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砂丘の進撃

 3人が迷いの森を抜けると、目の前には砂丘が広がっていた。と言っても砂漠ほどの広さはなく、地平線に別の森が視認できるほどである。ここは、文曲の祠が建てられるエリアで、村が町に発展するとともに名士の家ができる場所である。

 ミザルとアルコルはテントを用意した。今夜はここに泊まるのである。

「え? 砂丘を突破しないの?」

「夜道は危険だよ。森も危ないけど、砂丘だってさそりとか危険な生き物が出てくるからね」

 アルコルが丁寧に教える。

「都会育ちのお嬢様は、こういうことに疎いんだな」

 ミザルがまたまたチクリと刺す。

 食事は持ってきたパンとドライフルーツ、干し魚を分けた。メラクは空腹だったのでよく食べる。この2人はここまでしっかり準備してこの村に来たのね。興味本位でやってきた自分が恥ずかしくなった。

 食後はすぐに就寝となった。が、ミザルはメラクの隣に並ぶのを嫌がり、端に横になって寝てしまった。

(こういうところ、頑固だよね…)

 アルコルは苦笑した。

「メラク、そっちの端っこに寝て。僕は真ん中に寝るから」

「うん」

 しおらしく従うメラク。いつもなら「何であんたが隣に寝るのよ!」と文句を言ってきそうだが、自分の命がアルコルにかかっていることを考えると、素直に従うしかない。

「おやすみ…」

 メラクはすぐ寝てしまった。アルコルはその横に寝そべる。が、ふとメラクを見ると、胸元がはだけかかっていて胸のふくらみのほとんどが見えていた。アルコルが結んだスカーフがほどけかかっていたのだ。

 慌てて目をそらそうとするが、メラクが寝返りをうってきたため、胸がアルコルの顔に押しつけられる形で被さる。

(ちょっ……!)

 柔らかい感触にどぎまぎする。素肌が剥き出しになった腹は左手にあたり、脚までもが絡んでくる。アルコルは必死に理性を保とうとしていた。しかしこのままでは……思春期男子の自分は暴走する!

(ベ、ベナ。僕に力を貸して…!)

 最愛の恋人に意味不明のお願いをする。彼女は「女子の仁義として一生尽くす」と言ってくれた。だったら僕も「思春期男子の仁義」をもって、彼女を裏切るような真似はしてはいけない。仁義には仁義で答えなければ…! 本当に意味不明になってきた。

 が、やがてメラクはアルコルから離れるように寝返りをうった。

「ほっ……」

 アルコルはほっとした。少し残念な気もしたが…いやいや、これでいいんだ!

「…さん」

「え?」

「お父さん…」

 メラクの寝言だった。その目にはうっすらと涙が光っていた。


 翌朝。朝食をとった後はすぐに出発し、襲ってくるさそりなどの虫を蹴散らしながら進んだ。シリウスの代には、この砂丘は緑が豊かな場所になっている。が、この時代は植物がほとんど生えない地であり、おびただしい数のさそりが棲息していた。

 ミザルは棍棒で、アルコルは七星剣の秘剣・魚釣り星でさそりたちを払いのけながら進んで行く。

「きゃあっ!」

 メラクはアルコルの背後に回り、守られながら進む。以前、毒を持つ生き物を授業で学んだことがあるが、さそりの毒は特に強力で、致死率も高い。姿もグロテスクな上にうじゃうじゃと現れるとたまったものではない。メラクの手は恐怖でがたがたと震え、アルコルの肩をしっかりとつかんでいる。

 が、アルコルはおかまいなしにさそりを蹴散らしていく。

(いつの間に、こんなに強くなったの?)

