第十五話「俺は腑抜けだったらしい」
「さて、ブライトには何の憂いもなくなったわけだが」
「兄貴は切り替えが早えぇなぁ」
ブライトが呆れているが、そんな訳ない。
切り替えたふりをしているだけだ。
だが本人がいいと言っているのだから、後悔や自責は自分の中だけでやればいい。
それが背負うって事だ。
「切り替えの早さが俺の百大美徳のうちの一つなんでね」
「美徳多いなぁ。ちなみに九十個めはなんだぁ?」
「歯磨きをする」
「俺もするぜぇ……」
マジか……。
ブーツの踵にミニピザカッター見たいのついてるのに。
「そんな事より、重要なことが発覚した以上、安易にロトンドの名付けをすることは出来なくなったな」
ロトンドにとって、NPCを止めることにデメリットしかない。
作業台に触れたことで、自己は確立しているように思えるし、ゲームのルールに縛られていたとしても、街にいるだけなら問題ないだろう。
そんなことを思っていたら、当のロトンドが口を開く。
「……大兄貴。兄貴。俺には何が起きたのかも、お二方が何を話していたのかも分からなかったんでさぁ」
その様子はまるで子供が道に迷ったかのようだ。
「わかったのは、大兄貴が兄貴の首にネックレスをかけて、そんで何かを仕出かして、兄貴が気にしてなかったって事くらいでさぁ」
仕出かしたどころではないが、大まかにはあってるな。
ロトンドには難しい話だったのか?
「兄貴ぃ。ロトンドはそこまで馬鹿じゃねぇぜぇ。コイツが分からねぇってんなら、理解力が足りねぇって意味じゃなくて、本当に理解不能だったって事だと思うぜぇ?」
ブライトに考えてる事を読まれて驚いたが、それよりも理解不能?
そう言われたところで、すぐに思いついた。
「システムのことだからか……」
普通にゲームをしていたら分かりようもないが、NPCから逸脱していないロトンドは、メタ発言を理解できないらしい。
という事は……
「ブライト。お前は俺の話を聞いてどう思った?」
俺の説明を理解できたブライトは、今までの自分をどう思ったんだろうか。
「兄貴の話を信じるなら、俺の歩んできた人生は世界とやらに決められてたんだろぉ? クソったれてんなと思ったぜぇ」
「人生か。お前にも生きてきた軌跡があるんだな」
「まるで俺が、突然生えてきたみたいな言い草だなぁ」
……前はそう思っていたが、多分違うんだろうな。
ネームドキャラクターもNPCも、それぞれの人生を歩んできたんだろう。
「頭にはトサカが生えてるけどな」
「モヒカンはモホーク刈りを語源とした、古式ゆかしい髪型だぜぇ?」
マジか、知らんかった。
「んで、ロトンド。今の俺たちの会話は理解できたか?」
取り残されていたロトンドに話をふる。
「一箇所。分からないところが、あったんでさぁ」
「具体的には?」
「兄貴の話を信じるなら、のあとでさぁ」
OK。
世界の話=システムの話という認識でいいようだ。
そこにフィルターがかかっていると。
「ありがとう。色々わかったよ」
「それで兄貴ぃ。ロトンドはどうするんだぁ?」
「ロトンドには今のままでいてもらおうと思う」
やはりデメリットの方が大きすぎる。
不死でいられるならそれに越した事はない。
「大兄貴。俺だけ仲間はずれは酷いんでさぁ」
ロトンドが深刻そうに言ってくる。
「……ロトンド。ブライトは受け入れてくれたが、これは取り返しのつかない事なんだ。お前にもわかる言葉で言うならば、違う生き物になると思ってくれ」
「ロトンドも受け入れられると思うけどなぁ」
「まぜっ返すな」
お前は認識してないかもしれないが大事なんだぞ?
