紫微垣の試練⑩――心の闇
「ちっ、簡単にはいかんか」
七星剣を収める。どうするか……と思案していると、シリウスもどきが語り始めた。
「ココハココロノヤミヲムキダシニスルトコロダ。ジブンタチノヤミトムキアエ」
シリウスもどきは、スピカを指さす。
「タトエバキミ……ヨコニイルオンナノコニフカイカンヲモッテイル」
スピカはどきりとした。ミラへの不快感――あまりにも図星だったから顔が赤くなり、背中に冷や汗が流れる。
「ソノオトコヲヒトリジメシタイノニ、イツモソノコガイル。タマニメザワリニナッテイルダロウ」
横目でミラを見ると、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ツギニソッチノオンナノコ。モウヒトリノオンナノコニオコラレテ、カナシクテサミシイキモチニナッテイル」
ミラは胸の谷間に両手を持ってきて抑える。呼吸が苦しいらしく、喘いでいる。
「サイゴニキミ、フタリノオンナノコノドチラヲエラベバイイカ、マヨッテイル」
シリウスは危うく七星剣を落としそうになった。アルクトゥルスから聞かれた時、早くどちらかを選ばなければいけないと思っていた。まさか、自分の心がこんな形で露わになろうとは……。
「ホラ、ココロノヤミハダレダッテモッテイル。シビエンモレイガイジャナイ」
「……黙れ」
シリウスは怒りを抑えつつ考えた。こいつをどうやって倒す? 倒した後、どうやってここを脱出する? 考えろ、考えるんだ――長引けば、ミラとスピカが精神崩壊を起こすかもしれない。
シリウスは目を瞑り、短く瞑想をした。
「ミラ、スピカ。俺につかまれ」
2人は無言でシリウスに近寄り、抱きついた。
「五の秘剣・錨星!」
錨を真上に向けて放った。すると、闇を突き破り、錨が何かに「カチリ」と巻き付いた手応えがあった。
「あいつの挑発には乗らない、行くぞ!」
シリウスは地を蹴り、2人の少女とともに脱出した。
闇を抜けた後、気が付いたら3人は先ほどの武曲の祠の前にいた。そして祠の社の前には星鏡がある。
「これが六個目の……」
シリウスが取ろうとしたら、スピカが手を伸ばして回収した。
そしてシリウスの方に向き直り、顔を赤らめる。
「シリウス、ミラ。こんな時にごめんなさい」
透き通る声で言った。
「私、シリウスのことが好き。大好きなの」
夕焼けが濃くなり、赤くなったスピカの顔をさらに赤く染める。
「ミラ、あなたに嫉妬していたわ。幼なじみで私の知らないシリウスを知っていること、天漢癒の“顕”が使えること……うらやましかった。だから、時々冷たい態度をとってしまって…ごめんなさい」
すると、ミラも意を決したように言った。
「ううん、謝らないでスピカ先輩。その気持ち分かります。私もシリウスが大好きで独り占めしたいと思っている。けど、スピカ先輩も好きで、3人で一緒にいたいの……」
涙目のミラが、切ない表情で訴えた。思春期を迎えた少女の、精一杯の勇気だったのだろう。
シリウスは2人の告白を黙って聞いていた。どうする? 彼女たちはこの心地よい3人の関係が壊れても、自分の気持ちをまっすぐに伝えてきた。自分も答えを出さないといけない。するとスピカが言った。
「シリウス、あなたの想いは紫微垣になってから聞くわ」
「え?」
「そうだね、シリウスは今、試練に集中したいはずだよね」
「しかし……」
それでは申し訳ない…と思いつつ、今はどうにも答えが出せなさそうだった。
「2人ともすまない」
そう言って、2人の少女の手を取り最後の祠に向かった。一歩を踏み出したその時――紫の星鏡にひびが入り、七星剣が砕け散った。
「うそ!? ここで!?」
「まだ一つ祠が残っているのに!」
少女たちは激しく動揺する。が、シリウスは冷静だった。
「大丈夫さ、きっと。最後の試練に行くぞ」




