第三話「やっぱり食い物がマズイらしい」
俺はぶっ倒れているグリーヴァを引き起こし土を払ってやる。
「お前、いつの間にこんなに強くなったんだよ……」
グリーヴァはブスッとしながら口を尖らせる。
「殴り合いなら、お前には勝てんよ」
同じレベルなら個体値の高いグリーヴァに軍配が上がる。
ゲームだと主戦力なのに途中退場するから困るんだよね。
「ほれ、終わったぞ」
最後に背中を叩いてそう告げる。
「なぁ。村を守るって言ったはいいが、具体的にはどうするんだ?」
さすがは脳筋。胸に抱く思いはでっかいが、頭が足りていない。
ゲーム終盤はそうでもないが、グレてアホになった頭は決意だけでは変わらんらしい。
「こんな所ではなんだ。俺の家に行こう」
シヤは両親がいないので一人暮らしだ。
密談にはもってこいだろう。
普通だったらこんな寒村で、子供一人では生きていけないだろうが、食うだけには困らない世界なので問題ない。
「それだったら、飯がまだだから、先に女神様のとこに行こうぜ」
グリーヴァは俺の肩に手を置くと、村の中央を指差す。
さっきまではアドレナリンが、どばどばだったので気づかなかったが、確かに腹が減ったな。
俺たちは連れ立って村の中央に向かう。
そこには天を仰ぎながら祈る、稲穂を持った女神像が台座の上に鎮座していた。
そして台座の下には穴が空いており、ちょうど自動販売機の取り出し口といった風体だ。
その後ろには水をたたえた噴水がある。
「女神様、女神様、ウケモチノカミ様。今日も我らに命の糧を下さいませ」
俺が女神像を観察していると、グリーヴァが像の前に跪き祈りを捧げる。
ほーん。そんな祈り方なんだ。
ゲームだとクリックだけだから新鮮。
「ほら、お前も祈りを捧げろよ」
グリーヴァが取り出し口から、寿司くらいの大きさで、茶色の長方形をした物体を取り出しながら言ってくる。
あぁー。これ、公式にクソまずいって書かれてるんだよねぇ。
現状だと食い物を作ることできないし。
仕方ないか。
「えー。女神様、女神様、ウケモチノカミ様。飯ください」
適当に祈ってみたが、ちゃんと茶色の塊は出てきた。
「お前んち、まだ水の蓄えあるか?」
グリーヴァがそう言いながら、噴水を指差す。
この村の井戸がわりの噴水だ。
女神の加護で常に清潔な水が提供されるという設定だ。
「分からん。あるかもしれないし、ないかもしれん」
俺は自分家のことなど知らんので、適当こく。
「なんだそれ。じゃあ、一応持っていくか」
グリーヴァはそう言いながら、備え付けの大きめの木のバケツに水を入れて手に持つ。
うんうん。重いから君が運ぶのは賢明だよ?
それから今度は俺の家に向かう。
マップは頭に入っているので、家の場所は分かるのだ。
家は村のはずれで、ちょっと孤立したところにある。
一人暮らしで周りを気にしなくていい家。
___いいやん。
ゲームでは気にも留めなかったが、自分がこの家を手に入れたとなると、色々思いを馳せる事を止める事ができぬ。
「都合よくね?」
「なにが?」
つい、声に出ていたのかグリーヴァに聞き返される。
「密談には都合が良いと言ったのだ」
「そうだな。でも、めんどくさくないか? 中央まで行くの」
なんとなしの会話なのだろうが、今日転生してきた俺には面倒臭いのかどうか分からん。
いや、めんどい事にしよう。
「めんどいから、今後はお前が水持ってきて」
「ふざけんな。自分でいけ」
ダメだったよ。
そうこうしている間に家に着く。
ドアを開けると、この世界での、ザ・村人の家! といった作りの部屋が現れた。
中央にはちゃんと木のテーブルと椅子が二脚ある。
入り口近くには水が入ったタルが置いてあった。
奥には藁のベットがある。
……ゲームの時はそう言うものとして受け入れていた。
だが、この家具たちは一体、どうやって手に入れたのだろう。
勇者がいなければ、手に入れることは不可能だと言うのに。
「なんだよ。水あるじゃねぇか」
後ろでグリーヴァが文句を言ってくる。
俺は答えの出ない問題を後回しにして振り向く。
「今飲めばいいだろ」
「それもそうか」
そう言いながら、グリーヴァは水をテーブルに置いてどかっと座る。
俺も水が入ったタルの横にある、木のコップを二つもって座る。
このコップも入手不可だ。
「じゃあ、先に飯を食うか」
そう言いながらグリーヴァは、先ほど手に入れた茶色のブロックを齧る。
ガリガリと言う音を響かせながら、水で流し込んでいる。
原住民でも水で流し込んでんじゃねぇか。
現代人無理だろ。
だがこのブロック。名前を「栄養棒」
一日三本女神像から入手できるHPを20も回復できる優れもの。
設定では一日三本食べるだけで、人間が生きていく栄養を全て取れるという完全食だ。
シヤが孤児でも生きてこれた理由がこれだ。
そして、料理が出来ない、この世界の人間が生きていける生命線だ。
意を決して、そんな完全食を口に運び齧る。
「ん〜!!!!!」
クソマジい! 味のしない土! いや石! 口内の水分を全て吸収する砂漠!
