表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/116

笑顔

「アルコル、一緒に帰ろうか」

 授業が終わると、ミザルはアルコルに話しかけた。クラスじゅうがざわつく。

(あの人、アルコルのことをどう思っているのかしら?)

(クラスのいじめられっ子で、誰も関わりたがらないのにさ)

 そんなひそひそ話におかまいなしに、ミザルはアルコルに近づく。しかし、当のアルコルは後ずさりをする。

「な、何で僕と……?」

 自分はクラスカースト上位の3人組にいじめられ、クラスでも煙たがれているのである。人間不信になりつつある自分に近づくなど、どういうつもりなのか?

「何となくほっとけないのさ。まあ、つもる話は帰り道でしようかね」

 半ば強引にミザルに連れ出され、アルコルは教室を出て行った。


 ミザルは天気のことや自分のことを話しながら、時折アルコルに質問をする。アルコルは警戒心がまだ解けず、「うん」とか「そうだね」しか言わない。周りの人間から虐げられてきたことが、アルコルの心に殻を作ってしまったのだ。

 さすがにミザルもこのままではいけないと思い、質問を変えてきた。

「君は何か得意なことはないの?」

「え、でも……」

 母親のベナトナシュにはいつも「何のとりえもない」となじられている。それはある程度当たっていて、アルコルは勉強もスポーツも苦手なのだ。

「何かあるだろう。絵とか音楽でもいいし……」

 すると、アルコルは思い出したように小さくつぶやいた。

「ドライフルーツ……」

「え?」

「ドライフルーツを作るのが得意…」

 アルコルは、自分のかばんから小瓶を取り出した。中には干しぶどうや干しりんごが入っている。

「へえ、君が作ったのか。ひとつもらっていい?」

 ミザルのお願いにアルコルはこくんとうなずく。

「干しりんご、おいしいね。売れるよ、これ」

 女みたいな趣味、とからかわれると思ったのに褒めてくれた。さらに

「僕は特段料理が得意じゃないから、こういうのができる人って尊敬するよ」

 尊敬――そんなふうに言ってくれる人は初めてだった。この時、ミザルへの警戒心が一気に薄らいでいった。


 2人は毎日一緒に帰り、いろいろな話をした。アルコルが身の上話をすると、「それは大変だったな」と同情してくれた。

 また、ミザルの話も聞いた。彼は父親が祠の守り人なのである。守り人とは星の大地の祠を管理する役人で、いわば神社の宮司や寺の住職にあたる。東の都、中つ都にはいくつか祠があり、それぞれ守り人が管理している。3年に一度異動することがあり、今回、ミザルの家は東の都の昴の祠を担当することになった。

 そんなこともあり、アルコルは昴の祠にお参りするようになった。それまでいじめられっ子だったこともあり、「神も仏もあるもんか」と思っていたのだが、ミザルと出会い、ドゥベーたちにいじめられることが少なくなった。たまに1人でいる時にはからまれてくるのだが、そんな時でもミザルはすぐに駆けつけて助けてくれる。3人組は、初日に負けたのが効いたのか、ミザルが来るとそそくさと逃げる。

 ミザルはアルコルを家に招き、一緒に遊ぶようになった。それからアルコルは笑顔が増え、日々の生活が楽しくなっていった。時折、ミザルの父親が守り人を務める昴の祠にも、一緒にお参りに行った。その境内には、他の学舎にいる少年少女も来ることがあり、少しずつ仲良くなっていった。

 少し前では考えられないような変化だった。アルコルにとって、ミザルは救世主のような存在になりつつあったのである。


 そんなことが4カ月ほど続いた頃――ある異変が起こった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