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毒親からの離別

 早速その日の午後、ミザルがアルコルの家を訪ねた。

「今日はお母さんだけ? お父さんは?」

「分からない」

 再婚相手のアリオトは、日雇いの仕事か遊びか分からないが、いつもフラフラしていて不在がちである。

 ミザルは玄関を開け、「おじゃまします」と家に入るとベナトナシュと目が合った。美人ではないが、整った顔立ちの中年女性という印象だった。が、その表情は暗く、世界中の不幸を背負っていると言わんばかりである。現に、彼女はミザルを一瞥して「こんにちは」とぶっきらぼうに挨拶したくらいである。

 ミザルは、この態度に接して一つの決意をした。


 早速、ミザルは居間でことの次第を説明した。アルコルが啓示を受けたこと、その謎を解くために五車の島に行くこと――。

 ミザルの説明が終わると、ベナトナシュはため息をついた。

「アルコル、あんた正気なの?」

 鋭い言葉を息子に投げつける。アルコルは母親の顔色をうかがうように見た。

「神からの啓示だなんて…頭おかしいんじゃないの!?」

 ベナトナシュが机をドン、と叩く。その拍子にコップの水がグラッと揺れた。

「ったく、気がおかしくなった子供の相手なんてしていられないよ! ミザル君…だっけ? こんなばかの言うことなんか聞かなくていいよ! 最近、家の手伝いもろくにしないで誰と遊んでいるのかと思ったら…呆れたもんだね」

 ありったけの悪態をついてくる。そのたびに、アルコルが「ビクッ」とおびえていた。ところが、ベナトナシュの悪態が一通り終わった頃、今度はミザルが口を開いた。

「あなたは母親として最低ですね」

 ミザルは満面の笑みで、しかし痛烈な言葉をベナトナシュに投げつけた。

「な、何ですって!?」

 母親の顔が怒りで青ざめていくのを見て、アルコルは冷や汗を流す。

「啓示がにわかに信じられないのは分かります。でも、そういう場合、うちの子は大丈夫かと心配するのが親じゃないんですか? 少なくとも、頭おかしいなどと怒鳴りつけるのはどうかと思いますが」

「な…」

 怒りでプルプルと震えるベナトナシュにかまわず、ミザルは続ける。

「そうそう、これまでのご家庭でのことをアルコル君から聞きましたよ。家庭不和の不満を子供にぶつけるなど、母親失格です。いや、人間失格と言った方が適切かな?」

「あんたに何が分かるの!?」

 ベナトナシュは激昂して立ち上がる。

「前の夫に死なれて途方に暮れていた時、やっと再婚して幸せにしてもらえると思ったのにろくでなしだった!!」

「そうやって他人に幸せにしてもらおうと思うから、いつまでたっても幸せになれないんだよ」

 細かったミザルの目が、氷のような冷たさを放ちながらゆっくりと開いた。先ほどまでの微笑みが消えた顔を見て、ベナトナシュが一瞬ひるむ。

「前の夫がどうの、ごくつぶしの再婚相手がどうのと是非に及ばない。幸福は自分でつかみとるものだ。他人から与えられるものじゃない」

 穏やかながら鋭い言葉は、アルコルの胸にも突き刺さった。

「アルコル、準備はできているんだろう? 今日はうちに来なよ。人の親を悪く言いたくないが、こんな母親じゃあ啓示がどうの、キャンプがどうのの前に、君の精神衛生上よくない。君の方から切り捨てた方がいい」

 ミザルはさっと立ち上がり、アルコルを連れて出て行った。


「ありがとう、ミザル」

「礼には及ばないよ。しかし、あんな母親もいるんだなあ」

 のんきな口調でミザルがつぶやく。

「あんなふうにはっきり言ってくれて、けっこうスッキリしたよ」

 アルコルが微笑む。やはり、彼の性格はベナトナシュの影響があったようだ。

「ただねアルコル、想像しなければならないのは、君の母親もなんらかの理由があって、あんな性格になったかもしれないってことだよ」

「え?」

「人の性格がゆがむ原因って、何か大きなショックや、長い年月をかけて虐待を受けてきたことが多いんだ。あの人も何かあるのかもしれないな…」

 考えたこともなかった。もしそうなら、母親も被害者なのかな……。

「まあ、あの母親には申し訳ないが、そのことは後回しにしよう。今は神の啓示に従って動くまでだ」

 その日の夜は、ミザルの家に泊まった。そして翌朝――ついに、五車の島に向けて出発することになった。


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