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第1話 幻惑の沼地

リアン LV.2

 スキル 『志は勇者』 勇気を持って強者に立ち向かうことで、全ステータスに少量のバフを付与

 魔法  なし

 得物  直剣(名前も知らない鍛冶屋から購入したもの)

     木製の盾(リアン自作)


 16歳。可愛らしい容姿を持った青年。黒髪短髪。冒険者として三年研鑽を積んできているものの、未だに頼りなさが抜けきらない。正義感もあるが、それ以上に争いを好まない平和主義でもある。


  ~~~~


 早朝の空に、鍛冶師たちが鉄を打つ金属音が響き渡る。

 ぼくの住む街は帝都から遥か南、『白き墓場』とも呼ばれるエスケルン平原の端っこの方にある。

 街の名は、ドゥーン・ロウ。名前の通りの要塞街であり、巨大な外壁に囲まれている。とはいっても、その外壁の高さには多少のバラつきがあり――ぼくが住む西側の地区は、外壁がやや低い。ちょうど、家が立っている場所が小高い丘にもなっていて、綺麗に朝日が差し込むわけであった。

 ドゥーン・ロウには、傭兵や冒険者、騎士志願者などが数多く存在する。

 とはいっても――だ。前時代の混沌とした状況とは違って、平原に巣くう魔物の数はみるみるうちに数を減らしている。それだけ平和になったということだ。手広い活動をする騎士たちはともかく、それ以外の剣士たちにこれからの時代に居場所があるかどうかは、神のみぞ知るやらなんやら、とは最近ドゥーン・ロウでよく囁かれる噂でもあった。

 そんな戦士と剣士だらけの街を、女騎士はじろじろと見られながらも闊歩する。あ、ちなみにぼくは、寝ぐせを直し顔も洗って、鉄防具を身に着けた一張羅に着替えていた。腰には直剣。左手には木製の盾。冒険者の基本装備といってもいいかもしれない。ヘルメットはないし、肩と肘、胸、全てのアーマーが軽量かつ、ちょっと範囲が狭い。今の平和なエスケルン平原でこそ許される軽装というべきだろうか?


「貴様の名はアイリだな……?我々は見ての通り、帝国直属のイリア騎士団だ……!!」


 そんな要塞街(ドゥーン・ロウ)の通りを闊歩したかと思うと、女騎士は小さな一軒家の扉を開いて、ぼくの時と同じように言い放った。

 呆然とした様子で突っ立つのは、同じく寝起きでひどい寝ぐせと真っ赤な水玉のパジャマを披露する、赤い巻き毛の少女。


「え……?すいません……なんのことだか……」

「最終通告だ……!貴様には、ここにいるリアンという男と同じく、大盗難の容疑がかけられている……!」

「リアンちゃあぁぁぁ~~ん!!!!」


 冷たく女騎士が言い放った瞬間。

 真紅の瞳がぼくを捉えて、一瞬で潤む。そして、(いつもはこんなことありえないのだけど……)アイリちゃんは、すぐさまぼくの元に駆け寄ってきて、強く抱きついてきた。頬がカッと熱くなって、鼻孔の奥までピーチのような香りが瞬く間に広がる。


「っ!!!!!!?!?!?!?」

(いい匂いだし、あったかいし、いろいろやばい!!!!……それにしても、なんだってこんな時に限って、ぼくは胸防具(チェストプレート)まで身に着けてきてしまったんだ、まったく……!!)


 チェストプレートに阻まれて、全力で抱き着かれているはずなのに、一番柔らかいであろう胸部同士の接触が一切ない。鉄壁とはこのことか……!と、アイリの胸の膨らみが年の割におとなしすぎることを思っていると――突如、腹部に意識を手放しそうになるほどの衝撃がきた。

 襲ってきた痛みは、軽装の隙間を見事についている拳骨。

 ズバリ――アイリの可愛らしい右手から、シューという軽い煙が立ち上っていた。


「ふん、無駄だよ、リアンちゃん。あんた、どうせいつもの通り、どこかでコソ泥でも働いてきたんだろ……?私を巻き込もうったって……はんっ……そうはいかないからねぇ!!!!」

「ぼく、コソ泥なんてしたことないよね!??やめてくれる!?自分が罪逃れたいからって、泣きべそ搔きながら人に冤罪増やすのやめてくれる!!?」


