第二話「一人の少年が大人になったらしい」
「スゲー爽やかな気分だぜ。新しいパンツを履いたばかりの正月元旦の朝のよーによぉ〜」
俺は天を仰ぎながら今の心情を言葉にする。
「ンッン〜♪ 実に!スガスガしい気分だっ!歌でも ひとつ歌いたいような いい気分だ〜〜 フフフフハハハハ」
ビルダーズブレイブの世界に転生!
まだまだ高揚する気持ちを抑えきれず、その場をくるくると回る。
すると、回っている途中で顔の引き攣ったグリーヴァが目に入った。
「おっとぉ。グリーヴァ君じゃないかぁ」
「ひぃ!」
そうだそうだ。
彼にはこの先様々な苦難がおとずれるのだが、それを全て乗り越えられるように導いてやらねばならないのだった。
何故そうするのか? そうすることでシナリオがぶっ壊れるからだ。
途中退場するキャラをエンディングまで連れていくのは、シーケンスブレイカーにとって嗜みみたいな物だからな。
その第一歩が彼を村長にすることである。
村長になれなかった彼は自暴自棄になって村を飛び出すのだが、戻ってくる頃にはこの村は滅んでおり、後悔から無謀な戦闘を繰り返し、やがて死にいたる。
そうなってもらっては困るのだ。
何故困るかは後々に語ろう。
「グリーヴァくぅん。ちょっとお話ししようかぁ」
俺は何故か逃げようとするグリーヴァの両肩を掴みながら、顔を近づけてお誘いをする。
「い、いやだ!」
するとグリーヴァは必死になって俺を引き剥がし距離を取る。
「やっぱり、お前なんか変だぞ! 魔物が成り代わっているんだろう!」
グリーヴァはえらい剣幕で言ってくる。
ぬぅ。大変に失礼なことを言ってくれる。
成り代わっているのは中年のおっさんだ。
マモノチガウ。
しかしながら、おっさんだとは知られたくない。
若いって素敵。
だもんで、なんとか誤魔化さなければ。
そうだ!これならグリーヴァも納得してくれるだろう。
確信を持って俺は口を開く。
「思春期なんだ」
若気の至りで大体のことが許される青き時代。
それが思春期だ。
これで、俺の急転直下の心の移ろいも許されたことだろう。
期待を込めてグリーヴァを見ると、微動だにせず口をあけたまま、こちらを見ている。
聞こえなかったのかな?
なのでもう一度言ってみる。
「思春期なんだ」
「アホかぁ! そんなので誤魔化されるか! どう考えても人格変わってんだろうが!」
どうやら、俺の渾身の誤魔化しも効かなかったようだ。
ダメかぁ……。
仕方がない。グリーヴァには真実を告げよう。
俺は努めて真剣な顔をしながらグリーヴァに告げる。
「グリーヴァよ。お前だけには真実を告げよう。俺は……、大人になったんだ」
グリーヴァは大きく衝撃を受けたように仰け反ったかと思うと、勢いよく俺の肩を掴んで揺さぶってくる。
「誰だ! 相手は誰なんだ! ま、まさかファムじゃねぇだろうな!」
筋肉質な少年にシェイクされ、目の前がグルグルする。
やめろ、脳みそがバターになってしまう。
「ま、まて! 首が折れる! ひとまず離せ!」
生命の危機へと至る前に俺はグリーヴァを引き離す。
なんとか引き離しに成功するも、グリーヴァは肩で息をしながら真っ赤な顔で睨みつけてくる。
まったく、だからプレイヤーに脳筋と言われるのだ。
「安心しろ。相手はファムではない。別の人だ。そして大人になったと言うのはそう意味ではない」
中身が大人になったんだ、とはおくびにも出しませんけどね。
あと、そっちの意味での大人の階段を上がった相手は、この世界の人間ですらないがね。
「なんだよ……。驚かせんなよ」
俺の言葉を聞くと、グリーヴァは分かりやすく安堵のため息をつく。
「お前が早とちりしたんだろう。それに俺がファムとどうこうなる事はあり得ない」
俺が強い否定の言葉を口にすると、またグリーヴァが驚いた顔をする。
今日は驚きっぱなしだな。
可哀想に心臓に負担がかからなければいいが。
まぁ、心臓に毛が生えたようなやつだヨシッ!
