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魔剣異聞①――ある母子の来訪

 シリウスがアルコルの試練を乗り越え、紫微垣を継承した夜――1人の女性が、西の村の北にある蟹の目町を、ひっそりと船で出発した。その行動が、後のシリウスの戦いを大きく左右することになる――。


「よし…」

 シリウスは鍋のふたを開けた。その中には、くたくたに煮えた魚の白身と太い骨がある。

「さ、シリウス君。食べてみてね」

 にこにこ笑顔を見せるスピカの母。一方、シリウスはためらいながら、箸で骨を取り出して皿に盛った。

 シリウスが北の町の民に紫微垣継承を伝えて数日後。スピカの家に招かれたのだ。

 以前から、スピカはシリウスのことを両親に話している。そしてあの日、よく骨折してはミラの治療を受けていることを話すと、突然、「家に連れて来なさい」と言われたのだ。そして今、シリウスの目の前には例の魚がある。

「い、いただきます…」

 シリウスは目をつむって食べる。

「う、うう…何とか食べられる…」

 やや涙目になっているシリウス。それを見たスピカは〈シリウス、かわいい〉と思ってしまった。

 シリウスは実は、魚の骨が苦手なのだった。焼き魚や煮魚を食べる時も、骨は全て取り除く。幼い頃、骨をのどにつまらせたことがトラウマになり、食べることができない。

「そんなんじゃあ、これからの戦いを乗り越えられないわよ」

 と、スピカの母親にしかられた。確かに、戦いの中で骨折することが多いのはカルシウムが不足しているのかもしれない。

 かといって、魚の骨を食べるのは難しい。そこで、骨を柔らかくするレシピを教えてもらうことになったのだ。早速、大型の魚を調理し、骨を食べたというわけである。

「じゃあ、これで骨を丈夫にできるわね」

 スピカの母親が満面の笑みを浮かべる。スピカをそのまま大人にしたような美人である。が、性格はスピカとは若干違ってお茶目なようだ。


 シリウスは食事を平らげ、スピカと外へ出た。そして、2人で何気なく巨門の祠まで来た。

「大丈夫、シリウス?」

「あ、ああ……」

 15歳になってまで苦手な食べ物があるというのも、何とも情けない話だと思った。カノープスに知られたらどやされそうである……。

「ねえ、シリウス……この前の返事だけど」

 スピカがシリウスの背中にぴとっとくっついてきた。顔を押しつけてシリウスのぬくもりを感じている。

「あ、ああ……」

 さっきから同じ返事しかしない。豪邸であるスピカの家の中に入って多少緊張していたのもある。が、今の状況はまた違う気持ちがこみ上げてくる。

 最後の試練の時、スピカとミラは自分の想いを告白してきた。シリウスはそれに答えなければならない。ドタバタしていたから延ばしていたが、それもそろそろ限界だ。

「スピカ、あのさ…ミラも一緒にいる時がいいと思う。明日にでも…」

 するとスピカは、顔と胸をさらに強く押しつけ、腕をシリウスの腹の前に回してきた。

「早くしてね。私の心、もうはちきれそうなの……」

 顔が真っ赤になっているのが分かる。男の子に告白したのは初めてで、想いが叶ったら恋人になるのも初めてだ。

 この人と一緒になれたら…どんなに素敵かしら。不安と恋慕が混ざった複雑な気持ちがスピカの心に折り重なる。

「…?」

 ふと、スピカはシリウスの雰囲気が変わったことに気付いた。彼の顔を見ると、頬の赤みがひいて青ざめている。目線は――砂浜の方だ。

「スピカ、あれは何だ?」

 シリウスが指さした方には、1人の女性とその腕に抱えられた小さな子供がいた。2人ともずぶぬれである。そのそばには小さな舟があった。

 間もなくその女性が砂浜に倒れ、子供は砂の中に顔を突っ込んで泣き出した。

「おい、大丈夫か!!」

 シリウスは祠から階段を駆け下り、その女性のもとに駆け寄った。


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