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二話

「あぁ......田植えって、校庭のどこで?」

私の問いに、気象庁がペンをくるくる回しながらため息をついた。

「裏庭だよ。あそこだけ妙に土が()えてるからって、勝手に“農地”に指定してるんだ」

「それ学校の許可出てるの!?」

「知らん。環境省、お前の管轄じゃないのか?」

「私は環境であって、農業は農林……」

その時。

――ガラッ!!

勢いよく教室の扉が開き、全身泥まみれの農林が飛び込んできた。

「環境省――――――!!! 大変だよ!!」

「ひっ!?な、なにその顔……」

「苗、全部倒れた!!!」

教室が静まり返った。

財務省が眼鏡を押し上げ、ため息交じりに呟いた。

「……つまりこれは。補助金申請の案件ってことで?」

「補助金じゃない!!助けてほしいの!!......環境省なら土壌改良とか得意そうだし」

「いや、私だって自然のこと全部分かる訳じゃ……」

すると、文科省がゆっくりと顔を上げた。

隈を濃くした目で、意味深に眼鏡を押してくる。

「……苗が倒れた理由なら、分かるかもしれません……」

「え、本当!?」

「えぇ。原因は、ほぼ一つに絞れるでしょう」

文科省が立ち上がった瞬間、教室の空気がスッと緊張に包まれた。

そして次の一言が、みんなの背筋を凍らせる。

「――犯人は……この中にいます」

「いや何で推理小説みたいになるの!?」

思わずツッコミを入れる私。

だが、文科省は真剣だった。

「農林。苗がどの方向に倒れていたか、覚えていますか?」

「え?あー……全部、南向き……かな?」

「ふむ......」

文科省が軽く教卓を叩く。宮内庁さんの扇子とは違い威厳はゼロだが、それはそれで不気味。

「南からの強風。つまり……誰かが気象を操作した可能性が高い」

その言葉に、全員がゆっくりと教室の一角へ視線を向けた。

そこには――頬杖をつきながら推理を聞いていた気象庁。

「……え?何でこっち見るの?」

「いや、お前以外いないだろ!?」

「いやいや、俺は今日何もしてないってば!風は自然発生だし!」

しかし財務省は腕を組み、うんうんと頷いている。

「自然発生した風がちょうど田んぼだけ狙い撃ち。まぁ、予算を削る理由としては十分すぎる……」

「「だから予算削るなっての!!」」

農林と気象庁が同時に叫ぶ。

「全く!財務省は隙あらば予算削るんだから......」

「でも、前にお小遣いちょうだいて言ったら「はした金ですが......」って言いながら札束取り出したよ」

「さすが悪魔の貯金箱!!」

私の叫びに、財務省は扇子を持つ宮内庁さんの横で、ふん、と鼻で笑った。

「失礼だな!健全な財政運営を――」

「――言い訳にして何でも削る財務省の間違いだろ」

気象庁が即ツッコミを入れる。

「健全って何だっけ?」

「……まぁ、大蔵省がいくら悪魔でも、今回の犯行とは無関係でしょう」

「事件扱いなのは変わってないんだ……」

私は小声で宮内庁さんにツッコミを入れた。

そこへ、ひょこっと文化省がノートを抱えて近づく。

「南風の強さ、どれくらいだった?木が揺れるとか、風圧で音がしたとか」

「んー……何かバッサァァァ!!って、変な音してたな」

「そうだっけ?」

文科省がため息をつく。

「風が吹くとき、“バッサァァァ!!”って音、普通しないでしょ?」

「「「「あ......」」」」

そして――現場の畑に向かった。

窓の外。

裏庭で。

巨大なうちわみたいな植物の葉を全力で振り回しながら、防衛省が叫んでいる。

「防衛省特殊訓練!! 風力追撃ゥゥゥ!!」

「犯人お前かぁぁぁぁ!!!!!」

「お、おま......俺の苗弁償しろぉぉぉっ!!」

泣き叫びながら防衛省の首根っこを掴んで揺さぶる。

「ご、ごめん!! 苗は倒したが!倒したが!!悪気はないんじゃ!!」

防衛省はぶんぶん振り回されながら悲鳴を上げる。

「悪気しかない訓練だっただろ!!どこが“特殊訓練”なんだよ!!」

気象庁が叫ぶ。

防衛省は涙目で反論した。

「ち、違うんじゃ!敵のミサイルから自衛のために風圧を計算して……その……葉っぱが一番いい具合に……」

「理由がアホすぎる!!」

全員の即ツッコミ。

そこへ――

「――皆さん。騒がしいですね」

背後から静かな声が落ちてきた。

振り返れば、宮内庁さんが、扇子をゆるりと閉じながら立っていた。

その微笑みは柔らかいのに……背後に“何か巨大な気配”を感じる。

防衛省の動きがピタッと止まる。

「悪気がなくて許されるなら、そもそも警察()はいらねぇんだよ」

「はい、すみません」

宮内庁さんに乗っかり、警視庁が仁王立ちで立っている。その姿は金剛力士像(こんごうりきしぞう)のような威圧感だった。

「……防衛省。裏庭を勝手に演習場にする行為は、校則違反ですよ?」

「け、けど!これは国家安全保障のための――」

「言い訳はよろしい!校則違反です」

「はい……」

宮内庁さんが防衛省を叱咤(しった)した。

「農林。倒れた苗は……私の方から後で神様に頼んでおきましょう。豊穣(ほうじょう)祈願ぐらいならできますから」

「え、宮内庁さん神頼みできんの!?」

「できますよ。仕事ですので」

さすが皇室関連を扱う宮内庁さん、スケールが違う......!

すかさず財務省がひょっこり顔を出す。

「祈願料は経費で落とせますかね?」

「「落とせるか!!」」

農林と気象庁がまた叫んだ。

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