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桐宮兄妹と超能力の世界  作者: BRISINGR
第1章 サンテリア学園・編入編
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第4話 兄妹の家

校長室を出た湊たちは案内役であるフィルネを先頭にして校舎から進んで、何回か曲がったところにある並木道を歩いていた。


今の奏は湊の腕に抱き着いたりはしていない。周りに男がいない以上、やる必要はないからだ。


「兄さん、すいません………」

「気にしなくていいよ。俺のために怒ってくれたんだろ?」


校長室では、湊が重力をかけられたことに怒った奏が危うく能力を使うところだった。使う寸前で湊が止めたが、あと少し遅かったら奏はラウデラを報復していたのだろう。

骨折程度では済まない威力を持つ重力でだ。


そして、もし、あの場で奏が能力を使用していたら面倒なことになっていたに違いない。


「これからは気をつけてくれればいいよ」

「はい!」


奏がニッコリと笑顔で返してきた。

反省しているのか微妙なところだが、笑顔で返されては言う言葉はない。

つくづく妹に甘い兄である。


その笑顔を見ながら湊は考える。

いつまで、これをやっていけばいいのだろうか。出生や能力を隠して過ごすことになるこの生活を。

能力を制限されることは湊にとっては多少の我慢で済む。実際のところ、普段の鍛練で使っているためそんなにストレスみたいなものは溜まらない。筋力強化(マッスルアッパー)と偽っているが、あんまり能力の効果自体は変わらない。過程は大きく違うが。

奏はどうだろうか。湊と同じように能力返却(スキルカウンター)筋力強化(マッスルアッパー)と偽っているため、単一の能力、力の加減等々と湊より制限がかかっている。

いつか、自由とは言わないまでも、ある程度は使えるようになりたい。


(ああ、そうだ。鍛練の場所どうしようっか………)


「ところで、兄さん」

「ん?何だ?」

「女子ばかりいるクラスに入りたい、とはどういうことですか?」


きっちり覚えていたらしい。

さっきの一悶着で右耶無耶になっていたと思っていたが、奏は忘れていなかった。


湊は冷や汗を垂らしながら弁明を始める。


「奏が『アレ』を以前にも増して嫌っているから、教室くらいは安心地帯をと思っただけだよ。女子ばかりなら当たり前のことながら『アレ』は居ない、俺は除いてね。前みたいにピリピリしながら警戒しなくていいだろ?」


『男』という言葉だけでも敏感に反応してしまうので『アレ』と言葉を替えておく。


「じゃあ、あの要望は私のために………?」

「そういうこと。まあ、奏が誤解するのも仕方ないさ。今、思い出してもあの言い方は誤解しか生まないな」

「ありがとうございます、兄さん」

「誤解が解けて何よりだ」

「でも、兄さん。周りに女子ばかり居るからって鼻の下伸ばさないで下さいよ」


ちょっと頬を膨らましながら言う奏。

冗談を言っているような言い方だが、目は真剣そのものだ。


「大丈夫。俺は奏が隣に居る限り他の女子に靡いたりしないよ」

「じゃあ、一生、兄さんの隣に居ます」

「男としては嬉しい言葉だけど、兄としては悩み所のある言葉だな」


告白もしくはプロポーズまがいの言葉を言い合うところが色々と問題だが、この兄妹にそんなことは些細なこと。

補足しておくと、奏の顔は真っ赤だった。


『仲が良いのね、ミナト君とカナデちゃんは』


誰だろうか。

この会話を聞いていて「仲が良い」という言葉で片付ける人は。


「……ッ!」


突然、頭の中に聞こえてきた声に思わず身構えてしまう。

奏はうん?と湊の行動に首を捻っていた。奏には声が聞こえていないらしい。でも、念話伝達(テレパシー)が自分に対して使われているのは分かっていた。


(この声、どこかで………?)


『そんなに警戒しないで。話しているのはあなたたちの目の前の人よ』


言われた通り、前を見てみるがフィルネしかいない。


「えっと………この声はフィルネさんですか?」

『そうそう。こうやって話しているのは、私の精神型・念話伝達(テレパシー)のおかげなのよ』


湊は問答しながら、奏に自動能力(オートスキル)を切れ、とアイコンタクトを送る。奏はすぐに『吸収』を切ると、頭の中に声が聞こえてきた。


『ビックリさせてゴメンなさいね。でも、校内放送がいきなり頭の中に聞こえてきたら驚くでしょ?だから、事前にね』


校内放送と言っても、行事や集会などの事務的なことで使われていて、それ以外のことは各先生が放送室から放送することになっている。


「それはそうですよ。今だって驚いているんですから」

『ふふふ。驚かしてゴメンなさいね』

「ところで、口調がさっきとは全く違うのですが。こっちが地ですが?」


今のフィルネの口調は校門で会ったときと校長室にいるときとは全く違った。


『そうよ。普段、会話するときはあの口調なの。秘書として板に付いちゃったのね』


文章上は普通に会話をしているように見えるが、実際はフィルネが念話伝達(テレパシー)を使って話しているので、他者視点からだと湊が一方的に話しかけてフィルネに無視されている構図が出来上がっている。