「兄貴は……。違う生き物になっちまったんで?」
ロトンドがブライトに寂しそうに尋ねる。
「俺に言わせれば進化したってところかなぁ? 好きなように生きられるようになったが分かりやすいかぁ?」
「今までも好きなように生きてきたじゃありやせんか」
「井の中の蛙だったって事だぜぇ」
ロトンドはブライトの言葉を聞くと椅子に腰を下ろす。
「俺には……。わからないんでさぁ」
ロトンドは俯き肩を落とし呟く。
しばらく誰も発言しない時間が過ぎる。
「ロトンド。兄貴は反対みたいだが。俺は賛成だ」
「ブライト!」
「兄貴は黙っててくれ」
ブライトが手で制してくる。
そして続ける。
「エーアストならず者052。とても簡単な話だ。これからお前は可能性を手にする。ロトンドに進化する。賭けるのは命。たったそれだけだ」
ブライトは命を賭けることを、なんでもない事かのように言う。
しかし、ロトンドはその言葉に顔をあげて言う。
「たったそれだけで良いんで?」
ロトンドもだ。
拍子抜けしたような表情で言う。
……それだけでじゃないだろ。
「命だぞ? 死ぬんだぞ? 今後その恐怖とずっと隣り合わせなんだぞ?!」
「ロトンド。兄貴はこう言ってるがすぐには死なねぇ。死ぬ時は死ぬってだけだぜぇ」
「そんなもん、今と変わらねえんでさぁ」
俺の必死の言葉も二人には届かない。
「ロトンドは今死なない体なんだ! もしドッグタグを使えば、死ぬようになる!」
俺は叫ぶがロトンドは首を傾げる。
「また、何言ってるか分からなかったんでさぁ。でも分かったこともありまさぁ。大兄貴が俺を舐めてるらしいってことでさあ」
ロトンドの言葉に俺は唖然とする。
ブライトと同じ事を言ったからだ。
「多分、大兄貴は俺の心配をしてくれてるんでしょうが、そう言うのを大きなお世話って言うんでさぁ。俺に取っちゃあ命は軽いもんなんでさぁ」
ロトンドは肩をすくめて言う。
「さ。大兄貴。なんだか分からねぇですが、さっさとやってもらいたいんでさぁ」
首を下げて頭を差し出すロトンドから後退る。
「これ以上は、俺には、重過ぎる……」
俺の本音が口から溢れる。
「兄貴ぃ。何を腑抜けたこと言ってんだぁ?」
後ろから両肩を掴まれ振り返ると、いつの間にかブライトが後ろに回り込んでいた。
「よぉおく考えてみなよぉ。多分これはこの世界で兄貴だけが出来ることだろぉ? その意味をもう一度考えた方がいいぜぇ?」
思考が一瞬空白になる。
___意味?
そうだ……。
何故出来る?
管理者権限と言っていたが、俺は管理者じゃない。
じゃあ、誰が出来るようにした?
多分、神だか女神だかだ。
俺をこの世界に呼んだと思しき存在だ。
「あぁ〜。そう言うことか」
最初から好きにやれってことだったんだ。
好きに変えろってことだったんだ。
変えて欲しいってことだったんだ。
だって、転生者だけに出来るんだから。
「あ〜。焦った。日和った。ビビったぁ」
生きているなら死にもするさ。
ゲームじゃないん
だから。
「考えはまとまったかよぉ?」
「あぁ。ありがとな。頭が冷えたぜ」
本当に拾い物だった。
ゲームでもここまで賢き者はいなかったと思う。
もしかしたら、神だかなんだかが巡り合わせてくれたのかもな。
まるで、この世界のチュートリアルみたいだったもん。
俺に心構えをさせるをさせるためのさ。
「んじゃ、ロトンドに名付けしまーす」
「え?」
俺はビックリするロトンドの首にドッグタグをかけるのだった。
お読みいただきまして誠にありがとうございます!
もうこの二人はレギュラーに昇格します。
ちゃんと読めると思った方は下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★ ☆ ☆ ☆☆こう!
面白いなと思ったら下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★★★★★こう!
まだの方はついでにブックマークなどもお願いしたい!
いいねと感想もお待ちしております!




