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魔法使いの弟子 ~警視庁 公安部 異世界対策課~  作者: 鷹羽 樹


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第5話 元勇者たちの邂逅 2

 慎一郎は、受話器を手にすると内線番号を押した。

 

「田中さんですか? 神宮寺です。今お手すきですか?はい。はい。それは早急に対処します。はい。それでですね、今、こちらに来られますか?はい。新しい課員がこちらに来ていまして、顔合わせでもと思いまして。はい。待ってます」


 慎一郎は受話器を置くと、ため息をついた。


「田中さん、何か怒ってるみたいだけど。何故?」


 伸二には、何となく田中の気持ちが分かる様な気がした。


「田中さんは、なんで、まだこちらに移動されないんですか?田中さんだと中間管理職になりますよね。新課設立で一番忙しくなる時に身分が他の課にあれば、それは焦りますよ」


「暮れの事件処理の忙しさで年をまたいじゃったからなぁ。全部俺のせいだしなぁ。しょうが無いここは、コネと権力で行くしかないか」


 その時、ドアがノックされ、田中が入って来た。


「失礼します。田中です」


「ああ、田中さん。チョットだけ待って下さい」


 慎一郎は、受話器を取ると内線番号を押した。


「お早うございます。神宮寺慎一郎です。アポイントメントをお願いしたいのですが。はい。昼食ですか、はい。分かりました。十二時に総監室ですね。はい。有難うございます。失礼します」


 慎一郎は、受話器を置くと田中に言った。


「田中さん、すいませんでした。移動の件、早急に処理される様にねじ込んで来ますのでもう少しだけ待って下さい」


 田中はそれを聞いて頭を下げた。


「有難うございます。お手数おかけ致します」


 慎一郎は、壁に畳んで立て掛けてあったパイプ椅子を広げて伸二の隣に置いた。


「田中さん、こちらにかけて下さい。

 それでは、改めて紹介します。今度五課に来てくれる、橘伸二君です。自衛隊からの出向と言うかたちです。階級は巡査部長扱いとなります。自衛隊からは、もう一人千堂君と言う方が来ますが、後日来ますので紹介はその時に。そして、こちらが田中一郎さん

五課では係長をやってもらいます」


 伸二は立ち上がると、


「橘伸二です。これから、よろしくお願いします」


 背筋を伸ばし、腰を十度に傾け礼をする。


 田中も立ち上がり、伸二に向くと上げた顔を見ながら言った。


「こちらこそ、よろしくお願いします。あの事件以来ですから、もう十年にもなりますか。あれから、ずいぶん鍛えられた様ですね。レンジャー徽章持ちと聞きましたよ。

 課長、彼は警部補でもよろしいのではないですか? ああ、それと先ほどは、私の事で課長を諌めて頂いた様で有難うございました」


 伸二は、驚いて田中の顔を見た。盗聴器?


「さぁ、二人共座って下さい。伸二君、ここには盗聴器とかはありませんよ。田中さんの能力(ちから)です。どうせ気になって、彼が入って来た時から、ずっと見てたんでしょう」


 慎一郎は、コーヒーサーバーを取ろうとして、その中身が一杯分にも満たないことに気づき、スイッチを切った。そして、ミニ冷蔵庫を開け、小さいペットボトルのコーラを取り出すと田中の前に置いた。


「コーヒーが無くなってしまいました。田中さんはコーヒーより、こちらの方が良かったですよね。エナジードリンクも有りますよ?」


「それでは、エナジードリンクをいただけますか?お気遣い有難うございます」


 慎一郎は、冷蔵庫のエナドリとコーラを入れ替えて置くと、自らもイスに座ると話そうとした。


「課長…」


 田中は、慎一郎が話し始めるのを遮る様に話し始めた。


「話しを遮る様で申しわけ有りません。しかし、大事な事なので聞いて下さい。

 今回の新課設立の動きを見て、どう思われますか? あまりにも動きが遅いと思いませんか?

 課長が辞令を受けたのは、昨年の四月です。課長が外に出て、お忙しくされているのは上層部の人間も分かっているはずです。では、その間は誰が動いていたのか? 本来なら、私が移動して来て仕切って居たはずです。しかし、未だに辞令すら無い。

 外部に施設を置いてダミー会社としての肩書を与える。これは公安部としても良くあることです。ハードウェア、これは物件ですね、これの用意や工事が遅れることは想定される事で良しとしましょう。しかし、ソフトウェアの部分、特に人材の教育などすぐに出来るものではありません。企業では、新規事業起ち上げには、準備室を用意して人材をそこに集め、事前に教育をして、事業開始に備えます。しかし、我々には、その動きすら無い。

 課長、何か意図的なものを感じませんか?これは私の考えすぎでしょうか?」


 慎一郎は真剣な面持ちで話しを聞いていたが、コーヒーを口にすると言った。


「自分の事ばかりに、かまけ過ぎましたか。周りをもっと見なければいけませんでしたね。

 田中さん、この件は、お任せしてもいいですか?辞令は、今日付で発効される様にします。細かい事は総務の鐘崎課長と相談して下さい。

 伸二君、済まないが召集時期が早まりそうだ。辞令と共に事前に連絡はする」


「あとのやり取りは、私の方でお受けします。後で私の連絡先を教えるので、何かあればわたしに連絡して来て下さい」


 田中は、慎一郎の言葉を引き継ぐ様に伸二に話した。


「それと課長。進藤のヤツが仕事をくれと、しょっちゅう私の所に電話をかけてくるのですが、どうしたら良いでしょうか? 彼をメンバーに入れても、能力的には問題ないと思いますが」


 慎一郎は腕を組み少し考えると言った。


「彼も可哀想な奴だからなぁ。何とかしてあげればとは思うんだが。そこも後で上と相談して来る。たぶんだが、リアやイシェリナと同じ扱いなら行けるとは思う。でも、まだ確定じゃないから進藤には言わないで下さい」


「ええー! 聖女様とイシェリナさんが居るんですか? 会いたいです!今、どちらに?」


 伸二は、慎一郎の話の中の二人の名前に、思い切り食い付いた。


「落ち着け、君の二人に会いたい気持ちは分かる。特にリアには生命を救われているのだからな。

 二人には、こちらで私の手伝いをしてもらっている。今は、二人共忙しく働いているので、召集の時まで待っててくれ」


 伸二にとって聖女は生命の恩人である。これは、慎一郎と同じ様に返しきれないほどの恩だと思っている。しかし、それだけでは無い。聖女とはあちらの世界の唯一無二の《《アイドル》》である。その行いや聖なる力と言う能力だけでは無く《《美しさ》》と言う事でも、人びとから崇められていたのである。

 

「はい、楽しみに待ってます。これは、ひふみに教えて上げないと…」


 慎一郎は机の上に置かれたデジタル時計を見ると、カップに残ったコーヒーを飲み干して言った。


「ああ、もうこんな時間だ。行かないと」


 イスから立つと、壁に掛かったハンガーからジャケットを取り、羽織った。


「伸二君、今日は来てくれてありがとう。君のおかげで事態をひとつ進める事が出来た。感謝します。

 田中さん、彼のこと、あとお願いします」


「はい、分かりました。行ってらっしゃいませ」


 二人はイスから立つと、慎一郎を見送った。


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