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北の村へ

 北の村――北斗七星を模したこの村は、五代目紫微垣・シリウスの時代までに北の町に発展し、後世において歴代の紫微垣たちが活動する舞台になる。その先駆者となった初代紫微垣・アルコルの最大の試練が、今始まろうとしていた。


 五車の島から帰ったその日の夕方。アルコルはミザルの家に戻った。母親、義理の父と決別し、いじめっ子3人組を撃退したことを話すと「そりゃ愉快だ」と、ミザルは笑った。

「神によると、秘剣の啓示は三つあるらしい」

「つまり、魚釣り星と螺旋昴のほかにあと一つか」

 後世において秘剣は七つ、奥義を入れると八つになるが、この時アルコルが受けた啓示では三つということだった。

「とりあえず3日後の出立まで、二つの秘剣の練習をしておくね」

 夕食の後、アルコルは庭に出て訓練をし始める。少し前までおどおどしていた少年とは思えない成長っぷりに、ミザルは目を細めた。「男子、3日会わざれば刮目してみよ」とはまさにこのことだった。


 翌日の午前。ドゥベー、メラク、フェクダの三人が、大市場の喫茶店に集まった。

「昨日の夜、ミザルの家にこっそり使いを出したの。そしたらあいつら、北の村に行くんだって」

 東の都でも有数の資産家であるメラクの家は、大勢の召使いがいる。その1人をミザルの家に差し向け、アルコルとミザルの会話の内容を盗み聞きさせたのである。

「北の村って…あんな田舎に?」

「何の用があるんだ?」

 ドゥベーとフェクダが首をかしげる。

「確か、紫微垣の使命って言っていたわね」

「ふん、気にくわねえ」

 ドゥベーがジュースを一気飲みした。

「しばらく優しくしてやってりゃ、使命だとなんだとの偉そうに。そろそろヤキを入れてやらねえとな」

 七星剣を前に腰を抜かしていた人物とは思えないほどの威勢のよさだ。

「北の村に乗り込むわよ!」

 突然、メラクが提案した。

「え? 俺たちだけで?」

 フェクダが怖じ気づいたように答える。

「当たり前よ! アルコルにできることなら私たちにもできるわよ! あのチビ、最近生意気だからむかついているのよ!」

 髪を七星剣で切られたメラクが、苛立たしげに吐き捨てる。結局、3人は、メラクの父親が経営する船会社の小型船で北の村に行くことになった。出立は2日後、アルコルたちと同じ日である――。


 同日の午後。アルコルの家に担任のメグレスが訪ねてきた。母親のベナトナシュが応対する。

「そうですか、アルコル君はミザル君の家に……」

「最近、何だか様子が変でしてねえ。やっと友人ができたと思ったら、こんなことになって……」

 ベナトナシュは頬に手を当てて眉をひそめる。教師の前では、保護者として暗い表情はなるべくしないよう意識する。こうして外面を良くしてきたため、メグレスもアルコルが虐待を受けていたことは察することができなかったのだ。

「またミザル君とキャンプに行くようなことも言っていましてねえ……」

 まるでミザルがアルコルに悪い影響を与えたとでも言いたそうな口ぶりである。と、そこにアリオトが帰ってきた。

「ただいま…って、どちらさま?」

 アリオトは目が合ったメグレスにたずねる。

「メグレス先生、アルコルの担任よ」

 ベナトナシュが感情を押し殺したように棒読みで言った。まだ2時なのに何ふらふらしているのよ…「お父さん、お仕事は?」って思われるでしょうが! とでも言いたげな表情である。

 が、アリオトはそんな妻のことはおかまいなしに、メグレスに微笑む。

「息子がお世話になっております。父親…と言っても血はつながっていませんが、父親のアリオトです」

 紳士のように手を胸に当て、おじぎをする。挑発でひげ面だから胡散臭さを感じないでもないが、メグレスは一瞬見とれてしまった。

(何か、ワイルドなお父さんね…)

 職場の学舎は真面目一徹な男性か年をくったおじさんが多い。このような色気のある男性と話したことがなかった。

「どうしました、先生?」

「え? あ、ああ……」

 メグレスはハッと我に返る。

「とりあえず今日は失礼いたします。また何かありましたら訪問させていただきますね」


 その翌日。メグレスは、アルコルとミザルが「北の村」に行くことを知らされた。ミザルの家を訪ねようとした時、壁の外に漏れ聞こえた彼らの声で知ったのだ。

(…これは、アルコル君のご両親に伝えた方がいいわね)


 こうして――8人はそれぞれのチームで、北の村を目指すことになった。


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