湯治場観光と緊急事態
モンスター狩りを終え、観光している良太郎一行。明日はハーフタウンに戻ろうと思っていた時、聞き覚えのある声が後ろから飛んできた。
昨日、ゴブリン狩りでそれなりのお金と経験値を手に入れた僕たち3人は、この街を観光してから帰ろうという話になった。そして今は観光名所のひとつである「大滝壺」というものを見に行く道中。
「大滝壺というのは、名前の通り大きな滝で、ものすごく綺麗なんです。源泉にも使われているとの事なんですよ」
どれくらい大きいんだろうと想像しながら土産を買ったりしている。人力車の模型とか、大滝壺と同じ効能を得られるようになるバスタブとか。
「ここの店にはお土産に買う用の饅頭とか大福はありますか?」と聞いてみる。
「ありますよお客さん!少し待っててくださいね」といいながら店員さんは奥の方へ行く。なんか物が棚から落ちるような音が聞こえた気がしたが大丈夫なのか?
「はい、饅頭20個セットです。1000マネーになります」
マネーを渡し、ありがとうと言いながら商品を受け取る。
「その土産誰に渡すんだ?」
「パールさんに渡そうかな。この饅頭で変な実験しなけりゃいいけど…」
2人があはは…と苦笑いしていると、いつの間にか大滝壺がある山の入口に着いていた。山の入口には「登竜山」と書かれてある。僕はいつの間にか異世界語が読めるようになっていたようだ。
「登竜山のすぐ隣に何か書いてあるぞ?どれどれ…『この山の頂上に登った者には、能力が与えられる。』?」
「そんな訳ないだろ!」とレッドは爆笑しながら言うが、シアンは「いやいや、絶対ありますよ!」と抗議する。シアンが「ありますよね?絶対!」としがみついてくるが、僕自身は正直なんとも言えないので無視して山を登り始めるのだった。
山を登っている最中はと言うと、神が封印されている石像だの、旧魔王軍との争いで貢献した人々の墓だの、おそらく日本人転生者が遺したであろうスー〇ーファ〇コンとゲー〇〇ーイが洞窟の石段の上に丁寧に置かれてあった。これを見た時、思わず、 「なんでこれがあるんだよ」と少し声が漏れた。
その点2人は、「神はこの世に居ます!」「いいや居ねえ!」と言い争いをしていたり、「何だこのAって書かれたボタンは?」と言いながらスーファ〇のコントローラーのボタンを押しまくっていたり、争いの貢献者の墓の隣にある遺品であろう物を振り回していた。流石の僕もその時だけは思いっきりぶん殴って叱った。
「仏さんの墓や遺品になんてことしてくれてんだこの大馬鹿ども!さっさと戻して仏さんに土下座してこい!僕もしてやるから!」
…まぁ、なんやかんやありながらも無事にもうすぐ頂上に着きそうだ。頂上への階段のすぐ隣には、ものすごい大きい音で水が流れる巨大な滝があった。「こういうのって普通、山の下の方にあるやつでしょ……?」
「何言ってんだ良太郎、普通頂上付近にあるだろ」
「そうですよ良太郎!」
…これ僕がおかしい流れなの?…水の流れだけに。と思いついたけど、言わないことにした。
100段くらいあるだろう階段を登りながら、「アレが大滝壺だったのか。想像よりもでかいサイズだったや」とつぶやく。
「私もあれほど大きな滝を間近で見たのは初めてですよ」
「俺もすんごい迫力で驚いたさ!」
「ってか、シアンもこの山は登ったことないんだ」
「ええ、この山は初めてですね。」
僕とレッドは、意外だという表示をしながら「へぇー!」と声が漏れる。シアンは基本仕事でしか来ないらしいから仕方ないとはいえ、そういうものなのか…
階段を無事に登り、頂上へ着いた。
その景色を目の当たりにした途端、ものすごく綺麗で驚いた。
「私、こんなに綺麗な街の風景を空から見下ろすのは初めてです……!」
「俺もだ!……山頂の空気も美味い!」
僕自身も、日本で何度か高いところから地上を見下ろしたことはあるが、ここまで綺麗なものはない。
「せっかくだし、ここで団子とお茶飲みません?ちょうど目の前に売ってありますし!」
「いいねそれ!街を見ながらお茶を飲もう!」
「俺もおれもー!」
日本の歴史を彷彿とさせる街並みや安土城のようなギルド、それらを見ながらいただくお茶や団子は美味い。
…そういえば、聞き忘れていたことがあった。
「なぁシアン、ここの温泉の効用って一体どんなの?」
「疲労/体力/魔力の回復、デバフ効果の解除、腰痛/筋肉痛/肩こり/頭痛に効いたり、魔除け、攻撃力/魔力/素早さの上昇…まぁこういった感じですね」
…観光地なだけあって、すんごい効果だな。デバフ解除はわかるが、魔よけやバフ効果もあるとは。
「お茶も飲んだし、日も暮れて来たし、そろそろ宿に戻ろう」
「「はーい」」
ということで、来た道を辿って山の入口にまで戻った。そこで初めて料金1人1000マネーを支払い、山を後にした。その近くでご飯を食べることにしたが、またそのご飯屋で2人が酒を飲み食いしまくって道の端っこでレインボーするという。こいつらどんだけ観光地に迷惑かけてるんだろ。
「すいませーん!」
宿に向かう最中、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
その声の正体は、パールさんだった。
パールさんは何やらものすごく急いでいる表情であった。
「パールさん、そんなに焦って一体どうしたんですか!」
「良太郎さん!それが…」
「「「ハーフタウンが魔王軍に侵略されてる!?」」」