そして口内に張り付き不快感がMAX!
俺は急いで水で流し込む。
完全なる無味無臭の食べ物とは人類に、こんなにも苦痛を強いるのか……。
これは最優先事項だ。
料理開放フラグを早急に立てなければ!
「俺は料理をするぞ、グリーヴァ!」
いきなり叫ぶ俺に慣れてきたのか、グリーヴァは不思議そうに聞いてくる。
「リョウリってなんだ?」
「うまいものだ!」
「……うまいのか。水よりもか?」
「水よりもだ!」
「水よりもか……。想像できねぇ」
俺はそんなグレーヴァを哀れに思いながらも、ビルダーズブレイブの世界の特色を思い返す。
この世界は創造を出来ない呪いが、全人類にかけられている。
造ることを認識できず、理解ができない。
例えば目の前にある木のコップと同じものを作ろうと思えない。
剣も作れない。鎧も作れない。薬も作れない。家具も作れない。
ではどうするか?
モンスタードロップだ。
モンスターから食べ物がドロップしたり、剣や防具がドロップする。それらを使う。
だがモンスターは装備無しの一般人では倒せないくらい強い。
倒せるのは装備を固めた戦士や、魔法発動用の杖を持った魔法使いだ。
だからこの世界には戦える人間はほんの一握りだ。
まぁ、そうしないと勇者の出番無くなっちゃうから仕方ないね!
あと、本当に全部が全部作れないと色々矛盾が発生しちゃうので、実際には人間は無意識に創造を行なっている。
そうしないと文明が無い原始人のRPGになっちゃうからね。
作ってるじゃん! というプレイヤーからのツッコミには、そういうものです。と言うのが公式の見解である。
そう言うわけで、勇者しか作れずドロップもしない木のコップが、どこから来たのか気になったわけだ。
だが、きっと村長の先祖が作ったという設定かもしれん。
村長は物作りができた一族の末裔だからね。
だからモンスターの襲撃にあっちゃうんだけどね。
「それにしてもマズイ……」
頑張って二本目まで行ったけど、三本目はいけそうにない。
「あ、お前二本目食ったのかよ。昼と夜の分どうするんだ?」
俺がゲンナリしているとグリーヴァが指摘してくる。
えぇ〜、一食一本で良かったのかよ。
俺の頑張りは一体……。
「まぁ、気を落とすなよ。一食くらい我慢できるって」
そんな、慰めになってない慰めをもらってもな。
「腹減ったら水飲むよ。うまいからな」
「リョウリよりもか?」
「料理よりもだ」
「どっちだよ!」
くだらないやり取りに二人して笑い合う。
そうして、ふと冗談を言い合えるような関係値になっていることに俺は気づく。
ゲームでの二人は絶交とまでは行かずとも、ギスギスはしていたはずだ。
それが今は友達として、クソマズイとはいえ飯を囲んでいる。
その事実に驚く。
もう、ストーリーを改変できている。
俺が村長に推薦したからなのか、それとも……
「お前、本当にファムが好きなんだな」
「な! 突然なんだよ! ちげぇし! そんなんじゃねぇし!」
子供か。
多分こっちだなぁ。
俺がファムに気が無いと知って、疎ましく思う気持ちが無くなったんだろう。
その辺は単純で助かるな。
「そんな事が気になるって事は、やっぱりファムの事好きなんじゃねぇか?!」
立ち上がってこちらに指を刺して捲し立ててくる。
指を刺すな小僧。折るぞ。
「バカめ。そしてバカめ。言っただろう。それは無い」
一言一句はっきりと言ってやる。
「俺の好みはマルールさんだ」
