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魔剣異聞③――根性なしの候補生

 今からさかのぼること4年前の北の町――アルクトゥルスは1人の紫微垣候補生を鍛えていた。

「ぎゃあああ、いってええ!!」

「甘い! この程度で根を上げてどうする!!」

 その候補生――若きアルタイルは、アルクトゥルスの二の秘剣・螺旋昴をくらって宙に舞い、地面に叩きつけられたところだった。

「し、師匠!もう俺ムリだよ! 勘弁してくれよお!!」

 アルタイルは体をさすりながら半べそで訴えてくる。

「お前な……自分から志願しておいてそのザマは何だ」

 アルクトゥルスは呆れた。そう、紫微垣の候補生を町じゅうに募った時、アルタイルは自ら志願してきたのだ。

 聞くと、両親が幼い頃に離婚して母親に引き取られたが、その母親もほどなく事故死し、孤児院に入った。父親からの暴言・暴力を受けて育ったせいか、自己肯定感が著しく低い。

「だって痛いんだよお……」と、ついには大泣きし始めた。もう大人になっているのに、である。

「仕方ない、今日はこの辺にしておくか」と、アルクトゥルスはしぶしぶ切り上げた。が、「その分、明日は早いぞ。朝六時から修行を始める」

「ええ!? そんなあ……」

 アルタイルの悲鳴が岩屋に響いた。

「紫微垣への道は険しいぞ。精進せい」

 アルクトゥルスは励ますつもりで言った。が、これが決定打になるとは、その時は思いもよらなかった。


 翌朝、アルクトゥルスは朝五時に目を覚ました。アルタイルの寝室に行くと、姿が見えない。

「ほう、ちゃんと早起きしたのか」

 いつも寝坊が多いのにやればできるではないか、と感心して庵の中を探した。が、どこにも姿が見えない。

 外かと思い出てみると、やはりいない。

「はて?」と不審に思い、一度庵に戻ると、1枚の手紙を見つけた。そこには「もうやめる」とだけ書かれている。

「あの若造……!」

 この時、アルクトゥルスはアルタイルが逃げたことを悟った。


 その頃、アルタイルは岩屋を抜けて浅瀬道を歩いていた。

「まったく、あのオヤジのしごきはひどすぎるぜ。紫微垣になれば、富と名声が手に入って楽に生活できると思ったけど、あてがはずれた」

 ぶつくさと文句を言う。そう、アルタイルは何を勘違いしたのか、ポラリスの守護をすることで、金や名誉を得られると思ったのだ。実際には、血のにじむ努力をし、やっと身につけた力は我欲のためでなく平和のために使わなければならない。

 修行の初期にそのことを聞き、アルタイルのモチベーションは一気に下がった。そして一カ月後の今、こうして逃げ出したのである。

「もうあんな地味なことは嫌だ。俺は華々しく生きるんだ!」

 そう言って拳を空に上げたとたん、茂みから巨大な蟹が現れた。人を喰う化け蟹である。

「うわあっ!!」

 アルタイルは一目散に逃げ出した。足の速さだけは、この時から誰にも負けなかった。


「そうか、やめてしまったか……」

 カノープスがつぶやく。アルクトゥルスは、アルタイルが逃げ出したことを報告するために兼貞の祠がある茶屋に来た。

「どうしましょうか」

「去る者は追わず、じゃ。こちらが執着しているとお互いに不幸になる。彼の幸せをそっと祈ってやるがよい」

 さすが、100年以上生きているだけあって達観している。

「アルタイルは紫微垣に向かなかったのでしょう。時々、あなたが差し入れしてくださる弁当も『嫌いなものがある』とこっそり捨てる時がありましたし……」

 その途端、カノープスは目に殺気をみなぎらせて七星剣を握り、叫んだ。

「あの小僧どこに行った!! 八つ裂きにしてくれるわ!! どこに行った!?」

「ちょ、落ち着いてください!!」

 茶屋の客が「ビクッ」とするような大声が響いた。アルクトゥルスは「余計な一言だった」と後悔し、激昂する師をなだめるという余分な仕事をするはめになった。


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