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エピローグ

「だ、誰だお前は!?」

 3人の盗賊たちが、ポラリスの納められている北辰の祠の前で叫んだ。その目線の先には七星剣を構えたシリウス…と背中には赤ん坊がいる。

「ポラリスの守護戦士・紫微垣のシリウスだ」

 シリウスは一の秘剣・魚釣り星を発動させ、盗賊たちを威嚇した。

「にっ、逃げろお!!」

 あっという間に逃げた3人を眺めるシリウス。

「やれやれ、盗賊たちも弱体化している。この調子でポラリスを狙う者を完全になくすことができるかな」

「う……うえええん!!」

 背中の赤ん坊が突然泣き出した。

「よしよし。賊も逃げ散ったことだし、帰るか」

 使命を果たし、庵の隣にある自宅に帰った。


「おかえり、シリウス」

 家では最愛の妻――スピカが待っていた。

「スピカ、帰っていたのか。この子をあやしていたら怪しい気配を察知してな。やむなく背中にくくりつけて出撃した」

「歴代の紫微垣も、子守しながら戦うなんてなかったでしょうね」

 微笑みながら返し、シリウスから子供を受け取り、あやし始めた。シリウスは七星剣を置いて夕食の支度を始めた――。

 魔剣・コラプサーを粉砕してから10年――。

スピカは学舎を卒業し、上級の学舎に進学して5年間勉強した。その後、町役場に就職したのだ。名士の娘ということを鼻にかけず仕事に邁進し、順調にキャリアアップをしている。

 その間、シリウスは修行を続けながらポラリスを守り続けた。紫微垣としての使命に目覚めたあの日から、ひたすらに七星剣を振るってきた。彼の秘剣はさらに磨きがかかり、もはやポラリスを狙う盗賊もほぼいなくなったのだ。

 そして学舎卒業から8年目に、2人は結婚した。やがて子供が生まれたが、スピカは一年間の育児休業を取った後、仕事に復帰した。日中は、シリウスがメインで育児をしている。

(紫微垣として戦っている時以外は主夫か…昔を思い出すな)

 子供のおむつを変えながら、シリウスは思い出していた。スピカと最悪の出会いをし、大岩の下敷きになりそうなところを助けた頃、料理を作りながら「主夫みたいだ」と自嘲気味に思ったことがあった。今や本当に主夫だ。


 このカップルは、星の大地に二つの変化をもたらした。

 一つは女性が働き、男性が家を守るという形を広く示したことである。これまでの社会認識では、男が仕事、女が家事と育児という家族規範が主流だった。それを逆転させ、かつ家庭生活を機能させている。似たような夫婦は他にもいたのだが、社会の陰に埋もれていた。それが、気鋭のキャリアウーマンというべき女性と紫微垣の男性が示したことで、広くこの大地に知らされることになった。「これからは女性も活躍して、男性も家族とたくさん向き合うのがいいのかもね」などと、言われるようになった。

 もう一つは、貧民街の子供を社会参加できるようなプロジェクトを立ち上げたことだった。

 ベテルギウスやリゲル、アルタイルと戦って分かったのが、ポラリスを狙いに来る者たちは悲惨な幼少期を過ごしてきたのである。その結果、人格がゆがみ自己中心的となって、星の大地が災害に見舞われようと顧みない心を持ってしまった。人から大事にされなかった人間は他人を大事にすることができず、森羅万象にも愛を向けることができなくなるのだ。

 だからこそ、心がゆがんだ人間がこれ以上増えないように、子供のうちに軌道修正することにした。そのプロジェクトを、「こぐまプロジェクト」と名付けた。


「それにしても変わった名前よね。こぐまプロジェクトなんて」

 ミラが笑いをこらえてつぶやく。名付けたのがシリウスということもあり、そのミスマッチさが余計に笑えてくるのだ。

 彼女は学舎を卒業後、カノープスがいた茶屋に住み込みで働き始めた。明るい性格で接客もうまく、時には料理やお菓子も作る。今や看板娘だ。長くなった髪をポニーテールにまとめている。

「言っておくけど、最初に名付けたのは俺じゃないぜ」

「ふふふ、アルクトゥルスさんのメモ帳からヒントを得たのよね」

 スピカが微笑みながら言う。

 アルタイルたちと戦う前に、スピカとミラに打ち明けたのがこの「こぐまプロジェクト」だった。アルクトゥルスの庵で本やノートを物色していた時に、このプロジェクトの構想の記述とその名称を見つけたのだ。

 それは、貧民街の子供たちに充分な食事を与え、希望者には勉強や職人の技術を教え、さらには絵本を読み聞かせたり遊んだりするというものだった。これにより子供たちの自己肯定感や非認知能力が育まれ、社会人として自立できるという。

 現実の世界でも、「子ども食堂」やアメリカの「ペリー就学前計画」などのプロジェクトが子供の貧困解決の対策を実行して、一定の成果を上げている。

 星の大地では、結果が出るのが数十年後であるため誰も実行できなかったのだが、シリウス、スピカ、ミラが発起人となって3年前から始まった。

 スピカが役人としてプロジェクトリーダーになり、マネジメントも担当する。シリウスとミラが中心となって食事の提供をして、勉強や遊びなどは、大勢のボランティアによって運営されている。最初は「成功できるのか?」と懐疑的な意見が多かったが、3年たつと子供たちの表情が生き生きしてきて、希望が見えてきたのだ。

 ポラリスを守るだけじゃない。ポラリスを盗もうとする人間を減らす。これが、五代目紫微垣となったシリウスの使命に加わったのである。


「それにしても……」

 とスピカが切り出す。

「こぐまプロジェクトの発案者は誰だったのかしらね?」

「分からないんだよな。師匠の筆跡じゃなかったから、別の人間だと思うんだが……」

「まあ、少なくともシリウスの字みたいじゃなくてよかったよねー。せっかくのアイデアが読めないんじゃねー」

「ミラ、お前な……」

 反論したいところだが、彼の字のひどさはもはや自他共に認めるレベルである。まあ、頭脳労働の分野はスピカに任せ、自分は料理とポラリスの守りに専念すればいいか、と改めて開き直った。

「あ、お父さん! こっちこっち!」

 スピカが手をふる。その先には彼女の父親――シリウスにとっては義理の父親がいた。横には義理の母親と、義理の両親に預けておいた自分の子供もいる。かわいい盛りの孫を抱っこして、2人とも嬉しそうだ。

「ポルックスさん、今日もありがとうございます」

「シリウス君、お疲れ様。今日も子供たちは楽しそうだね」

 父親――ポルックスはもう70歳を越えたので北の町の統治を息子に譲った。しかし今なお元気で、今日は子供たちと遊ぶためにやってきた。

 それにしても――と、ポルックスは思う。無愛想で態度が幼かったシリウスが敬語を話せるようになり、成長を感じている。紫微垣としても娘婿としても、この上なく頼もしく思えるのが嬉しいのだ。

 シリウスの腰にある七星剣の星鏡がキラリと光る。師だったアルクトゥルスの剣が青空の水色だとしたら、シリウスのものは若葉の黄緑色である。これから成長していく子供たちを守る――そんな使命をも帯びていると思えた。


 アルクトゥルス、見ているか? お前の弟子は立派な青年になったぞ。娘と一緒に、星の大地の未来をすばらしいものにしてくれるだろう。


 ポルックスは空に向かってつぶやいた。




 これにて五代目紫微垣・シリウスの物語はおしまい。次回からは、初代紫微垣・アルコルの物語が始まります――


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