第4話 超能力の世界
湊たちが入った小屋の中は、所狭しと物が溢れていた。1番奥の壁を除く、三面の壁には天井まである棚がある。箱やよく分からない形をした像などが棚に並べられている。奥の壁にはキッチンがあった。天井からはランプが吊り下げられている。
そして、部屋の真ん中にはテーブルがあり、椅子が4つ置かれていた。
「今、茶を入れるから、座って待っていてくれ」
婆さんはそう言うと、食器棚からコップや茶の元になるであろう物が入った袋を取り出してキッチンで茶を入れ始めた。
席を勧められた湊と奏は大人しく木の椅子に座って、婆さんの入れる茶を待った。
2分程で、婆さんがお盆に茶の入った取っ手付きコップを3つ乗せてテーブルにやってきた。コップを1つずつ湊たちの前に出し、最後に自分の前に置いた。
婆さんはコップが置かれた席に座ると、持っていたお盆を隣に置く。
婆さんは湊と奏を見ると口を開いた。
「手荒な歓迎じゃったが、その茶で勘弁しておくれ。さて、お主らは何用でここを訪ねた?」
前半はおどけた口調だったが、後半は真剣味が増した口調になる婆さん。
「俺の名前は、桐宮湊、と言います」
「妹の、桐宮奏、です」
「ワシは、マーズ・ウェリントン、と言う」
自己紹介が終わったところで、湊たちは婆さんに自分たちが異世界から来たことを話した。もちろん、この話だけで信じてもらえるわけがない、とは思って次の言葉を言いかけたときに、
「よし、わかった。お主らの話を信じよう」
まさかの返事だった。
これには、湊と奏も目を丸くした。
「こんな突拍子もない話を信じてもいいんですか?」
とんとん拍子に進んでいることに違和感を感じざるをおえない湊は思わず聞いてしまう。
「こう見えても、人の嘘を見抜くことは得意での。お主らの話は本当のことだと思ったんじゃよ」
マーズはやんわりと微笑みながら言った。
「兄さん、信じてもらえてよかったですね」
「それはいいけど、どうにも簡単過ぎっていうか………」
隣の奏が湊に笑顔で言う。反対に湊は物事の進む展開に違和感を感じていた。
「まあ、ミナトが警戒するのも仕方ないと思う。ワシとて100%信じているわけではない」
「じゃあ、何で信じてくれたんだ?」
「眼じゃよ」
「眼?」
「異世界から来たと話をするミナトたちの眼は嘘を言っていると思えなかった。こう見えても、ワシは人の嘘を見抜くのは上手いからのう」
「…………」
「警戒してくれるのう。まあ、いいじゃろ。この世界について説明する。耳をかっぽじって聞くのじゃ」
マーズがこの異世界についての説明を始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
この世界には、南の大陸と北の大陸に分かれ、その間には広大な海が広がっている。北の大陸と南の大陸を繋ぐ陸路をなく、海路のみが存在するという。
北と南の大陸には、それぞれ国というものがある。
まずは、南の大陸。
南の大陸には、火の国・水の国・雷の国・土の国・風の国という五大国と中立国サンテリアで成り立っている。
場所は、中立国サンテリアが大陸の真ん中を位置し、その周りを囲むように五大国がある。それぞれ、中立国サンテリアを除いた南の大陸の土地を均等に領土としている。
五大国はそれぞれ、火の一族・水の一族・雷の一族・土の一族・風の一族が統治し、中立国サンテリアは、南の大陸の唯一の教育機関であるサンテリア学園の校長が統治している。
次に北の大陸。
北の大陸には、光の国・闇の国がある。
地図上では、北の大陸の左半分が光の国、右半分を闇の国が領土として持っている。
光の国は光の王を筆頭とした光の一族が、闇の国は闇の帝を筆頭とした闇の一族が、それぞれ治めている。
また、光の国と闇の国の領土の境界線があやふやで戦争の真っ最中。この戦争には南の大陸の国々は干渉しないことを決めている。
ちなみに、北の大陸と南の大陸の間にある海には幾多の島があり、そこにも人が住んでいる。
そして、ここが1番大事な話。
この世界では『超能力』というものがある。生まれたときに超能力が必ず備わる。南の大陸では、唯一教育機関であるサンテリア学園で自分で制御し使いこなすことを学ぶ。
超能力には種類ある。
自然型・精神型・獣化型・付与型・干渉型・創造型の6種類。そして、この6種類に分類されない能力もある。
自然型は、文字通り自然の力を操る能力の種類のこと。この能力を有しているのは五大貴族と光の一族と闇の一族だけで、それ以外の人が自然型の能力を持つことはない。一族の血を受け継いでいない限り。そのため、世界で1番少ない能力の種類となっている。
精神型は、これも文字通り精神に関する能力の種類のこと。精神に関する能力の全てなので分類がしやすい。世界でも2番目に少ない能力。
獣化型は、これも文字通り動物に変身する能力の種類のこと。動物に変身すること動物の能力を有し、熟練者になると動物そのものになることもできる。
付与型は、自分の身体に関する能力の種類のこと。腕や足の四肢・視覚や聴覚などの五感を強化などが主な対象となってくる。
例として、身体強化・透視能力などが挙げられる。
干渉型は、自分以外の人や物を対象とする能力の種類のこと。付与型とは逆の種類となる。
例として、念動力・磁力使い(マグネットハンド)が挙げられる。