「ところで、家ってどういうこと何ですか?」


今度は奏がフィルネに質問した。

2人はマーズから学園に寮があることは聞いていたため、てっきり自分たちもそこに住むのだろうと考えていたのだが、ラウデラの口から出た言葉は寮ではなく家だ。


『普通なら貴族でもない人は寮に住むことになるんだけどね』


この学園は五大国という大きなスポンサーがいることで成り立っているところが大きいため、どうしても五大貴族の子供たちを特別扱いとなってしまう。そのため、希望でも無い限り寮には入れずに一軒家、それも大邸宅に住むことになっている。

逆に貴族ではない平民は家を買えるほどの金をポンと用意できるはずもなく、子供は寮に住むことになる。普通の家庭なら出費が安く済むのであれば、それに越したことはないだろう。


『でも、あなたたち2人は例外。黒髪に黒目というスタイルから周りの生徒は闇の一族と間違いなく誤解するわ。例えあなたたちが闇の一族ではないと言ってもね。正直、未だに私もあなたたちのことを闇の一族じゃないと信じ切れてないわ。まあ、マーズさんが保証してくれてるなら本当なんだろうけどね』


この世界では髪と目の色は一族の象徴を現すもの。子供なら誰でも知っていることだ。

究極的に言ってしまえば、誰がどう見ても男性という性別なのに本人は男ではない、と言っているような常識の矛盾が起きている。病気や手術云々は抜きにしてだ。


『あなたたちが寮に住むと他の生徒たちに動揺するのは間違いないわ。もしかしたら、異端視する生徒だっているかもしれない。闇の一族が何でここにいる、とかね。だから、寮ではなく、生徒との接触の機会を少ない一軒家にしたってこと』


要するに、生徒たちとのイザコザをできるだけ無くすために、2人のために一軒家を用意したということだ。


「何か色々とすみません。俺たちのために」

『気にしないで。家だって余ってたものだし。実質、あまり苦労なんてしてないもの』


そう言ってもらえるならと湊としても気が楽だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



サンテリア学園は大きく6つのエリアに分けられる。

火の国の子供たちが通う、レッドエリア。

水の国の子供たちが通う、ブルーエリア。

雷の国の子供たちが通う、イエローエリア。

土の国の子供たちが通う、ブラウンエリア。

風の国の子供たちが通う、グリーンエリア。

サンテリアの子供たちが通う、サニーエリア。

エリアの位置は、サニーエリアを中心にして、その周りを5つのエリアが囲うような形になっている。言わば、サンテリア学園は南の大陸を縮小したようなものだ。6つの国の人間が生きる南の大陸と同じ。さらに、もちろん広さも半端ない。南の大陸の1割〜2割も占めている。ちなみに、湊たちが門から入った場所はサニーエリアであり、駅から降りた時点で既にサンテリア学園に入っていたりする。

1つのエリアには、馬鹿みたいに大きい校舎と生徒の住む居住区と買い物や娯楽をするため区、という3つの区がある。

居住区には、幼等部から高等部までの暮らす生徒の寮や一軒家があり、寮に至っては何棟もの寮の建物がある。一軒家はに圧倒的に少ない。寮はある程度は無料で済むため需要を考えると普通は寮暮らしを取る。比べて、一軒家は水道代や光熱費などで一介の学生に住めないような金額になってしまう。たまに、小さい子供の心配な保護者が住むこともある。


そして、これから湊と奏が通う場所はサニーエリアにある校舎だ。これはラウデラの独断で決めたこと。何故かと言うと、目の届く範囲に置いておきたかったというのもあるのだが、サニーエリア以外のエリアにはそれぞれ貴族がいるため貴族の影響力が強い。もし、闇の一族と疑いのある湊たちを他のエリアに編入させると高確率で貴族が尋問をするだろう。知らないことを知っていると決めつけてだ。その点、サニーエリアには貴族は居ない、居るのは平民だけで誰かに命令されることもない。例え、五大貴族がサニーエリアにいる湊たちを何かしようとしても、うちの国民に何か用か、と突っぱねることもできる。

ゆえに、中立国サンテリアは五大貴族の不可侵領域とも呼ばれている。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「ここが、ミナトさんとカナデさんの家です」


フィルネに案内された家は、校舎から15分くらい離れた2階建ての一軒家だった。周りに家は無く、両端と後ろを林で囲まれ、唯一林が無い正面玄関からは湊たちが歩いてきた並木道が続いている。

中に入ると広々としていた。キッチンやテーブル、冷蔵庫、電子レンジ、テレビまで揃っている。

どうやら、家具一式はあるようだ。

物件としては、良い方と言える。


「いいんですか?本当にこの家を俺たちだけで使って」

「はい。この家はミナトさんとカナデさんのものです。ですから、好きに使ってくれて構いません」


秘書モードのフィルネが答えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



家の中を一通り見た湊と奏は制服の試着をすることになった。

制服は事前に学園側が家に用意していたものだ。サイズはマーズから聞いていて、湊たちに合うように作ってあるとのことだった。

万が一、サイズが違ったら作り直さなくてはならない。そのための試着なのだが…………。


シュル、シュル、シュルシュル………バサッ。


後ろから布と布が擦れ合う音と布が床に落ちる音が聞こえてくる。

湊の後ろで奏が制服に着替えているのだ。





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