表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/121

紫微垣の試練⑦――嫉妬

「スピカ、もういい。こいつも悪気があったわけじゃない」

 シリウスが泣いているミラをかばう。

「でも……!」

 スピカは顔をゆがめた。勝手なことをしたミラ、それをかばうシリウス……これじゃ私が悪者みたいじゃない!

「大丈夫だって、ほら。星鏡は入手した。おまけにこの炭、何かに使えそうだ」

「炭?」

「ああ、玉がはまっていて取れないんだ。もしかしたら、七星剣を作るのに役立つのかもしれない」

 星鏡、それに何かに使えそうなものを入手できた。しかし、スピカの腹の虫は治まらない。

「ミラ、あなた先に次の祠に行って」

「え、でも……」

「いいから!!」

 戸惑うミラに対して大声を上げるスピカ。ビクッとなったミラは肩を落とし、しぶしぶ次の兼貞の祠へと、1人で行くことにした。七星剣は錨星のまま彼女に巻き付いたままだ……。

「…スピカ、どうしたんだ? 行くんだったら3人で行けばいいだろう?」

 シリウスは呆気にとられた。いつも理論的でクレバーな判断をするスピカらしくない。するとスピカは、口を結びながら涙目になってにらんできた。こんな表情になっても美人なのだからすごい。

「あなたもあなたよ、シリウス! 紫微垣の試練を乗り越えられなければ、最後はポラリスを奪われるのよ!!」

 それはそうだが、かと言って変に力んでは力が出せない。シリウスは、こういう時も平常心を保つように、師であるアルクトゥルスから指導されてきた。

「スピカ、お前変だぞ。落ち着けよ」

「――もう、ばかっ!!」

 スピカはシリウスに駆け寄って抱き着き、押し倒した。そして強引に唇を重ねる。

「――っ!!」

 スピカの舌がシリウスの前歯に当たった。不意打ちをくらい、動揺を隠せない。

「スピカ?」

 シリウスはスピカの肩に手を置き、どうにか起き上がった。

「……ごめんなさい」

 スピカは顔を真っ赤にして俯く。そしてポツリと言うと、シリウスの体から離れた。

(私……たぶん嫉妬しているのよね)

 天漢癒はミラの出番が多い。それだけではなくシリウスの体に触れる機会も多いのだ。禄存の祠で優越感を感じたのも、嫉妬心からである。

 そんな自分のもやもやした気持ちに整理がつかず、衝動的なことをしてしまった。

「と、とりあえず次の祠に行こう」


 その道すがら、スピカはシリウスの腕に自分の腕を絡ませていた。3人並んでいる時ではべったりくっつく隙がなく、周りの目も気になるため、なかなかできないのだ。

 ミラはそんなことにも臆せず、シリウスに引っ付いてくるのだが。

「あのさ、スピカ」

「何?」

「歩きにくいんだが……」

 シリウスが顔を赤らめながら言う。

「嫌なの?」

「嫌じゃない…ただ歩きにくいだけ……」

 スピカは構わず体を押し付けてくる。胸が二の腕に当たる。

 そうこうしているうちに、次の祠――兼貞の祠に着いた。ミラに見つかると気まずいので、とりあえず2人は離れた。

紫微垣の試練は貪狼の祠から始まったが、集合したのはこの兼貞の祠だった。言わば、スタート地点である。

「シリウスー! スピカ先輩―!」

 先に着いていたミラが、茶屋でおやつを食べている。どうやらご機嫌のようだ。

 シリウスもスピカも、先の出来事の後だったから少し気まずい雰囲気だったが、ミラの笑顔がそれを吹き飛ばしてくれた。2人とも胸をなでおろす。

 そのミラの横から、小さい影が近づいてきた。カノープスだ。手に七星剣を持っているところを見ると、ミラから受け取ったのだろう。

「カノープス師匠!」

 シリウスは叫んだ。中間報告をしようと思ったのである。しかし、カノープスはその声に反応せず、なぜかいきなり走り出してきた。

「三の秘剣・三連突き!」

 持っていた七星剣を槍に変形させたカノープスは――なんとシリウスに突進してきたのだ!

「うわあっ!」

 すんでのところで回避する。青ざめたシリウスがカノープスを見ると、あの好々爺の顔が憤怒の形相になっていた。少なくなった髪の毛は逆立ち、まるで地獄の鬼である。

「なっ……カ、カノー……」

「……聞いたぞ、わしの弁当を地面にぶちまけたそうだなああああああああああ!!!」

 小柄な体から怒りの炎が立ち上っているようだ。どうやら禄存の祠でのことを、ミラが話したらしい。

「す、すまん、カノープス師匠! でも、あれはわざとじゃなくフォマルハウトの不意打ちが……」

 シリウスが弁解するとカノープスは飛び上がり、七星剣で脳天をポカポカと叩いてきた。

「言い訳するな! お前が悪い! 全部お前が悪い! お前がたるんどるから、弁当を落とすなんてヘマをやらかすんじゃ! あれを作るのにどれだけ時間をかけたか分かっておるのかあ!!」

「あたっ、たっ!! い、いやしかし……」

「そこに居直れえええ!!」

「うわあああああっ!!」

 カノープスは七星剣をもってシリウスを追いかけ始めた。魚釣り星、三連突き、釣り鐘星と、殺傷能力の高い技を連続で繰り出してくる。いつもはクールなシリウスも必死の形相で逃げ回るしかなかった。そして走りながら、フォマルハウトが言っていた「謝っておいてくれ」というのはこのことだったのかと察した。

「…これも紫微垣になるための試練なんだね…シリウス、がんばって!」

「いや、違うでしょ」

 ミラの天然なつぶやきに、スピカが冷静に突っ込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