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第十四話「自立の対義語は依存らしい」

 

 古来より名前には意味があった。


 偶像に名前をつけることで、それは神や悪魔になった。


 神は光に昼と名付け、闇を夜と名付けそして世界の一日目が始まった。


 始まった世界で人は呪いを避けるため真名を隠した。


 人は名前をつけることで、闇を克服していった。


 人は事象に名前をつけることで、全てを科学へと変えていった。


 名前とは創造であり、誕生であり、変質であり、摂理だ。


 名付けとは神の御業に他ならない。


 人間が行使できる神の業だ。


 いや、悪魔の呪いか。


 俺はブライトに名前という呪いを与えてしまったのだ。


「……ブライト?」


 未だ静止したままのブライトに恐る恐る声をかける。


 すると、彼は少し身じろぎをし、また機械的な声をあげる。


「転遘サ閠�からの呼びかけを確認。最終シークエンスを起動。完了。世界名:ビルダーズブレイブに自立生命体として登録。個体名:ブライトを再起動します」


 まるで、俺が名前を呼んだことが呼水となったかのように、ブライトの体が光を放つ。


 俺は目も眩むような光に顔を背けた。


 暫くすると光は消えたが、俺は胸中に浮かぶ恐怖からブライトの方を見ることができない。


 どれくらい、そうしていただろうか。


「兄貴ぃ。なんでそっぽむいているんだぁ?」


 どこか間の抜けた声が聞こえてくる。


「だるまさんがころんだでもやってるのかぁ?」


 俺は意を決してブライトの方を向く。


 するとどうだろうか。

 先ほどと変わらぬ姿で、キョトンとするブライトが目に入る。


「……ブライト、お前、体になんか変なところはないか? 違和感とか」


 あると言われても、ないと言われても___怖い。


「ん〜。別にねぇかなぁ? 強いてあげれば、妙に頭がスッキリしてるぜぇ?」


「……スッキリ?」


「何て言うか、作業台を触った時とおんなじ感じだなぁ。盲が開けるっつうか、目から鱗っつうか、そんな感じだなぁ」


 こめかみの辺りを摩りながら不思議そうにいうブライト。


 その様子は特に変わったところはなさそうに見える。


 だが___きっと変質()わってしまったのだろう。


 俺だって変わる事は想定していた。


 だが、NPCがプレイヤブルキャラクターになる程度だと思っていた。


 役割が変わるだけだと。


 ___自立生命体


 ブライトの口を借りたなにか(・・・)はそう言った。


 ブライトは自立した生命体になったのだ。


 ___では何から?


 ___依存した生命体から。


 彼は世界(システム)に依存した生命体(・・・)だったのだ。


 俺はこれまでこの世界はゲームをリアルに落とし込んだもの思っていた。


 この世界の人間はデータを可視化した物だと思っていた。


 だって、村長はバグったから。


 だって、ゲームシステムには抗えなかったから。


 でも違った。


 彼らは、そういう(・・・・)生命体だったのだ。


 世界によって決められた役目を演じる生命体。


 それが彼らNPCという生き物だったのだ。


 いや、もうブライトは違うのか。


 普通に生きて普通に死ぬ人間になったのだ。


 なってしまったのだ。


 それは俺自身が彼に死ぬ定めをもたらしたに他ならない。


 俺が___彼を殺すのだ。


「どうしたぁ、兄貴ぃ。顔が真っ白だぜぇ? まるで取り返しがつかない事をしちまったみたいによぉ」


 他でもないブライトの口から指摘される。


 話さなくてはならない。


 俺がしてしまったことを。


「……ッ!」


 喉が渇いて張り付いたように声が出ない。


 ___背負えるわけがない


 ___俺はただゲームを楽しみたかっただけなんだ


 ___人間(・・)だったなんて知らなかったんだ


「兄貴よぉ。取り合えず座んなよ」


 声をかけられ体が跳ねる。


 ブライトはそんな俺を見て無言で椅子を指し示す。


「ロトンド。水を持ってきてくれ」


 水を汲みに行くロトンドを横目で見ながらノロノロと椅子に座る。


 テーブルにコトンと置かれたコップをただ見つめる。


「兄貴。まずは水を飲みなよ」


 俺は言われるがまま水を口に含む。


 ひりついた喉を水が潤していく。


「さぁ、兄貴。話を聞こうか」


 ブライトが促してくる。


 だが、それでも俺は言葉を紡ぐことができない。


 普通のサービス業しかしてこなかった俺には人の命は重すぎる。


「兄貴。イレギュラーが起こったのなら報連相は必須だ。商売の基本だろ?」


 報連相。


 馴染みのありすぎる言葉に顔をあげる。


「重大な事こそ報告が必要だ。それが成されなくなったらどうなる?」


 ブライトの問いかけに少しずつ脳が動き出す。


