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懺悔

 結局、メラクはアルコルたちと一緒に進むことにした。アルコルは浅瀬道を通って東の都に戻ろうとも考えたが、啓示で《前に進め》と言われたため、前に進まざるを得なかった。

 アルコルはメラクにこの森の説明をした。「迷いの森」と言われているが、大通りを進めば迷うことはない。が、脇道にそれると整備されていないため、同じ景色が続くこともあって簡単に迷うそうだ。ちなみに、先ほどメラクたちと合った後に大通りに戻れたのは、大通りの木にロープを結んでいたからである。ロープをたどれば元の通りに戻れるというわけだ。

 伸びているドゥベーとフェクダには、そのことを手紙に書き置きしてきた。一緒に連れて行ければよかったが、さすがにそこそこ体格のいい2人をかつぐのは厳しい。目が覚めたら大通りに戻るよう祈るしかなかった。

 先頭はミザル、次にアルコルで、最後がメラクという隊列である。メラクは両腕で体を守るように歩き、表情はまだ晴れない。

「メラク、大丈夫? 寒くない?」

 アルコルが振り向き、心配そうに尋ねる。

「う、うん、寒くはないよ。だけど……」

「だけど…?」

 メラクは突然へたり込んだ。泣きそうになっている。

「疲れて歩けなくなってきて……」

 アルコルが駆け寄る。それを見てミザルは言った。

「どうするアルコル? 僕は置いていってもかまわないと思うが、君はそうは思わないだろう?」

「当たり前だよ」

 やれやれ、と言わんばかりにミザルはアルコルの荷物を持ってやる。

「彼女をおんぶしてやりな。言っておくけど僕はしないからな。いじめをする人間は嫌いだから」

 そう言ってアルコルの荷物を抱えると、また前を向いて歩き出した。

「メラク、僕の背中に乗って」

「背中って…あんたチビなのに大丈夫なの?」

 確か、身長は私の方が高いはず…しかし、おんぶしてもらうとアルコルは難なく立ち上がった。

「紫微垣の力に開眼してから、身体能力が少し上がったんだよ」

 確かに、腕や背中の筋肉が付いている。少し前までひ弱そうだったのに……。そうか、こいつも男だから、年頃になると女の子の身長や腕力を追い抜いてしまうのね。

 思春期になると、どんなに弱そうに見える男子でも肉体的には女子の身体能力を上回る。だからこそ、女子は「男の子だったらなあ…」と思うことが、少なからずあるという。メラクはまさに今、それに近い気持ちになっていたのである。

(こいつの背中、心地いいな……)

 何かに似ている。何だろう、自分の中の遠い記憶を探る――

(お父さん…)

 ようやく思い出した。幼い頃、何度かおんぶしてくれた父親の感覚に似ているのだ。

(あの頃は、幸せだったなあ……)


 メラクの家は東の都でも有数の名士だが、彼女が生まれた時は庶民で、4歳頃までは平屋の共同住宅に住んでいた。裕福ではないが家族3人で楽しく幸せに暮らしていた。そんな折、父親が船の事業を始めて成功し、トントン拍子に収入が増え、平屋から小さな一軒家に、それからさらに豪邸に住むようになった。

東の都は星の大地の東端にあり、そこから蟹の目町や五車の島、北の村に行くには徒歩が基本だった。しかし、中には危険な道を通らねばならないこともあり、盗賊や猛獣などと遭遇することもあるため、他の町や村への移動は危険が伴っていた。船が登場すると、それぞれの町との往来が安全で早くなり、便利になった。これにより、メラクの家は巨万の富を得たのだ。

 しかし――裕福になればなるほど父親は仕事で忙しくなり、家庭を顧みなくなる。両親が談笑しているのを見たのは、学舎に入学した頃が最後だっただろうか? それからは、両親は離婚こそしないものの仮面夫婦として、生活のためにお互いを必要とする存在となってしまった。

 父親はメラクとはほとんど口を聞かないほど多忙になり、母親は習い事や友人との食事を楽しむことを優先し、メラクのことを使用人に押しつけた。使用人たちはお世話をしてくれたものの、それは愛情ではなく給料のためだったので、いつもしらじらしさを感じていた。

 メラクは思春期になると、男子を泣かせるまでに気が強くなっていた。その最中に出会ったのが、泣き虫だったアルコルである。やがて、ドゥベー、フェクダと言った連中とつるんでアルコルをいじめるようになる。



 メラクは目を覚ました。相変わらず、アルコルの背中におんぶされたままだ。いつの間にか眠っていたようだ。

(ああ、そうか、そういうことだったんだ…)

 メラクは気付いた。これまでアルコルをいじめていたのは、両親の愛に満たされない不満を彼にぶつけていたからだと。家に帰っても家族がいない寂しさを紛らわすために、彼に暴言を吐きまくっていた。どれだけ学舎でいじめても、学舎側は成績優秀で資産家の娘ということで不問にし、両親もメラクに干渉しないため、どんどんつけあがっていった。思い返せば、ドゥベーとフェクダは、アルコルをいじめる時にはつるんでいたが、それ以外の時に遊んだことはなかった。もともと、友達でも仲間でもなかったんだ。

(…私、最低)

 ようやくその気持ちにたどりついたメラク。しかし、アルコルに向かって「今までごめんなさい」と謝る勇気はまだ持てなかった。


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