第4話 元勇者たちの邂逅 1
地下鉄虎ノ門駅の地上出口への階段を上るごとに、徐々に蒸暑さが増していく。階段を登り切り地上へ出ると、その暑さに辟易しながらネクタイを緩めた。六月になり梅雨に入ってからはぐずぐずと雨が降り続いていたが、今日は雨は降ってはいなかった。
彼、橘伸二は、今居る虎ノ門交差点から新橋方向へと歩を進めながら、半年ほど前に警視庁本庁舎で行なった、神宮寺慎一郎との面談を思い出した。
橘伸二が警視庁に訪れるのは、何年ぶりだろうか?あの時は救助された被害者側で事情聴取等で数度訪れている。しかし、このでかい庁舎だ彼に会うために何処に行ったら良いかなど分かるはずもない。
入口に入り、受け付け窓口に彼との面談の約束を告げる。すると、案内すると言うので、その言葉に従う事にした。
エレベーターを降りると、公安部と表示が有る。その中で外事課と表示された廊下を進む。一番奥まで来ると、外事五課と表示されたドアの前に来た。
案内をしてくれた職員がドアをノックして開けた。
「ご面会の方がお越しになりました。
どうぞ、お入りください。」
ドアの内に入ると、後ろで静かにドアが閉められた。
中は、元は倉庫だったのだろう。一つの課として機能させるにはあまりにも狭かった。室内には、奥にスチール製の事務机がこちらに向けて置いてある。机と壁の間は、人が一人通れる程しかない。あと二つも机を置けば室内はいっぱいになってしまうだろう。什器も置けない。
「部屋の狭さに、びっくりしたかい。久し振りだね伸二君、元気にしてたかい」
神宮寺慎一郎は、座っていた事務机から立ち上がると、伸二に歩み寄り握手を求めてきた。
「はい、お久し振りです、シンさん。会えて嬉しいです。あれから、シンさんのこと情報も何も入って来なくて物凄く気になって…。だからこれから少しでも手助け出来る様にと自衛隊に入って鍛えていました」
伸二は慎一郎の手を両手で強く握り返した。
伸二にとって慎一郎には返しきれないほどの恩がある。十年前に、あのクソッタレな世界から救い出してもらえなければ、あそこでゴミの様に死んでいただろう。
「ひふみも…。あいつも俺と同じ思いです。呼べばすぐに駆け付けるはずです」
伸二はあの時に慎一郎に共に救われ、同じ思いで自衛隊に入ったもう一人の被害者女性のことも話した。
「うん、がんばってくれていたんだね。うれしいよ。さぁ、立ったままなのもなんだから、腰を落ち着かせて話そう」
慎一郎は、机の前に置かれたパイプ椅子を伸二に勧めると、自分は机の上を片付け始めた。ひと通り片付くと、机の下側の引出しからマグカップを取り出した。手前に二つ並べて置くと、後ろのカラーボックスの上にあるコーヒーメーカーからサーバーを取り出し、二つのカップに注ぎ入れた。
「砂糖とミルクは?」
「いえ、けっこうです」
二人でカップを手に取り、口を付けて一息入れる。
「さて…、君に今日来てもらったのは、君の顔を見たかっただけじゃなくて、君に私の手伝い…いや、私の部下として来てもらいたいからなんだよ。もちろん、ひふみ君にも声はかけたよ」
「もちろん、答えはオーケーです。喜んでお引き受けします。ひふみも絶対断わらないです」
慎一郎は、カップを机に置くと、引出しを開けて菓子の袋を取り出した。それの外袋を剥がすと内ケースごと机に置く。個包装されたクッキーだ。
「君たちからしてみれば、何でいまなんだと思っていることだろう」
「ええ、それは思います。もしかして対処しきれなくなってきて、隠しきれなくなってきてるんじゃ」
「まさに、その通りだよ。これまでは、外部協力者があっても実質自分一人で動くしか無かったが限界状態だ。これからは、組織的な対応じゃ無いと難しい。
これまでの事例を個々で見ると其々が組織も世界も繋がり無く関係無い様だが、俯瞰的に大きく見ると何か侵略戦争前の威力偵察されてるような気がしてならない」
慎一郎は、コーヒーをごくごくと飲み干すと、サーバーからおかわりを注ぎ入れた。伸二にも聞くとそのカップにも注ぎ入れる。
「何かそんなにギリギリの状態なんて思っても無かったです。早く進めないとヤバそうですね。何処まで進んでるんですか?事務所ここじゃないですよね?」
伸二はクッキーをひとつ取ると、封を切った。
「ここには私が、上層部とのやり取りの時にしか来ないから無いものと思ってくれて良い。対外的に外事五課がここに有ると見せる為と思ってくれて良い。実際の活動拠点となる事務所は虎ノ門に用意した。表向きには別会社を名乗ることになる。ただし内装工事や機器の搬入などはこれからだ。特殊な工事が入る為に半年ほど係るかも知れない。済まないが、着任時期が中途半端な時期になってしまう。それは、辞令を以て知らせるので待っていて欲しい」
「はい、分かりました。それで、人員の方は決まっているんですか?」
慎一郎はカラーボックスと並べて置いてあるミニ冷蔵庫から、水のペットボトルを二本取り出すと一本を伸二に渡し、もう一本を開けると一口飲み込んだ。
「済まない。ここの所、あまり話すことがなかったんで、喉が渇いてしまったよ。ああ、そうだ、伸二君は田中さんを憶えているかい?」
「もう何年も前なんでうろ覚えですけど」
慎一郎はペットボトルを片手に受話器を外し内線番号を押した。
評価をいただけると、作者の励みになります。
よろしくお願いします。