  ~~~~


 ぼくとアイリは、女騎士と巨漢騎士に連行されて、要塞街(ドゥーン・ロウ)を後にした。

 なにもかもが、嵐のように過ぎ去って行きすぎないか、って?それは、ぼくが一番思っていることだ。もちろん、アイリも時間をもらって、寝ぐせを直し朝の身支度を終え、軽装の皮鎧に身を包んだ格好に着替えている。アイリの得物は、短槍と丸盾。短いとはいっても、一般的な片手剣の1.3倍程度の長さがあり、槍とはいっても、刃の部分の長さがちょっと長めだ。突きだけでなく、切払いもできるいわゆる薙刀に近いのだが、両刃であり、形状的には槍っぽくみえるのだから、もう槍でいいだろう。それでいて、やはり金属部分が少ないから軽くて、女性に扱いやすい。女性冒険者に愛用されているのがわかる、扱いやすさを売りにした武器だ。丸盾の方はぼくのと違って金属製な代わり、小さくて薄くてやっぱり軽量化が図られている。


「リアンちゃんもさ、いい加減、この装備にした方がいいんじゃないの?」

「なんでさ。ぼくは、この直剣と盾が気に入ってるんだ!」

「プー、そんなこと言って、非力だから振り回すのいっつも大変そうにしてるくせに……」

「それ、冒険者に成りたての時の話だよね!?ぼく、もうLV.2だし、男だし、むしろそんな装備振り回してたら馬鹿にされちゃうよ!!」

「ププププー、男でLV.2って、なにそれ?リアンちゃんには、似合わないぃ~」

「似合わないとか似合うとかあるの!?そ、そりゃ、ぼくだってその武器触ってみたいなぁ~、とちょっと思わないわけでは――」


「おい……」


 一言だった。

 一言、背後をついてくる巨漢騎士が、圧とともに言い放ってくる度、ぼくらは会話を中断せざるを得ない。うん、恐ろしかったんだよ。とてつもなくね。とんでもなくね……。

 女騎士さんも表情が分かりずらいが、巨漢騎士は完全なる重装。顎当てもしていて、鎧の隙間からのぞくのは鋭い眼光のみ。うん、恐ろしさしか感じないよね。恐ろしくて、そんなこと正直に口にすることはできないけれど。

 ひぃっ!!と肩を震わせながら、ぼくらは歩みを進める。

 進むのは、エスケルン平原に広がる一面の黄緑……の中に、一本走る整備された街道。とはいっても、人里と呼べる代物から離れているだけあって、道が凸凹かつ疎らに雑草が生えていたりして、徐々に街道と呼べる代物からは離れて行っている。

 ぼくとアイリがげんなりとした表情をしていると、女騎士が察したのか、こちらを振り返って睨みつけてきた。


「だらしがないぞ、罪人ども。――街道が崩れるのも仕方がないだろう。ここから先は、腕に覚えのある冒険者でさえ足を踏み入れることのない禁則地……」

 

 知っている。分かっている。ドゥーン・ロゥの東門から出た時点で、この街道が続く先はたった一つだ。何より――僕たちの目には既に、その光景が広がっていたのだから。

 アイリが面白くなさそうに、口をすぼめて言った。


幻惑の沼地(シーアン・フォッグ)……」


 どこまでも広がるのに、遠くまで見通せない霧に覆われた沼地帯。足を踏み入れれば、二度と人の形をして戻れないとまで言われる広大な危険地帯が、ぼくらの視界に広がっていた。

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