マルールさんとは攻略対象の年上担当。
未亡人の黒髪お姉さんだ。
いやぁ〜。スチル良いんだよなぁ。
しかし俺の告白に驚くでもなく、訝しむように確認してくるグリーヴァ。
「マルールさんて、あの村外れに住んでる陰気なおばさんか? あの人旦那さんいた人だぞ? 歳も結構上だし。どこがいいんだ?」
___この小僧は何もわかっておらぬ。
「バカめ。そしてバカめ。そして愚かで愚か。お前には彼女の匂い立つような色気がわからぬか。あのむっちりとした太もも。重力に負け始めている尻。伏目がちのおどおどした表情。首元で軽く結んだだけの長い黒髪。それらが魅力の塊である事がわからぬか。そして! なにより! 一番重要なことはッ! 豊満を通り越して、傲慢なほどの胸! あの胸を支える仕事があるのならば、全国の男性がこぞって手を挙げるだろう! それがお前には分からぬかぁッッ!!」
俺は気迫で、目の前の愚か者を吹き飛ばさんと真理をとく。
家全体が我が心に共鳴し震えておる。
俺のレベルが高ければ、今のでこの小僧は弾け飛んでいたであろう。
それだけの想いが俺にはあった。
「うん。あの。ごめん。お前がマルールさんを好きなのはよく分かった。ほんとごめんな、好きな人のこと悪くいって。申し訳ない」
愚かな小僧は、身の程を知ったのか平身低頭、謝ってくる。
「うむ。わかれば良いのだ。分かったついでに、俺とマルールさんの事を応援してくれるな?」
俺は小僧の肩に手を置きながら、有無を言わせぬ気迫を込め言う。
「お、おう。当たり前だぜ。応援する」
謙虚でとてもよろしい。
こんな小さな村だ、噂が立つと色々問題があるだろう。
彼にはその辺の事をやってもらわねばな。
腐っても村長の孫であるからして。
「うむうむ。ありがとう。だが安心するがいい。代わりに俺もお前とファムの間を取り持って進ぜよう」
ついでに大事な計画を言っておく。
是が非にでもグリーヴァにはファムを射止めてもらわねばならぬ。
「だから、そんなんじゃねぇって!」
なおも無駄な足掻きをする小僧。
男子の振る舞いとは思えぬ。
「俺は想い人をお前に告げた。お前は隠しよるのか。それでもホロンダ男子かッ!」
「なんか、お前さっきから怖えぇよ。怒り狂った爺さんみたいだ」
誰がジジイだ。
確かこの体は15歳だ。
そしてこの世界では成人だ。
だから、何の問題もないのだ。
何がとは言わないが。
「して、返答や如何に?」
俺が詰め寄ると、グリーヴァは耳まで真っ赤にして蚊の鳴くような声で告げる。
「そうだよ。俺はファムがすきだ」
うん。筋肉質少年が顔真っ赤にしてモジモジしている姿は、俺には刺さらないので、その界隈のお姉様に拾ってもらいなさい。
「まぁ、絶対そうだから、お前の口を割る必要はなかったんだけどね」
「おおい! 俺の一大決心を何だと思ってんだ!」
「その一大決心は、本番にとっとけよ」
「恥ずかしいから、無理だ!」
何が恥ずかしいだ。今のお前が恥ずかしいわ。
そんな一人の恋に迷える少年をからかっていると、ドアをノックする音がする。
そしてそれと一緒に女の子の声がした。
「シヤ、いる? ファムだけど」
チッ。件のファムだ。
……いかんいかん。今の彼女はまだ何もしていない。
善良な俺の幼馴染だ。普通に接しなければ。
俺は接客業のスキルを使い笑顔でドアを開けるのだった。
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