「……意外だな。お前はファムの事が好きなんだと思ってた」
辛そうな顔をしながら、そう呟くグリーヴァ。
口にするだけでも辛いのだろう。
何故なら彼は幼馴染のファムが好きだからな。
「お前の思い違いだ。そんな事はあり得ない」
少なからず嫌悪の感情も言葉に乗せてしまったかもしれない。
まぁ、ゲーマー目線の感情だが。
「お前、ファムのこと嫌いになったのか?」
その事に聡く気づいたグリーヴァが、心配するように聞いてくる。
そこには俺を心配する思いも感じられる。
自分の想いよりも、幼馴染同士が険悪になることを心配する。
こいつはそんな奴だ。
「安心しろ。嫌いになったりなんかしないよ」
俺は言葉の通りグリーヴァを安心させるために答える。
「そうか……。よかった」
そう言い微笑む彼は、心底安堵した表情を浮かべる。
がさつで大雑把で、無神経で、意地悪で、我儘。
でも、根は正直で優しい。
俺が村長に彼を推薦したのは本音でもある。
彼が村長であったのであれば、恐らく村は壊滅に至らなかっただろう。
シヤと違ってカリスマがあるからな。
うまく村を防衛したことだろう。
そうすれば、初期村でも建造が出来るようになるだろう。
うん。初期村は壊滅してると建築不可なんだ。
いや! 建築するゲームで、なんで建築できんないんよ!
だから、彼を村長に推薦したのだ!
初期村を守るために!
「グリーヴァよ。村を守るぞ!」
俺が意気込んで叫ぶと、グリーヴァも乗ってくる。
「お、おう! 守るぞ! ……なんで今の流れで? そんな話してたか?」
「してた」
「そ、そうか? ファムの話してなかったか?」
「お前が村長になってファムを守るのだ!」
俺がそう叫ぶとグリーヴァは、はっとなって鋭い目つきになる。
「そうだ。その話に来たんだ。なんで俺を推薦なんかした? お前だって俺には村長が務まるとは思ってなかっただろ」
低い声で威嚇するように、唸るように言ってくるグリーヴァ。
まるで獰猛な獣のようだ。
だが俺はこう思った。
……まだ、その話してんの?
もう、いいんだよその話は。
「できるし、務まるよ。疑問の入り込む余地もなし! はい、この話は終わりね」
「なっ! ふざけてんのか! もっと真面目に考えろよ!」
今にも飛びかかってきそうな体制で叫ぶグリーヴァ。
まぁ、飛びかかってきたらまた投げるけど。
「村の未来を決める大事なことだぞ! そんな簡単に言うな!」
グレにグレているグリーヴァ君だが、村を守るということ関しては、常に真剣に考えている。
すでに亡くなった父親の影響だ。
なので、言っていることは分からんでもないが、この俺がいる以上もはやそのステージはすぎている。
「バカめ。そしてバカめ。俺はお前ならできると確信している。既に未来は決まっているんだ。村は俺たちの手により守られる。確定した未来だ。変わる事のないたった一つの真実だ」
このゲームをやりこんだ俺ならば、この村の壊滅イベントは絶対に回避できる。
そういう、確固たる自信がある。
HBの鉛筆をベキッ! とへし折る事と同じように、できて当然と言う思いがある。
俺がそう言い切ると、グリーヴァは動揺した様に言う。
「なんだよそれ。意味わかんねぇ……」
年相応の困惑した表情になったグリーヴァに俺は問う。
「覚悟を決めろグリーヴァ。今ここが分水嶺だ。思春期を脱却し、村を守る為に前進するか。それとも、甘い思春期を享受して子供のままでいるか。お前はどっちだ!」
俺の暑苦しい説得に、グリーヴァはしばらく考えると呟いた。
「これが大人になるってことか」
それが大人になるということかは知らんけども。
強い意志を瞳に宿し言ってくる。
「俺は前進する。お前が信じてくれるなら、俺が村長になる。そして村を魔物から守るんだ」
ここに一人の漢が生まれた。
まだまだ、ひよっこだが、まぁ確実に前進していくだろう。
___だって俺が魔改造するから。
死なれると困るんで。
負けイベントでも物理で乗り越えてもらうからね?
辛いよ〜? でも前進するらしいから、大丈夫だよネッ。
俺は満足しながら頷いていると、ふと気に掛かる事が頭をよぎる。
うん? そういえば思い出せないな。なんだっけ?
ここまで出かかってるんだけどな。
いや、マジなんだっけ?
「なぁ、グリーヴァ?」
「なんだ?」
「この村の名前ってなんだっけ?」
設定資料集にしか乗ってない情報だったんだよねぇ。
だめだ、思い出せね。
俺が思案してると、グリーヴァがプルプルし出した。
「ホロンダ村だ馬鹿野郎!!」
あぁ、思い出した。
そのまんまじゃんと思ったんだった。
スッキリした。
ちなみにグリーヴァが殴りかかってきたので、ぶん投げておいた。
お読みいただき誠にありがとうございます!
あと、今更思い出したのですが、明けましておめでとおうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
おっそい。
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