創造型は、虚空から物体を創り出せる能力の種類こと。物理原則を無視して、物体を創り出す。
超能力にはレベルがあり、超能力のレベル制は万国共通。
そして、レベル1〜10と10段階に分かれる。
レベル1〜9は能力測定で一定の成績を出せば、誰にでもレベルを上げることができる。もちろん、レベルが高い程いい仕事に就ける。
唯一例外として、レベル10には特別条件で“自動能力を身につける、もしくは、自身の超能力と一体となる”というのがあり、才能や自身の能力も関係してくるため、レベル10に上がれる者はごく僅か。
現在のレベル10は、五大国の頭首と北の大陸の光の王と闇の帝だけと言われている。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「この世界については、このくらいかのう」
「とんでもない世界だな………」
「超能力ですか………」
マーズの説明に湊たちは唖然とする。
自分たちの世界との違い。漫画や小説の中でしか、お目にかかれなかった超能力という非科学的な力。
それらの存在は、ここが異世界だ、ということを改めて湊と奏に実感させた。
「お主らの世界とは違うのか?」
「根本的に違う。超能力っていう言葉ははあるけど、超能力を身に付けている人なんていなかった」
「超能力者がいない世界か。それこそ、信じられない話じゃの」
言葉では納得していないと言っているが、マーズの顔は納得しているような表情をしていた。
「マーズさんは、何の超能力を持っているんですか?」
今度は、奏がマーズに聞いた。
この世界が、超能力で溢れているのなら、目の前にいるマーズにも超能力があるということになる。
「それはのう…………秘密じゃ。」
「秘密……ですか」
「ふむ………これは、1つ教えといてやらんといかんのう。超能力というのは、言わば個人情報のようなものじゃ。超能力を使役することで生活をしている人間がたくさんいる。理由は大してお主らの世界と変わらない。家族を養うため、自分の夢を叶えるため、などと理由は様々じゃ。お主らが考えるような、お遊び程度のための力ではない。だから、カナデの質問には答えられないのじゃ。カナデの聞いていることは、お主らで言うならば、他人の住所を聞いていると同じと言ってもいいくらいじゃな」
湊と奏は、超能力を見誤っていた。
超能力がない世界で生活してきた2人は漫画や小説でしか見られない超能力を憧れなどの感情で軽く見ていた。
「とは言っても、この世界の人間の全部が超能力で生活しているわけではない。例外もいるということじゃ」
「す、すみません!そういうことは露知らず!」
マーズに諭された奏は自分のしたことに頭を下げて謝った。
「別によい。知らなかったのじゃからな。これから気を付けていけばよい。まあ、ワシの場合はちょいと特殊じゃから教えられんけどな」
「特殊?」
「そんなに気にせんでよい。時期が来たら話す。それに、お主らからしたら、ワシの超能力を当てるのも1つの余興じゃろ?」
ニヤリと笑いながら言うマーズ。
その表情はイタズラをする子供に見えなくもない。
「それは秘密じゃないですか?さっき言ったように、個人情報だって………」
「今のは一般論。ワシから見たら、超能力はその人の『顔』じゃ。仕事をするにも、超能力を使えば誰かしらに知られる。住所も同じじゃ。バレたらそれまでじゃよ。それに、住所と同じように幾千幾万もある超能力から1つを選び出すなど無理だとは思わんか?」
マーズが2人に問う。
「無理だな。何も手掛かりなしに、婆さんの超能力を当てるなんて。でも、婆さんの特別ってのはいいのか?」
湊がマーズに聞く。
「別によい。さっきも言った通り、バレたらそれまでじゃ」
マーズはそこで言葉を切ると、さっきまでイタズラをする子供のような表情だった顔が、一気に真剣な表情になった。
「今のお主らがこの世界で生きていくためには、2つばかり根本的な問題がある」
「それは、この世界の常識とかじゃないのか?」
「違う。この世界についての常識や知識はワシが教えればいいことじゃ」
湊に続いて、今度は奏が質問する。
「では、お金とかですか?私たちはこの世界に来たばかりなので、この世界のお金なんて持っていませんし」
「それも違う。金についてはワシの金から出そうかと思っている」
「そ、それは悪いですよ!こうやって、私たちのことを受け入れてもらえているだけで、恩を感じているのに」
「たいしたことはない。どうせ、使わぬ金じゃ。いくら減ろうが構わないからのう。もし、金がもらうが嫌なら、貸しってことでもいいぞ」
「ありがとうございます!絶対にお返しします!頑張りましょうね、兄さん!」
「お、おう」
マーズと奏のやり取りを見ていた湊も奏と一緒の意見だった。
「さて、話がズレてしまったのう。お主らが話に水を差すからじゃぞ」
この言葉には、湊と奏も苦笑で返した。
「1つ目の問題が、お主らの超能力の有無じゃ。説明したように、この世界は超能力で溢れいて、超能力がない人間などいないのじゃ。ところが、今のお主らには超能力がない。世間に、超能力がないなど知れると厄介事になること間違いなしじゃ」
「それは、大問題だな………」
「とてもマズいですね………」
マーズの挙げた問題に、湊と奏は苦悶の表情をする。
「2つ目の問題は、お主らの髪と目じゃ」