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魔剣異聞⑥――魔剣との出合い

「デネブ、あと少しだよ!」

 周りにいる女性たちが励ます。西の村には病院の類いが存在せず、ましてや助産院などない。そのため、出産の時は出産経験のある女性たちが自然に集まってきて手を貸している。しかし、安産であれば御の字で、赤ん坊の呼吸が整わないなど何か不具合があると、すなわちそれは死産を意味する。その子たちすらも、ろくな弔いがないまま、海に放り込まれてしまうのだ。幸い、デネブは妊娠中の経過が順調で、陣痛なども典型的なものだったので、まだ出産はしやすい方だった。

「デネブ、赤ちゃん出るよ!」

 赤ん坊は大きな産声を上げた。男の子で、プロキオンと名付けられた。新生児を見た女性たちは皆、顔をほころばせる。ならず者たちの村であるが、それでも子供の誕生は人々の希望なのだろう。同時に、この村の住人として生まれ、これからの人生が困難を極めることになると思うと、祝福したい気持ちよりその前途を心配する気持ちの方が大きくなった。

「ところでアルタイルは?」

「あの男なら酒盛りしているのを見たよ」

「ったく、妻が出産だってのに仕方のないヤツだ」

 女性たちが口々に罵る。ここにいる女性は、娼婦のほか、落ちぶれた男の妻である者も多い。皆、男性にはひどい目に遭わされてきたのだ。

「デネブ、男たちなんてあてにしないでいいよ。私たちでこの子を守っていこう」

 そんなことを言ってくれる友人たちの存在が、うれしかった。


 その頃、アルタイルは酒場で大男に胸ぐらをつかまれていた。

「た、助けてくれ…許して…」

「てめえ、うちでさんざん飲んだあげく、ツケが払えねえとはどういうことだ!?」

 アルタイルは、西の村に来てから放蕩がひどくなり、借金をしてまで金と女遊びをするようになった。その額は東の都で得た金の10倍にふくれあがっている。借金とりに目をつけられ、今度は酒場の主人に「金がないから少し待ってくれ」と懇願している有り様だ。

「何あいつ、だっさーい」

「たいした力もないのにけんかをふっかけたのかね、ばかが」

「騒がしくて酒がまずくならあ」

 そんなひそひそ話が聞こえる。みじめだった。本当は、紫微垣になって富も名誉も欲しいままにするはずだったのに…。自分の長所と言えば、足の速さだけで逃げることしかできなかった。

 大男はアルタイルを床に叩き付け、

「3日待ってやるから金を持ってこい! でなけりゃでめえを八つ裂きにするぞ!!」

 脅しではない、本気だった。この村には法がなく、力と金がある者が支配権を持つ。そのいずれもないアルタイルは、1人の弱者にすぎなかった。

 夕方頃。アルタイルはトボトボと帰宅した。すると、デネブがプロキオンと寝ていた。出産の疲れもあったのだろう、起きる気配がない。しかし、そんなことに想像力が働かないアルタイルは、この様子を見て殺意を抱いた。自分が外でみじめな思いをしてきたのに、何をのんきに寝ている!? 自分のことを棚に上げ、身勝手な怒りがこみ上げてきた。

「起きろ、クソ女!! メシの支度をしろ!!」

 アルタイルはデネブのわき腹を蹴り、叩き起こした。その拍子にプロキオンが目覚め、泣き出す。デネブは蹴られたわき腹を押さえながらプロキオンをあやす。その姿が、アルタイルの怒りの火に油を注いだ。

「ったく、子供を泣かせるくせにメシも作れねえのかよ!」

 デネブはもはや何を言われてもアルタイルを無視するようになった。2人の関係は完全に冷え切ったものとなり、離婚も時間の問題であった。

 そんな折り、運命の歯車が動き出す……。


「コラプサーだ! コラプサーが帰ってきたぞ!!」

 西の村の天狼の祠に人々が集まっていく。天狼の祠は村で唯一の祠だった。「天狼」とはおおいぬ座一等星の中国語名である。しかし、そこは神への祈りを捧げるというより、禍々しい願いを請う場所だった。社は黒塗りで髑髏が祀られていて、おどろおどろしい雰囲気が出ている。その祭壇の前の石に1本の剣が下向きに刺さっていた。黒くて刀身が太く、拵えは人や動物の髑髏という意匠である。

 アルタイルも見に行き、「あれは何だ?」と横にいた者に聞いてみた。

「魔剣コラプサーだよ。この村では権力のシンボルで、支配者の証とされているんだ」

 この剣は鋼鉄を紙のように切り裂き、折れても時間がたてば再生する。また、人の死体を吸収して一時的に強度を強くすることができるという。後にシリウスと戦った時に見せた能力を、アルタイルはこの時初めて知った。

 さらに、この剣は持ち主が死ぬとひとりでにこの祠に帰ってくる。そしてまた新しい使い手を選ぶというのだ。

 これを聞き、アルタイルの目の色が変わった。


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