マリリン・モンローがとんでもなく可愛く見える
久しぶりに映画を見た。
なんとなく配信サイトの画面をスクロールしていて、ふと目が留まった。そのタイトルは、
『お熱いのがお好き』
一度見た記憶がある。確か、女装した男二人組がドタバタと逃げ回るコメディで、やたらと面白かったはずだ。
「懐かしいな」
軽い気持ちで再生すると、なんとカラーじゃない白黒の画面だった。
そして驚いた。画面の中のマリリン・モンローが、とにかく可愛いのだ。
歩き方も、笑い方も、少し困ったように眉を寄せる仕草も、歌う姿も、そのすべてが可愛い。
昔見たときは、世間で言われるセクシーな大人の女性というフィルターを通して見ていた気がする。お色気担当の、ちょっとおバカなお姉さんだと。
あるいは、ストーリーのコミカルさに気を取られて、彼女の代わりに誰が出ていても気づかなかったかもしれない。
少なくとも当時は、「可愛い」なんてこれっぽっちも思わなかった。
なのに、今見るとどうだ。
「なんでこんなに可愛いんだ……」
気がつけば、名優ジャック・レモンでもトニー・カーティスでもなく、わたしの視線は彼女ばかりを追いかけていた。
映画がエンドロールを迎える頃には、完全に彼女のとりこになっていた。
翌日、友人との昼食の席で、その興奮を語った。
「昨日さ、『お熱いのがお好き』を見たんだよね」
「ああ、マリリン・モンローの映画?」
「そう。それでさ、彼女がもう、めちゃくちゃ可愛くて!」
「ん?」
「いや、昔見たときは『こういうのがセクシーか』くらいにしか思わなかったんだけど、今見ると本当に可愛いんだよ」
友人がぴたりと箸を止めた。
そして、わたしの顔を数秒じっと見つめる。
妙な予感がした。
友人はたっぷり間を置いてから、芝居がかった口調で言った。
「そりゃあ、あんたが歳を取って男になったんだよ」
「は?」
「だから、男になったの」
「なんでそうなるのよ」
「そういうもんなんだって」
「勝手な分析しないでよ!」
「ふふん。十分な考察のもとに導き出された、根も葉もない暴論さ」
「何それ」
「まあでも、彼女の映画はたくさんあるんだから、これからいくらでも楽しめるじゃない」
「確かにね」
そうして昼食は、いつの間にかずいぶん長くなっていた。
「それにしても、あのラストは大胆よね」と友人が言った。
「『誰だって何かしら欠点があるもんだ』ってやつ?」
「笑ってごまかしたのかな……」
「かな」
「今だと男は欠点じゃないとかって非難されたりして」
「それ、怖いよ」
「むしろ今のほうが笑えないかもね」




