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魔剣異聞⑧――盗賊団

 魔剣を手にしてから、アルタイルの横暴さはひどくなっていった。気に入らない男は片っ端から殺し、女は自分の好みの者を侍らせ、醜い女は殺した。そのやり方も猟奇的で、手足を切り落としてから首をゆっくり切っていったり、股裂きの要領でへそまで斬りながら止めたりというものだ。

 あまりの傍若無人さに、無法者ばかりだった西の村の住人が団結して、アルタイルを捕まえようと画策し始めた。


 その頃。アルタイルは道で1人の女性と出会った。その女性はこぎれいな格好をしていて、薄汚れた服を着ている者が多い中ではひときわ目立った。最近、村に流れ着いたのだろうか? 顔は端正できりっとしていて、胸がふくよかで全体的に細身のプロポーションだ。腰には細い剣を差している。

「あの…」と、その女性がアルタイルに話しかけた。

「泊まる所を探しています。どこか案内していただけませんか?」

「それならウチに来るといい。一晩泊まっていきな」

 アルタイルは、祠の近くに新しい家を建てた。村の者を脅し、新しく造らせた木造の家屋だ。女性を自宅に招いたのは親切心からではない。この女性を自分のものにしようと思ったのだ。

ところが予想外のことが起きた。アルタイルは女性を脅して体を狙おうとしたのだが、「一泊の御礼に…」と、女性の方から体を開き、ベッドで抱き合った。その後、2人とも裸のまま、話し始めた。

 女性の名はベガという。東の都では指折りの剣士で、警備兵をしていた。しかし、上司の性的な嫌がらせに愛想を尽かし、その上司を斬殺してここまで逃げてきた。

「でも、なぜ俺には体を許したんだ?」

「あなたが私の好みだったからよ」

 ベガは手をアルタイルの頬に添え、唇を重ねてきた。

「私はこのまま終わりたくないわ。アルタイル、あなたの部下にして。一緒に東の都に復讐しましょう。コラプサーがあれば、星の大地の支配者にもなれるわ」

「星の大地の……」

 アルタイルの胸が膨らんだ。そこまで考えたことがなかったからだ。

「…おもしろい、2人で多くの手下を集め、野望を叶えよう!」

 次の日からベガは、村で力比べをした。ベガが木刀、相手は得意な武器で試合をして、ベガが勝ったらアルタイルの手下に、相手が勝ったらベガの体を好きにしていいというものだ。しかし、ベガの剣の腕はすさまじかった。次々に挑んでくる者を5秒以内にたたき伏せていく。5、6人で一斉にかかられても、一振りで全員をなぎ払ってしまった。ベガの剣閃は速く、まるで疾風の如くであった。

 やがて2人は大勢の手下を従わせ、盗賊団を結成した。その後、北の蟹の目町や東の中つ都を襲わせ、金品を略奪するようになる。村の反アルタイル派や、中つ都の討伐隊が戦いを挑んだものの、アルタイルのコラプサーの前に、皆肉塊と化していったのだ。

 恐怖を感じたのは敵だけではない。あるとき、アルタイルに

「ふふふ、アルタイル様、私はコラプサーが血肉を吸い取るところが好きなの。今見たいわ」

「そうか、では誰かを斬るか」

 と、近くにいた手下の胴体を刺し、切り裂いた。腹から真っ二つになった手下の死体は、コラプサーに吸い込まれていった。


「………」

 3人は言葉を失った。西の村でそんな残虐なことが起こっていたとは……。

「ここまできたら、もう私には止められない。お願いです、アルタイルを止めてください」

 デネブの話を聞いた後、彼女を休ませ、シリウスたち三人は庵の外に出た。3人並んで、何となく海の方に向かう。

「なんで、アルタイルはあんなふうになっちゃったんだろうね」

 ミラがつぶやく。好きになって結婚したのに、自分の人生がうまくいかないと妻を虐げるようになり、挙げ句は魔剣の誘惑に負け、愛人まで作った。

「ただ生きることに必死だと、欲の道に墜ちやすいんだろうな」

 シリウスがそっけなく答える。この星の大地では、恵まれない人間は多くいる。今日食べる食事に困っている者を、シリウス自身何人も見てきた。その境遇から脱するために、魔剣の誘惑に負けてしまうのは容易に想像できた。

「俺だって、まかり間違えばアルタイルのようになっていたかもしれないしな」

「そんな、シリウスは違うよ!」

 ミラが叫んだ。が、シリウスは

「そんなことはない。家庭環境が悪ければ、誰でもそうなるかもしれないんだ」

 亡くなった悪友2人がそうだった。虐待や離婚、育児放棄などで親の…否、人間の愛を受けられなかった2人。結果的に、彼らは犯罪に手を染め、非業の死を遂げた。

 スピカは、シリウスの言葉を聞いて心がチクッと痛むのに気付いた。自分は恵まれた家に生まれ育っている。シリウスは両親を亡くし、ミラは母子家庭だ。自分には分からない苦労があったはずである。

 3人は巨門の祠までやってきた。すると、シリウスが2人に向き直って言った。

「そろそろお前たちの想いに答えなくちゃならないな」

 突然の言葉に、少女たちはドキッとした。まさかここで……?

「ま、待ってシリウス。心の準備をするから……」と、スピカは両手を胸に当てる。ミラは、胸の前で両手を組んだ。

 沈黙が流れる。10秒ほどのはずだったが、1時間くらいに思えた。やがて、シリウスはゆっくりと口を開く。

「…スピカ」

 スピカが潤んだ目を開いた。

「俺はお前が好きだ」

 これを聞き、スピカの頬はどんどん赤くなり、心臓の鼓動が早くなった。同時に、ミラがどんな表情なのか気がかりだった。

 やはり…今にも泣き出しそうな顔をしている。どちらが選ばれても恨みっこなしであったが、それでも切ない。

 やがてミラが口を開いた。

「うん…シリウスが選んだんだがら、尊重する。でも…」

 とミラは続ける。

「どうして先輩を選んだか、せめて教えてくれる?」

 するとシリウスが言った。

「ずっと考えていたんだ、恋をして結婚して家庭を築く、そのためには何が必要かって。俺は、2人で見つめ合う関係より、同じ方向を目指す関係だと思ったんだ」

 ミラもスピカもきょとんとしている。

「うまく言えないけど…いずれ結婚する時、スピカとなら紫微垣の使命を果たして、パートナーの人生にも貢献できると思った。だから……」

「うん、分かったよ」

 ミラは涙を指で拭いた。

「と言っても、まだよく分からないけど…シリウスなりの気持ちがしっかりとあるなら受け入れるよ。先輩、シリウス、幸せにね……」

 その後3人で、もとの道を戻っていった。


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