 ついこの前まで、ミザルに守られていた弱虫だったはずなのに……これが紫微垣の力…。

(もう、私が知っているアルコルじゃないのね)

「メラク、大丈夫?」

 背中にいるメラクを気遣いながら進む。優しさが心にしみていくのが分かる。

「うん、ありがとう…」

 まだ謝罪はできないが、メラクはようやくアルコルに感謝の言葉を掛けられた。それを見ながら、ミザルは2人に言った。

「さて、もうすぐ砂丘を抜けるがまだ油断はできないぞ。ここは大きなヤツもいるらしいからな」

「大きなヤツって?」

 アルコルはかわいい目をぱちくりさせ、メラクは不安そうな表情で聞く。

「今に分かるさ…」

 ミザルはハッと前を見た。地平線に砂丘と草原の境が視認できるほど進んだが、舞い上がる砂埃の中に何かを見つけた。

「出た、鬼さそりだ」

 そこにいたのは、鰐ほどの体格があるさそりだった。

「うそっ、あんなのがいるの!?」

 メラクが青ざめ、アルコルの左腕にぎゅっとしがみつく。するとアルコルは組まれた腕を一旦解き、メラクの左腰に自分の手を回した。

(え…?)

 メラクはドキッとした。かつての彼女だったら「何するのよ!」と払いのけるはずだが、そんな気も起きない。生殺与奪の権利をアルコルが握っているから逆らえない…というものではなかった。

(私を…守ってくれようとしている?)

 顔が赤くなるメラク。アルコルの顔を見ると、彼は目をつり上げて鬼さそりをにらみ付けている。その表情は泣き虫の少年のものではなく、1人の戦士の顔だった。

「メラク、僕はまだ紫微垣になってから間もないから、君をかばいながら戦うほど熟練していないんだ。守れなかった時はごめん」

 そんな…謝らなくちゃいけないのは私なのに。いじめたこと、助けてもらったのに御礼を言っていないこと、今も足を引っ張ろうとしていること……。

「アルコル、来るぞ!!」

 ミザルが叫ぶと同時に鬼さそりがガサガサと突進してきた。ミザルが右に、メラクを抱えるアルコルは左に跳んだ。さそりは向きを変え、アルコルの方に向かってくる。接近するや尾を振りかざし、毒のある先端の針を繰り出してきた。

「うわっ!!」

 アルコルはひょいひょい、とかわしていく。メラクを抱えていることも忘れるほどの機敏さである。

(アルコル、すごい!!)

「秘剣・魚釣り星!」

 七星剣をしならせて攻撃する。が、頑丈な外殻に弾かれた。

「秘剣・螺旋昴!!」

 上空に舞い上がるはずの剣先を、横に倒して繰り出した。が、これも弾かれた。やむなく鬼さそりから間合いをとるため後ろにジャンプした。そこにミザルが近寄る。

「あいつの攻撃はそんなに怖くはないが、外殻が厄介だな」

 ミザルの言葉にアルコルもうなずく。持久戦になったら砂丘に適応しているさそりの方が有利だ。早めにケリを付けなければ……。

《最後の秘剣を使え!》

 アルコルは頭を抑えた。秘剣の啓示である。その刹那、彼の脳裏にオリオン座の中央にある三つ星と、手槍の横三点の突きのイメージが重なった。

 アルコルはメラクを放して突進する。七星剣の紺色の星鏡が光り、手槍の形になった。

「秘剣・三連みづら突き!!」

 アルコルが繰り出した突きは横一列に3点の突きとなり、鬼さそりの胴体の殻を破った。

「ギュアオオオ!!」

 悲鳴を上げた鬼さそりは、泡をふいて動かなくなった。

「…やった、殺したんだね!!」

 メラクが叫ぶ。が、アルコルは淡々と返す。

「いや、急所は外しているし傷も浅いよ。それに殺す気はないよ。紫微垣は無益な殺生はしない。あいつは自分のテリトリーに入ってきた者を追い返そうとしているだけだからね…でも、ちょっとやりすぎたかも」

 気絶している今のうちに突破しよう、と言って走り出した。自分に危害を加えようとした相手を気遣っている。

(アルコル……あなた、本当に優しいんだね)

 メラクの心に、これまでとは違う感情が芽生え始めていた。


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