだ。
この世界にいる、自然型の超能力を司る火・水・雷・土・風・光・闇の一族の人間はそれぞれ髪と目の色が違う。
火の一族は、赤髪赤目。
水の一族は、青髪青目。
雷の一族は、金髪金目。
土の一族は、茶髪茶目。
風の一族は、緑髪緑目。
光の一族は、白髪白目。
闇の一族は、黒髪黒目。
では、一般人はどうなのかと言うと、ただ単に髪と目の色が違うだけ。緑髪赤目や金髪青目などのバリエーションがたくさんある。
さて、湊たちは黒髪黒目である。この色は闇の一族と同じ色だ。この世界での黒髪黒目は闇の一族の証拠であり、湊たちも闇の一族の人間ということになってしまう。もちろん、湊たちはこの世界とは別の世界の人間であり、闇の一族の人間ではない。しかし、事情を知っているマーズ以外の人間が湊たちを見たら、迷うことなく闇の一族の人間だと判断するだろう。さらに悪いことに、ここは南の大陸。闇の一族がいるのは北の大陸だ。戦争真っ最中の闇の国を統べる闇の一族の人間が、なぜ南の大陸にいる、となってしまう。下手したらスパイ容疑のような重い罪状が問われてしまう可能性だってある。つまり、他人から見れば湊たちは闇の一族ということになり、面倒なことになるのは間違いないのだ。だから、この半年間は森の外にある街に入らず、ずっと森の中で過ごしてきた。
だったら、髪を染めたりカラーコンタクトを付けて、髪と目の色を変えればいいのではないか、ということになるのだが、それは無理な話だ。髪と目の色を変えることで五大貴族に成り済まして、何か悪さをする可能性があるからだ。そんなことがあれば一族の誇りに傷が付くと考えられたことで法律で禁じられた。そんな法律が決められたことで、全ての理髪店は髪染めを止めた。もちろん、森の外にある町の理髪店も止めているため、湊たちが髪の色を染めることは不可能。さらに、カラーコンタクトは既に店頭から消えているため入手は不可能。加えて、この法律を破ることは重罪に値するため、自分からやろうなどという人もいない。やったとしても、自然型の超能力を扱えない時点でバレる。
結果的に、湊と奏は髪と目の色を変えることは不可能、ということになる。
話を戻すと、湊たちはサンテリア学園に編入するが、黒髪黒目ということで周りから闇の一族と勘違いされ、闇の一族=闇系統の超能力を扱う人間ということになる。残念ながら、湊たちの超能力は闇系統の超能力ではない。つまり『闇系統の超能力を持たない闇の一族の人間』という矛盾した評価になってしまい、人々の混乱は免れない。
「闇の一族に誤解されるのはどうもならん。諦めて騒がしい学園生活を送れ」
マーズが投げやりになるのも仕方ないと言える。
これには、対処のしようがないので『なるようになれ』ということになる。
「そういや、俺たちの能力はどうするんだ?婆さんの予想だと、俺たちの能力は『分類不可』なんだろ?」
湊たちの超能力はマーズの見立てだと5種類に属さない、世にも珍しい『分類不可』となっている。湊たちも5種類に分類される超能力の特徴を聞く限りでは『分類不可』だと思っている。
「はっきり言わせてもらうと、お主らの超能力は厄介過ぎる。学園では隠した方がいいじゃろ」
『分類不可』の超能力の数は自然型より圧倒的に少ないので、闇の一族が『分類不可』の超能力を持つなど一騒動が起こるのは間違いない。
「隠した方がいいって、急に言われても具体的にどうすればいいんだ?」
「それくらい自分で考えんかい」
「また投げやりだな。そうだな………筋力強化でいいんじゃないか?」
「無難な能力じゃのう。筋力強化を使う闇の一族か………大混乱は間違いないのう」
「『分類不可』よりまだマシだと思うけど。それに、筋力強化だったら、多少なりと俺の体術が役に立つだろうし」
「私はどうすればいいのでしょうか?兄さんみたいに他の能力にごまかすなんてできません」
「奏は俺と同じ筋力強化だな。俺の能力を貰い受けてそれで騙し騙しでやっていくしかない」
「それがいいじゃろな。手加減が難しいと思うが、毎日受けているから誤って暴発させることもないじゃろ。能力測定も目立たないように、無難なレベル4あたりの成績が妥当じゃろ」
「ちなみに聞くが、俺が鍛練しているときのスピードで能力測定をやったら、どのあたりのレベルになる?」
あの朝の鍛練で湊がやった視認不可能なスピードだ。
「筋力強化の場合じゃと…………少なくともレベル7,8はいくじゃろうな。もしかしたら、レベル9はいくかもしれん」
「……基準低くないか?」
「お主らがおかしいだけじゃ。とにかく、目立ちたくないのなら能力測定は手を抜いておけ」
「分かった」
「分かりました」
以上から分かる通り、湊と奏にとってこの世界は、とーーーっっってつもなく住み辛い、ということだ。2人が異世界から来た異分子だからかもしれない。