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ことのはじまり

「聖女だ……」

「聖女様が降臨なさった……!!」


は?

え?

あたしはただ、困惑したまま立ち尽くすしかなかった。


◇◇◇


あたしの名前は廣澤沙智! ピッチピチのJK!


……だったのは過去の話ね。危ない危ない。


……こほん。わたしはマリアンナです。見た目通り、ただの平凡な町娘です。


現代日本で生まれ育ったあたしは、「殺しても死なない」と言われるほど超健康優良児だった。

……なのに、突然の流行り病にかかって、あっさり死んでしまった。

風の噂で聞くところだと、あたしが死んだ一ヶ月後には予防接種ができて、半年後には特効薬ができたおかげで、今やあの流行り病はただの風邪ぐらいの扱いを受けてるらしい。……ちっ。だったらあたしが生きてる間に開発しろっての! あたしが死んだ時なんて、病院に隔離されてそのまま袋詰めで火葬場直行させられて、ママやパパの顔さえ見られなかったんだからね!!


あたしが死んで、意識も何もなくなった後、次に気付いたらこの世界で元気な産声を上げていた。

要は流行りの転生ってヤツ? もっともあたしはあたしのまま、この世界にマリアンナとして生まれ変わったらしい。沙智としての記憶を完全に思い出したのは一歳の頃だけど、思い返せば生まれた時から沙智の記憶はちゃんとある。


そんなあたしのマリアンナ人生は今年で十五年。

うちは王城からちょっと離れた場所にある港近くの商業都市で、少しばかり繁盛してる青果店を営んでる。あたしはそこのひとり娘で看板娘(キャッ☆)ってヤツ。

うちの店は、王城の筆頭公爵も務めていらっしゃる領主様のお屋敷に出入りを許されている商家のひとつで、あたしーーじゃないわたしも、跡取り修行の一環として、御用聞きや配達を任されてお屋敷に頻繁に出入りしている。


今日も配達に行ったところで歳の近いメイドさん達に引き止められ、美味しいお茶とお菓子をいただきながら、これまた仕入れたばかりのゴシップを披露して楽しく時間を過ごして、お暇しようとした時だった。


お屋敷がにわかに慌ただしくなったのだ。


「何事?」

首を傾げるわたしと違い、今までくつろいでお喋りしていた皆にさっと緊張感が走る。

あ、コレお邪魔してはいけない雰囲気。

裏口からコソコソ帰ろうとした時、「医師様はまだか!?」という怒鳴り声が聞こえた。

あ、なんかヤバそう。

足音をしのばせて騒ぎのもとへ向かい、そーっと覗くと、とても立派な身なりをした男の人がぐったり倒れていて、その腹部から絶え間なく血が滴ってる。……ってあれ、やばくない? 静脈か、下手すると動脈傷ついてる? 早く止血しないとあの人死んじゃうよね? なのに周りはオロオロしてるだけ……って、えーい、ままよ!


「どいてっ!! そこのメイドさん! 清潔な布もってきて!!」

人垣をかき分けて駆け寄り、オロオロしながらも持って来てくれたシーツらしき布を倒れてる人のお腹に当てて、上から思いっきりぎゅうぎゅう圧迫する。ほんとは止血点を紐か何かでぎっちり巻いた方がいいんだけど、さすがに心臓や肺を止めるわけにいかないから、圧迫法でなんとかなればいいんだけど。

そう思っていたら、圧迫する両手にほんわりと熱が集まって来た。なんなら少し発光している。ラッキー。これならなんとかなる!!


今わたしが生きている世界は、あたしが生きてた現代日本よりかなり文明が遅れてる。あたしの記憶で言うなら、ヨーロッパ中世ぐらいってカンジ?

で、あたしは日本に生きてたチャキチャキのJK(元)だから、初級の応急手当ぐらいは学校で習って覚えてる。

そのうえ、あたしが生まれ変わったマリアンナは、必ずというわけではないんだけど、「どうしても助けたい!」とわたしが心底願うと、回復魔法を発動できる体質のようなのだ。

ものすごく体力を消耗するからそんなに長くは使えないけど、致命傷を完治可能な重傷にするぐらいならなんとかなる。うちで飼ってるエリちゃんーー世界一賢くて可愛いワンコーーもそうやって助けた元野良犬だ。

両手が熱を持って光を放つのが、その回復魔法が発動するサインで、コレが出たならひとまず大丈夫。

みるみるうちに……とまではいかないけど、熱と光で触れた部分から噴き出す血が止まって、少しずつ固まっていくのが分かる。


おおかたの出血が止まったところで、おっとり刀で駆けつけた医師様に場所を譲って、やれやれとまたコソコソ帰ろうとした時だった。


「……奇跡だ」

そんなボソリとした声が聞こえたと思ったら。


「聖女だ……!」

「聖女様が降臨なさった……!!」


は?

え?

なんですって?


それは、ただの町娘のマリアンナが、聖女に祀り上げられた瞬間だった。


(続)

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