 前世で腐るほど体験してきたことだ。


「商売が破綻するな」


「そうだ。これから俺たちは商売をやるんだろう? 始める前から破綻させてどうするんだ? 儲けさせてくれるんだろう?」


 大袈裟に肩をすくめるブライト。


 そこにはこちらを気遣う気持ちが確かに感じられる。


 誠意には誠意を。


 商売の基本だな。


「お前の言う通りだ。俺はお前たちの上司だからな。成果を出す義務がある」


 もとより上司ってのは部下の生活を左右する存在だ。


 生活を左右すると言うことは、命を左右することと同義だ。


 部下の命に責任がある。


 少なくとも俺はそう思っている。


「ブライト。お前は俺のせいで人間として変質してしまった」


 俺の言葉にブライトは驚くでもなく黙って聞いている。


「この世界の人間は世界によって役割を与えられて生きている。その役割だけしかできないが、その役割をこなしている間は世界に守られている」


 俺の憶測を多分に含んでいるが、わざわざ(・・・・)ブライトの口から情報を開示してきたんだ、大きく間違っていないだろう。


 俺は会話から相手のニーズを把握するのは得意なんだ。


「例外を除き守られている人間は死ぬ事はない」


 俺は怯みそうになる心を腹に力を入れて奮い立たせる。


 俺は核心を告げねばなない。


「だが、ブライト。お前は俺のせいで役目から逸脱し、世界から逸脱し、そして___死ぬ」


 俺はブライトの目をまっすぐ見た後、立ち上がって頭を下げる。


「私のせいで、貴方の人生を変え、永遠を奪いました。許されることではありませんが、お詫び致します。申し訳ありませんでした」


 仕事上の形だけの謝罪ではない。

 心からの謝罪。


 許されようなんて思ってない。


 これは俺が何をしたのかを伝え、それに対して俺が責任を取る意思があると伝える決意表明だ。


「なぁ、兄貴。俺はすぐ死ぬのかい?」


 ブライトが平坦な声で聞いてくる。


 俺は頭を下げたまま答える。


「いえ、病気や事故、肉体的な損傷、もしくは寿命を迎えるまでは生きられるはずです。逆に言えば必ず死ぬと言うことになります」


 俺にとっては当たり前でも、ブライトにとってはそうではない。


 その胸中を俺は察する事はできない。


「できる限りの責任は取るつもりです。一生をかけてでも」


 命に対する責任の取り方なんてわからないが、一生を捧げるくらいは必要だろうと思う。


「兄貴。そう言うセリフは女に言ってあげなよ。俺は男の一生なんていらないぜ?」


 俺が覚悟を決めていると、頭上から軽い感じでブライトが言ってくる。


「取り合えず頭を上げなよ。……これ言うの何回目だ?」


 俺はおずおずと頭をあげる。


「んで、取り合えず座んなよ。……これも何回目だ?」


 ブライトに椅子を勧められるが、そうもいかない。


「いえ、私はこままで」


「その言葉遣いもいらねぇよ。アンタ勘違いしてるみたいだから、俺の話を聞きなよ。立ってられちゃ気が気じゃねぇや」


 強く勧められた為仕方なく椅子に座る。


「まず、兄貴の大勘違いについてだ」


 ブライトは人差し指を立てて言ってくる。


「俺は普通に病気で死ぬと思ってたし、事故でも寿命でも死ぬと思って生きてきたよ。それを今更、死ぬようになりましたって言われても、何の痛痒も感じねぇよ」


 ブライトは二本目の指を立てる。


「第二に。世界から逸脱? 大いに結構。俺たちが作業台を触った時の喜びが分かるかい? 一気に世界が広がったんだ。逸脱じゃない。広がったんだ。それと___」


 三本目の指を立てたかが早いか、突然ブライトはテーブル越しに俺の胸倉をつかんでくる


「第三」


 俺はグイッと引き寄せられる。すぐ鼻先にブライトの顔がある。


「責任? 舐めんなよ。俺の命は俺のもんだ。世界でも、ましてやアンタのものでもねぇ。俺の命は俺の責任で全うされる。俺が死ぬその瞬間までそれは変わらねぇ」


 ブライトがニヤリと笑う。


「それは確定された未来だぜぇ?」


 そう言うと手が離され、俺はドサリと椅子に落ちる。


「何か言う事はあるかい?」


 ブライトが手のひらで促してくる。


 じゃあ、思った事を言おうと思う。


「お前普通に話せるんだな」


「ふっ、アハッハハハ! それでこそだぜぇ! そうこなくちゃ! ついていくぜぇ! 兄貴がくれたこの世界でよぉ!」


 ブライトの大笑いを聞きながら、これからはこの世界の住人に人間として接していこうと俺は心に誓うのだった。



お読みいただきまして誠にありがとうございます!


これは緊急事態です。

主要キャラでやろうと思っていた話なのに、チンピラが掻っ攫っていきました。

絶対に主要キャラでやった方が話が広がったのに!

チンピラって……怖いですね。



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